HF/#7 Vol.2 | Jul 30, 2014

居心地のいい場所にとどまらない

池貝 知子

Text: Miwa Tei / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Design: Kenzi Gong

際立った能力と貪欲な行動力で人生をクリエイトする人を追い続けるHIGHFLYERS。Vol.7は、日本の音楽界にこの方有り。第一線で活躍し続けるヴァイオリニスト・葉加瀬太郎さんの登場です。多くの人の日常と心の風景に寄り添う音楽を創り続けてきた葉加瀬さん。「人を喜ばせ、自分も楽しみ尽くす」姿勢は圧倒的な人間力に溢れ、“葉加瀬サウンド”同様心を動かされます。25周年を来年に控え、最新作『Etupirka~Best Acoustic』を発表されたばかりの葉加瀬さんに、人生の核となるものについて大いに語って頂きました。求心力と熱量の高さは桁違い。“超”個性的なその生き方に迫ります。
PROFILE
葉加瀬太郎

Artist葉加瀬太郎

際立った能力と貪欲な行動力で人生をクリエイトする人を追い続けるHIGHFLYERS。Vol.7は、日本の音楽界にこの方有り。第一線で活躍し続けるヴァイオリニスト・葉加瀬太郎さんの登場です。多くの人の日常と心の風景に寄り添う音楽を創り続けてきた葉加瀬さん。「人を喜ばせ、自分も楽しみ尽くす」姿勢は圧倒的な人間力に溢れ、“葉加瀬サウンド”同様心を動かされます。25周年を来年に控え、最新作『Etupirka~Best Acoustic』を発表されたばかりの葉加瀬さんに、人生の核となるものについて大いに語って頂きました。求心力と熱量の高さは桁違い。“超”個性的なその生き方に迫ります。

居心地のいい場所にとどまらない

 “決断力”について伺いたいです。「あの時の決断があるから今がある」と思える出来事を教えて頂けますか?

「ポピュラーな世界で生きていく」と、18歳で決めたことでしょうね。僕は18歳で上京し、東京藝術大学に進学し、そして中退したのですが(笑)。藝大を出たからといって、花形オーケストラに就職できる人はほんの一握り。音楽教師を目指す生徒や、大学院や海外留学に進むケースが当時から多かった。けれど、僕は入学した1年間でありとあらゆるオーケストラ活動をやり尽くし、ある意味クラシックとは決別してしまったんだ。広い世界で勝負しようと決めたから。学生時代は、ストリングスのバイトも数えきれないほどしましたね。有名タレントの歌謡ショーや「夜のヒットスタジオ」での演奏。NHKの大河ドラマの劇奏や「紅白歌合戦」のバックもやったなぁ。一番長く続いたのが劇団四季の仕事。節操なく弾きまくっていましたが、ストリングスの一員として骨をうずめる気は毛頭なく、業界に変なヴァイオリン弾きがいるということがわかればいいという腹でずっとやっていました。

 若くして、行動の動機に明確な画策有り、ですね。

うん。だから、劇団四季でも目立つことだけをしていた。例えば、僕は自分のソロパートの時にオーケストラピットで椅子の上に立ち上がるわけ。「ウエストサイドストーリー」のハイライト、有名なあの2幕の場面でヴァイオリンのメロディーが流れた瞬間、お客さんにも見えるところでパっと立ち上がって自分の演奏をアピールするわけだから、当然「何やってんだ、あのバカ!」って怒られるわけですよ(笑)。演出家の浅利慶太さんがいらっしゃる日は、ギャラが全部飛びました(笑)。始末書も何回書いたかしれない。“いっちゃん”こと、今でも親しくさせて頂いている市村正親さんや山口祐一郎さんが在籍する時期でしたが、そんな僕を「おもしれぇヤツがいるな」って、毎回飲みに連れていってくれるんですよ。僕も、いつも彼等の後に付いていくものだから「なんなんだ、お前は」と、それはもう可愛がってもらいました。ギャラが飛ぼうが、面白い方がいい。とにかく浮いていればいいと思っていました。

 それはもう……。“出過ぎた杭は打たれない”戦法ですね。

ハハハ、うん、“出過ぎた杭”は打たれない(笑)。そういうヤツがいると面白いじゃん。僕自身、 “出過ぎた杭”の若いアーティストに会うと、「コイツ見込みあるぞ」って惹かれるし、引っ張り上げたいと思うよね。

 “やったもん勝ち”的に、大胆に“振り切れる力”は、子供の頃から強かったのですか?

小さい頃から大好きだったのが、芸術家の岡本太郎さん。僕は、大阪の千里ニュータウンの団地で育ったのですが、70年には大阪万博があって、太郎さんの「太陽の塔」をずっと見ながら幼少期を過ごしてきた。今僕は、毎年万博公園で2万人を集めてライブを開催させて頂いているのですが、あの太陽の塔を見ながら演奏する度、つくづく変わった作品だと思うわけ。当時、太郎さんはメディアにもよく登場されていて、「芸術は、爆発だ!」って、あの目力とインパクトのある存在感でさ。子供心ながらにハラハラするわけですよ(笑)。運命的にファーストネームも一緒だしね(笑)。池田満寿夫さん、和田勉さん、山本直純さん、横尾忠則さん……。僕が敬愛するアーティストの方々に共通するのは、真性の“ヤンチャな子供性”があること。言い換えると、アーティストというのは、子供のような生き方でも許されるところがある。でも、仕事となると子供のままではいられない。大人になる覚悟を持つことがプロになることなんだと思う。僕はそれを早いうちから自覚してしまったが故に、だからこそ子供性に憧れが強く、あえてヤンチャに振る舞ってきたんだと思う。大人である自分の立ち位置もわかった上で、ウケどころなど緻密に自己演出の台本をきっちり練りあげた上で、ね(笑)。

 冷静な自己分析の上での“先見力”。人生のターニングポイントで、その“先見力”が試された出来事を挙げるとすると?

藝大時代の二人の仲間と結成したクライズラー&カンパニーを解散して、ソロになったことでしょうね。90年から6年続いたクライズラーは、自分たち3人が純粋にやりたい音楽からスタートしたわけではなく、“クラシックをポップに演奏する藝大バンド”という極めて企画色が強いバンドでした。メンバーの二人は、作曲とアレンジに命をかけるタイプのミュージシャン。確固たる美学もあるし、企画モノに満足できるわけがない。それはフロントマンの僕にしても同じ。“やりたいこと”と“求められるもの”の差が埋められなくなってきた頃、セリーヌ・ディオンさんとのコラボレーションをすることが決まり、ロスでレコーディングをすることになったんです。デビット・フォスターさんという大物プロデューサーが監修することになり、事務所的にも対外的にも「いよいよ世界進出だ!」と士気は最高潮。でも当の僕らはといえば、毎晩ホテルの部屋に集まり、解散の話をしていたという。絶頂期での解散は、今にして思えば全員にとってベストの選択だったと思っています。

 クライズラー&カンパニーのゴージャスな登場感と、突然の解散の衝撃は鮮明に覚えています。

バブルの時代に乗っかった感じで。何せデビュー時に付いたキャッチコピーは「シャンパン、キャビア、クライズラー」だったから(笑)。とんとん拍子でデビューしたイメージも持たれるんですが、全く違うんです。プロデューサーの思惑あってのことですが、1枚目のアルバムを収録してからデビューするまで2年間待たされた。「早くデビューさせてくれ」といくら言っても、何度も延期されてしまう。これはもう時代としか言いようがないんだけど、僕らの世代が、条件を決めずにデビューを進めた最後の世代だったなと。今だったら、こんなずさんなシステムは有り得ませんよ。アーティストだって、今の若い子たちは賢いし、ビジネス感覚もしっかりして契約を進めるでしょう。あの2年間は疑心暗鬼にもなり、先が見えずに本当に苦しかった。全ての動きが停滞していたあの時期があればこそ、デビュー後の大変さは乗り越えてこられたと言ってもいい。

 他にも、「あの時の決断があるから今がある」と思い当たるエピソードはありますか?

割と最近のことになってしまうけれど、40歳目前の2007年に、ロンドンに拠点を構えたことは大きな決断だったと思います。子供たちの教育の面でも実に良かった。僕自身、環境を変えて心機一転できたメリットは大きいですね。

 環境を変えることは、やはり人生の風通しを良くするのですね。

なんかこう、どっぷりと日本の音楽業界で安住している感が出てきてしまったので、これはイカンと危機感を持ったんだよね。心地いい場所に居続けることって、僕はすごく危険なことだと思っている。何も刺激がなくなり、おだてられることに麻痺して、価値観がわからなくなってくるから。僕は“そこにいるのが当たり前”になると、もうダメ。常に浮いていたいから、安住の場所からは率先して逃げる(笑)。

 “環境順応力”の高さも抜群とお見受けします。

日常が旅のようなものだからね。年間100本近くコンサートを続けて、1年の半分はホテル住まいだから、そうならざるを得ない。僕は、宿泊しているホテルの部屋番号とかまず覚えないの。細かいことには深入りしない(笑)。スケジュールにしてもそう。明日の予定ぐらいはわかっているけれど、1週間先の予定とか全く知らないし、手帳も持たない。予定は尋常じゃなくタイトなことは明らかだから、それを改めて知ってしまうと恐ろし過ぎて身が持たない(笑)。ずっとハードに走り続けてきたけれど、それはこれからも永遠に続いていくわけだから。

 トップランを続ける“体力”は、どのように維持されているのですか?

ごく稀にではあるけれど、そりゃくたばる日もあるよね。基本、僕は肉の力を信じているので(笑)、そういう時は必ず肉を食う。これは決め事。ホテルのルームサービスでステーキを頼み、シーバスリーガルを飲む(笑)。どっちが欠けてもダメで、翌日は完全復活。これは余談だけど、数年前にやっぱり不調な日があって。定例の打ち上げも途中で抜けて、宿泊先の神戸のオークラホテルの部屋に戻った時のこと。ルームサービスを頼んだら、僕がリクエストする前から「葉加瀬様、サーロインにシーバスリーガルでよろしいでしょうか?」という対応に感動したことがある。日本のホテルならではのおもてなしの気持ちが嬉しくて、一気に体調も良くなってしまった(笑)。

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葉加瀬太郎

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