HIGHFLYERS/#32 Vol.3 | Nov 29, 2018

ストリートで学んだのは、共感することの大切さ。ゲームの謎を解くように、ロジカルに人の悩みを解決することも楽しむ

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Design: Kenzi Gong

武田双雲さんインタビュー3回目は、独立してからメディアで注目されるようになるまでのことを伺いました。NTT時代から心の状態を楽しく保つことの大切さを知っていた武田さんは、自分への投資と考え、グリーン車で通勤していたそうです。独立後は約1年間、ストリートで書を書くという生活を続けていましたが、自分の中でずっと興味があった物理の分野と実体験がリンクするという経験を繰り返し、感情のメカニズムの根源に気づき始めます。その後メディアに多く登場するようになると、賞賛と同時に批判も受けるようになり辛い時期も経験したそうですが、日頃からどうやって悩みを解決し、しんどいことを乗り越えてきたのでしょうか。武田さん独自の世の中の捉え方や思考をたっぷり伺いました。
PROFILE

書道家武田双雲

1975年熊本生まれ。東京理科大学卒業後、NTTに就職。 約3年後に書道家として独立。NHK大河ドラマ「天地人」や世界遺産「平泉」 など数々の題字を手掛ける。 独自の世界観で、全国で個展や講演活動を行っている。メディア出演も多数。 文化庁から2013年度文化交流使に任命され、ベトナム~インドネシアにて活動、2015年にはカリフォルニア州オーハイにて個展を開催。『書を書く愉しみ』(光文社新書)『ポジティブの教科書』(主婦の友社)(30万部突破)『のびのび生きるヒント』(青春出版社)など、著書も多数出版。武田双雲オフィシャルウエブサイト

量子力学の原子や光の動きは、自分の心の状態とリンクする。ネガティブな感情は世の中の波動の不協和音から生まれるもの

書道家として独立するためにNTTを辞めようと決めて、まずどのようなアクションを起こしたのですか?

まず、書道教室ができるように部屋を借りました。それも、ある電話がきっかけで。会社を辞めることが決まってから、ある日営業の電話をしていた時に、そのお客さんとお互いの人生相談みたいな話になったんです。それで、僕が書道教室を開きたいけどお金がないって話をしたら、たまたまその方の知合いが茶道の先生に貸していた家を放置したまま持っているので、何か「道」のつくことをしている人を探してるって聞いて。次の日すぐに見に行ったら一目惚れして、即決めました。書道教室をやるのに部屋を貸してくれる不動産屋がなかなかなかったので、あれは運命の電話でしたね。

書道教室を始めた頃(2001年)

とことん運を持っていますね。でも家ということは、家賃は結構高かったのではないですか?

当時の手取り分くらいはしましたけど、まぁ人の名前をいっぱい書けばいいかなぁって思っていました(笑)。でも実際は書道教室を開いても人は来ないし、仕事は全然なかったです。

その状況からどう脱却したんですか?

不思議なことがあって、書道教室の生徒募集のビラ配りをしている時に、ただ配るのはつまらないから楽しもうと思って、ポスティングしながらポストの形をじっくり見たり、リズム感良くポンポンと入れたり、ディズニーランドのスタッフのような気分でやってたら、小学生が集まって来て、僕たちにもやらせてよって言うんです。それでお菓子と交換という条件にしたら、一瞬にしてビラ配りをしてくれて、そこから状況が変わっていきました。楽しんだり工夫したりするとこういうことになるんだなぁと実感した出来事でしたね。

楽しむことを意識するって本当に大切なのですね。

僕、会社員時代に満員電車に乗るとすぐにお腹をこわしていたんです。立ち方を変えたりすれば治るかなと思って、色々試行錯誤したけど全然ダメで、ずっと通勤に対してポジティブになれなかった。それで、安月給だったけど投資だと思ってグリーン車で通勤することにしたら下痢が治ったんです。だから、自分の心の状態を健全にすることは、感覚的にあの頃から自然とやっていたのかもしれないですね。

なるほど。ところで、昔はストリートで書を書いていたこともあったそうですが、やり始めたのはその頃ですよね?

はい。ストリートに出てみて、自分に起こることは自分の心の状態とリンクすることがよりわかるようになりました。ストリートで何かをするってある意味自分が裸になるようなものだから、ビビったりネガティブでいるとそれを証明するかのように、嫌なやつが寄ってくるんですよね。それっていわゆる物理の法則で、つまり自分は原子の集合体なんだから、自分と自分以外の世界は分けられないっていうのが感覚的にわかったんですよ。ストリートはそれに気付けたという意味で衝撃的でしたね。僕はずっと、思うとか感じるとか、機嫌、感情、恐れ、不満、不安、野心、欲望、感謝、喜びみたいなことって一体何なのか、その根源的なメカニズムを知りたかったんです。

ストリートで書いていた頃

ストリートでやってみてわかったことだったんですね。

世の中のすべての原子は、振動してるわけです。固有の波形を持って、それが共鳴しながら生きているんだけれども、それが不協和音を起こした時にノイズみたいなのが出てきて感情がネガティブになる。ストリートで自分が楽しんでいると、楽しませてくれるお客さんが来るけど、歯を食いしばって乗り越えよう、立派な書道家になろうって思うと、立派じゃないことを証明させてくれるような罵声や批判が来るんです。それに、凄く儲けたいとか、自分が、自分がってなると、同じような人が寄ってきて上手くいかなくなるんですよ。

武田さんがストリートで学んだ一番大事なことはなんですか?

相手と共鳴することですよね。共感してからじゃないと何も成立しないことがわかりました。一方通行ではダメなんです。

その“共鳴した”というのがわかった瞬間や出逢いはありましたか?

いっぱいあります。例えば失恋したばかりの女の子とか、やさぐれたヤンキーみたいな子達も来るんですけど、まずはジャッジせずに彼らの話を聞いて、共鳴するんです。そうすると彼らが心を開いてきて、そこで僕が書を書くと泣きだす人もいました。

その頃はどんなことを書いていたんですか?

漢字の一文字が多かったかも。あとはその人の好きな言葉を書くからって何がいいか聞いて、「愛」と言われればそう書いたり、特に決めずにその場その場でやってました。やっぱり相手の中に入り込むと上手くいくんですね。気功のように、相手に気を合わせるということです。

ストリートで書くのはどのくらい続けられたんですか?

1年弱ですね。それからちょっとずつですけど、書道教室の生徒さんがだんだん増えていきました。

メディアに出始めたのはその後ですか?

最初からメディア運は良くて、サイトを作って自分の書を載せていたことで雑誌から取材の依頼が来て、その雑誌を見てラジオから依頼が来てってなっていったんですけど、それまで取材を受けたことがなかったので、単純にライターとかカメラマンっていう人たちがいるってことにも感動してました(笑)。

でもそこから日本テレビの人気番組「世界一受けたい授業」に出演するまでになるんですもんね。

一時期はだいぶテレビに出ましたね。「世界一受けたい授業」では視聴率1番を取ったりとか、そんなに数は出てないのにピンポイントで視聴率の高い番組に呼ばれたのが大きかったんだと思います。

もともと書道には流派や師弟制度のようなものがありますが、今から10年以上も前にネットから若い人が書道家として突然出てくることは珍しかったと思います。

書道のそういうしきたりみたいなことは知らなかったんですよ。母ちゃんは知ってたけど、敢えて僕に言わなかったみたい。だから批判もすごい来ましたよ。今思うと凄かったです。

「道」がつくものって色々複雑なイメージがあります。批判を受けた当時は辛くなかったですか?

攻撃は刺さるんで辛かったです。でも家族や生徒さん達、ファンの人達は、そういう人達を相手にしないんですよ。「何言ってのかわかんない」みたいな(笑)。それには凄く救われましたね。周りのみんなが相手にしないし、リアクションも凄く薄いのに、自分一人で傷ついてるのが馬鹿みたいに思えてきました。仲間に救われたんだと思います。

そういう批判というのは、日毎に減っていくものですか?

はい、最初の3年くらいは酷いんですけど、ある時ふっと消えるんですよ。批判してる方も飽きちゃうんじゃないですか、「こいつ無理だわ」って(笑)。僕、どこに向かってるわけでもないから。

実は、私が初めて武田さんのブログを拝見した時、武田さんはいじめられてきた経験がある方なのかなって思ったんです。

なぜか、弱者の人たちから「なんでそんなに弱者の気持ちがわかるんですか?」って言われることが多いです。いじめられた人とか鬱病の人とかにも、凄く苦しい経験をした人なんじゃないかって思われてるみたい。でも、僕わかってないと思うし、たまたまですよ。しんどい思いをしてる人同士だと、逆に相手を救えないことってないですか?そうじゃなくて例えば猫とか動物に救われたり、大自然に救われたりするじゃないですか。僕はむしろそっちに近いんじゃないかな。

凄く悩んでいる人が、全く違う環境にいる人に救われるみたいなことですよね。

本当の意味ではわかっていないかもしれないけど、人間は遺伝子の中に過去の情報や記憶が全部入ってるから、苦しみや悲しみは理解できるじゃないですか。僕の場合は理系なところもあって、悩んでいる人を見た時でも、例えば「この人はこういうパターンでこういう苦しみ方をしてるってことは、多分こうしたら抜け出せるんじゃないか」とかって、ちょっと失礼だけどゲームの謎を解決していくように考えるところがあって。そういう環境に生まれたのはたまたまであって、その人のせいじゃないし、「こういう考え方をしてこういう言葉を選んでこういう場所にいたからそうなっただけだから、これからはこうすれば絶対楽になれるよ」って、ロジカルに考えるのが好きなんです。

次回へ続く

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