心を整えるとはどういうことかを科学的にも研究中。引き寄せの法則はそのまま自分の人生に当てはまる
武田さんの書は、「楽」という文字がとても印象的です。
「楽」は、僕の人生の一文字です。もともと、ふわふわしていてあまりこだわりがないタイプだったんで、独立した時に一つくらい軸になる文字を決めようと思ったんです。この一文字を心に決めたことが僕の大きな転機でした。「楽」とは、考え方とか思想ではなくて、楽しい心の状態ってことなんですけど、簡単に言うと「楽(らく)」と「楽しい」だけを守って生きようと決めたんですね。18年が経った今、原点回帰しています。
「楽」とご自分で決めたらしっくりきたんですか?
そうなんですよ、相性が良かったんですかね。例えば歯磨きする時でも、歩いている時でも、妻と話してる時でも、ちゃんと楽しんでいたり、リラックスしたりしてるか、相手の機嫌を伺っていないかをチェックします。仕事も緊張よりは楽を選ぶし、真面目よりは楽しいを選ぶ。別に他を否定するわけじゃなくて、誰に不謹慎と言われようが、苦しいことは選ばないって自分で決めちゃったものだから。
それは慣れるとできるものなんですかね。
慣れですよ。自分の家族や仕事、友達を苦しませてないか、楽しませられているかを常に頭の中で考えています。でも自分が疲れたら意味ないし、気を使って楽しませようとしてたらこっちは無理していることになるしね。
そう考えたら難しいですね。
実は難しいでしょ。自分が苦しみながら人を楽しませてもダメだし、逆に自分だけ楽しんでいてもダメだし。自分だけならできても、他人はコントロールできない。だから、上機嫌って実はすごい深いんですよ。僕はそれをずっと研究していて、50冊以上本を出版しましたけど、それはある意味自分の修行でもあるんです。
テレビなどで拝見するよりも、実際の武田さんは目がキラキラしていますね。
多分18年間頑張ったからですね(笑)。頑張ったっていうより楽しんできたから。
武田さんのアトリエには、書ではなくて、絵がたくさんあってびっくりしました。
これらは一応書なんですよ。僕は絵が描けないです。書の文脈で西洋の画材、油、水彩、アクリルを使って、今は墨汁とアクリルを混ぜたもので描くのにハマってるんです。描き始めたのは今年からですね。
今年からとは、何かきっかけがあったんですか。
書はストイックな世界だったので、ちょっと浮気心で、一回くらいやってみようかなって、油絵セットを買ったら黒以外の色もいいなって楽しくなって、ハマっちゃって。初めてメイクして口紅つけて喜んでる女子の感覚ってこんな感じだと思う(笑)。
絵を描く時と書を描く時って、頭の中は違うんですか?
違います。書は、小さい頃から母親に教わってきた技術があるからコントロールできる世界なんです。その何十年かけて積み上げたコントロールする世界を破壊していくのが書道アート。つまり書はコントロールからはみ出すために、あえて自分から冒険しに行かなければならないんだけど、絵に関しては、2歳児が初めて水たまりをびちゃびちゃしてるような、技術も何もない初体験で、ただ楽しくてしょうがないんです。初めてのおもちゃをいじっている感じですね。
こちらでは書道教室も開かれていらっしゃいますが、ここに通っている生徒さんは今何人くらいいらっしゃるんですか?
300人くらいです。年齢層は40代が一番多くて、小学生から80代までいらっしゃいますね。教室は週4日(9コマ)で、最終週だけはお弟子さんが教えてます。
生徒さんはどういう目的で学ばれている人が多いのですか?武田さんの書道教室に来る生徒さんは字が上手くなりたいことだけが目的じゃない気がしますが。
まぁ楽しみたいっていうのが一番じゃないですかね。もちろん上手くなりたいんでしょうけど、みんなこの雰囲気を楽しんでいて、常に笑いが絶えない教室です。本当にワイワイお茶飲みながらって感じで。
書道教室の模様
書道には流派があるんですか?
書道会ごとに段と級がそれぞれにあるから、それを流派と言うならそうかもしれないですね。
書道教室にこんなに絵がいっぱいあったら、習いにきたお子さんがびっくりしませんか?
全然しないですね。だって僕の趣味ですけど、ここにギターもあるし。
武田さんに憧れて書道家になった人はいませんか?
いっぱいいますよ。
私も小さい頃から書道教室に通っていましたけど、書道教室を通して書道家になるっていう発想は昔はなかったですよね。
僕もないですよ。そもそも自分が書道家だっていう意識もないです。自分の中でジャンルという発想が存在しないので、よくよく考えると、「武田双雲って書道家なんだ」っていう感じですね。活動に関しては、型破りというより、型がないタイプなんですよ、ボーダーレスっていうか。自分が何者かを決めない方が楽ですね。
書の作品を拝見すれば書家だと思いますが、明治神宮前駅に展示してある作品を見ると画家のようにも感じますし、武田さんがご自身のブログの言葉を拝読すればお寺の住職のような気もしてきます。
明治神宮前駅の作品は、希望という字を崩して書いたものです。画数は本来の「希望」に絶対に合わせるのが鉄則ですけどね。住職と言えば、僕、お坊さんとの対談も多いですよ。
明治神宮前駅に展示されている作品「希望」
ところで、最近は昔よりテレビでお見かけしなくなったなと思っていました。
合っていると思います。俺がコントロールしているわけではないのですが、テレビの出演依頼が多い時期とか、講演会が多い時期とか、海外が多い時期とか色々あるんですよ。事務所の人たちは、「その時先生が興味があるものが引き寄せられてくる」って言いますね。例えば、“上機嫌”とういことに対して凄く興味があったら、「上機嫌についての本を書きませんか?」ってオファーが来るんですよ。
それは凄いですね。
僕、運がいいんです。無理やり何か動かなくても、自然とそうなっていくんです。例えると、サーフィンで波待ちしてないのに、なんだろうってとりあえず乗ったら、気持ちよくてどこまでも乗れちゃったっていう感覚。見えないところにコーチがいて、ポンていつも背中を押してくれて、乗ってみたら凄くいい波で、「ありがとうございまーす!」みたいな感覚ですかね。
それはいつ頃からですか?
特に25歳で独立してからですね。そこからどんどん開花している感じで、いま18年経って、ますます日ごとに楽になっていくというか。自分に興味があることがお仕事に繋がっていくんですよ。
今は何に興味があるんですか?
今はアートですね。そしたら海外から個展のオファーが来た(笑)。よく言う“引き寄せの法則“がそのまんま当てはまるタイプですね。アメリカの引き寄せ本の翻訳を読んだ時に、「あ、説明してくれてる、俺の人生」って思いましたよね。
武田さんの書がそういったことを引き寄せるんですかね。
いや、書は単なる象徴だから。僕らが思ってることの感覚が共有して振動してるんですけど、その振動に合わせて粒子ができるんです。その粒子がたまたま集まってきて、振動数に見合った物質に変わっていくんですよね。それが量子力学の最先端なんですけど、それらがいわゆる引き寄せになる。
そういえば、武田さんは科学もお好きなんですよね。
もともと僕、宇宙が好きで、科学が大好きなんですよ。それで、科学者の会っていうのを僕が開いて、脳科学者の茂木(健一郎)さんや、日本内分泌学会理事長で慶應義塾大学医学部の伊藤裕教授、物理学者で東京理科大学の山本(貴博)准教授とか、いろんな科学者と対話を繰り返してます。最近、自分が小さい頃から興味を持っていた宇宙のことと、楽しいとか楽っていうことが、非常に結びついてきていますね。
科学者の会にて
科学と楽しいや楽も結びつくんですね。
つまり、楽しい波動でいると、ちゃんと僕を楽しませてくれる人が来るし、楽に興味を持つと、僕を楽させてくれる人が来る。僕によって楽になってくれる人も来ますよ。つまり、以心伝心という世界は、今や科学で証明できるわけです。
そういうことを通して、武田さんが伝えたいことは何ですか?
僕は今、「心を整える」とはどういうことかに凄く感心があって、それを伝えたいと思っています。どんな考え方をするかということよりも、どういう心の状態かっていう方が大事なんですよ。だから簡単に言うと、機嫌がいいっていうのは本当の意味で凄く大事なことですし、仏教、キリスト教やイスラム教などの宗教を作ることにも繋がるんです。それを例えばスポーツで学ぶ人もいるだろうし、千利休だったらお茶を通して悟ったわけで、全て基本的には心を整えるってことですよね。
なるほど。武田さん、書道家としての範疇をとうに超えていますね(笑)。
そうですよ。書は僕を表現してくれて、いろいろなことを気づかせてくれる大切な道具です。つまり、僕の心の状態っていうものが、どうなっているかの研究が今とても面白いんです。
次回へ続く