HIGHFLYERS/#34 Vol.4 | Apr 18, 2019

世界には新しいお酒がどんどん出て来ている。地球の裏側で焼酎のマティーニを当たり前に飲めるような時代を早く作りたい

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Design: Kenzi Gong

後閑信吾さんインタビュー最終回は、チャンスと成功についてを伺いました。後閑さんのお話を聞けば聞くほど、自分のインスピレーションを信じることと、人との出会いを大切にしていくことが、生きていく上でとても大切であることが伝わってきますが、では今までどうやってチャンスと向き合ってそれを自分のものにしてきたのでしょう。また、成功についてはどう捉えているのでしょうか。世界の第一線で活躍されている後閑さんに、日本のお酒について思うこと、これまでの人生で影響を与えてくれた人たちや日々心がけていること、そして好きな映画と上海のお店との関係性、まだ叶っていない夢や成功についてをお聞きしました。
PROFILE

The SG Group ファウンダー/バーテンダー 後閑信吾

2001年より地元川崎でバーテンダーとしてのキャリアをスタート。 シェリーや茶道を学び、2006年に渡米。ニューヨークの名門バーAngel's Shareでヘッドバーテンダー兼バーマネージャーとして10年間務める。2012年にバカルディ社が主催する世界最大規模のカクテルコンペティション「Bacardi Legacy Cocktail Competition」に出場し、ニューヨーク、全米で優勝、アメリカ代表として世界大会に出場し、総合優勝を果たす。その後、世界40カ国以上でゲストバーテンダーやセミナー講師として活躍。その中でも120年の歴史を持つイギリスのサヴォイホテルで唯一のゲストバーテンダーとしてカウンターに入った事でも知られている。2014年には自身のバーSpeak Lowを上海にオープンし、オープン直後から国内外数々の賞を受賞し、2016年から3年連続Asia's 50 Best Barsトップ3、2017年World's 50 Best Barsトップ10 に輝く。2017年にはカフェ、レストラン、バーの複合業態Sober Companyをオープン。こちらもオープン直後にAsia's 50 Best Bars 2017年19位, 2018年14位を獲得。自身もTales of the Cocktailにて、現役バーテンダーとして最高の賞「International Bartender of the Year 2017」に輝き、名実共に世界最高のバーテンダーとしての地位を確立させる。スタッフ育成にも力を入れ、世界大会優勝バーテンダー3人、国内大会優勝バーテンダー6人を育て上げ、指導者としての実力も発揮している。その一方で世界的に有名なプロダクトデザイナーTom Dixon氏やアイアンシェフ森本正治氏、有名ファッションブランドやスポーツメーカー等ともコラボ企画を実現し、多くの業界から注目から集めている。現在はニューヨークと東京に拠点を置きながら、バーコンサルティング、カクテルコンペの審査員等をしながら世界中を飛び回っている。 2018年6月、渋谷にThe SG Clubをオープン、さらに同年11月上海にスティーブ・シュナイダーとのコラボレーションThe Odd Coupleをオープン。

上に行くことだけが幸せや成功なら、どんどん寂しくなっていく気がする。僕は、今とそのちょっと先の楽しみを大切にしたい

今、The SG Clubでは、毎月面白いイベントを開催されているそうですね。

満月の夜に、バリスタやシェフ、盆栽師さんや靴磨きの職人さんなど、それぞれの業界をリードしている同世代のカッコいい人たちを巻き込んでコラボイベントをしています。バー業界以外のトップクリエイターと仕事することはとても刺激になりますし、バーを盛り上げていくために外の分野の第一線で活躍するプロ達とも交わって、どんどん新しいことをしていきたいと思っています。今までは東京だけで行なっていましたが、4月からは上海も含め4店舗全店で同時に満月のイベントを行なっていきます。

満月の夜のイベント

今までで印象的だったコラボはありますか?

コラボイベントは職業、年齢、性別問わず自分自身が興味のある好きな人たちに声をかけて一緒に作っています。そういう意味ではどれも印象的ですし、毎回いい刺激をもらっています。今企画しているものも面白いものが沢山ありますので、ぜひ満月の夜はThe SG Clubに足を運んでもらえたらと思います。

ところで、海外生活の長い後閑さんの視点から、日本のお酒について思うことはありますか?

バーテンダーになって18年になるんですけど、12年ぶりにニューヨークから日本に帰ってきて生活をしていて、「なんで僕らはずっと洋酒ばかりを扱っているんだろう」とふと思ったんです。僕ら日本人はずっと洋酒に貢献しているのに外国人のバーテンダー達は特に日本のお酒に貢献していないなと思って、和酒を世界に広めたいと思いました。 実際、海外のバーテンダー達は、ジン、ウォッカ、テキーラ、ラム、ウイスキー、ブランデーなどの昔からある洋酒を使うことに正直少しずつ飽きてきているんです。

新しいお酒で世界的に注目されているものってあるんですか?

例えばペルーのピスコとか、ブラジルのカシャーサとか、メキシコのメスカルとか、そういう第6、第7、第8、第9スピリッツっていうのが出てきています。でも焼酎ってまだ外国人のバーテンダーの中ではほとんど知られてないんですよね。だから、焼酎を広めることで新しい一つのベースが誕生するんじゃないかと期待しています。例えばブラジルでモロッコ人のバーテンダーがやってるバーに、フランス人のお客さんが行って、「焼酎のマティーニちょうだい」って注文することが当たり前になる時代が来ても全然おかしくないんじゃないかなと思うんです。そんな時代が来るように、今水面下で進んでいるプロジェクトもあるので、また時期が来た時にお話しできればと思います。

楽しみにしています。では次に、後閑さんが普段から心がけている習慣があれば3つ教えてください。

「疲れた」を言わない、「忙しい」を言わない、「楽しい」を優先する、ですかね。ネガティブな言葉はできるだけ発さないようにして、ポジティブな言葉に変えるように心がけてます。 そうすると何か良いことありそうなので (笑)。

では影響を受けた本や音楽、映画があれば教えてください。

やっぱり映画の「カクテル」かな。昨年上海に作った3店舗目のバー「The Odd Couple」のコンセプトは、“1980年代に思い描いた2018年のバー”なので、「カクテル」に出てくるような店とか、「バック・トゥー・ザ・フューチャー」を観て受けたインスピレーションで描いた店を作っていて、影響を受けてますね。

後閑さんがプライベートでよく飲んでいるお酒やカクテル、好きな食べものなどはありますか?

焼酎は米も芋も麦も好きですし、他にはスペインのシェリー、メキシコ南部で昔から作られているメスカルなども飲む機会は多いですね。食べものに関してはこれという食材や料理と言うよりは、気持ちを込めて作られたものと体に優しいものが好きです。

今まで後閑さんに一番影響を与えた人は誰ですか?

いろんな人がいるんですけど、強いて何人か挙げるとするならば、まず二十歳で店長になった店のオーナーさんです。バーテンダーというよりも、小さなお店を回していく上でのビジネスの仕方や、人の扱い方や礼儀を教えてくれた人ですね。もう一人はシェリーバーで働いていた時の先生。カクテルを作らない人だったんですけど、お酒の知識や歴史などをいろんな観点から教えてくれました。あとはニューヨーク行きを勧めてくれたお客さん。飲食系のコンサルタントをやってる人で、サービスとは何かを教えてくれた人です。海外では、バカルディの世界大会までサポートしてくれた、アメリカのバカルディでブランドマスターとして広報活動をされているドミニカ人の方と、人前での話し方やトップバーテンダーとしての立ち振る舞いを教えてくれて、一緒にワールドツアーを回ったアルゼンチン人のアンバサダーです。この5人には特に影響を受けたし、感謝しています。

憧れている人や目標としている人はいらっしゃいますか?

憧れとはまたちょっと違うんですけど、目標としてる一人はアメリカで活躍している和食料理人の森本正治さんですかね。料理だけでなく、それ以外のところでの見せ方もそうですし、和食料理人としてあそこまで地位を築いた人って、やっぱり森本さんやノブさんだと思うし、業界を動かしてアメリカンドリームをがっちり掴んだ人ですよね。一緒に仕事をしていても、華があるしパワーもあるので、素直に凄いなって思います。

では、後閑さんにとって、チャンスとはなんだと思いますか?

チャンスとは…初めて聞かれましたけど、なんですかね。今まで自分にチャンスがあったのかもよくわからないです。でも、多分一人でずっと動いていても生まれてこないものだと思うんで、やっぱり人との関わりとか出会いを大事にすることだと思います。僕の名前「信吾(しんご)」は、吾(われ)を信じるって書くんですけど、名前の通り自分のインスピレーションやパッと思いついたことをできるだけ大事にするようにはしてますね。

それでは、成功とはなんですか?

難しいですよね、自分が今成功しているのかは自分が決めることなのか、周りが決めることなのか、そこに関してはあんまりよくわからないです。例えば将来の成功っていつなのかなと思うんです。子供の頃に考えていた将来って多分今だし、今考える将来って10年後とか20年後ですよね。今自分が成功しているか?と聞かれたら好きな仕事に就いて楽しいことも多い毎日だけど、それで満足かと言われたらまだまだやりたい事もいっぱいある。だから成功ってあんまりピンと来てないですね。もし成功が収入的なことを言うのであれば、そのゴールも別にないし、地位とか名誉っていう意味でもゴールってないし、要は人生楽しむということじゃないでしょうか。

確かにそうかもしれませんね。

例えば、初めて海外旅行に行く時は嬉しいしテンション上がるじゃないですか。でも行き慣れている人はそんな風に感じなくなりますよね。普段エコノミーに乗ってる人はビジネスに乗った時に興奮するけど、普段ビジネスに乗ってる人がエコノミーに乗ったらちょっとマイナスなことを感じますよね。じゃあ普段ビジネスに乗ってる人がテンション上がるのってファーストに乗った時、ファーストに普段乗ってる人がテンション上がる時ってプライベートジェットに乗った時、プライベートジェットに普段乗ってる人はそれ以下のことができなくなってきちゃうと思うんですよ。例え話で生活水準の話をしましたけど、そういう意味で収入とか地位とか名誉って上に行けば行くほど興奮するものが減っていくんじゃないかなって思うんです。

確かに、プライベートジェットの次は月に行くしかないかもしれないですね。

上に行くことだけが幸せとか成功だとすれば、どんどん寂しくなっていくのかなって思います。だからこそ僕は、今とかそのちょっと先をフルで楽しめる環境だったり、それを仲間と共有できたりするようなことにフォーカスしてるんですね。僕は、将来一部上場とか何十店舗に拡大することには今はあまり興味がないし、それよりも楽しいものを作ることに集中してますね。それは多分子供の頃から変わっていないと思います。

では、後閑さんが世界を変えられるとしたら、それはどんなことだと思いますか?

僕らSGグループのスローガンが、“Sharing(共有) & Gratitude(感謝)”なんですが、ホスピタリティビジネスにおいてこの二つが一番重要なんじゃないかと思うんです。僕ら人間は、家族や仲間との大切な時間や、体の一部となる食べ物や飲み物をみんなで共有していますよね。またそれを作ってくれた人たちや運んでくれた人達に対する感謝の気持ちを大事にする。日本人の“いただきます”の精神ですよね。これらを世界中の人々が意識するようになると、世界は大きく変わるんじゃないかなって思います。

最後にまだ叶っていない夢があったら教えてください。

沢山ありますよ(笑)。その中の一つとして、世界を繋ぐようなことをもっとしていきたいですね。ここまでグローバル化してきた世の中なんだから何でもできると思うんです。例えば、さつま芋って大昔に現在のペルーなど中南米で栽培されていたものを、コロンブスがヨーロッパへ持ち帰り、中国などを経由してものすごい長い年月をかけて九州に伝わってきたもので、そこに500年くらい前にアジアから伝わってきた蒸留技術が加わったことによって、芋焼酎が出来上がった。この遠い極東の島国日本という国で生まれた芋焼酎を逆にペルーに持って行って、あなた達が作ったあの植物はこんな風になりましたよみたいな感じで送り返し、カクテルとしてそれをまた広める。こういう活動って面白くないですか(笑)。ワクワクすることや興奮すること、バーやお酒を通じてこういうことをこれからどんどんやっていきたいですね。

それが叶った頃、ご自分はどう変わっていると思いますか?

多分変わってないんじゃないですか。髪の毛抜けて白髪が増えてるくらいじゃないかな(笑)。

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