HIGHFLYERS/#17 Vol.2 | May 22, 2016

200人で奏でるジブリや国民的アイドルのコンサートなど、新しい価値を生み出すことの喜びと苦悩

Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Image Design: Kenzi Gong

朝ドラの音楽アレンジをはじめ、映画やアニメ、コンサートでご活躍中のオーケストレーター、宮野幸子さん。第2回目は、今まで経験された数々の大舞台の中で印象的だった宮崎アニメ記念公演や国民的アイドルのコンサートについてお話して下さいました。また、オーケストレーターになるためには体力と集中力が大切であることや、これから目指す人へ、何を勉強するべきか等のアドバイスもたっぷりと伺っています。
PROFILE

オーケストレーター宮野幸子

1969年、神奈川県横浜市出身。東京藝術大学音楽学部作曲科卒業。現在、株式会社シャングリラ代表 映画やテレビドラマの音楽のオーケストレーターとして,主に作曲家・梅林茂、蓜島邦明両氏をはじめとした個性的な音楽作品に携わる。最近では「とと姉ちゃん」を始めとした、遠藤浩二氏の作品や、椎名豪氏のゴッドイーターなどのゲーム及びアニメの音楽への参加も多数。 また「高嶋ちさ子&軽部真一プロデュース:めざましクラシックス」や、「Voices~from FINAL FANTASY」、 「久石譲in武道館」などクラシックスタイルのコンサートや在京オーケストラへのアレンジ提供をする傍ら、 嵐「Dear Snow」、松田聖子「Love is all」、手嶌葵「虹」など、アーティストのへの楽曲アレンジや、 「キングダムハーツ・ピアノコレクション」(音楽:下村陽子)、「ピアノで奏でる日本の抒情歌」などの 楽譜も出版されるピアノアレンジなど、様々なシーンにおいて活動の場を広げている。

訓練で基礎の力をつけ、ピンチを乗り越えるスキルを身につける

今まで様々な作品に関わってこられたと思いますが、その中でも特に印象深い思い出はありますか?

二つありまして、久石譲さんの記念公演「久石譲in武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間」と、7万人収容する競技場で行われた国民的アイドルのコンサートはとても印象に残っています。久石さんの公演は、1000人の合唱隊と、新日本フィルハーモニー交響楽団と東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の2つのオーケストラを入れた大所帯でした。通常のオーケストラですと、トランペットやホルンは2〜4人しかいませんが、この時はそれぞれ8人、ファーストバイオリンだけで20人以上で総勢200人。武道館に巨大なスクリーンを作って、アニメの名シーンの映像を流しながら演奏するという、久石さんが企画されたプロジェクトだったのですが、オーケストレーションの素晴らしさに定評のある作曲家の山下康介さんと一緒にお手伝いさせて頂きました。久石さんにとっても初めての事だったので、「どんな音になるんだろう」、「こんな人数のオーケストラをどうやって書いたらいいんだろう」と皆で探りながら作り上げていきました。

人数が増えた分、音自体も凄い迫力になるんですか?

それが、オーケストラってそんなに単純なものでもないんです。例えば二人三脚って、ちょっとでもタイミングが合わないと転んでしまいますよね。それと同じで、音楽のアンサンブルもタイミングが合わないと迫力が増すどころか、かえって音が濁って聴こえてしまうんです。70人程度の通常編成のオーケストラでも、皆で呼吸を合わせるのは凄く大変なことなので、それが倍以上の人数になるとより大変で、当然それだけの譜面の完成度も要求されます。それに加えて武道館は音楽鑑賞のために設計されたホールではないので、音響的にオーケストラをきちんと聴かせることも考えなければならず、普段以上に試行錯誤しました。こうした全ての環境を整え、企画を具現化できたこと自体が奇跡だったと思っています。

なるほど、そうなんですね。国民的アイドルのコンサートはどのようなところが印象深かったですか?

7万人を収容できる大きな競技場の一角にオーケストラブースを作り、オーケストラコーナーという演目が始まると同時に幕が開いてオーケストラが登場し、ヒット曲を歌うアイドルの伴奏を演奏したんです。そんな機会ってあまりないから、ファンの人達がすごい感動してくれて、中には泣いているお客さんもいました。その光景を観た時、こういうことをきっかけにオーケストラを聞いてくれるのはとても嬉しいことだと思いました。普段はオーケストラとあまり縁がないようなところからも声をかけて頂けるのは、凄くありがたいことですね。

朝ドラやジブリなど、とても大きなお仕事をされていますが、オーケストレーターというポジションが確立される前は、宮野さんご自身が今こうしてご活躍されることは想像出来ましたか?

全く想像していませんでした。逆に1年続くかな、2年続くかなと思っていたし、今でもあと何年続くだろうって思ってるくらいです。とにかくこれからも継続していくことが大切だと思ってます。

15年ほど活動されてきた中で、オーケストレーターとして辛かったことはありましたか?

毎日辛いです(笑)。中でも一番辛いのは締め切りに間に合わないこと。一緒にお仕事をしている方達はよくご存知ですけど、毎回間に合わないので、最後は戦争みたいな状態になってます。結局、なんとか終わるんですけどね。

徹夜になることもあるんですか?

2徹くらいはざらですね。体力的に一番きつかったのは中国の映画監督、チャン・イーモウさんの仕事がきっかけで頻繁に中国に行くようになった時のこと。いつものように作業が終わらず、日本で3日くらい徹夜をしたことがあって、向こうに乗り込んだはいいけど乗り込むまでに力が尽きてしまい、着いたら完全にダウン。結局レコーディングに行けずにずっと寝ていました。作品は何とか間に合いましたが、自分の身体が間に合ってなかったみたいな。

写真中央の男性がチャン氏。その左横が作曲家の梅林茂氏。

オーケストレーターは体力も必要ですね。オーケストレーターになるのに資質としては何が一番大切ですか?

体力はもちろん必要なんですけれども、何よりも集中力が大事。家でじっとしていても大丈夫という人が向いていると思います。外に出たがる人は向いてないかもしれないですね。あとは、譜面上のたった一個でも何かが間違っていたらその音は変わってしまいますし、ケアレスミスが許されない世界ですから、諦めずにじっと向き合って、適当にしない人ですね。私は間違いを見つけたり、聴き分けたりするのは割と得意なんです。

オーケストラが演奏するのを聴いていて、誰かが一音ずれただけでもすぐ分かるのですか?

それが分からないと、多分オーケストレーターとしての仕事は出来ないと思います。例えば、レコーディングの際は録音のディレクションをすることもあるので、その時に間違った音を聴き取れないと、それがそのまま録音されてしまうので、それでは仕事は務まりません。

録音のディレクションというのはどういうことをされるのですか?

簡単に言うと、映画の音楽などを録音する時に、2時間の中で20曲録らないといけないような状況だと、次々と効率良く録っていかないといけないんですね。その時に正確なクリック(メトロノーム)を作って、的確に演奏してもらうようにディレクションします。

録音は、わりと職人的な感じで作っていく作業なのですね。

海外では、劇伴の音楽を作る時に使う「スコアリングステージ」という専用スタジオがあるので、そこで指揮者をたててやるんです。日本にはそのシステムがなくて、無駄なお金を使わないように凄くシンプル化してしまっています。時間短縮の目的でもあるのですが、日本人の演奏家の方達はきちんとやりますし、今の日本のシステムだと指揮者がいなくてもスムーズに出来るようになっているんです。

オーケストレーターを目指している方達にアドバイスやメッセージを頂けますか?

私も過去に勉強しておいたことが今になってとても役立っているので、音楽に関する勉強はたくさんした方がいいと思います。例えば、作曲の基礎に和声法と対位法というのがあって、スポーツで言うと野球やテニスの素振りみたいなことなんですけど、作曲にもそういう基礎トレーニングがあるので、そういったことを学んで基礎の力をつけておくといいと思います。

オーケストレーターは、和声法や対位法など、作曲における様々な知識がないと出来ない職業なのですか?

おそらくそうだと思います。中には勉強する必要のない天才もいるとは思いますが、それをやっておかないと行き詰まった時の対処法が身に付かないです。行き詰まってそこで終わっていたら仕事にならないと思うので、「ピンチをどう乗り越えていくか」という能力を身につけるために、とにかく色々なことを勉強するしかないんじゃないかな。やっておいて損はないと思います。

次回へ続く

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