HIGHFLYERS/#38 Vol.1 | Nov 7, 2019

若手が中心となって作り上げる「新春浅草歌舞伎」は、リーダー的な立場として出演。気軽に立ち寄れて、歌舞伎を身近に感じてもらえる公演を目指して

Interview: Kaya Takatsuna / Text & Photo: Atsuko Tanaka / Cover Design: Kenzi Gong

今回HIGHFLYERSに登場するのは、歌舞伎俳優の尾上松也さん。松也さんは5歳の時に、父である六代目尾上松助さんの襲名披露公演で、二代目尾上松也として初舞台を経験されました。その後は子役として活躍し、中学生で一旦歌舞伎と距離を置くも、高校生の時に歌舞伎に復帰。そして二十歳で敬愛するお父様が他界されたあとは、歌舞伎界の厳しい現実を体感しながら自身が生き残れる道を模索し続けたそうです。その情熱と努力が実を結び、ミュージカルや演劇など歌舞伎以外の分野からも声がかかるようになり、今では様々な場でご活躍をされています。また、毎年恒例の「新春浅草歌舞伎」においては、これまで5回リーダー的な立場として若手をまとめてきました。インタビュー初回は、「新春浅草歌舞伎」に対する想いから、ミュージカルなど他の舞台での活躍について、歌舞伎の魅力や、歌舞伎俳優になりたいと思う若者へ向けてのアドバイスなどを伺いました。
PROFILE

歌舞伎役者 尾上松也

昭和60年1月30日生まれ。六世尾上松助の長男。平成2年に二代目尾上松也を名乗り初舞台。新春浅草歌舞伎には平成27年から6年連続通算8回目の出演。平成30年の浅草歌舞伎では『元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿』にて徳川綱豊卿、同年9月には、劇団☆新感線『メタルマクベスdisk2』で主役を勤めるなど歌舞伎と一般演劇の両方で大役に挑み続けている。平成31年は浅草歌舞伎の『源平布引滝 義賢最期』の木曽先生義賢に始まり、5月歌舞伎座『曽我綉侠御所染』で御所五郎蔵、9月巡業『蜘蛛絲梓弦』で源頼光、10月歌舞伎座『三人吉三巴白浪』でお嬢吉三と幅広い役柄で活躍している。

歌舞伎の魅力は、それ自体の持つエネルギー。ミュージカルや映画で役を演じる時も、自分のベースにある歌舞伎を忘れたことはない。

毎年新年に浅草で行われる「新春浅草歌舞伎」についてお伺いしたいです。昭和55年に始まり、来年で40周年を迎えますが、松也さんは幼い頃に観た記憶はありますか?

父が出ていた時(平成3年、9年、10年)に観に行ってるはずですが、あまり憶えてないですね。楽屋に行った記憶はあるのですが、歌舞伎を観た憶えはないです。記憶にあるのは、猿之助さんや獅童さんが出演されていた頃くらいからですね。

松也さんご自身は、4年前(平成27年)からリーダー的な立場として皆さんをまとめていらっしゃいますね。

まとめているわけでもないんですけど、年齢で言えば僕が突出して上ですので。これまで拝見していた「新春浅草歌舞伎」は、先輩後輩関係なく一丸となって公演されていらっしゃったイメージが強く、それが今にも繋がっていると思います。それに、 みんなで一丸となるところが「新春浅草歌舞伎」の良さの一つだと観ていて感じていたので、僕たちの世代になった時も、できるだけ一体感を持って、“チーム浅草歌舞伎”としてやっていきたいとずっと思っていました。「新春浅草歌舞伎」は若手の公演ですので、僕が先陣を切って何か行動を起こすことはあっても、基本的にはみんなに相談しながら、意見を聞いたり、出し合いながらやらせていただいている感じですね。

難しいことはありますか?

何から何まで僕たち若い世代が中心になって責任を持ってやらせていただく機会は他にないので、自分たちのやりたいこと、やってみたいことはたくさんあるのですが、1月は歌舞伎公演が一年で特に多く開催される月なのでなかなか難しいです。歌舞伎座、国立劇場、大阪松竹座、新橋演舞場、そして浅草公会堂など、だいたい平均して4から5の座館で上演されます。そうなると、ありがたいことではあるんですが、人員が足りなくなってくる。限られた人員の中で何を上演するかというのは面白さでもあり、大変さでもあるかもしれないですね。

浅草は元々松也さんにとって馴染みがある場所ですか?

はい。今は違うのですが、銀座に父方の家がありましたので、僕は生まれてからずっと銀座で過ごしてきました。浅草は銀座から近いですし、家族でふらっと浅草の商店街に遊びに行ったり、浅草寺にお参りに行ったりなどはよくしていましたね。子供の頃から公演に関係なく、家族でリフレッシュしに行くような場所ではありました。

どのような方に観ていただきたいというのはありますか?

「新春浅草歌舞伎」のような若手の公演は特に、普段から歌舞伎をあまりご覧にならない方にもわかりやすく楽しんで観ていただけるように、また、僕らのことも身近に感じていただけるように心がけています。「新春浅草歌舞伎」のポスターを見て「この人たち誰なんだろう?」と好奇心を持っていただけると嬉しいです。普段から歌舞伎をご覧になっていただいている方はもちろんですけれども、観たことない方もふらっと立ち寄れるような公演にしたいと思っています。

ところで、12月から新橋演舞場で始まる新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』ではユパを演じるそうですね。

そうですね、ユパはおじいちゃんですからね。菊之助さんがナウシカ役で、その師匠役というのは不思議な気持ちですね(笑)。

そちらも楽しみです。また、ミュージカルにも出演されていますが、歌はもともとお上手なんですか?

もともと音痴だったわけではないと思いますが、自分が舞台で歌うとは思ってもいませんでした。猿之助さんに連れて行っていただいた劇団四季の「ライオン・キング」を初めて観た時からミュージカルが好きになって、カラオケでも歌うようになりました。ある時、七之助さんに「ミュージカルとかやったらどう?」って言われて、そこで初めて自分も役者なんだからミュージカルをやっちゃいけない理由はないと思いたち、オーディションを受けたりするようになったんです。ですので歌が上手いからミュージカルをやると考えていた訳ではなく、最初は全く別物と考えていました。

歌のトレーニングはされていたんですか?

今は色々な先生に教えていただいているのですが、最初の頃は自分の感覚だけで歌っていたので、コンプレックスを感じていた部分がありましたね。蜷川幸雄さん演出の「騒音歌舞伎 ボクの四谷怪談」に出させていただいた時は、他の出演者の方達も、ミュージカルや歌を専門にしている俳優さんではなかったのでそこまで気にならなかったのですが、その後「ロミオ&ジュリエット」に出演させていただいた時にはミュージカル畑の方達でしたから、皆さんの発声の仕方や歌のうまさに、帰りたくなりました(笑)。「どうしよう、こんな状況の中で俺は演じることができるのか」と思ったのを覚えてます。

それが今は、城田優さんと山崎育三郎さんという、ミュージカル界のスター達と「IMY」というプロジェクトを立ち上げ、一緒にステージに立たれていてすごいですね。

優と育三郎とはずっと何年も前から仲良くて、彼らとは長い歴史があります。優は高校時代からの仲間ですし、育三郎は「エリザベート」で共演してからの仲間で、みんなそれぞれ活動の拠点は違うのですけれど、音楽も歌も、ミュージカルも好きという共通点があって、気も合うので、ずっと何かやろうよっていう話をしてたんです。長い時間かかりましたけど形になりましたね。

前に情熱大陸に出演された時に、「現代劇をやる時も歌舞伎俳優であることを忘れないようにした方が良い」と演出の方に言われていたシーンがありましたが、ご自身もそう思いますか?

そうですね。歌舞伎以外の分野に出させていただく時でも、歌舞伎で築いた素養と基礎が活かされていますし、ミュージカルや映画など、どの現場に行っても、何をやっていても、自分のベースは絶対に歌舞伎だという気持ちがなくなったことはないです。ただ、他のジャンルの演劇に出る時は、そのジャンルに沿った、違和感のないやり方で演じるように心がけています。歌舞伎的な要素が役に立つのであれば存分に出しますが、基本的にはそのジャンルごとに、きちっと使い分けるようになりたいと思っているので。また、そういった歌舞伎以外の舞台に出させていただく時は、常に歌舞伎にどれだけ還元できるかも考えながらさせていただいています。

松也さんにとって一番の歌舞伎の魅力はどこにあるのでしょうか?

最近特に魅力的だと思うのは、歌舞伎のエネルギーですね。これは他の演劇には敵わないものがあると思います。歌舞伎の手にかかれば、どんなに奇想天外なストーリーでも形にできてしまうエネルギーがあります。僕が歌舞伎好きなひとりの人間として、歌舞伎らしさを感じるのは、そういうお芝居の方が多いですね。特に、僕の大好きな演目で、出演もさせていただいている『御摂勧進帳』は、首が飛んだり、刺激的な演出も多いのですが、歌舞伎だからこそ成り立つお芝居だと思います。歌舞伎のそういうところがすごく好きです。

ヘアメイク:岡田 泰宜(PATIONN)
スタイリスト:曽根原 未彩
衣装:ジャケット ¥36,000、パンツ ¥21,000 / Toraditional Weatherwear(トラディショナル ウェザーウェア 青山メンズ店)
シャツ ¥9,500、ブーツ ¥26,000 / CALL&RESPONSE

次回へ続く

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新春浅草歌舞枝

新春浅草歌舞伎

出演:尾上松也、中村歌昇、坂東巳之助、坂東新悟、中村米吉、中村隼人、中村橋之助/中村錦之助

◇第1部(午前11時開演)(年始ご挨拶)
『花の蘭平』、『菅原伝授手習鑑 寺子屋』、『茶壺』
◇第2部(午後3時開演)(年始ご挨拶)
『絵本太功記 尼ヶ崎閑居の場』、『仮名手本忠臣蔵 祇園一力茶屋の場』

毎年、次代の歌舞伎界を担う花形俳優が顔を揃える「新春浅草歌舞伎」は、1980年の初演から2020年で40周年を迎えます。
今回は、尾上松也、中村歌昇、坂東巳之助、坂東新悟、中村米吉、中村隼人、中村橋之助という若手俳優がエネルギー漲る熱い舞台をお届けします!
当公演ならではの、出演俳優による〈年始ご挨拶〉、お客様も劇場スタッフも着物を着る〈着物で歌舞伎〉、浅草の芸者衆がロビーで出迎える〈浅草総見〉といったイベントもみどころです!令和となってから初となる「新春浅草歌舞伎」にぜひご期待ください!

【公演日程】
令和2年1月2日(木)初日~1月26日(日)千穐楽
【会場】
浅草公会堂(東京都台東区浅草1-38-6)
【御観劇料(税込)】
1等席9,500円 / 2等席6,000円 / 3等席3,000円
○11月20日(水)午前10時よりチケット販売開始!

公式サイト:http://www.asakusakabuki.com/
公式Twitter:https://twitter.com/asakusa_kabuki
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