HIGHFLYERS/#38 Vol.3 | Dec 5, 2019

大きな壁を乗り越えるために、歌舞伎の枠を超えて必要とされる存在になることを決意。蜷川幸雄演出の舞台がターニングポイントに

Interview: Kaya Takatsuna / Text & Photo: Atsuko Tanaka / Cover Design: Kenzi Gong

歌舞伎俳優、尾上松也さんインタビュー第3回目は、家柄が重視される歌舞伎界で生き抜いていく厳しさをお話しいただきました。歌舞伎の世界で大きな壁を乗り越える為には、歌舞伎以外の分野で必要とされる存在になり、置かれている環境を変えていく必要があるだろうと考えた松也さん。しかし、数多くのオーディションを受けてもなかなかチャンスを掴めず、もがいた時期は長かったとおっしゃいます。ターニングポイントとなったのは、2012年に出演した騒音歌舞伎(ロックミュージカル)「ボクの四谷怪談」(蜷川幸雄演出)でした。また、歌舞伎自主公演「挑む」を2009年からスタートされましたが、様々な学びを得てきたそうです。これまで大変な時期を乗り越えるのに、支えになった言葉を教えていただきました。
PROFILE

歌舞伎役者尾上松也

昭和60年1月30日生まれ。六世尾上松助の長男。平成2年に二代目尾上松也を名乗り初舞台。新春浅草歌舞伎には平成27年から6年連続通算8回目の出演。平成30年の浅草歌舞伎では『元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿』にて徳川綱豊卿、同年9月には、劇団☆新感線『メタルマクベスdisk2』で主役を勤めるなど歌舞伎と一般演劇の両方で大役に挑み続けている。平成31年は浅草歌舞伎の『源平布引滝 義賢最期』の木曽先生義賢に始まり、5月歌舞伎座『曽我綉侠御所染』で御所五郎蔵、9月巡業『蜘蛛絲梓弦』で源頼光、10月歌舞伎座『三人吉三巴白浪』でお嬢吉三と幅広い役柄で活躍している。

父が生きていた時に実現できなかった想いを自分が叶える。選択肢を迷った時、一番避けるべきは、やれば良かったと後悔しないようにすること

これまで歌舞伎を辞めようと思ったことはありますか?

あまりないですね。父がいなくなって、「どうしよう」って初めて危機感を覚えて、家族やお弟子さんもいますし、これは本気で何とかしないとと思って。そこでまずは他の若手の御曹司の方々に追い越されないように、置いていかれないようにするにはどうしたらいいかを考えました。後ろ盾がないことに対する苦労を感じたことは正直何度もありました。

今のお立場になっても考えることはありますか?

あります。ですので、それになるべく負けないように頑張らないといけないと思ってます。父が亡くなった当時は、まだ右も左もわかってないような状況で、もちろんメディアに出る機会も全然なく、歌舞伎をご覧になる方にしか知られていないような状況でした。それで、いろいろなオーディションを受けたり、自主公演をさせていただいたり、もがいてはいたんですが、もがいてももがいても上手くいかない年数の方が長かったです。ですが、その時の悔しさがバイタリティになって、諦めずに自分を信じていろいろなことができたんだろうとは思います。いまだに家柄があったらなと思うことはあって、それはある種、自分の中でのコンプレックスなので、周りの方は気にしなくても自分の中では敏感に感じてしまうんですね。

私たち一般人から見たら、松也さんは歌舞伎の花形として、また歌舞伎以外の世界でも大活躍されてる姿しか見えていないですが、厳しい世界なのですね。

僕は、父が同じように感じてきた姿を目にしてきました。父は尾上松緑さんの部屋子になって、いろいろなところで声をかけていただけるようにはなったんですが、やはりもともと家柄があるわけではないので、歌舞伎の主役を勤めるような立場になるのは難しく、悔しい思いをしていたのを僕は間近で見て感じていたんです。父は、僕なんかは足元に及ばないくらい歌舞伎が本当に大好きで、主役をやりたいという気持ちが強かったので、父が亡くなってから、僕は何とかその想いを代わりに叶えてあげたいと思うようになりました。

その為に、どのようなアクションを起こしたのですか?

なんとかして歌舞伎以外の分野で必要とされる存在になり、多くの方に知っていただいて、置かれている環境を変えていく必要があるだろうと考えました。それから、オーディションを受けたり、ドラマ出演のお話があれば、歌舞伎はお休みして、1シーンでも2シーンでも出させていただいたり、そういうことをたくさんやりました。それでも、なかなか成果が出ない時期が随分長く続きましたけど、とにかくやれるだけのことはやってみようと思って歌舞伎自主公演にも挑戦してみることにしました。

2009年からやっていらっしゃる、松也さん主宰の歌舞伎自主公演「挑む」ですね。

自主公演をさせていただくにあたって、以前からお稽古を通して良くしていただいていた舞踊家の尾上菊之丞さんに協力していただいたのですが、公演を毎年続けていく中で、菊之丞さんが蜷川幸雄さん演出の騒音歌舞伎(ロックミュージカル)「ボクの四谷怪談」という歌舞伎の四谷怪談を題材にした作品に出てくる、お岩様の役に僕を推薦してくださったんです。蜷川さんとは、「NINAGAWA十二夜」という、シェイクスピアを歌舞伎にした作品で一度ご一緒させていただいていたこともあり、ご了承いただけました。四谷怪談のお岩様と言えば、ほぼ主役のようなお役ですが、そこにほぼ完全無名の僕を抜擢してくださったわけで、その時僕はこれだ!って思ったんです。後にも先にも、こんな大きなチャンスはないと。この時、20半ば後半くらいでしたけど、僕の中で30歳までに何も成果が上げられず、役者としての芽も出ずに歌舞伎の中で埋もれてしまうような状況になるのであれば辞めることも考えようと思っていたので、これは一世一代のチャンスだなと思い、命がけでやってやろうと思って勤めさせていただきました。

それが松也さんのターニングポイントとなった出来事だったのですね。

それをきっかけに、ありがたいことにミュージカルのお話をいただけるようになりました。「ロミオ&ジュリエット」のオーディションのお話をいただいた時に、ここで何とかすれば、僕がずっと出演したいと思っていた「エリザベート」への道も開かれるかもしれないと思っていましたら、結果的に両方に出させていただけることになりました。そして、それが他の舞台やドラマ出演の話に繋がっていきましたので、僕の中で「ボクの四谷怪談」は大きな転機だったと思いますね。

今まで色々大変な時期を乗り越えるのに、支えになった言葉や人に言われたことはありますか?

いくつかあります。一つは、菊五郎のお兄さんにおっしゃっていただいた言葉です。父親が生きている時に、僕が歌舞伎以外のことに挑戦したい気持ちを父に話したら、まだまだ修行中の身であるのに歌舞伎以外のことをするのは良くないと反対されたことがありました。そこで、父の反対を押し切って、菊五郎のお兄さんにご相談しに伺ったんです。父と同じように止められるかと思ったのですが、「お前の人生だから後悔のないようにしなさい」とおっしゃってくださって、すごく勇気をいただきました。それからは、これで良いのかと迷った時、一番避けるべきは、やれば良かったと後悔しないようにすることだと考えるようになりました。

お父様と違う言葉からも勇気をいただいたのですね。

あとは歌舞伎の自主公演を始める際に猿之助さんにご相談させていただいた時に、続けることの大切さ、その継続が力になると教えていただいたことです。実際にこれまで自主公演を重ねてきて、継続することが力になるというのは、ひしひしと感じていますので、僕の中ですごく指針になっています。また、役者として支えになっているのは、亡くなられた10代目(坂東)三津五郎のお兄さんの言葉ですね。僕は比較的通りやすい声をしてますので、そこに頼っていた時期があったんですが、声とか、容姿でも体格でも、そういう天性のものは親からもらったもので、自分で努力して掴んだものではないから、そこに頼るのはやめなさいと教えていただきました。お客様には、自分が演じるお役の人生の一コマを観ていただいているのですが、そのお役の背景をきちんと把握して役作りすることを腹に入れておかないとダメだと教えていただいたことは、いまでも役作りをする際に考えます。

次回へ続く

精力的に様々なジャンルに挑み、唯一無二の存在になった歌舞伎俳優。チャンスを自ら掴み取り、新たな道を切り拓く逞しさ

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12/19UP
新春浅草歌舞枝

新春浅草歌舞伎

出演:尾上松也、中村歌昇、坂東巳之助、坂東新悟、中村米吉、中村隼人、中村橋之助/中村錦之助

◇第1部(午前11時開演)(年始ご挨拶)
『花の蘭平』、『菅原伝授手習鑑 寺子屋』、『茶壺』
◇第2部(午後3時開演)(年始ご挨拶)
『絵本太功記 尼ヶ崎閑居の場』、『仮名手本忠臣蔵 祇園一力茶屋の場』

毎年、次代の歌舞伎界を担う花形俳優が顔を揃える「新春浅草歌舞伎」は、1980年の初演から2020年で40周年を迎えます。
今回は、尾上松也、中村歌昇、坂東巳之助、坂東新悟、中村米吉、中村隼人、中村橋之助という若手俳優がエネルギー漲る熱い舞台をお届けします!
当公演ならではの、出演俳優による〈年始ご挨拶〉、お客様も劇場スタッフも着物を着る〈着物で歌舞伎〉、浅草の芸者衆がロビーで出迎える〈浅草総見〉といったイベントもみどころです!令和となってから初となる「新春浅草歌舞伎」にぜひご期待ください!

【公演日程】
令和2年1月2日(木)初日~1月26日(日)千穐楽
【会場】
浅草公会堂(東京都台東区浅草1-38-6)
【御観劇料(税込)】
1等席9,500円 / 2等席6,000円 / 3等席3,000円
○11月20日(水)午前10時よりチケット販売開始!

公式サイト:http://www.asakusakabuki.com/
公式Twitter:https://twitter.com/asakusa_kabuki
公式instagram:https://www.instagram.com/asakusakabuki_gram/

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