成功とは、自分が仕掛けたものを通して人々の概念をひるがえし、それが新しい常識として定着していくこと
プライベートなことをお聞きしたいですが、最近はどんなライフスタイルを送ってるのですか?
健康的な生活を送ってます。朝起きて、このラボかソニーの研究所に行って、研究や仕事、打ち合わせなどをして、早い時は6時くらいに仕事を終えて、家に帰って子供と遊んでます。
日常で必ず行うことを3つあげてください。
勉強とインプットをする為に論文は読んでいます。あとは、子供達と遊ぶこと、それと、その日に起こした行動を振り返って、反省点を見返し、翌日の準備を行う「リフレクション」をしています。
毎日されてるんですか?
はい。時間にしたら15分とか30分程度ですけど、MITの時から習慣づいているのでもう10年以上やってます。たまにリフレクションをやらずに迎えてしまった打ち合わせは、プロダクティブではない結果を生むことがあるので負け試合となってしまいますが、前に比べて負けは減りましたね。
それでは、オンとオフは意識的に切り替える方ですか?
はい、研究や開発は常に締め切りがあるし、安らぐ時がないので、オフの時はそれら全てのことを忘れるようにしてます。
世界で起きていることで気になることはありますか?
いっぱいありますが、自分に関連することで言うと、最貧国とされる国からのパラリンピック出場者が一人もいないことです。スポーツは、競技人口と経済が成熟している所にのみ発達しているので、メダルを獲れる確率って大体決まっているんですが、スポーツはもともとみんなに平等であるべきなので、不公平な状況を是正しよう、レベルは低くても途上国の選手を出場させてあげようという動きはあります。恵まれていない国では、そもそも足のない人たちへの保険がなかったり、不平等な差別が生まれて、社会活動に参加できなくて不幸な目に遭っている人がたくさんいます。僕はいつもそういう人たちのことを考えていますね。
そういった状況を変える為に、遠藤さんご自身ができることはどんなことなのでしょう?
大きく変えられることはできないかもしれないですけど、例えば競技用義足を履いたパラアスリートが健常者のアスリートより速く走ることは、今までの考え方を大きく変える一つのきっかけになると思うので、そういう可能性を実現させていくことでしょうか。また、それを示すだけではなく、どうやって定着させるかも考えないといけないと思ってます。それと、競技用義足は値段が高いので、安く作るためのビジネスモデルを考えていますが、それが実現できれば、プロのアスリートだけではなく、普通の人でも、足はなくても走ることが当たり前になる社会作りに貢献できるのかなと思います。
それでは、遠藤にとってチャンスとは?
どこにでもあるもの。それをうまく使えばチャンスになるし、うまく使えなければ、ただの一つの現象です。チャンスを掴むには日々の努力が必要で、そういう意味では先ほど言ったリフレクションはすごく大事ですよね。日頃から準備をしておかないと、プランやアイデアがすぐには出づらいので、あらかじめ考えておいて、相手に響く球を持っておくことがとても大事だと思います。
では、成功とはなんですか?
競技用義足も、ロボット義足も、開発において共通して言えることは、人々がそれまで当たり前と思っていた概念をガラッと変えて、その考えが新しい常識として当たり前になっていく。それが僕が仕掛けたものに対して付随してくるのであれば、成功と言えると思います。
成功する人と成功しない人の違いは何だと思いますか?
運と努力。努力は最低限のことですが。
運はどうやって培われるんですかね?
培われないと思います。持って生まれたものでもなく、明日富士山が噴火するかどうかくらいに、起こるか起こらないかはわからないもの。そして、そのチャンスを活かすか活かさないかは、その人の運ではなくて、実力だと思います。たまたまある人と出会うなんてことも、巡り合わせかもしれないけれど、運というものが最後の線引きをしているんだと思います。
遠藤さんが思う最も成功している人は?
わからないです。例えば起業家で言うと、孫正義さんの名前を挙げる人もいるかもしれないですし、成功を、地位とか名誉、お金などの基準で計る人もいるかもしれないけれど、その本人が本当に幸せと思えているかどうかはわからないので、僕はわからないです。
まだ叶っていない夢があったら教えてください。
叶ってないものだらけです。僕はエンジニアなので、ものを作っているのが楽しいですし、作ったものが評価されて人々の生活に馴染んでいき、そういったものが一個でも多くできたら面白いと思います。今は競技用義足やロボット義足を作ってますが、ただ作るだけではなく、それがちゃんと社会に定着していく状況も考えています。例えば運動会で、足のない子供が走るために板バネが用意されていて、それを履いて健常者と差別なく混じり合って走るのが可能となるのが一つの夢ですね。板バネが普通の靴と同じようものとして捉えられるレベルになるまで、コモディティ化ができたらいいなと思います。
最後に、遠藤さんが昔から目指してきた「義足の選手が健常者のメダリストを超える」という夢はいつ頃までに現実化しそうでしょうか?
どうでしょうね、東京オリンピックでは難しいかと思いますが、2024年、2028年とかには実現するかもしれないですね。これはテクノロジーの進化よりも、障害者がいかに競技をするかによるので、アフリカ人が走り出したら、結構すぐに起こり得るんじゃないかと思います。