HIGHFLYERS/#39 Vol.1 | Jan 9, 2020

佐藤圭太選手がリオパラリンピックでアジア・日本新記録を更新。それぞれの選手に合った義足をチームメンバーと研究し開発

Interview, Text & Photo: Atsuko Tanaka / Cover Design: Kenzi Gong

今回HIGHFLYERSに登場するのは、株式会社Xiborg(サイボーグ)の代表取締役で、義足エンジニアの遠藤謙さん。遠藤さんは、主にプロのパラアスリートが履く競技用義足を手がけており、それを着用したチームメンバーがリオパラリンピックや世界大会などで記録を出し注目を集めました。また、2017年に豊洲にオープンした、義足の試着や走行が可能な「ギソクの図書館」が話題を呼んだのも印象深い出来事として記憶に新しいです。第1章では、遠藤さん開発した競技用義足「ジェネシス(Genesis)」と「ニュー(ν)」について、また、義足開発の市場の変化、サイボーグが大事にしている点や、「ギソクの図書館」をオープンしたきっかけなどをお話しいただきました。
PROFILE

義足エンジニア遠藤謙

應義塾大学修士課程修了後、渡米。マサチューセッツ工科大学メディアラボバイオメカトロニクスグループにて博士取得。現在、ソニーコンピュータサイエンス研究所研究員。ロボット技術を用いた身体能力の拡張に関する研究や途上国向けの義肢開発に携わる。2014年には、競技用義足開発をはじめ、すべての人に動く喜びを与えるための事業として株式会社Xiborgを起業し、代表取締役に就任。2012年、MITが出版する科学雑誌Technology Reviewが選ぶ35才以下のイノベータ35人(TR35)に選出された。また、2014年にはダボス会議ヤンググローバルリーダーズに選出。

義足を使って多くの人に走ってもらう場所としてオープンした「ギソクの図書館」。ここに来れば誰もが絶対に走れる場所を目指す

2014年に株式会社 サイボーグ(Xiborg)を起業されて約5年が経ちましたが、その間に遠藤さんが開発した競技用義足がどのように進化しているかを教えていただきたいです。ジェネシス(Genesis)とニュー(ν)について、それぞれの製品の特徴や機能性の違いなどを教えてください。

ジェネシスは、競技用義足としてサイボーグが2016年に発表した初の製品で、地面を蹴った時に、出来るだけ体を上に蹴り上げやすいような床反力を直接かけられる形状を目指して作ったものです。同年に行われたリオのパラリンピックで、サイボーグのチームメンバーである佐藤圭太選手がこれを履いて走り、100m では決勝進出はならなかったもののアジアと日本新記録を出し、400mリレーで銅メダルを獲りました。そして、その後継モデルとして作ったのがニューで、ジェネシスの特性を保ちながら、義足全体の軽量化と重心位置を上に持ってくるように改良しました。重心が上に上がった分、体に近くなって足が振りやすくなったのと、軽く感じると言う選手が多かったです。

写真左:ジェネシス(Genesis)写真中央、右:ニュー(ν)

競技用義足開発の分野を全体的に見て、色々な変化や進化は早いスピードで起きていると感じますか?

徐々に起きてはいますが、それよりも選手の進化の方が大きい印象です。義足が増えて、選手がいろんな義足を試せるようになったのは確かですが、選手の走り方の多様性に比べて、義足の種類はまだ少ないので、選手が走り方を義足に寄せないといけないのが問題としてあります。大きな変化が起こっていると感じるのは、選手の人口や、選手を取り巻く環境ですね。パラアスリートが本気のアスリートとして認識されるようになって、スポンサーがついて、選手達がお金を稼げるようになってきたので、以前よりもっと練習に力を入れられるようになりました。

世界で競技用義足の研究が最も進んでいるのはどこなのですか?

研究というといろんな分野があると思うんですけど、義足の会社として一番大きいのはドイツのオットーボック社、二番目に大きいのがアイスランドのオズール社です。パラリンピックや世界選手権などの大きな大会では、ほとんどの選手がその二社の義足を履いています。

サイボーグの製品が他社のものと違う点、また、サイボーグが大事にしていることはどんなことなのでしょう?

形的には他社の製品とあまり変わらないように見えるかもしれませんが、我々が大事にしているのは、選手との距離感を近くしていることです。サイボーグに所属している選手は4名いますが、選手が走る様子を見ながら、どういう走りをしたいのか、どういう方向性に向かっているのかを見極めて、時にアカデミックなアプローチを取り入れながら、一緒に義足の形を決めていきます。

サイボーグでは、義足開発以外に選手の育成も行なっているとのことですが、具体的にどのようなことをされているんですか?

育成と言うと大げさかもしれないですけど、2014年に起業した当時は、選手達は普通に働いた後、あるいは学生の場合は授業が終わった後に練習をして、義足の購入も自分達でするのが当たり前でした。それだとアスリートとして練習環境を整えるのは難しいので、サイボーグという会社を通して一緒にスポンサー探しをしました。結果、多くの企業が賛同してくれて、選手達は企業に属しながらアスリートとして活動できるようになったんです。また、以前はコーチを雇うことができず、選手たちは一人で、もしくは友達と練習をしていたのですが、最近ではプロのコーチをつけられるようになりました。

サイボーグのチームには、コーチとして元陸上競技選手の為末大さんがいらっしゃいますよね。練習はどんな風にされているんですか?

以前は選手たちを月に一度集めて、為末がコーチをしていました。今は選手が自立してお金を稼げるようになったので、各自コーチをつけて、それぞれが練習しつつ、たまにみんなで集まって一緒に練習をして、義足の使い方に関しての知識を高めています。

為末さん以外にも、それぞれのコーチがいらっしゃるんですね。

はい。為末はコーチのコーチみたいな存在ですね。コーチは選手の変化を知るために毎日練習を見ないといけないんですが、為末はそれができないので、それぞれのコーチの話を聞いて全体的な方向性や戦略を考えるようにしています。彼のすごいところは選手が本番でベスト記録を出せるよう、そこに自身のピークを持ってくる“ピーキング”を考えて、全体の練習メニューや動きを考えるところです。ほとんどの選手は、本番にピークを持ってくるために組むべき練習ができていないと言うか、ピークをどこに持ってくるかを戦略的に決めきれず、本番でベストタイムを出せないことがよくあります。それぞれのコーチは世界経験がないため、世界選手権で優勝経験のある為末がそういった部分で貢献しているんです。

それでは、クラウドファンディングで資金を集め、2017年12月にオープンした「ギソクの図書館」についてお伺いしたいです。ネーミングも、アイデアも、とてもクリエイティブだと思いますが、どんな想いのもと、生まれたのですか?

以前は、僕はトップアスリートばかりに研究や開発の時間を費やしていたのですが、2016年に北海道で合宿をした時に、選手と地元の小学生との交流会を設けたことがありました。その時に佐藤選手がボソっと言った言葉がずっと僕の中に残っていて。彼は、「普通に走れる子供達を教えるより、一人でも義足の子が走り出せるような環境を作れたらいいのに」と言ったんですね。それで何か良い方法はないかと調べていくうちに、子供の義足は大人のものと値段がほとんど変わらないこと、(義足の値段は、ソケットを入れて1本約100万円)また、子供でも大人でも、アスリートじゃないと板バネを履けないと思ってる人が多いことがわかりました。アスリートではないのに、運動会とか、大人でも普通にランニングをするために、義足に多額のお金を払うのはなかなか難しいですよね。なので敷居をなるべく低くして、皆さんに義足を使って走ってもらうための場所として、ギソクの図書館を作ろうと思いました。

ギソクの図書館 オープニングイベントにて

ギソクの図書館はどんな方が利用できて、どんなことが可能なんですか?

誰でも利用することができます。自分で義足を変えることができれば、ここにある好きなものを選んで、ここのトラックで走ることができます。

ギソクの図書館の認知度は広まってきていると感じますか?

これまで300人くらいの方が来ていますが、どうでしょうね。やっていく中で、課題は見えてきています。義足はそんなに簡単には自分で交換できないこと、また、義足のユーザーは全国に点在しているので、ここにだけあっても意味がないというのがわかりました。

今後、この場所がどんな存在の場所になって欲しいというのはありますか?

まだ時間はかかりそうですが、ここに来れば義足を使って誰もが絶対に走れるようになる、という場所にしたいと思います。

次回へ続く

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