HF/#11 Vol.3 | Jun 4, 2015

ディレクターとしていちばん現場で意識するのは「対応力」

関和亮

Text: Takeyasu Ando / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Design: Kenzi Gong

居酒屋のアルバイトを経て映像の仕事に就くチャンスをつかんだ関さん。その後、現在も所属するトリプルオーの社長と出会い、順調にステップを重ねてディレクターとなる。映像ディレクターの仕事は多岐に渡り、また多難を極める。そこで、関さんがキーワードとしてあげるのが「対応力」。今回はディレクターとして関さんが心掛ける対応力、仕事への向き合い方について語ってもらった。
PROFILE
関和亮

映像ディレクター 関和亮

1976年生まれ 長野県小布施町出身 98年にトリプル・オーに参加。00年より映像ディレクターとして活動。 04年頃よりアート・ディレクター、フォトグラファーとしても活動、現在に至る。PerfumeのMVおよびアートワーク全般のほか、サカナクション、OK Go、ASIAN KUNG-FU GENERATION、木村カエラなどのMV、近年はCM・ショートムービーなども手がける。

対応力とは、幸せにすること、まとめてあげること、対応しないこと

関さん、自覚できる「○○力」みたいなのって、ありますか?

単純にいうと対応力ですね。自分自身のこだわりや周りを引っ張っていく力も時には必要でしょう。でも、最後はみんなが幸せになれることが前提です。我を通し過ぎたり、一つの表現に固執し次のステップに進めないのでは、誰も幸せにできません。そのための対応力です。僕たちが作るものはたくさんの人が見るものであって、たくさんの人に共感して頂けないと成立しませんから。

スタッフの方が「関は、みんなをハッピーにする能力がある。」とおっしゃってます。関さんの周りにいると、誰も悲しい想いにならないそうですね。

確かに若い子といても、同じ年代のような感覚で喋れますしね。まあ、現場ではギスギスしないように、いつも心がけてます。被写体の方たちには気持ちよく現場に立ってもらわないと、いいものにもならないので。意外と撮影現場って、そういうところに注ぎ込むパワーのほうが大きいかもしれないですね。純粋な撮影の技術の他に、もう一つ必要な能力というか。

純粋な撮影の技術ともう一つ現場に必要な能力。比率にすると何対何くらい?

それはもう、極端に言えば、2:8くらいではないですか。自分は単に撮ることだけ集中して、被写体に対しては「はいはい、どうぞ」みたいなことはできないですし、メイクルームを準備してあげて、いかにメイクやそれ以外の時間を快適に過ごせる空間を作るかも僕らの仕事なんです。撮影の準備が10メモリあるとしたら、ここでもう1使ってますよね。時間帯の設定もそう。自分の都合を最優先に考えてると、次の日仕事入れたいから、朝6時集合で9時に終わらせようみたいなことになるかもしれない。でも、それはありえないですよね。「ミュージシャンだから朝起きてないだろうな、やっぱお昼くらい始めてあげたほうがいいかな」そうやって考えてくと、どんどんメモリが増えていく。撮影というのは、こうして一つ一つ現場の環境を整えていくことでもあるのです。本物の作家さんやアーティストさんを僕は現場で何人も見てきました。自分で何もかも生み出す、すごい人たちですよ。とても同じ場所には立てない。そんな彼らに、いかに対応していくか。時には階段を一段下りながら、アーティストさんたちをとりまとめることこそ、僕の仕事だと思うんです。

Perfume / Relax In The City/ Pick Me Up
Art Direction: Kazuaki Seki

One Ok Rock / 人生x僕=
Art Direction & Photograph: Kazuaki Seki

NHK 連続テレビ小説 / ごちそうさん
Art Direction: Kazuaki Seki

いかに対応力に優れてたとしても大変なことは起きると思うんですが、そういう時は、どうさらに対応されるんですか?

それはもう対応しないことですよ。諦める。矛盾するようですけどね。屋外のロケで雨が降ったとします。もう諦めるしかないでしょ。眠かったら寝るとか、絶対できないものはしないとか、無理なものは諦めるしかないですよね。若い時はできもしないのにできると言って失敗することもありました。当時は、アイデア出しのために家に帰っても徹夜したりして、でも、それは効率が悪いということが、さすがに分かってきます。いくら考えても出ないものは出ないので、「ああ、ないな」とか「ちょっと難しいな」とか思ったら、早く帰って、何ならちょっと早く起きて、朝来てやるほうがいいですね。ルーティンの仕事だったら長い時間やればそれはそれで終わっていくと思うんですけど、アイデアを出すのには集中力も限界がありますし、最近はもう気持ちが入らないなと思ったら、ぱっとやめて帰ったりしますね。できないものはできない、すみません!と考えるようになりました。

対応しないこともまた対応力の一つ。

そうです。かといってシンプルに頑張ることを否定するわけじゃないですよ。むしろ、とても大切だと思ってます。「頑張る」という言葉が、医学的に良くないことは知っています。でも、無茶な話を背負い過ぎてしまう「頑張る」と、自分を出し切るまでやってみる「頑張る」は、分けて考えてみたほうがいいと思うのです。仕事でちょちょいと終わらせたものはそのまま後まで残っていくし、手を抜けば必ずバレます。行けるところまで企画を考えてみたり、時間ギリギリまでアイデア出したり、やればやるほど道は開けていくのだから、僕はいつもそれなりに頑張っています。

次回へ続く

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