関和亮とは何者?
映像作家として知られていますが、それ以外にも、スチールカメラマン、グラフィックデザインなど、ビジュアルの制作についてありとあらゆる顔をお持ちです。ご自身は「関和亮」のことを何者だと思われてますか?
何者かと問われると、やはり「ディレクター」でしょうね。それが一番しっくりくると思います。例えばイラストの場合、僕が直接描くのでなく、作家さんの選定から始まり、こういう絵をこういう感じでほしいとディレクションしながら進めていくことが多いんです。写真の撮影でもグラフィックでも映像でもそう。技術よりも演出のほうを常に考えてます。映像、平面、空間を含めた全てを演出し表現するという意味で、僕の職業はディレクターだと思います。
最近、映画を撮られましたね。演出の引き出しをいろいろ持つ関さんの監督処女作が、ドキュメンタリーだったことが正直意外でした。
きっかけは、三軒茶屋の小さな飲み屋で、仲の良い友人3人と話してた時でした。不可思議/Wonderboyくんのことを僕は知らなくて、彼のメッセージ性ほとばしる音楽のこと、インディーズからメジャーへ這い上がろうとしてたこと、まさにその夢半ばで亡くなってしまったことなどを聞かされました。亡くなってしまったこともそうですけど、彼が多くの人に知られていない、あるいは忘れ去られていくことに対して、何かもったいないなという気持ちになりましてね。一緒にいた東京ピストルの草彅から「映画作らない?」と言われ、賛同したのが始まりです。
なるほど。
亡くなってしまった方を映像作品にするわけですから、どうやっていこうかといろいろ試行錯誤しました。もちろん、ドキュメンタリーじゃない形もあったと思うんです。でも、彼の生き方や人間模様が一番よく伝わる方法を考えた時、周りの人に語っていってもらうのが良いのではと思って。それで、結果的にドキュメンタリーをチョイスすることになったんです。
個別の作品について、もう一つお聞きします。OK Goの『I won't let you down』。あのミュージックビデオはある意味とてもシンプルで、それゆえに驚異的なインパクトでした。あるニュースサイトでは、「まさに史上最高のMV」とまで書かれてましたね。
OK Goさんは、今までのミュージックビデオも独創的だったんです。企画も演出も自分たちでやっていて。今回はメンバーのダミアンが、原野守弘さんという日本のクリエイティブディレクターと知り合いで、HONDAのUNI-CUB βを使い、撮影も日本でして、ミュージックビデオを作るという話になったらしいんですね。そこで僕とかプランナーの西田淳さんがキャスティングされ、OK Goのメンバーも加わりながら、どういうものにしていこうかと何回も打ち合わせして進んでいったんです。普通ミュージックビデオって楽曲があって、監督が企画考えて、こういうものにしましょうよってプレゼンテーションするんですけど、彼らの作り方は全然違っていて、クライアントのことをコラボレーターという言い方をして、一緒に面白いもの作ろうというマインドなんですね。共に企画とかアイデアとか持ち寄って、それをどんどん膨らましていくような作業だったので、いつもと違い、とても刺激的なプロジェクトでした。
ミュージックビデオを観てると、カメラを挟んでアーティストとアーティストが向き合ってるように思える時があります。関さんご自身もアーティストだとしたら、同じアーティストのPerfumeさんやサカナクションさんなどを引き立てるために、心を砕いていることとは何ですか。
お互い気を配る関係性ではありますよね。アーティスト、ミュージシャンは自分たちの曲のイメージをしっかり持っています。そのイメージを僕ら演出家が全て請け負うというのも、今の時代、ちょっと違う感じになってきてるんですよね。そこに予算の面とかも絡んでくるわけです。イメージとかやりたいことなんて、みんないろいろあるし、それを全部やっていったらお金も時間も足りなくなってしまう。そういう現実的な部分があるので、やはり、お互いが気を配って、あれこれやり取りしていくことになります。でも、そんな時こそ、相手の思いを引き出し汲み取ろうとするのが僕の仕事であって、だから、僕の立場はアーティストというよりカウンセラーに近いですね。
カウンセラーですか。
例えば、OK Goのミュージックビデオでは、最初4人から始まって、終わるまでの間にたくさん人が出てくるんですけど、それは、「スケール感を出したい」、「最初と終わりのイメージを180度変えたい」という意図につながっているから。そして、それはオッケーゴーくらい大きなプロジェクトだからできたことでもあるのです。予算がそんなに潤沢でないところで考えると、1個だったものが5000個になるという真逆なことを表現をしたいのだったら、黒いものが気付いたら赤くなってるとか、それだけでも映像としては表現をチェンジしたと言えると思うんですね。だから、そういったことをどんどん提案していく。どういうものを表現したいかをとにかく聞き出すところから始まり、こういう表現もあるよと提案していくのが、割と大切な作業だと思っています。
次回へ続く