HIGHFLYERS/#35 Vol.4 | Jun 20, 2019

かけがえのない一瞬一瞬を表現するために日々の課題を乗り越える。ダンスは僕に生きている実感を与えてくれた

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Design: Kenzi Gong

ダンサー森山開次さんインタビュー最終回は、プライベートの過ごし方や日常生活で習慣にしていること、そしてチャンスと成功についてを伺いました。ダンスから与えてもらったものは計り知れない、そんなダンスを60代を過ぎるまでは語れないと森山さんはおっしゃいます。一瞬の表現のために20年以上ダンサーとしての研磨を続ける中で、森山さんは日々何を感じ、どのような努力を積み重ねてきたのでしょうか。また、ダンサーとしてのチャンスや成功とはどのようなものか、そして四半世紀のダンサー人生を通して森山さんが得たものは何かを伺いました。
PROFILE

ダンサー/振付家 森山開次

1973年神奈川県生まれ。21歳でダンスを始める。05年ソロ作品『KATANA』で「驚異のダンサー」(ニューヨークタイムズ紙)と評され、07年ヴェネチアビエンナーレ招聘。12年新国立劇場ダンス公演『曼荼羅の宇宙』にて芸術選奨文部科学大臣新人賞・江口隆哉賞・松山バレエ団顕彰奨励賞受賞。13年文化庁文化交流史。18年『不思議の国のアリス』全国17都市ツアー、19年『ドン・ジョヴァンニ』にてオペラ初演出など、現代のダンスシーンを牽引するアーティストの一人である。新作『NINJA』5/31~6/9(新国立劇場小劇場)以降、全国7都市で上演予定。

身体表現を通してたくさんの言葉と出会えるのもダンスの魅力。ダンスを通して自分は豊かになれた

ご自身のダンサー生活を振り返って、20代、30代、40代と、ダンスに対する価値観や向き合い方は変わってきました?

いろんな意味で身体的に衰える部分も変化している部分もたくさんある中で、ダンスを長い年月踊っていくのは大きな課題だと実感しています。一瞬、一瞬が楽しいし、かけがえのないことだから、その瞬間のために生きているわけですけど、それを長い時間、普遍的なものとして続けるのもダンサーの仕事だと思っています。 今、45歳になって、母に言われた「10年続けてなんぼ」はとうに過ぎたし、ダンサーとしてのキャリアもだいぶ長くなってきたけれど、そうは言ってもまだ20年程度しかやってきてないから何も語れないんですよね(笑)。語れるようになるのは60代、70代になってからだと思っています。

なるほど。しかし、ダンスを始めた頃は近寄れないほど怖かったし、2月に行われた「HANAGO ー花子ー」の公演の時はとても優しくて穏やかでしたし、今は早口で聡明に話されるし、色々な森山さんがいらっしゃいますね。

ダンスを始めた頃はまだ若かったのもありますが、様々な自分がいるのは、舞台という作られた空間ではあるけれど、例えば大きな宇宙の表現や、誰かを愛する表現、憎しみを持って踊る表現など、その時のテーマによって常に自分のいろいろな引き出しを使うからかもしれません。作品を追求していく中で、自分自身も様々な自分と向き合う体験をするし、身体が様々な動きを味わいながら、あらゆる人間の人生や感情を体験する。その時にいただいたテーマが、自分をいろんな世界に導いてくれているような気がします。

身体のお話をすると、例えばリアルな話、ストレッチの時間が昔より長くなったとかあるんですか?

長くなりましたね。いつまでストレッチしてるんだよっていうくらい(笑)。それは断然違いますね。若い頃はストレッチなしでもマックスで踊れていたけど、今それをやったらすぐに身体のどこかがピキッていきますからね。

プロの方でもそうなんですね。

最近というか、ずっと怪我をしているのもありますね。ソロを始めてから腰を壊して、ステージをやるごとに、終わると全く動けなくなって這って歩くみたいな状態を繰り返した時期がありました。なかなか長期間休んで治療に専念ができず、とにかく自分を騙しながら、ずっとやり続けた数年間がありますね。まぁダンサーはみんな少なからず何かしらの故障は常に抱えているから、大げさには言いたくないですけどね。

きっと食生活も凄く気をつけてますよね。

いや、あまりしてない(笑)。 体脂肪率は何パーセントですかとか、何を食べてますかとかよく聞かれますけど、あまり実際は気にしていなくて、食べたいものを食べるようにはしています。でも、今それができているのは、周りが気を遣ってくれているおかげなので、その環境はありがたく思っています。そう考えたら、好きなものを食べてますって、無責任なこと言ってるなぁって思いました(笑)。

では日常で習慣にしていることがあれば、3つ挙げていただけますか?

今の発言を挽回するかのごとく言いますが(笑)、家族が凄く気を遣ってくれているので、毎日バランスの取れた朝ごはんを食べています。サラダとフルーツ入りの豆乳ヨーグルトと、チーズとかを少し乗せてトーストしたパンと、それから大豆が決まって10粒。それが朝起きたらテーブルにある。気を遣ってもらっていますね。

それは素晴らしいですね。他にはありますか?

あとは、何でしょうね。ストレッチをしてますね(笑)。それから睡眠を十分取って夜更かししないよう心がけているけれど、できてない。夜更かしの時は作品に関していろんなことをやっていますね。オンとオフがなく、家にいてもずっと仕事をしているので、普通に夜更かししちゃう。これは改めたい習慣ですね。

脳がずっと仕事モードで動いているのでしょうか。

動いちゃうから困っちゃうんですよ。嫌だなぁと思うけど、寝ていても変わりません。楽しいからやってしまうのもあるけれど、本当にオンオフをしっかり分けて、パッとやってパッと休むよう切り替えていけたらいいなって思うんです。それに、時間が全然足りないからって睡眠を削りすぎると続かない。もう年齢的にも無理が来ますからね。

好きな言葉、本、映画はありますか?

座右の銘みたいな言葉はないですけど、ダンスは身体表現でありながらたくさんの言葉と出会うから楽しいですね。例えば、「末広がり」という言葉。昔から扇のことを「末広がり」って呼ぶのですが、狂言にその末広がりを元にした代表的な長唄があるんです。それに末広がりという言葉は、「八」や「富士山」などいろんなことに例えられるし、末広がる想いとか、願いを込めた縁起のいい言葉とされているので、僕も以前、末広がりをテーマにして子供たちと作品を作りました。そういう言葉に出会って深めていくと、いろんな発想が湧いてきて、僕の中では身体の発想と同時に言葉の発想の連鎖みたいなことが色々起こるんです。親父ギャグみたいなものですよね。末広がりって他にあるかなって、語呂とかいろんなことを考えていくと楽しいですよ。

森山さんにとってチャンスはどういうことだと思いますか?

毎日がチャンスですね。ダンサーになった僕のチャンスって何だったのかを考えると、ダンサーになりたいと思ってチャンスを狙って、僕が自分で勝ち取ったというよりは、出会ったいろんな人や出来事がチャンスを与えてくれて自分をここに向かわせてくれたんだと思います。機会はたくさん溢れています。よく“チャンスを掴む”と言うけれど、僕の中では与えられた機会をどのようにキャッチして活かしていけるかということ。出会ったものをその人がどう切り取っていくかだと思います。

では、森山さんにとって成功とはなんですか?

成功もまた難しいですよね。何が成功なのかよくわからないですね。ひとつひとつの舞台に関しては、みんな成功するようにと願ってやっているし、成功して良かったねとか、大成功だねとかっていう言葉が飛び交うけど、 端的に成功と失敗に物事を分けたくないですよね。それにダンス自体を成功なのか失敗なのかって分け出すととても寂しくなるし、そのためにやってないですし。ダンスで一つ動くたびに、今のが成功だったか失敗だったかって判断していたらつまらないじゃないですか。

ダンスひとつひとつの動きは確かにそうですね。

自分にとって成功ってなんだろうって改めて問いただすと、一体なんなんだろうとは思います。目的が何かにもよって違って、チケットを何百枚売るというのが達成すべき目的ならすごくわかりやすいけど、それだけの為にやっているわけではないし。表現したいもののためには目標を持って精一杯努力するし、痛い思いもするけれど、その過程でいろんなことが生まれているから、いつも成功と失敗は存在するのかなとは思います。

森山さんがダンスを通して得たものは何ですか?

たくさんもらい過ぎて、何を挙げていいかもわからないくらい。一言で言おうとすると困りますね。う〜ん…豊かになった、かな。いろんな豊かさをもらったような気はします。それは全てのことを含んでいて、自分自身が生きてる実感を与えてくれたのが踊りだし、踊りでこんなこともあんなことも表現できるって可能性を発見できたこと、つまりいろんな発想の豊かさや身体の豊かさもそうだし、いろんな感情や表現があることを教えてもらったかな。そういった意味では失敗と成功という言葉では計り知れないくらい自分が豊かにしてもらっていると思いますね。

まだ叶ってない夢はありますか?

どうだろうなぁ、いろんなことはすでに叶っている気はしますけどね。毎日はひとつひとつの積み重ねなので、一瞬一瞬出会ったことを大切にして続けていくことが僕のやっていくべきことだと思っています 。

1
 
2
 
3
 
4
 

森山開次「NINJA」

ー子どもと楽しむダンス公演-
大人も子どもも楽しめるダンス作品です。世代を超えて様々なお客様の感性を刺激する作品創りに定評のある森山開次さんならではの舞台にご期待ください。

公演日程
  • 2019年5月31日(金)19:00
  • 2019年6月1日(土)14:00
  • 2019年6月2日(日)12:00
  • 2019年6月5日(水)19:00
  • 2019年6月7日(金)19:00
  • 2019年6月8日(土)14:00
  • 2019年6月9日(日)12:00
  • 2019年6月9日(日)16:00

会場:新国立劇場小劇場
詳細は新国立劇場HPにて
https://www.nntt.jac.go.jp/dance/ninja/

以降、全国7都市ツアー
  • 2019年6月15日(土)14:00 福島・いわき芸術文化交流館アリオス 
  • 2019年6月22日(土)15:00岩手・北上市文化交流センター
  • 2019年6月29日(土)13:00/17:00、30日(日)14:00 茨城・水戸芸術館
  • 2019年7月6日(土)14:00滋賀・びわ湖ホール
  • 2019年7月9日(火)18:30鳥取・鳥取市民会館
  • 2019年7月13日(土)14:00 福岡・北九州芸術劇場
  • 2019年7月20日(土)18:00、21日(日)13:00 長野・まつもと市民芸術館

ARCHIVES