HIGHFLYERS/#16 Vol.3 | Mar 31, 2016

独立時計師になりたいなら、時計学校ではなく大学の機械科へ。モノづくりの本質とは

Text: Kaya Takatsuna/ Photo: Atsuko Tanaka/ Cover Image Design: Kenzi Gong

浅岡肇さんインタビュー3回目は、世界最先端のモノづくりに携わる浅岡さんが、日本のモノづくりの弱点をズバリ指摘します。また、日本のどの業界のモノづくりが世界的に認められているのかを伺うと同時に、これから独立時計師になりたい人に向けての貴重なアドバイスもたくさんいただきました。
PROFILE

独立時計師浅岡肇

1965年神奈川県生まれ。東京藝術大学美術学部デザイン科卒業後、浅岡肇デザイン事務所を設立。プロダクトデザイナーとしての傍ら、現在ほどコンピューターグラフィックスの技術が浸透していなかった時代に、いち早く3DCGなど先端の技術を身につけ、広告や雑誌の世界でも活躍。腕時計のデザインをした仕事をきっかけに、独学で腕時計を作りを始め、2009年に日本で初めて高難度のトゥールビヨン機構を搭載した高級機械式腕時計を発表。その強烈な独自性を放つ時計は世界中から注目される。現在も時計製作の全工程をゼロから手掛ける独立時計師として活躍中。世界で数十人の独立時計師から構成された国際的な組織、独立時計師アカデミー(AHCI)の正会員でもある。

「憧れ」には挫折があるが、「好き」には挫折がなく、どんな困難をも乗り越えられる

日本のモノづくりについて、浅岡さんの視点から、素晴らしいと思う点と残念に思う点を教えて下さい。

海外のモノづくりを見ると、特にスイスの時計づくりは時計界のプロ達が「私達プロはこんなに素晴らしいものを作りました」というプロ意識をアピールするところから展開しているんです。ところが日本のモノづくりというのは、時計に限らず、とにかく素人の意見を聞きすぎています。その結果、素人の意見をたくさんかき集めたようなものが出来上がっているんですよ。デザインにしても価格にしても全てそうですね。そんなものは素敵たりえるわけないわけですから、やっぱり作り手がプロなんだとしたら、もっとプロとしての自覚を持って、それを素晴らしいと提案出来るようなスタンスで作っていかなきゃだめですよね。作っている人達が専門家で、市場は素人なんですから。

それはいつごろからそう思っていましたか?

大学の時くらいから、ずっとそういう問題意識はありました。

そういう問題意識も、ご自身が独立時計師になったきっかけの一つなのですね。

例えばiPhoneなんて、市場の意見を聞いていたら絶対生み出せないはずです。あれこそ作り手のプロ意識が作り上げたもので、やっぱりああでなきゃだめですよね。対照的に、色んな市場の声を聞いて作り上げたのが日本のガラケー。市場の声ばかり聞いてモノづくりしていたら、結局出来上がるものはみんな一緒になってしまいます。そうすると最終的に値段を安くすることでアピールするしか無くなってしまう。それが今の日本のモノづくりの成りの果てですよね。

浅岡さんが思うモノづくりが成功している業界は日本にありますか?

かろうじて日本だとカメラ業界ですかね。カメラ業界だけは“Made in Japan”の誇りを保っていると思います。後は一部の車業界は多少いいのかもしれないですが。スティーブ・ジョブスがアップル社を始めた時に目標としていたあの日本の会社も今は、、、という感じですよね。

海外ではどうでしょうか?

それこそスイスの時計メーカーさんは皆さん頑張ってらっしゃるし、アップルもそうですし、結構ちらほらありますよね。

高価なものに対する価値観は日本と海外では違うと思いますが、トゥールビヨンなど高価な時計に対するマーケットは、世界中に存在しているのですか?

時計業界に関しては大変ありがたいことに、いい時計の価値基準というのが結構きちっと決まってるんです。そういう問題を一つ一つクリアしていると、ちゃんとマニアの琴線に触れるものになるんですよ。これは、ユーザーの意見を汲み上げたというよりは、メーカー側からの誠意あるモノづくりを通じて、市場の価値観が醸成されたものです。もちろん、それだけじゃつまらないですけどね。世界中の時計マニアがネット上で集う2ちゃんねる的なものがあって、そういうところで話題になっているネタは、世界中どこでも大体一緒。例えば、文字盤の作りに刻んである目盛りには印刷してあるものや、彫ってあるもの、更にもっと細かい秒単位のメモリを機械彫りしたものとか色々あるんですけど、「やっぱりあれがいいよね」とか、「この機械彫りがいい」とかね。

浅岡さんはそこに匿名で参加したりすることはありますか?

僕は実名で一度書き込んだことあるんです。ロシアのサイトだったんですけど、僕の時計に対しての悪口が書いてあったので、そうでないというのを言うために1フレーズくらいの言葉を英語で書いて、後は写真をアップしました。そしたら、その人は僕に個人的にお詫びのメッセージをわざわざ送ってくれて。ロシアは一時期景気が良かったから、ものすごく時計で盛り上がっていた時がありましたしね。他にもヨーロッパ諸国を始め、ブラジル、ベトナムや韓国などでも僕の話題って割と出るんです。韓国では「アジアからこんな時計師が出て誇らしい」とか書いてあったこともあって、恐縮してしまいますが凄く嬉しかったです。こういった声を聞くのは、反響を探る上で大事なので、割と自分からします。新しく時計を作る時は、狙いを定めてテーマを持っていますが、大体僕の思惑通りにいってますね。

浅岡さんのような独立時計師を目指している方達もいらっしゃると思いますが、そうなるにはまずどうしたらいいのでしょうか?

独立時計師を目指す多くの人達は、時計製作を学ぶのにまず時計学校に行こうと思うかもしれません。もしその判断が時計製作に関して知識がないから、とりあえず時計学校へ行ってみるというものなのであれば、それはかなり不利な状況に置かれているということを自覚するべきでしょう。もしモノづくりに対して興味があって、何がしかの「とっかかり」を自分なりに持っていたとしたら、モノづくりの本質的なところを捉えようと、例えば大学の工学部の機械科に進むというような方法を思いつくはずだからです。僕の場合は大学でプロダクトデザインを学びましたが、いずれにせよ、時計は時計である以前にプロダクトですから、そういう視野の元、素養を固めていくことが絶対に必要になると思います。

時計学校と大学の機械科は何が違うんですか?

時計学校は短期間に主に時計の修理技術などを中心にカリキュラムが組まれているようです。一方、大学の機械科では作り手の視野に立って、もっとコアな部分まで掘り下げて学ぶことになるでしょう。時計専門の具体的な製作方法を学ぶわけではないので、大学を出たからといってすぐに時計が作れるというわけではありませんが、基礎が固まっていれば、そこから自分でいろいろ工夫して創作できるようになるはずです。一般的に、大学の機械科の先生は元々大手のメーカーなどで実際にモノづくりの現場にいた方が殆どですので、将来独立時計師という作り手になりたいのであれば、そのような先生方から学べることは非常に貴重なものになるはずです。

なるほど、そういう違いがあるのですね。それでは、独立時計師というのはどういうタイプの人が向いていると思いますか?

職業を選ぶ際に、「好き」から選ぶのと「憧れ」から選ぶのと2通りあって、「憧れ」から選ぶことがあるかと思いますが、その職業を憧れることは誰でも出来ると思うんです。だけど、憧れているからといって、そのことを好きかどうかはまた別問題。ポイントはそれが「好き」かどうかですよね。憧れているからそれを好きだろうって勝手に思い込んでると、壁にぶち当たった時に、実はそれが好きでなかったという残酷な事実が見えてしまって、挫折する可能性が極めて高いと思います。だけど、「好き」の場合は挫折がないし、どんな困難も乗り越えられる。なので、独立時計師においては、作ることが好きかどうかが一番大事です。時々、「どうやったら独立時計師になれるんですか?」とか、「修行させて下さい」というメールをもらうことがあるのですが、そういう時は「好きと憧れを混同しないように」と返信します。「もし本当に時計作りが好きで、愛情が注げるのであれば、あなたの思い描く理想の時計をCGなどで具体化して僕に見せて下さい」と言うこともありますが、ほとんどの場合、それっきり連絡は来ないです。結局、自分のイメージしたものをCGでビジュアル化することでさえも相当努力しないと、実現出来ないですから、自分の「好き」に辿り着けるかどうかも、その愛情の深さを測るバロメーターになりますよね。

次回へ続く

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