HF/#3 Vol.5 | Oct 6, 2013

心の眼を澄ませ、意識を高く持つ

坂田栄一郎

Text: Miwa Tei / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Design: Kenzi Gong

昨日より今日、今日より明日。年齢を重ねるごとにしなやかに、豊かな人生を創る人を追い続けるHIGHFLYERS。Vol3は、写真で時代を映し、第一線で活躍し続ける写真家・坂田栄一郎さんの登場です。常に「自分の中心はどこにあるのか?」と問い続け、自分のいる“環境”と自分らしい“ライフスタイル”について深く洞察をしているという坂田さんの言葉と存在感には、余裕溢れる人間力が感じ取れます。20代にNYに渡り、肖像写真の巨匠リチャード・アベドンに師事した軌跡、被写体と対峙して創り上げる仕事の流儀、ライフスタイルと心の在り方を、ご自身のスタジオで語って頂きました。
PROFILE
坂田栄一郎

写真家 坂田栄一郎

1941年東京都生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。田中一光、和田誠、篠山紀信など多くのクリエイターが在籍したことで知られる広告制作会社ライトパブリシティに勤務した後、1966年に渡米。ニューヨークで写真家リチャード・アベドンに師事する。1970年に初個展『Just Wait』(銀座ニコンサロン)を開く。1971年に帰国しCMや雑誌で活躍。1988年からは、週刊誌『AERA』(朝日新聞社)の表紙を飾る人物写真を担当し、現在まで撮り続ける。1993年には写真界の大型国際イベントとして知られるアルル国際写真フェスティバルに招待され、写真展及びワークショップを開催し、アルル名誉市民賞を受賞。2004年、東京都写真美術館で個展『PIERCING THE SKY-天を射る』を開催。2005年に第24回土門拳賞ならびに日本写真協会賞・作家賞を受賞。2013年、原美術館(東京・品川)で開催した個展『江ノ島』が大きな話題を呼ぶ。主な写真集に『Just Wait』『注文のおおい写真館』『LOVE CALL-時代の肖像』などがある。

心の眼を澄ませ、意識を高く持つ

 1988年からは、『AERA』の表紙を飾る人物写真を撮り続け、坂田さんのポートレートが、大衆の日常に広く浸透することとなります。表紙を見て “時代の顔”を知る人も多くいます。

創刊当初の富岡隆夫編集長との出逢いは、僕の人生で大きな意味を持っています。「様々な人物に光をあてて、浮かび上がってくる肖像を通して現代の意味を探りたい」という編集コンセプトにすごく共感できたし、富岡編集長の人間性も、崇高で素晴らしいと思った。写真家としても、人間としても成長させてもらえた恩義に対する感謝の気持ちを、今も富岡さんに逢いに行く度、言葉で伝えるようにしています。

 『AERA』で20年以上撮影されたポートレイトは、優に1千人以上。初対面の人間と対峙する、現場での感情コントロール法をぜひお聞きしたいです。

一期一会の出逢いの中には、ダライ・ラマ14世やサッチャー元イギリス首相など、ご本人を目にすると足がすくみそうになる方々も数多くいます。時には、何人もの警護に囲まれて移動する、その数分間しか撮影時間が無いという状況も。初対面は毎回緊張もするし、どう撮ればいいのか迷う時もある。本当に色々なことが起きるのが現場というものですが、1千人を超えるポートレートを撮り続けて実感するのは、「一流の人間は、こちらが言葉で説明しなくても、瞬時でわかってくれる」ということなのです。それは何かというと「異質を受け入れる懐の広さがある」ということなの。ほとんどの人が自然体でとてもフレンドリー。そんな一流の人たちの人間力を心から尊敬しているからこそ、自分も謙虚になれて、毎回新鮮な気持ちで撮影に挑めるのです。

HIGHFLYERS

 「一流の品格は顔に表れる」。坂田さんが撮影するポートレートを拝見する度に実感します。

ポピュラリティと実力が比例している人は、前向きな自信に溢れ、実にいい顔をしていますよね。反対に、ポピュラリティと実力が比例してない場合というのもありうるわけです。本人が悪いということではなく、無責任に、一過性の風潮に翻弄される人たちが多すぎるということなの。どんな時も、心の眼は澄んでいなくてはね。

 豊かなお話を頂き、聞き手として、いち女性として生き方の価値観を改めて考えさせられます。

“しなやかさ”という言葉が僕は好きなのだけど、しなやかな感受性は、男性より女性に備わっているんじゃないかな。でも、現代社会はまだまだ男性上位で組織的。職場でも家庭でも女性にストレスがかかる場面が多いでしょう。女性が自分の意思をはっきりと言えて伸びやかでいられる環境は、男性にとっても心地よい環境のはずなんです。女性も男性も、一人ひとりが自らの能力を発揮できて、自然に笑顔が広がるような社会にしていかなくてはいけないんですよ。

 最後に。“自分の中心” を模索しながら、前向きに人生をクリエイトしようとする人たちへ、坂田さんからのメッセージをお願いします。

“自分がいる環境”と“自分のライフスタイル”について立ちどまって考えることができる、そんな心の余裕を持つことが、これからの時代一人ひとりに問われているのだと思います。社会生活の中で、長いものに巻かれる方が生きやすいかもしれない。でも、“自分の中心”を失うと、人はなにものでも無くなってしまいます。同じ環境にいても、ただなんとなくそこに居るだけの人と、その場から何かを学びとろうとした人とでは、その後の人生は変わってきます。24時間という平等な毎日をどう過ごすかによって、人は成功もするし、失敗もします。繰り返される日々の中で問題意識を持ち、自分の立ち位置をしっかりと持ってほしいのです。心の余裕がある人は、他者を思いやれます。「自分の幸せは人の幸せの上にある」ということに感謝し、人との出逢いが大きな恩義であることを忘れない人間になって下さい。僕やアナタが、今暮らしている日本というこの国は、階級制度も宗教戦争も無い、本来とても幸せな国のはずなんです。四季があり、豊かな風土があり、美しい国なのです。そんな恵まれた環境にいる私たち一人ひとりが、本当の意味で価値のあるライフスタイルを見つけ、人に優しく、しなやかに生きることができたら、この国の未来は明るくなると僕は信じています。

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