小さな場所で実験実証を繰り返した後、エンターテイメントの大きな舞台で魅せるのが今の理想のスタイル
ライゾマティクスが始まるまでの経緯を教えてください。
僕がIAMASを卒業した2004年の時点で、メディアアートの応用を仕事にしていた人は、 日本でおそらく3、4組しかいなかったと思います。そのうちの一人にIAMAS卒業生の石橋素さんがいて、たまたま僕が彼の後釜として東京芸術大学に講師で入る事になったのですが、すぐに石橋さんから仕事をもらうようになりました。そして会社設立前にフリーで仕事をしていた時期に今のベースになるような仕事を始め、東京理科大学出身の齋藤精一と千葉秀憲と僕の3人で2006年にライゾマティクスを立ち上げました。IAMASで一緒だった映像作家、プログラマの堀井哲史も設立時から参加し、その少し後から石橋さんも参加することになりました。
(上)2007年、ICCで作品制作をしている様子
(下)2007年、ライゾマ立ち上げ時。エンジニア/アーティスの石橋素氏(左)とビジュアルアーティストの堀井晢史氏(右奥)と
当時日本でメディアアートを仕事にしていたアーティストがほとんどいなかったということは、当時はメディアアートがエンタメの世界で評価されるものではなかったのですよね?
そうですね。当時はドーム規模の大きな会場でメディアアート的な演出を採用していたのは、世界中でもマッシヴ・アタックとU2くらいのものだったのではないでしょうか。僕は2008年にその演出を担当していたUnited Visual ArtistsにいたJoelと一緒に仕事をするチャンスがあって、舞台裏を色々聞いてチャンスがあったら自分たちにも出来るなとは思ってました。でも結局2010年くらいまでは中々良い巡り合わせがなくて。その頃はまだプロジェクトの数も今ほど多くなかったですね。
ブレイクスルーのきっかけとなった2010年のPerfumeのプロジェクトに参加した頃のことを聞かせて下さい。
2008年くらいから、PerfumeのMVなどのディレクターをしている関(和亮)くんに、ライブで観客が持つライトをステージからコントロールするプランなどをプレゼンし続けていたのですが、中々受け入れられることがなかったんです。でも今考えると、プレゼンしたタイミングが早すぎたのかもしれません。こういうことって一旦受け入れてもらえれば前例が出来るのでプレゼンが通りやすくなるんですが、最初に切り拓くまでが大変なんです。なので、2010年に演出を担当しているMIKIKOさんからお願いされた時は、凄く大変でしたけどライゾマ一丸となって異常な情熱を持って取り組みましたね。
その時はどんな演出をされたのですか?
5mの巨大な風船の中にLEDを入れて光らせる演出や3Dスキャンデータを使って映像を生成する演出ですね。徹夜し過ぎて本番は眠気と闘いながらでしたが、無事に終わった時にはブースの中でハイタッチしました(笑)。いいプロジェクトじゃなかったら注目すらされないし、僕達がこの時失敗していたら、この業界自体がこんなに大きくなっていなかったかもしれないですしね。振り返って転機になったものを探すと、このPerfumeのコンサートの演出の技術サポートや、顔に電気刺激を与える作品でYouTubeを通して世界中から注目を集めた「electric stimulus to face test」なのですが、そこから段々と認知度が高まりエンターテイメント業界からも仕事の依頼が来るようになっていきました。
ところで真鍋さんにとってPerfumeの魅力は何ですか?
僕はもともと彼女たちのMVを見て面白いなと思ってファンになったタイプです。その後、ライブを観に行って演出で度肝を抜かれた。2008年くらいのことだったと思いますが、世界でも他に例を見ないくらい先進的な試みを行っていました。そこからどんどんのめり込んで行って、今ではラジオを欠かさず聴くくらいのファンです。
今、他に興味があるアーティストや、仕事してみたいアーティストはいますか?
個人的にはダンスプロジェクトをもっとやりたいなと思っています。色々とチャンスはありますが、予算やスケジュールが関係してくるとプロジェクトとして成立させるのは難しいことが多いですね。
2016年に発表したダンスカンパニーELEVENPLAYとの実験的ダンス作品「border」のアイデアやコンセプトはどこから得たのですか?
ある時、パリで「クルー」という体験型のダンス作品を見て、その後ニューヨークで「スリープ・ノー・モア」というミュージカルを観たのですが、どちらもステージと客席という既存のシアターフォーマットではない作品でした。最近印象に残っていた作品がそういったものが多かったこともあり、パフォーマーと観客、現実と仮想世界の境界線が曖昧になるような作品を作ろうということになりました。
Perfumeしかり、真鍋さんが手がける作品にはダンサーが出演するものが多いですけど、真鍋さんにとってダンサーはどういう存在なんですか?
ダンサーはステージの中心となるインターフェースでありメディアですね。やはり、ダンスの作品ではダンスをどのように解釈するかということがメインになっている様な気がします。
これからもエンターテイメントとしての作品と、シアターや美術館などで観せる作品と、両方創り続けていくのですか?
研究開発的なことは自分たちの公演や作品でやって、その中でうまく行ったものを大きな舞台で採用する感じでしょうか。大きな舞台でいきなり新しいことをやることは難しいので、実証実験を積み重ねていくことが重要となるので両方やっていくことになると思います。
次回へ続く