HIGHFLYERS/#54 Vol.4 | Aug 18, 2022

夢は刀鍛冶として川崎晶平の世界を圧倒的なものにすること。そして、いつか海外の人たちを含めた刀のコンクールを実現したい

Text: Atsuko Tanaka / Photo: Atsuko Tanaka & Shusei Sato / Web: Natsuyo Takahashi

刀鍛冶・川崎晶平さんのインタビュー最終回は、普段から習慣にしていることや最近興味を持っていること、これまでに影響を受けた映画や本についてなどをお話しいただきました。これまで、そしてこれからも刀の魅力を後世に伝えるべく挑戦し続ける川崎さんが掲げる夢とはなんでしょう。また、チャンスや成功についても語っていただきました。
PROFILE

刀鍛冶 川崎晶平

大分県出身。明治大学政治経済学部卒業後、一般職を経て94年に宮入小左衛門行平に入門。 2003年に埼玉県美里町に晶平鍛刀道場を開設、独立。文化庁長官賞を受賞。以後、経済産業大臣賞(3回)、文部科学大臣賞など特賞多数受賞を受け、現在は公益財団法人日本刀文化振興協会「日本刀名匠/作刀」、全日本刀匠会 特待者。相州伝を目指す刀鍛冶の中で最も高い境地に至っている1人と評されている。靖国神社御創立150年に際して記念短刀を奉納。2020年に双葉社よりエッセイ「テノウチ、ムネノウチ 刀鍛冶として生きること」を出版した。

強い信念を持っていれば、必ずチャンスは向こうからやってくる。そう何度も訪れはしないから、来たら必死に掴むべき

普段から心がけている習慣を3つ教えてください。

まずは外でどんなことがあろうと、仕事場に入る時は真っ白な川崎晶平になること。スイッチを切り替えるという言葉が当てはまるかどうかはわかりませんが、仕事場に入って横座に座ったら、本当に心身が真っ白な川崎晶平という作家になって仕事ができるし、そういう状態を保てる様に日々健康でいることを心がけています。それと筋トレをする。いつも仕事が終わった時に、炭小屋の鉄骨で懸垂をするんです。弟子の頃から30年ほどやっていて、10回を2セットやるかやらないか程度ですけど、それをやることで体調がいいとか、疲れてるとかが分かるので、週1で整体に行って調整するという感じですね。あとは仕事があってもなくても、1日に1度は仕事場に入るかな。やはりあそこが1番好きな場所で、落ち着くんですよね。

ご自身のスタイルを一言で言うと?

忘れること、そして脱皮することが得意です。例えばカブトムシとか蝶みたいに完全変態する虫って、芋虫からさなぎになって脱皮したら全く違うものになるじゃないですか。そういうイメージです。

最近ハマっていることはありますか?

研ぎ師さんからよくコーヒーの豆をいただくので、その豆を挽いて、仕事が終わった後に炭でコーヒーを挿れて飲むのが好きです。あと、仕事仲間が集まった時や特別なお客さんが来た時は、炭でバーベキューもします。肉を焼くのが得意で、いつもいかに美味しく焼くかに神経を注いでます。

左:仕事場で淹れたコーヒー 右:バーベキューで肉を焼いている様子

影響を受けた映画、本、音楽などありますか?

スティーブ・マックイーンの「大脱走」や、ロバート・ミッチャムの「眼下の敵」とか、古い映画が好きです。本当に尊敬できるのはどういう人なのかを教えてくれます。本は司馬遼太郎の「燃えよ剣」、そして何より「百万回生きたねこ」と「オデュッセイア」が好き。 どちらも遠い昔に出会った本ですが、「百万回生きたねこ」は自分の子供に読んでも、未だに泣けてきて最後まで声に出して読めないです。「オデュッセイア」は、人生でいちばんワクワクした本かもしれないですね。実は故郷の大分にまったく同じ内容の「百合若大臣」の伝説があり、当時の南蛮貿易やキリスト教の影響を感じて、なかなか興味深いです。

美術館や博物館によく行かれるとのことですが、アートはいかがですか?

他のアートとはちょっと違うかもしれないですが、加藤巍山さんという仏師がいて、人の身でありながら信仰の対象になるものを彫るってどれだけの精神力を要するんだろうとか、どれだけの美意識を持つんだろうって考えます。刀鍛冶にはない力を感じますね。

理想の男性像は?

あまり考えたことはないのですが…。9割9分男性ばかりの刀の業界にいて男性を観察していると、実に男性は弱いモノだと思うのです。「男はロマンティストで神経が繊細。女は現実的で神経が図太い。だから神様は、男に腕力を与えた」と言っていたのは美輪明宏さんだったかな。大切なのは知性とユーモアを失わないことでしょうか。ちょっと野蛮さを匂わせていても紳士で、自分の道を進んできた英国のボリス・ジョンソン前首相や、90歳を超えて尚、色気と創造力が溢れているクリント・イーストウッドみたいなね。

では、川崎さんにとってチャンスとはなんですか?

チャンスって必要な時にやってくるものだと思います。ただそれに気づくかどうかは本人次第。意外に追い詰められた時ほどチャンスって転がってるものです。でもそうそう何度も来てはくれない。だから来たら必死になって掴まなきゃって感じですね。

これまでの人生を振り返って、あの時が一番のチャンスだったと思う出来事は?

そんなに大きなものはないかもしれないです。でも、来る時はなんとなくそういう気配があって、チャンスを拾って来れたのかなと。強い信念を持って、あれがやりたい、こうしたいと思っていれば、必ず向こうからやってくると思います。

これから挑戦してみたいことや夢はありますか?

刀鍛冶としての川崎晶平の世界を圧倒的なものにしたいです。あと、世界の日本刀好きな人たちと何かができたらいいなと思います。今は海外で作った日本刀を日本に持ち込むことはできないですが、日本から持って行くことはできるんで、海外の人たちを含めてコンクールとかができると楽しいなと。日本刀は日本人で独占しなきゃいけないものでもないと思うし、海外にすごい才能がある人がいるのなら世界に求めていってもいいと思ってます。

そうなったら世界中からユニークなアイデアがたくさん出てきそうですね。

そうですね。僕からすると、日本の刀鍛冶の人たちは才能があって刀鍛冶になったというよりは、辛い修行にただ耐えて我慢できたから、結果的に刀鍛冶になれちゃった人が多いように見えるんですね。どうしてそう思うかと言うと、例えば、現在僕のところには役者さんはじめ一芸に秀でた方が刀造りを体験しに来ます。炭切りとか道具の作り方を教えると、みなさんすぐに覚えて、こちらが教えなくても、どうすればさらに効率良く綺麗に進めるか想像力を働かせて仕事を進めていけるんですけど、僕が見てきた刀鍛冶やその弟子の方達はそういうことがなかなかできないんです。才能ある人はお金の稼げない世界には来てくれないんだなって感じてしまって。

なるほど、難しいところですね。

辛い修行にただ我慢できた人が刀鍛冶になってしまって、(刀鍛冶であることが)周りにすごいって言われるからしがみついてるだけなのかなという気がするんです。どこの業界もそうですが、日本人は同じレベルの人同士で仲良くして、自分よりちょっとだけ優れてる人をすごいと言って褒めますが、桁外れにすごい人のことは理解できないから、悪口を言ったり足を引っ張るんです。そういう人達を僕はいっぱい見てきました。だから、そんなことが通用しないくらい、世界の圧倒的な人たちと仕事がしたいなって思います。

長く続く伝統の世界で新しいことをやるって、とてもエネルギーのいることですね。

僕一人ではどうにもならないですし、僕の次か、その次の世代まできっと時間はかかると思うので、良い後継者は育てていきたいです。日本刀の歴史を見ていると、例えば備前の光忠とか、相州の正宗とか、天才が忽然と現れるんですけど、その天才の時代って、続いてもせいぜい30年から50年。天才の子供や孫の代くらいまではまあまあ良いのですけれど、その後はやっぱり凡工になっていくんですね。そういう意味で、手仕事の世界は伝えるのが非常に難しいし、伝えられる側もそれなりの能力を持っていないといけない。もちろん何百年も受け継がれている家の血を守ることはすごく大変ですし大切なことですけど、能力の継承はとっても難しいのだと感じます。だから才能豊かな人が興味を持てる世界にしていかなくては、未来はないと思います。

それでは、川崎さんにとって成功とは何ですか?

作家としての成功は、もちろん今の時代に作品が評価されるのも大切なことだと思いますが、100年後、1000年後に僕の作品を見た人が、いい作品だな、これこそ川崎晶平だという作品を造れることだと思います。

川崎さんが思う最も成功してる方は?

正宗や光忠といった名工達。彼らが残した作品には強い意志が感じられます。これまで800年もの間大切にされてきて、この先も作品の力や価値が失われることはない。そのくらいの大きな力を持った作品なので、刀の世界の中での成功者と言えば彼らなのではないかと思います。もちろん名も無いまま作品だけが残っている作家もいるでしょうし、それはそれでいいのではないかと思いますが、僕は俗な人間なので、自分の名前も残したいし作品も生きていて欲しいと思います。

成功している人としていない人の違いがあるとしたら、それはなんでしょうか?

失敗をしても腐らずに、諦めず前に進めるかどうか、ですかね。

川崎さんが世界を変えられるとしたら、それはどんなことだと思いますか?

刀を造ることで世界を変えられるなんてことはないと思いますけど、僕が造った刀で人が感動してくれたり、その刀を世界に残していきたいと思ってくれる人、また、刀を造るために自然環境をも守ろうと考えてくれる人がいたとしたら、少しは世界が良くなるかもしれないと思います。

最後に、3年後、5年後、10年後のご自身はどうなっていると思いますか?

今よりギラギラして、色気の溢れる作品を造っていますよ。後継者を育てながらね。

1
 
2
 
3
 
4
 

第12回新作日本刀 研磨 外装 刀職技術展覧会

会場
「坂城町 鉄の展示館」
長野県埴科郡坂城町坂城6313-2
会期
令和4年6月11日(土)~8月28日(日)
部門
作刀・刀身彫刻/研磨/刀装の3部門
分野
作刀・刀身彫刻・研磨・鐔(その他刀装具)・白銀(鎺その他金具)・白鞘・拵下地・柄巻き・鞘塗り・拵

川崎晶平、下島房宙(刀鍛冶)/ 森井鐵太郎、水田吉政(研師)による刀剣鑑賞会、講演

日時
8月18、19、20日 10:00〜17:00
料金
現代刀鑑賞会、初心者講座は入場無料、事前予約はできません。
会場
小江戸蔵里(川越市産業観光館)
住所
埼玉県川越市新富町1-10-1 
TEL
049-228-0855
URL
https://www.machikawa.co.jp/

ARCHIVES