HIGHFLYERS/#37 Vol.4 | Oct 17, 2019

成功は難しい。一時期だけ脚光を浴びることより、ずっと続けていけることの方が意味がある。チャンスは一回掴めばいい

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Design: Kenzi Gong

靴磨き職人で、 靴磨き専門店「千葉スペシャル」の創業者・千葉尊(ちば みこと)さんのインタビュー最終回は、チャンスを掴む秘訣や成功についてを伺いました。千葉さんが最も成功していると思う人物と、その理由が興味深いです。また、路上で靴磨きを始めた頃に、お客さんの態度が徐々に変化していったそうなのですが、それにはきっかけがあったそうです。一体、そのきっかけとはなんだったのでしょう。他にも、22年間の靴磨き職人としてのキャリアで得たものや、今の世の中に対して感じること、そして、千葉さんにとっての靴磨きの魅力や、靴磨きを通して千葉さんが世界を変えられる可能性などを伺いました。
PROFILE

靴磨き職人 千葉尊

宮城県出身。職業訓練校を卒業後は、材木、溶接工、鳶職などの仕事に携わっていた。ひょんな出逢いをきっかけに1997年、41歳の時に靴磨きを始めることになる。有楽町駅付近で営業していたが、2012年、東京交通会館内に「千葉スペシャル」をオープン。大企業の社長や国会議員、芸能人なども顧客を持ち、現在は有楽町と八重洲の2店鋪を経営している。

水拭きを教えたら揉め事が減った。靴磨きは人生の修行だから、靴もまともに磨けないようじゃ、人付き合いだってできっこない

22年間、靴磨き職人としての人生から得たものはなんでしょうか?

世間から得る信頼ですね。路上でやってた頃は、お客さんに揉め事を起こされることが多くて色々大変なこともあったけど。高圧的な態度で「お前に何がわかるんだ!」って、私たちのことを自分のストレスのはけ口みたいにしたり、小馬鹿にしたり。それが今は劇的に変わりました。

変わったのには何かきっかけがあったんでしょうか?

水拭きを教えてから、段々と変わっていきましたね。靴の汚れをつけたまま来るお客さんが多かったんだけど、僕のところに来る前に、まず自分で靴を水拭きして汚れを取ってから来て欲しいって言ったんです。それを教えるようになってから、なぜか知らないけど、どんどん揉め事を起こす人が減っていった。

次からはみなさん教えた通りに水拭きしてから来るのですね。

そうだね。それをちゃんと守ってやってきてくれるような人でなければ、やっぱり性格上問題があるということだよね。あと他に問題があるとしたら、ここを通る通行人で、待っているお客さんに「どうして並んでるんですか?」とか話しかける人たち。それが一番困る。

それは海外の人ですか?

いや、日本人。日本人の方が外国人より態度が悪い人が多いですね。テレビで観たんだけど、沖縄県にあるラーメン屋で“日本人お断り”って言ってるところがあるらしいですよ。日本人はお断りで外国人はオーケーっておかしいよね。それだけ日本人の中には非常にマナーが悪くて、厄介な人が多いということなんだと思います。

他に、今の世の中を見て、感じていることがあれば教えてください。

掃除ができなくなった人が増えたこと。昔は誰でも掃除ができたのに、今は本当に減りましたね。働いてる場所は業者に任せておけばいいけど、自分の家はちゃんと自分でやらないと。掃除をしてると思っていても、埃があるのであれば、それは単に掃除機かけてるだけで、ちゃんとできてないということですね。

では、千葉さんが思う靴磨き職人の一番の魅力を教えてください。

履き心地を提供できることですね。これをなくしては語れない。 ただ綺麗になればいい、ツヤを出せばいい、鏡面磨きをやればいいっていうのは上辺だけの話で、それだと中身は全く伴ってない。ただ綺麗にして革を硬くしてダメにしてる人が多いけど、まだ自分のやってることに気づいてないんですよね。

靴磨きはなぜ必要だと思いますか?

やっぱり人生の修行なんじゃないんですか?靴も綺麗にできないようじゃ、人付き合いもまともにできないと思いますよ。

千葉さんにとってチャンスとは何かと聞かれたら?

チャンスは一回掴めばいい。

千葉さんは、その一回を掴んだんですね。

そう。ここ、交通会館に入った時にね。

チャンスを掴む秘訣は?

地道に待つ以外ないでしょうね。でもチャンスは相手からやって来るわけではないから、自分でアクションをかけないといけない。大事なのは、アクションのかけ方でしょう。

ずっとギャンブルをやってらっしゃったから、その時に培った勘みたいなものもあるんじゃないですか?

それはないですね。ギャンブルとチャンスの流れを読むのは全く違うことだから。どちらかというと、風水を勉強した方がいいと思います。気の流れを読むために風水を勉強して、お金が集まる流れを知っていると商売するのに役立つと思います。

それでは、千葉さんにとって成功とはなんですか?

難しいね。せっかく成功しても、途中で問題を起こしたり、誰かと揉めて内部分裂したりして、結局続けることができなくなってしまうことがあると思うけど、それって本当にもったいないと思う。だから、一時期だけ脚光を浴びることよりも、ずっと続けていけることの方が、意味があるんじゃないですかね。どこで成功して、どこまでが成功と言えるのかはわからないけど、きっと死ぬまでわからないんでしょうね。

千葉さんが最も成功していると思う人は?

エジソンしかいないでしょ。私はエジソンを参考にしているんで。

どのようなところを参考に?他の人がやってないことをやるところですか?

違う。あの人は発明家なんだけど、それだけじゃなかったんですよ。彼の本当にすごいところは、何かを発明しただけじゃなく、会社組織を作って、発明した物を売ったこと。発明したことだけに重点を置いてる人が多いけど、そうじゃない。発明してからどうするか、の方が大切なんです。そこで彼は、発明した物を売るための組織を作ったんです。

それを千葉さんに置き換えると、靴磨きという技術を全て得て、誰もやってないことをやって、今度はそれを世に広めていく段階にいるということですか?

そう。そうするためにも、組織を作るのが一番重要なんですよ。その考えのベースにエジソンがいるんです。

なるほど。では、まだ叶っていない夢があったら教えてください。

実現できるかどうかはわからないから、今はまだお話しできないです。でも、実現できる可能性はほぼゼロに等しいと思います。交通会館に入ることも、ほぼゼロに等しかったけど、同じことですよ。

でもそれを実現させたから、きっと今思っている夢も実現するんじゃないですか?

それはわからないですね。今後の課題です。

最後に、千葉さんが世界を変えられるとしたら、それはどんなことだと思いますか?

昔から存在する物やことの大切さを伝えること。どれだけ技術が進歩してハイテクな社会になっても、例えば靴磨きであれば、水拭きをするかしないかで靴の持ちが全然違います。そうやって、 情報過多の時代に忘れ去られてしまった昔から伝わる方法や知恵には、現代社会の問題解決の糸口が見つかることだってあるんです。物を売るために、今の社会は自然や環境をどんどん破壊してますよね。だから僕は、靴磨きを通して、みんなに昔のやり方を見直してもらったり、自然を大切にする心を持ったりしてほしいと思っているんです。そうすることによって、世界が少しでも良い方向に進んでいくんじゃないかと思います。

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