HIGHFLYERS/#37 Vol.3 | Oct 3, 2019

師匠と並んで、数寄屋橋の並木通りで靴磨き職人生活が始まった。ガード下でやっていた頃は、とにかく我慢の毎日だった

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Design: Kenzi Gong

今回HIGHFLYERSに登場するのは、靴磨き職人で、 靴磨き専門店「千葉スペシャル」の創業者、千葉尊(ちば みこと)さん。インタビュー第3回目は、いよいよ靴磨きという天職に出会ってから交通会館1階で店舗を構えることになるまでを伺いました。靴磨き職人になったのは、師匠との偶然の出会いがきっかけです。それから2人は有楽町の路上で靴磨きを始めますが、様々な試練に出くわします。そしてようやく交通会館1階で「千葉スペシャル」を開店することになるまでには、多くの人のサポートがありました。師匠との出会いから、路上で靴磨きを始めるまでの経緯、そして、交通会館にお店を開いた時の話を伺うと共に、靴磨き職人としての辛さや若者へのアドバイスもいただきました。
PROFILE

靴磨き職人千葉尊

宮城県出身。職業訓練校を卒業後は、材木、溶接工、鳶職などの仕事に携わっていた。ひょんな出逢いをきっかけに1997年、41歳の時に靴磨きを始めることになる。有楽町駅付近で営業していたが、2012年、東京交通会館内に「千葉スペシャル」をオープン。大企業の社長や国会議員、芸能人なども顧客を持ち、現在は有楽町と八重洲の2店鋪を経営している。

交通会館に入れたのは、一流会社の社長をはじめ、いろいろな人の協力があったから。今の悩みは、靴職人を育てる難しさ

靴磨きにはそろそろ出逢う頃でしょうか。千葉さんと靴磨きとの出逢いを教えてください。

ある日の昼間、上野の不忍池のベンチで寝てたの。お金もないし、やることもなくて。この先どうしようかなって考えていた。そうしたら僕に声をかけてきた人がいたんです。「どうだ、靴磨きやってみないか」って。

そんな偶然が起こるんですね!ちなみにそれは誰だったんですか?

それが後に私の靴磨きの師匠となった人です。そう声をかけられて、「そっか〜、そういうことか、神様は悪いいたずらをするなぁ」と思ったよ(笑)。それで、師匠に靴磨きのための足台を作ってくれって言われて。私は鋸やハンマー、ラチェットとか、足場鳶をやってた時の道具をみんな持ってたから、すぐにそれらを家に取りに行って足台を作って持って行ったの。

その方は千葉さんが技術者であることを知っていて声をかけたんですか?

いや、全く知らないよ。それなのに私に声をかけるなんて、何か感じていたのかね。それでとにかく師匠のために一台と、自分のために一台、合計2台作った。それで数寄屋橋の並木通りで、2人で並んで靴磨きを始めたんです。師匠は先にやり始めて、私は遅れて3日くらいやったけど、厳しくてすぐに追い出されて、次は有楽町の駅前でやり始めた。そっちは文句を言われずに続けることができました。

お客さんは結構来たんですか?

来たよ。私の師匠はすごく腕が良かったから。これまで師匠より上手な人を見かけたことがないね。それが1997年の5月くらいの出来事で、次に有楽町の中央口のガード下でやるようになった。そこでは5年くらいと長い期間やったけど、色々と問題があって、反対側の銀座口に移ったんです。

その後、交通会館に入られたんですよね。どのようにして、入居が決まったのですか?

交通会館にあるロイヤルという喫茶店のマスターが話をしてくれて、話が決まったんです。たまたまそこの営業部長が大手アパレルメーカーの社長とお友達だったんで、制服をそのメーカーに作ってもらうことができて。什器にもこだわりました。

制服が蝶ネクタイで素敵ですね。眼鏡もみなさんお揃いですか?

「英国風のお茶目でやんちゃなイメージ」というテーマで、ユニフォームをコーディネートしていただきました。眼鏡もその一部ですが、靴磨きの際にリグロインという溶剤を使用しますので、目を保護するために着用してます。

それでは、これまで靴磨きを通して、今まで一番嬉しかったことはありますか?

交通会館に入る時にいろんな人に手伝ってもらったことですね。それまで自分の店を持ちたくても、お金がなかったし、出資してくれる人を見つけることもできなかったから、本当にありがたかった。

なんで皆さんは千葉さんにそんなに協力してくれたんだと思いますか?

さあそれはわからないです。もともとみんなお客さんだったけど、そこまでの繋がりはなかったので、なんで協力してくれたのかね。

千葉さんがいなくなったら困るからなんじゃないですか。

確かに、それはあるかもしれないね。協力してくれた人たちはみんな一流会社の社長や会長さんばっかりだった。トップ中のトップだね。

これまでいろんなお客さんを相手にされてきたと思いますが、お客さんから言われた言葉で勉強になった言葉はありますか?

一番応えたのは、「そろそろ俺を覚えてくれよ」って言われたことかな。その人のことは本当に覚えてなかったんだ。というより、その頃の私は覚える気がなかったのかな。

覚える人もいるんですか?

たまにはいたけど、あまりいなかったね。でもその人に、そう言われて流石に応えたよ(笑)。そんなに私の靴磨きを気に入ってもらえたんだって思って嬉しかった。それでやっぱりお客さんは大事にせなあかんなぁと思いました。

では、これまで靴磨き職人をやめたいと思ったことはありますか?

ないですね。今までいろんな仕事をしてきたけど、私にとって靴磨きは簡単なことだから。ただ、一つ頭を悩ますことは、職人を育てる難しさだね。

その難しさっていうのはどういうところにあるんですか?

職人一人一人にそれぞれ想いがあって、みんな進む方向も変わっていくから、そこで揺れ動く人が多いんです。彼らは人生これでいいのかって悩んでしまう。ずっとここでやっていける人は少ないんですよ。そういった時、どうしたらいいのか相談されることもあるけど、そういう人たちをどう指導していけばいいかは私にはわからないね。

では、靴磨き職人をやっていて一番辛かったことは?

路上でやっていた時代は辛かったね。すぐに移動するように言われるんで。まあ我慢して乗り越えていきました。

これから靴磨き職人になりたい若者にアドバイスをするならなんと言いますか?

磨きのフォームはもちろんだけど、まずは食生活を変えるようなアドバイスをしたいですね。どの職業も同じだと思うけど、食べるものに気を遣った方が良いと思う。皆食べ方が偏っているから、ミネラル、塩分などしっかり栄養を取ってバランス良く食べるようにならないと。今、食べ物を美味しく味わっている人は少ないと思うよ。

千葉さんが、食生活などで、普段から心がけている習慣があれば教えてください。

お酒を飲んだ時は必ず塩水を飲む。塩水じゃないとダメなの、お酒は。お酒を飲んだら必ず血行が良くなって体が熱くなって熱を持つ。それを冷やすために塩水が必要だと思う。あと食べ物では、ワカメと干し芋は必ず食べるようにしています。干し芋は好きだからじゃなくて、乳酸菌を摂るため。整腸作用。薬では治らない部分もあるんで。元を治さないとやっぱりダメですね。

ところで、もしも靴職人になっていなかったら、千葉さんは今何をしていると思いますか?

多くの職業経験を活かし、日雇い労働者をしていたと思います。それ以外は考えつきません。

次回へ続く

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