HF/#9 Vol.3 | Dec 1, 2014

“発想の種”は日常の中にある

shino

Text: Miwa Tei / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Design: Kenzi Gong

自分の強みを見極めて、オリジナルな生き方をする人を追い続けるHIGHFLYERS。Vol.9は、針と糸、手わざを生かした表現で多くの共感を紡ぎ出すアーティスト清川あさみさんの登場です。謎めいた美しさと色深い艶。一瞬で射抜かれるようなインパクト。ダイレクトに人の心を動かすその作品群のように、表情豊かで多面的な魅力を秘めた清川さんに、人生を色彩豊かに縁どる秘密を伺いました。
PROFILE
清川あさみ

アーティスト 清川 あさみ

糸や布を素材とした作品や写真に刺繍を施すなど、手わざを生かした独特な手法で作品を制作するアーティスト。美術作品の他に衣装、映像、広告など様々な分野に活動の場を広げ広い年齢層にファンを持つ。女性を美しく魅せる作品に定評があり、「美女採集」シリーズ(2006〜)では、衣装・ディレクション・アートワークを手がけ、旬な女優やアーティストとのコラボレーションで話題を呼んでいるほか最近では日本初出店となるオランダのインテリアブランド「moooi」の店舗内装デザインを担当するなど、空間デザインやプロダクトのプロデュースも手がける。著書に絵本『銀河鉄道の夜』、『美女採集』、『男糸』など。作品集『ひみつ』が好評発売中。主な受賞歴はベストデビュタント賞(2004)、VOCA展入賞(2010)、VOGUE JAPAN Women of the Year(2012)、ASIAGRAPH 創(つむぎ)賞(2013)など。11/29〜12/15まで新作個展「TOKYOモンスター」が渋谷・パルコミュージアムにて開催。最新作『TOKYOモンスター』も先行発売される。
http://www.asamikiyokawa.com/

“発想の種”は日常の中にある

 自分の夢を実現させるために、必要なことは何だと考えますか?

自分の感覚を養っていくこと。そして、続けることを続けることです。

 “続けることを続ける”。シンプルでいて最強のことに思えます。

私、近道しない主義なんです。目の前にあることをコツコツやって、気付いたらパワーアップしてたというスタンスでいたい。例えば、若い子から「どうしたら人脈を広げられますか?」と質問されることが結構あるんですね。みんな、近道したいのねって(笑)。でも、近道しても自分の内面が追い付いてなければ意味ないですよ。もうね、生きていく上で出逢う人、体験全てが勉強。“発想の種”は日常にあるのだから。

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  日常の中にある“発想の種”を、清川さんはどんな風に育てていったのでしょう?手わざを生かしたアーティストへと方向転換するストーリーも、ぜひ伺いたいです。

モデルを辞めてしばらくは、家に引きこもったんです。引きこもりは得意だから(笑)。進路も決まっていなくて、自分の表現をどうしようかなと漠然と考えている頃でした。私は、何事もゼロから考え抜くタイプではなく、目の前にある材料で手を動かしながら手法を考える人。文化(服装学院)に通っていたから、生地とミシンはある。それと接着芯といって、服の裏地に使って補強する芯地があるんですけど、卒業制作用に使った色んな色の接着芯の切れ端が相当余っていたんですね。そんな材料を集めて何か面白いものが作れないかなって。シンプルなワンピースに接着芯をアイロンでペタペタ貼って、油絵の絵画のような服を作ったりしていました。ある日、自分で作った服を着て、とある展示会に行ったら、「面白い服を着ているね」と声を掛けられて。その場で一気に「個展を開いてみませんか?」という話にまで発展したんです。それが、人生初の個展を開くきっかけに。21歳の頃でした。

 早い!“引き寄せの法則”がスピーディーに展開したのですね。

山梨にある「ギャラリートラックス」さんという大きな会場での個展だったのですが、プレッシャーもそれは大きくて。ひたすらミシンと布に向かって、創作に没頭しました。初めての個展がきっかけとなり、東京での個展も開催するお話を頂けて。そこからデザインのお仕事も徐々に舞い込むように。出し惜しみとかしている余裕もないし、出し惜しみする人の意味がわからないと考えるタイプなので。完全燃焼の連続です。

 「一歩踏み出してみたら世界が広がった」。そう思い返す仕事上でのファーストステップとは?

ミシンと布で作品を作り続けている中で、「いつか本を出版できたら」という想いがありました。そこで、かねてから大ファンであった出版社のリトルモアさんに、自分の作品を持ち込みに行ったんです。自分からアプローチしたのはそれが初めて。やっぱりね、人から言われて何となく行動するのと、心の底からやりたいと自発的に起こす行動は熱量が違うんですよね。編集者さんとお話をする中で、「絵本が向いているのでは?」と言われた時は、すごく嬉しかった。というのも、私の実家には読書部屋があるほどに埋まるぐらいの絵本があって、絵本に対する想い入れは人一倍。さらに、その第一弾として、名作『幸せな王子』を、私の手法で作り直して刊行するというお話になった時の喜びは大きかったです。『幸せな王子』は、私が4歳の頃に母から読み聞かせてもらって、一番心が動いた大切な作品だったので。長く愛されている名作を、自分の世界観を通して現代に作り直すというリトルモアさんとの“絵本シリーズ”は、私にとって幸福なライフワークになっています。

 自分のやりたかった事が、伝えたい相手に伝わる喜びが伝わってきます。

「この発想は絶対に面白い!」とジャッジするのは、まず自分ですよね。「これは、ひょっとしたらひょっとするかも」と、直観的にひらめく瞬間というのがある。でも、いくら自分がいいと思っても、人も同じように思ってくれるかっていうとビミョー(笑)。オリジナルな発想も、人から「新しい」「凄い」「感動した」と共感してもらうまでには、伝える手段がなければ埋もれてしまう。私は、発想よりもその先にあるコンセプト。そして流通、つまり伝え方に心を砕いています。

 “写真に刺繍をほどこす”というオリジナルな手法は、どのように生まれたのですか?

手法自体は私の場合、ホント偶発的に生まれるんです。布とミシンに飽き始めていた頃、女の子のポートレートを使った広告制作を依頼されたんですね。写真にグラフィックを合成したり、ペインティングをする手法は当時からあったので、「みんなと同じことはしたくないなぁ」と思っていた時に、たまたま手元に針と糸があって。衝動的に縫ってみたくなり、ポートレートの上に刺繍をほどこしてみたんです。今までにない感覚で、瞬間的に「イケる!」と直観したんです。

 フックになるような新しい手法を掴んだ瞬間。心に陽が差すような感覚があるのでしょうね。

「抜けた!」と確信する瞬間は、それはもう特有の高揚感があります。でも、その段階では自己満足にしかすぎないんです。そもそも写真に穴を開けるわけだから、掲載写真としてはNG。周りの反応も、「入稿の仕方どう考えている?」「共感ポイントってどこ?」というものでしたが、当然です。そこでキーコンセプトをひとりで考え続け、『美女採集』という言葉に辿り着くんです。

 熱狂的な“清川マニア”が急増した代表的な作品『美女採集』シリーズ。求心力が高い『美女採集』という言葉のコンセプトとは?

美しい女性の写真を針で刺し、糸で縫うという感覚は、動植物を採集して、鋲で留め、標本に閉じ込める行程と重なります。『美女採集』には、刺して“その人の本質をえぐる”という、グロテスクですらあるテーマも内包しているんです。

 『relax』(マガジンハウス) 『流行通信』(INFASパブリケーションズ)、現在は女性誌『FRaU』(講談社)と、個性的な雑誌での連載スタイルで、『美女採集』シリーズが長く求められているのも印象的です。

“女性が作る女性のためのグラビア”があってもいい。そう考えて、当初『relax』の編集長さんにお話を持ち込んだんです。男の人が女の人を撮る時って、「俺色に染めたい」とい願望がどこかにあるでしょ(笑)。女の人はもっと現実的に厳しく見るから面白いんじゃないかなって。それと、雑誌という媒体が私は昔から大好きで、愛着があるんですね。『relax』には、写真家・佐内正史さんの「君になりたい」という長寿連載があって、毎号すごく楽しみだった。あんな風に長く読まれる連載スタイルで、自分の作品を発表できたらとずっと夢見てきたんです。それが現実となった今も、そしてこれからも、女性の美しさは追い求めていきたい。女性の美しさって、本当に素晴らしいですよ。

美女採集「水原希子×クリオネ」

 清川さんが考える、真性の美女とは?

“嘘ではなく本当に幸せそうな人”かな。女性男性問わず、実生活でもSNSでも、やたら言葉で幸せアピールをする人、思い当たりません?「言葉だけではわからない」と私は考えていて。逆に、幸せって言ったり書いたりしない人の方が満ち足りているんだろうなって。多くを語らずとも、本当に幸せそうな人は、なんかこう目の奥が明るく微笑んでいるんです。会えばすぐにわかります。

 今日はまるで、清川さんに人生相談をさせて頂いたような気すらします。有難うございます(笑)!

アハハハ。確かに男性や女友達からも「そんなこと私に話していいの?」と思うような相談事をされますね。私も人の話を聞くのは好きなんです。友達に料理を作ってふるまうことも好きなので、「スナックのママさんやってよ」とよく言われます(笑)。

 最後に、もう一つだけ相談をさせて下さい。自分自身の人生を色彩豊かに、向上させるために一番必要なことは何でしょう?

何事も、結局は“自分”なのではないでしょうか。よく、豊かな人との出会いが人を成長させるといいますが、もしかしたら逆なんじゃないかなって。自分の内面が豊かなら、魅力的な人が寄ってくる。自分のコンディションがいい時は、本当に素敵な方との出会いが押し寄せてくるものなんです。その時、外見や肩書の華やかさに寄ってくる人は、どうでもいいんです(笑)。自分の精神が、ピュアにすくっと立っている時に、そばにいてくれる人こそ本当に大事。私自身も、そういう時に出会えた人を喜ばせたいし、悲しませたくない。そのためにも常に自分の内面を整えていなくては。人生にいい風が吹いている時も、そうでない時も、自分の感性と向き合って、心を磨く努力をしていくことで、人生は向上していく。私はそう考えています。

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