IMPRESARIO KEYS
#9 | Jan 29, 2020

フットバッグ世界チャンピオンの目指す未来を明確にし、圧倒的なパフォーマンスを発揮させたコーチング

Interview & Text: Richie Takai / Photo: Atsuko Tanaka

IMPRRESARIO KEYS(インプレサリオ・キーズ)」では、思い悩んだ時の突破の方法や、人生を切り開くための方法をコーチングを用いて紹介する。コーチングとは、心理学やカウンセリング理論に基づく対話による手法を用いて、クライアントの自発的な行動を促すコミュニケーション技法のことである。第9回目に登場頂くのは、プロフットバッグプレイヤーの石田太志選手。小学1年生から高校3年生までの12年間サッカーに明け暮れる。大学入学直後にたまたま訪れたスポーツ店で目にしたフットバッグの映像に衝撃を受け、フットバッグを始める。2006年から1年間カナダに滞在し、2008年にはヨーロッパに渡り、フットバッグの技術を磨きながら海外の多くの大会に出場し入賞。フットバッグの世界大会である「World Footbag Championships」にて2度優勝しアジア人初の世界一に。そして「Footbag US Open Championships」でも初出場、初優勝を達成。また日本の全国大会でも優勝し、史上初の2カ国のチャンピオンにもなった。今回は、さらなる高みを目指すために、石田選手がコーチングを導入したことで、どのような変化や気づきが起こったかを、柘植コーチの解説を交えて紹介する。
PROFILE

プロフットバッグプレイヤー石田太志

フットバッグの世界大会である「World Footbag Championships」にて2度優勝しアジア人初の世界一に。そして「Footbag US Open Championships」でも初出場、初優勝を達成。また日本の全国大会でも優勝し、史上初の2カ国のチャンピオンにもなった。世界一とアメリカチャンピオン、日本チャンピオンに輝いた日本を代表するフットバッグプレイヤー。 またアジア人で初めてフットバッグ界の殿堂入りも果たした。これは600万人いるプレイヤーの中で過去47年の間に79人のみ選出されている。 現在日本でただ一人のプロフットバッグプレイヤーとしてメディア出演やパフォーマンス活動、講演等も精力的に行っている。最近では「めざましテレビ」や「ZIP!」「NEWS ZERO」「1億人の大質問!?笑ってコラえて!」にも出演した。 またフットバッグを使用したサッカースキルアッププログラムや他のスポーツでへの体幹や股関節トレーニングも各地で行っている。

スポーツメンタルコーチ柘植晴永

一般社団法人フィールド・フロー共同代表 メンタルコーチ。常識に捉われず、人の可能性は無限大だということを軸に一人ひとりの個性を大切にしながら人生全体を応援。思考・感情・身体の繋がりを探求するワークや 視覚、聴覚、体感覚等、感覚に働きかけるセッションでサポート。自分を深く探求するワークショップ等も開催。子どもからトップアスリート、選手や指導者、保護者含め幅広く関わりながら、保護者や指導者がもっと楽しく子どもたちと関われるコミュニケーションツールとしてコーチングを広く知ってもらう為の活動なども行なっている。

【時間軸を広げる】〜視点・視野を広げ、「人生全体」について探求する~

『死んだ先の未来までイメージ化する』

大学1年生の時に、たまたま入ったスポーツショップでフットバッグの存在を知り、魅了された石田選手。その後、技術を磨くためにカナダに単身留学するなど、常に挑戦を続け、2014年と2018年にはフットバッグ世界チャンピオンの座を獲得した。また、プレーヤーとして、さらなる高みを目指すために2019年3月からコーチングを導入する。8月には世界大会もあった中、始めてからの半年間で、どのような変化や気づきがあったのだろうか。

石田選手はどんな少年でしたか?

リフォーム業を営む父と、美容師の母の元、3人兄弟の長男として育ちました。保育園の時に、サッカーの真似事をしてボールを蹴って遊んでいた延長線上で、小学1年生の時にサッカーを習い始めました。他にも、水泳やそろばん、塾に通ったりしていましたが、サッカーに一番熱中しましたね。93年のJリーグ発足時と重なり、小学生時代は、プロのサッカー選手に憧れていました。最終的にサッカーは高校3年生まで続けました。

小学校のサッカークラブ時代。トロフィーと共にダブルピースをして喜んでいる(写真真ん中)

フットバッグにはどのようにして出会ったのですか?

高校3年の時に、サッカー選手になるのは厳しいという現実を目の当たりにして、サッカー以外の仕事に就くことを考えるようになりました。当時、コンピューターについて学びたいと思っていたので、文教大学の情報学部に入学することに。サッカーにも面白味を感じなくなった頃、たまたま立ち寄った横浜のムラサキスポーツ店内でフットバッグの映像が流れていて、それを見て衝撃を受けたんです。

どんなところに?

小さいボールでリフティングするので、サッカーっぽさもあるのですが、そこにダンスっぽい動きも混ざっていて、ストリートな感じが今までに見たことのないスポーツだと思いました。そこで、売られていたフットバッグをすぐに購入し、やり始めました。

大学生の時、フットバッグを始めた頃

その後、プロになるために、どのようにフットバッグを上達させていったのですか?

最初は単に面白そうと思って始めてみたものの、実際にやってみたらすごく難しくて、やめようかと思ったこともありました。プロで仕事することは考えず、単純に上手くなりたいという理由で練習を続けていたのですが、ある日、フットバッグの世界大会がカナダで開催されることを知り、出場することに決めました。理由は、現地に行って上手い人に教えてもらえれば、早く上達するだろうと思ったからです。ですが、実際には英語ができなくて思うようにいかず、世界で戦うためには、フットバッグの練習以外にも、英語を上達させなくてはいけないと思い、2年後の2006年に大学を休学してカナダのトロントに行くことに決めました。

2度目の挑戦としてトロントに渡ったわけですね。そこでは、何を得られましたか?

ワーキングホリデーで8ヶ月滞在して、現地で働いて、英語を学べたこともそうですが、フットバッグにおいて一番の発見と学びは、練習の仕方の違いを知れたことです。外国人は、大技練習だけに注力しているのかと思っていたのですが、彼らは日本人以上に基本をすごく大事にしていて、つまらない技でもひたすら練習していたんです。そうすることで基礎が固まって、大技もできるようになり、上手くなるスピードも速くなります。それに比べて、僕は大技だけを練習していて、基礎がない分、上達に時間がかかっていたんですね。基本の大事さに気づかされ、練習を積み重ねた成果が実り、帰国して1ヶ月後の10月に日本で行われた全国大会で優勝することができました。

トロントにワーホリで滞在していた時。フットバッグ仲間たちと(左)。大会に向けて、メンタル面を鍛える為に毎日ストリートパフォーマンスをしていた(右)

それでは、コーチングに出会ったきっかけを教えてください

2018年12月に、ノンフィクション作家の小松成美さんの講演会でパフォーマンスをする機会があり、その時に、柘植コーチの旦那様であり、スポーツメンタルコーチでもある柘植陽一郎さんにお会いしました。その後お誘いいただいた、スポーツメンタルコーチ養成講座のプログラムの一環で、コーチが実際にゲストアスリートにコーチングをする実践会に参加させていただいたのがきっかけで、初めてコーチングを体験したんです。印象的だったのは、コーチングは「教えてもらうもの」ではなく「自分で自分を見つける作業を、サポートしていただくもの」だと知れたこと。フットバッグは技術的なコーチもいなく、一人で行う競技なので、メンタル面のサポートをしていただくことに魅力を感じてコーチングを受けてみることにしました。

抱えていた問題

■自分のメンタルの強さの理由を探求できていない。把握して、安定したパフォーマンスに繋げたい

国内では、2006年、2010年、2012年、2017年、2019年の「JAPAN FOOTBAG CHAMPIONSHIPS」で、世界規模では、「World Footbag Championships」で2014年と2018年に優勝を経験し、アジア人初の世界一に輝いた石田選手。チャンピオンになれた理由は、強いメンタルを持っているからだと自負していたが、その理由と本質までは把握できていなかった。

石田選手:優勝できた一番の要因は、メンタル面だと自覚していましたが、なぜそうなのかまではわかっていなくて、時には結果が出せない時もあり、自分の状態に波がありました。コーチングを通して、より深く自分のメンタルを探求していき、常に良いパフォーマンスができるようになりたいと思いました。

解決方法

■自分の人生全体の、未来やありたい姿を味わってみた

プレーヤーとして日頃の練習や出場する大会があるため、これまでは目の前のやるべきことにしかフォーカスしてこなかった石田選手。初めて、自分の人生の全体を俯瞰して、今を見つめ直すためのコーチングを受けた。

石田選手:さらなる自分の可能性や伸び代に気づくために、アスリート人生だけでなく、それまで考えたこともなかった「過去ー現在ー未来ー臨終」までの、人生全体を味わうコーチングを受けました。例えば、以前はプレーヤーとして、50代まで活動するとしか考えていなかったのですが、そのコーチングで、「60代になったらフットバッグとどう関わっていたいか?」「自分のお葬式で周りの人にどう見られたいか?」「死んだ後に、フットバッグに関わっている人々はどうなっていてほしいか?」など、未来を具体的にイメージしながら、しっかり時間をかけてポストイットに書いていきました。

コーチングの時の模様

得られた結果

■違う視点から自分を見たことで、ありたい姿や自分の根底にある想いに触れられた

これまで深く考えてこなかった人生全体という視野から自分自身を見つめ直し、より広い視点で未来の可能性について考えられるようになった。

石田選手:「人生全体」という視野から自分を見て、選手としては70歳まではプレーをしていたいと思うようになりました。また、自分の根底に、フットバッグの普及活動を行う先で、僕が死んだ後も、公園でフットバッグを楽しんでる子供や大人達の姿があったらいいなという「フットバッグの未来に対する想い」があることに気づけました。さらに、人生はあっという間なのかもしれないと感じるようになって、一日一日を大切にするようになり、方向性が見えたことでやるべきことがより明確になりました。

コーチ補足

■普段の視点から時間軸を広げて「人生全体」から自分を見つめ・感じた

柘植コーチ:タイムラインという手法を使って、「過去ー現在ー未来ー臨終」まで人生全体のタイムラインを歩きながら「何歳頃に何をしていたいのか?」「フットバッグ界に何を望んでいるか?」「何歳の時どんな自分でありたいか?」「お葬式でどんな人として語られたいか?」などをイメージしてもらい、さらに、それぞれが実現している時に沸き起こる感情まで味わってもらいました。それらを味わうことで、競技という枠を超えて、自分の人生で本当に大切にしたいこと・成し遂げたいことが自然に浮かび上がってきます。また、そこから自分のメンタルの強さの根底となる「自分の想いや価値観や信念」に気づくことができます。さらに、「実現するために今何をすべきか」が明確になるので、日々の練習や行動の質も変わり、パフォーマンスの向上にも繋がります。

次は、今までで一番視界が開けたコーチングについて

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