【目標・目的を明確にする】~選手達自身で、目標と共に目的も明確にする~
選手達の事実に対する捉え方が変わり、チーム全体の雰囲気に少しずつ変化が見えていたが、さらに乗り越えるべきことがあった。それは、監督の存在が偉大だからこそ生じる、選手一人ひとりの主体性だった。
抱えていた問題
■部員たちの主体性が低い
佐相監督は神奈川の高校の野球界で“カリスマ監督”として尊敬される存在であったため、佐相監督の元で野球を学びたいと県立相模原高校野球部に入部を希望する生徒が多くいた。彼らのほとんどは主体性が低く、監督の指示通りに動いてしまう傾向にあった。
佐相監督:部員たちの主体性が低く、自発的な発想や行動が少なかったことが、チーム全体としてのパワーを最大限に発揮しきれていない原因のように感じていました。一つのチームとして、技術面以外の“束になる力”が弱かったのです。
解決方法
■佐相監督の自己開示
佐相監督は、部員達を褒めたり自分の気持ちを表に出すタイプではなかった。そこで、東コーチが発案した、佐相監督の自己開示。監督が今までチャレンジしなかったことが、チームを大きく動かす。
佐相監督:2018年の全国高校野球選手権神奈川大会で負けてしまった後、東コーチが部員各々の主体性を引き出すために、サッカー女子代表のなでしこJAPANが掲げた「目標は優勝、目的は日本に元気を与えること」といった例を示し、“何のために、誰のために”という「野球をやる目的」を明確にするように選手に促しました。それにより、彼らは自身でチームの目標と目的を決め、チーム全員でボールを使って呼吸を合わせるワークなどをして、「チームに同質のエネルギーが生まれると、一体感が生まれ奇跡的なことが起きやすくなる」ということを体感しました。また、東コーチは私の想いを部員のみんなに伝えるようにも提案され、私は部員に向けたメッセージ動画を作成し、大会前に彼らに共有しました。
得られた結果
■選手たちの行動に変化が起こり、チームが束になった
目標・目的と共に、佐相監督の想いのこもったメッセージ動画が選手一人ひとりの心に刻まれ、ベンチ入り、ベンチ外、先輩・後輩の垣根を越えて、相模原高校野球部が一つの束となった。
佐相監督:選手達は“甲子園に行く”という目標と共に、目的の「感動・陽点・決断」を明確にし、それらが書かれた横断幕も作成して、自ら練習方法や週ごとの目標も決めるようになりました。また、ベンチ入りメンバー発表後、メンバー入りできなかった選手たちは各々できることを考え、データ班としてチームに貢献するようになるなど、チームが一つの束になっていったのです。そして、神奈川大会の準々決勝で優勝候補の東海大相模高校と戦うことになり、強豪校を相手に1回表に一気に5点先取し、9回表まで2点リード。その後9回裏に3点を入れられ、惜しくもサヨナラ負けという結果になりましたが、最後までチーム全体が一つになり、我が校らしさを貫くことができたと思います。
東海大相模高校との試合にて
コーチ補足
■チーム全員で目標と共にチームの目的を明確にすることで想いが揃っていく
東コーチ:「何をどんな心でやるのか」という意識が、パフォーマンスを変える力に繋がっていきます。彼らの場合、「甲子園に行く」という目標と共に、「誰のためなのか?何を大事に戦いたいのか?どんなチームでありたいのか?」といった目的を、チーム全員で明確にし、共有出来ている状態になることが重要でした。想いや気持ちが揃うと、人や場のエネルギーが高まり、チーム全体に「協力・思いやり・相手を理解する心」が生まれます。すると、チームに同質のエネルギーが集まり、元の何十倍ものエネルギーに増大され、奇跡的なことが起こりやすくなるのです。夏の大会でもそんなエネルギーが生まれたのだと思います。
コーチングはさらなる問題を解決する。次は、最近の事例を