IMPRESARIO KEYS
#8 | Jul 24, 2019

カリスマ高校野球監督が、チームにコーチングを導入して得た3つのメンタル戦略 [高校野球部監督・佐相真澄]

Interview: Richie Takai / Text: Yoshie Ito & Richie Takai / Photo: Atsuko Tanaka

「IMPRRESARIO KEYS(インプレサリオ・キーズ)」では、思い悩んだときの突破の方法や、人生を切り開くための方法を人間開発の技法「コーチング」を用いて紹介する。コーチングとは、心理学やカウンセリング理論に基づく対話による手法で、クライアントの自発的な行動を促すコミュニケーション技法のことである。   第8回目にご登場頂くのは、神奈川県立相模原高校野球部監督の佐相真澄。高校生の時にプロ野球選手か教師になる夢を抱いた佐相監督は、日本体育大学に進学。卒業後は中学校の教師として24年間務め、その傍ら中学野球の監督としても実績を積んだ。しかし、高校野球への想いを捨てきれず、高校教師に転身、そして高校野球の監督としても活躍するように。佐相監督の元、野球をやりたいという理由で入学する学生は多く、2012年から教えている神奈川県立相模原高校野球部の部員数は通常の公立高校野球部の3倍と言われている。そんな人望がある監督だが、部員たちに技術や根性は教えられるも、それ以外のメンタル面の部員へのアプローチに悩んでいた。2017年の秋にスポーツメンタルコーチングの東コーチと再会し、コーチングを導入したことでチーム全体に意識改革が起こる。佐相監督と東コーチの解説を含め、事例を紹介する。
PROFILE

神奈川県立相模原高校野球部監督佐相眞澄

保健体育科教諭。1958年8月31日生まれ、神奈川県相模原市出身。法政二高から日本体育大に進学。現役時代は強打の外野手として、大学4年時に明治神宮大会優勝。卒業後は相模原市立新町中から大沢中、東林中に赴任。大沢中では1992年に全日本少年軟式野球大会で3位。東林中では1997年の全国中学校軟式野球大会でベスト8、翌1998年に同大会で3位、さらに2001年にはKボール全国優勝を飾り、世界大会では3位となった。2005年には神奈川県立川崎北高校で念願の高校野球の監督に就任。県立高校ながら「超攻撃的野球」を標榜し2年連続で桐蔭学園に勝利。2007年秋の神奈川県大会ではベスト4という好成績を収め、神奈川県の21世紀枠推薦校に選出された。2012年には現在の県立相模原高校に着任。翌2013年秋は県大会ベスト32で、2014年春はベスト16、同年夏にベスト8、同年秋にベスト4、2015年春は準優勝に導き、神奈川県立高校14年ぶり同校初の関東大会に出場した。

スポーツメンタルコーチ東篤志

フィールドフロー認定 スポーツメンタルコーチ 東篤志(ひがし あつし) 株式会社ブライトスターズ代表。 「自ら輝き、世の中を輝かせる。」という理念のもと ReNew表参道、ポルクス整骨院、アリエス整骨院、BRAND NEW STARSなど東京、神奈川に整骨院、トレーニングジムを6店舗展開。 スポーツクライミングの他、 プロ野球やサッカーなどアスリートのメディカルトレーナー、メンタルコーチとしてメンタルとフィジカル両面から選手をサポート。 チームビルディングセミナーやリーダー養成講座、講演活動なども行っている。 東篤志インスタグラム

【目標・目的を明確にする】~選手達自身で、目標と共に目的も明確にする~

『チーム全体が目標に向かい、主体性が生まれ一つの束となる』

選手達の事実に対する捉え方が変わり、チーム全体の雰囲気に少しずつ変化が見えていたが、さらに乗り越えるべきことがあった。それは、監督の存在が偉大だからこそ生じる、選手一人ひとりの主体性だった。

抱えていた問題

■部員たちの主体性が低い

佐相監督は神奈川の高校の野球界で“カリスマ監督”として尊敬される存在であったため、佐相監督の元で野球を学びたいと県立相模原高校野球部に入部を希望する生徒が多くいた。彼らのほとんどは主体性が低く、監督の指示通りに動いてしまう傾向にあった。

佐相監督:部員たちの主体性が低く、自発的な発想や行動が少なかったことが、チーム全体としてのパワーを最大限に発揮しきれていない原因のように感じていました。一つのチームとして、技術面以外の“束になる力”が弱かったのです。

解決方法

■佐相監督の自己開示

佐相監督は、部員達を褒めたり自分の気持ちを表に出すタイプではなかった。そこで、東コーチが発案した、佐相監督の自己開示。監督が今までチャレンジしなかったことが、チームを大きく動かす。

佐相監督:2018年の全国高校野球選手権神奈川大会で負けてしまった後、東コーチが部員各々の主体性を引き出すために、サッカー女子代表のなでしこJAPANが掲げた「目標は優勝、目的は日本に元気を与えること」といった例を示し、“何のために、誰のために”という「野球をやる目的」を明確にするように選手に促しました。それにより、彼らは自身でチームの目標と目的を決め、チーム全員でボールを使って呼吸を合わせるワークなどをして、「チームに同質のエネルギーが生まれると、一体感が生まれ奇跡的なことが起きやすくなる」ということを体感しました。また、東コーチは私の想いを部員のみんなに伝えるようにも提案され、私は部員に向けたメッセージ動画を作成し、大会前に彼らに共有しました。

得られた結果

■選手たちの行動に変化が起こり、チームが束になった

目標・目的と共に、佐相監督の想いのこもったメッセージ動画が選手一人ひとりの心に刻まれ、ベンチ入り、ベンチ外、先輩・後輩の垣根を越えて、相模原高校野球部が一つの束となった。

佐相監督:選手達は“甲子園に行く”という目標と共に、目的の「感動・陽点・決断」を明確にし、それらが書かれた横断幕も作成して、自ら練習方法や週ごとの目標も決めるようになりました。また、ベンチ入りメンバー発表後、メンバー入りできなかった選手たちは各々できることを考え、データ班としてチームに貢献するようになるなど、チームが一つの束になっていったのです。そして、神奈川大会の準々決勝で優勝候補の東海大相模高校と戦うことになり、強豪校を相手に1回表に一気に5点先取し、9回表まで2点リード。その後9回裏に3点を入れられ、惜しくもサヨナラ負けという結果になりましたが、最後までチーム全体が一つになり、我が校らしさを貫くことができたと思います。

東海大相模高校との試合にて

コーチ補足

■チーム全員で目標と共にチームの目的を明確にすることで想いが揃っていく

東コーチ:「何をどんな心でやるのか」という意識が、パフォーマンスを変える力に繋がっていきます。彼らの場合、「甲子園に行く」という目標と共に、「誰のためなのか?何を大事に戦いたいのか?どんなチームでありたいのか?」といった目的を、チーム全員で明確にし、共有出来ている状態になることが重要でした。想いや気持ちが揃うと、人や場のエネルギーが高まり、チーム全体に「協力・思いやり・相手を理解する心」が生まれます。すると、チームに同質のエネルギーが集まり、元の何十倍ものエネルギーに増大され、奇跡的なことが起こりやすくなるのです。夏の大会でもそんなエネルギーが生まれたのだと思います。

コーチングはさらなる問題を解決する。次は、最近の事例を

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