HIGHFLYERS/#57 Vol.4 | Feb 23, 2023

チャンスには常に勝負をかける自分でいたい。成功というお祭りに流されず冷静に、みんなが喜ぶ成功を求めて走ることが一番大事

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Retouch: Koto Nagai

岸谷五朗さんのインタビュー最終回は、プライベートのことや、チャンスと成功についてを伺いました。意外なことに、サーフィンが趣味という岸谷さんは、16、7年前に桑田佳祐さんからサーフボードを進呈されてからサーフィン人生がスタートしたそうです。また、岸谷さんが影響を受けた俳優さんにまつわるドラマのようなエピソードもお話しくださいました。さらに、「成功とは?」の質問にも、岸谷さんらしく実直で聡明、かつ冷静なお言葉をいただき、ベテラン俳優がベテランである所以がわかったような気がします。ユーモアを交えながら、最後の質問まで愛のある深いお話をしていただきました。
PROFILE

俳優 岸谷五朗

1983 年、大学在学中に劇団 SET に入団し、舞台を中心に活動開始。93 年、崔洋一監督、鄭義信脚本の映画「月はどっちに出ている」で高い評価を受け数々の賞を受賞した。94 年、寺脇康文とともに演劇ユニット「地球ゴージャス」を結成し、すべての作品で演出を手掛けるほか、多くの作品で脚本も担当するなど、多彩な活躍を見せる。主な出演作に、地球ゴージャス二十五周年祝祭公演『星の大地に降る涙 THE MUSICAL』、映画「夜明けの街で」「まくをおろすな!」(23 年 1 月 20 日公開)、ドラマ WOWOW「野崎修平」シリーズ、「恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~」など。

どんな小さなことでも絶対に世界を変えられると信じることが大切。きっと10年後も波に乗り、変わらず芝居を追い求めているはず

今、俳優のお仕事以外で興味があることは?

1個だけある趣味が、波乗りです。もう16、7年間くらい続けています。新宿コマ劇場でタバコやめようってバク宙して誓った時に、桑田佳祐さんが芝居を観に来てくれて、目録を置いていってくれたんです。開けてみたら「サーフボード進呈」って書いてあって、俺サーフィンやるなんて全然言ってないのに、しばらくしたらサーフボードを送ってきてくれました。 でもそれがきっかけで、その板を持って後輩のプロサーファーのところに行って、シャンパンをかけて板を下ろして、そこから俺のサーフィン人生が始まったんです。気づいたらのめり込んで、波がいいって情報が入ると、気づくと車に板を積んで海岸にいる。一人で行って一人で帰ってくる。

すごく意外です!

俺の歳だとみんな球を打つスポーツ(ゴルフ)をやるけど、止まってる球なんて打ってる場合じゃない。まだ自然の中で、ちょっとの恐怖心のなか、動く波と闘うおっさんでいたい(笑)。

サーフィンをやって何か変わったことはありますか?

何も変わっていないかもしれないけれど、サーフィンはとてつもないスポーツで、なぜなら何を抱えていても、波に乗ろうと思った瞬間から乗っていくまで無になるんです。頭の中が何もなくなるスポーツはサーフィンだけ。気づくと何も考えてないの。波と戯れて転がってるだけのスポーツなんて他にないなと思って。

影響を受けた映画や俳優やアート、音楽など、強いて挙げるなら?

もちろん映画もたくさんあるけど、役者は鄭(義信)さんとのつながりで言うと、とてつもなく大好きだった松田優作さん。俺はもちろん会ったこともないけど、優作さんが亡くなった時、こんなにショックを受けるのかってくらい、ものすごく心に穴が空いて。亡くなった病院は偶然俺の生まれた病院だった。納得できないから、お通夜にバイトの軽トラックを飛ばして寺に行ったの。そうしたら俺と同じ優作ファンみたいな人が、何も話さないでおばけみたいに立ってるわけ。俺も納得できないからなんかそこに行ってしまった。どうしたら松田優作というすごい役者の死をカバーできるかって1日そこで考えて。それで朝日が出た時に、「よし、松田優作がやるはずだった大きな役が空いてチャンスが来たと思おう!」って思って、優作さんがいたら取られちゃう役が1個空いたと思おうって自分を納得させて、明日に向かって軽トラを飛ばした。それでその後、唯一優作さんがやり残した「犬、走る DOG RACE」っていう映画があって、優作さんがやろうとしてた役を俺がやったわけ。もちろん俺用に書き直してもらってはいますが、あの時に誓った夢が叶った瞬間でした。

感動的なお話です。では、理想の人間像は?

理想の人間になろうとしたら、多分相当自分に嘘をつくことになるんだろうね。理想の人間になったぞって言った時って絶対嘘ついてる気がする(笑)。でも、人に優しい人でいたいっていうのはあります。自分よりもっと優しい人に出会うと、そうなりたいと憧れますね。

岸谷さんにとって、チャンスとは?

チャンスって大概は非常に危ない橋じゃない?大チャンスってこけたら終わりの時にあるよね。ちょっと崖から落ちそうな時にチャンスが来たり、そのチャンスを取り損なうと真っ逆さまに落ちるとか、極端な時に現れるから、そこには勝負をかける自分でいたいけどね。怖がらずに前に進む。よく後輩に言うんだけど、職業俳優になれなくてみんな諦めていく時に、「諦めるの語源は明らかに極めること、だとすると逆に言うと明らかに極めてない人間は諦めてはいけないんだよ」って。そことちょっと似てるかな。

今まで掴んだ一番大きなチャンスは?

チャンスって事前にわからないんだよ。終わってみて初めて俺にとってすごいチャンスだったって気づく。鄭さんとやった「月はどっちに出ている」という映画は、映画ってこんなに面白いんだってその世界へのインビテーションを鄭さんと崔さんがくれて、映画の世界を堪能したきっかけになった。その時はそんなことになるなんて当然思わないけど、終わってみて映画の賞をいっぱい取って、崔さんはその年の映画監督になって、これってみんなにとってすごいビックチャンスだったんだねって。そのまま俺が劇団SETにいて、鄭さんが新宿梁山泊にいたらそこまで上がってきてなかったはずなんだよね。

では岸谷さんにとって成功とは何ですか?

俺たちの職業ってどうしてもオーディエンスがいて、評価される職業じゃない?だから成功っていうのは、おそらくその外側にあることで、あんまり自分自身のことではない。自分の手がけた作品が成功しました、お客さんもいっぱいでしたって外側の成功はみんなで喜んでいいことだと思うんだけど、成功ってちょっとお祭りになって紛れちゃうじゃない?本当はそこでちょっと冷静に振り返って、これが果たして俺自身の成功だったかどうかってことを考えなきゃいけないね。成功に惑わされないことがポイントかな。成功というお祭りに流されないこと。

岸谷さんは中心にいながら、ふっと外に離れて俯瞰するイメージがあるのですが、それもそういうことのひとつなのでしょうか。

ちょっと俯瞰で見ることとか、その円から外れることって実は大事だよね。でもみんなが喜ぶ成功を求めて走ることが一番大事。

今岸谷さんがやられていることで、世界を変えられると思うことはありますか?

全部何事も変えられないと思ったらダメだよね。絶対に小さなことでも変えられると思わないと。それは小さな芝居でも大きな芝居でも、トニー賞を取っているかもしれないし、世界を制するかもしれないし。環境で言うと、どこのビーチにもあるんだけど、サーファーの絵と英語の言葉で「海でサーフィンした後は一つゴミを拾って帰りましょう」って書いてあって、それだってそんなたった一つのことが1年間続いたらその浜は綺麗になるわけで。出来ないことはないんだよね、多分。

まだ実現していないことがあれば教えてください。

いっぱいある。芝居は無限で、まだ実現していないことだらけだし。

何か具体的にこれをやりたいって、今明確にあるんですか?

もちろん先の先の、2025年の芝居も、今ジャストでやらなきゃいけないことだったりして、そこに追われて走ってるから、時が経つのが早すぎる。やりたいことはいっぱいある。それこそ鄭さんじゃないけど、韓国やニューヨークとかロンドンで芝居やりたいし、芝居だけでもいっぱいあるし。逆に言うと、それが仕事だとするなら仕事以外に興味はないかな。サーフィンぐらい(笑)。

地球ゴージャスを海外に持っていくとかはないんですか?

やってみたいね。でも始めたら大変なことになるな。でもやれないことではないと思う。

3年後、5年後、10年後のご自身はどうなっていると思いますか?

3年後は61か。今より体が衰えてるはずだから、今毎日2時間走っているのをちょっと増やしたり、もう少しハードなトレーニングを日常化して、何とか自分の動きを保つ。

それは主に舞台のためですか?

一番はそうだね。舞台は特殊な動きじゃない? そこに対応出来るように、例えばいつでも脚を開いたらベタっとつくのが当たり前じゃないといけない。でも5年後は衰えてるんだろうな。10年後は68か。親父が68とか9で亡くなってるんだよね。そうするともう親父超えの歳か…。何してるかな。サーフィンはやってるだろうけど、ゴルフはやらないかな(笑)。ゴルフは本当に立てなくなりそうになった時に杖代わりについて。俺わかるのよ、みんなハマるから、やったら相当楽しいんだろうなってことは薄々知ってるの。でもまだビッグウェーブと戦っていたい。怪我はしないように気をつけていて、危ない波は乗らないようにしてる。せっかくなので追い求め続けた芝居をようやく掴むことができて、めでたくハワイに永住するにしておこう(笑)。

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『歌うシャイロック』

作・演出 鄭義信
出演 岸谷五朗 / 中村ゆり / 岡田義徳 / 和田正人 / 渡部豪太 / 小川菜摘 / 駒木根隆介 / 福井晶一 / マギー / 真琴つばさ
制作協力 (株)レプロエンタテインメント
企画・製作 松竹株式会社
京都公演 南座
2023年2月9日(木)~2月21日(火)
福岡公演 博多座
2023年2月25日(土)~2月27日(月)
東京公演 サンシャイン劇場
2023年3月16日(木)~3月26日(日)
公式HP http://shylock-stage.com/

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