IMPRESARIO KEYS
#5 | Jan 24, 2018

ゴルフをする本当の目的に気づき、自身の持つ能力を最大限発揮できるよう、意識の向け先を変えたコーチング[プロゴルファー・篠原まりあ]

Text: Ryosuke Takai

「IMPRRESARIO KEYS(インプレサリオ・キーズ)」では、思い悩んだときの突破の方法や、人生を切り開くための方法を人間開発の技法「コーチング」を用いて紹介する。コーチングとは、心理学やカウンセリング理論に基づく対話による手法で、クライアントの自発的な行動を促すコミュニケーション技法のことである。第5回目にご登場頂くのは、プロゴルファーの篠原まりあ選手。篠原選手がメンタルコーチングと出会ったのは、彼女がまだ高校3年生の時だ。2014年、戦績に伸び悩んでいた頃に、プロになるために必要なのは技術面だけではなく、精神面だと感じてコーチングを受け始める。その後、プロゴルファーとして順調に成績を上げ、2017年は日本女子プロゴルフ協会が行っているクォリファイングトーナメントを6位で通過するなど着実に結果を出している。篠原選手のコーチングを務めた石橋コーチの解説を含めて、実際に行ったコーチングの事例を紹介していく。
PROFILE

プロゴルファー篠原まりあ

1996年 大分県出身。4歳から12歳まで日本舞踊をしていた。小学校6年生の時祖父母の影響でゴルフに出会い、ゴルフの強豪校である沖学園に進学する。中学2年生の夏季全国大会で団体、個人の優勝した。また、高校からはナショナルチームに入り、日本女子アマチュア選手権でベスト8、高校2年生では 団体戦で2日間9アンダーというスコアを叩きだし優勝。高校3年では、国民体育大会で団体、個人ともに優勝を飾った。高校を卒業し受けたプロテストで1発合格を果たし、新人戦で優勝。ルーキーイヤーでは、レギュラーツアー最高順位8位だったが、2年目はステップアップツアーが主戦であった。今年プロ3年目にして、QTランキング6位でレギュラーツアーに参戦する。

メンタルコーチ石橋哲哉

NPO法人ヘルスコーチ・ジャパン、(株)チームフローでコーチングを学び、2012年4月に独立。2011年よりプロゴルファーのサポートを始める。 アドラー心理学、インナーゲーム理論をベースとしたコーチングにより選手のモチベーションアップ、パフォーマンスアップのサポートを行っている。 そのほかにもコミュニケーション力アップ、チームビルディングを目的とした企業研修の講師も行っている。

【過去の失敗に捉われない「目的思考」でプロセスが明確化される】~自然とゴールまでの道が見つかる方法~

『プロの道に進んで、ナショナルチームに入りたい!』

篠原選手はどんな少女でしたか?

ゴルフを始める前はかなり内気な性格で、あまり外で動き回るような子ではなく、読書をしているような静かな子供でした。実家が旅館を経営していたこともあり、叔母の影響を受けて4歳から12歳まで日本舞踊を習っていました。人前に出るのはあまり得意ではなかったのですが、田舎の小学校で生徒人数も少なかったので、友達とは仲が良く、生徒会にも参加していました。中学校に上がってから、ゴルフ部に入りました。ゴルフの各大会で表彰されたことから、全校生徒の前に立つ機会が度々あり、自分では内気だと思っていましたが周りからは目立つ存在と言われていました。

日本舞踊を習っていた頃。小学5年生

ゴルフを始めたきっかけはなんですか?

私の家族は旅行が好きで、12歳の冬休みに家族旅行でタイに行った際、ゴルフをやっていた祖父母にゴルフ場へ連れて行ってもらいました。その時、初めて打った一発目のボールが綺麗に飛んで、それを見ていた祖父母に「ゴルフを始めたらどうや?」と言われたのがきっかけです。

学生時代からプロゴルファーになるまでのエピソードを教えて下さい。

中学校に入学する前、地元の学校にはゴルフ部がなかったので、バレー部に入ろうと思っていました。すると、たまたま祖父母の知り合いからの情報で、福岡にゴルフ部のある中高一貫の学校があることを知りました。強豪校だったので最初は入れないと言われていたのですが、お願いし続けた結果、入れてもらえることになりました。その当時からテレビ等を見てプロの道があることを知ってはいたのですが、趣味で始めたのであまり意識はしていませんでした。でも、高校1年生の時に、監督から「頑張ったらプロになれるんじゃないか?」と言われ、同時に、3人の先輩がプロテストに合格するのを目の当たりにして、「かっこいいな!自分もプロとして頑張ってみたい」と、プロの道に進むことを決めました。

コーチングはどのようなきっかけで受けることになったのですか?

まだプロになる1年前の高校3年生の時に、先輩からの紹介で石橋コーチのことを知りました。当時の悩みは、技術面でたくさん練習しているのに試合で成績が出なかったこと。急に考え込むようになってしまい、悩んでいることに対して悩んでしまう負のスパイラルに陥った状態でした。その時、先輩にメンタルコーチングについて教えてもらい、ゴルフにもメンタルのコーチが必要なんだと初めて知りました。以前のように思い切ってプレーができなくなってしまっていたので、すぐにコーチングを受けることにしました。

抱えていた問題

■メンタル面の重要性を知ったアマチュア時代

プロテストに合格する前のアマチュア時代、戦績に伸び悩んでいた篠原選手。上手くいかない自分を自ら追い込んでしまい、ゴルフ選手としての未来に不安を感じていたことが原因で不調だったと語る。この時初めてメンタル面の重要性に気づきコーチングを受けることに。

篠原選手:コーチングを受け始める前の高校2年生の時、戦績に伸び悩んでいました。プロテストを受ける2年後までに、アマチュアの中でトップの「ナショナルチーム」に入りたいという思いに捉われてしまい、成績ばかりを気にしてしまっていたんです。試合の一打に集中できず、上手くいかない自分に嫌気がさしている状態でした。練習も全く楽しくなくなってしまって。

解決方法

■目標から逆算して練習に取り組んだ

2年後のプロテストに合格すると目標を決めて、そのためにはどうすべきかを考えた。2年後に向けてプランニングをして、それぞれの試合ごとの目標を設定し、練習に集中して励んだ。

篠原選手:石橋コーチに、「上手くいっていないネガティブな部分を見て悩むのではなく、プロになるためにどういう階段を踏んでいきたいか、目標と道筋を考えてみては?」と言っていただき、目標を“プロテストに合格する“と設定しました。そこから逆算して半年後、一ヶ月後、一週間後の試合ごとの目標を決め、それを果たすためにやるべき練習を実践していきました。

得られた結果

■一点にフォーカスしたから得られた集中力、成果と充実感

自分の立てた目標に少しずつ近づいていることを感じられたのが、一番の大きな変化だったと語る篠原選手。今フォーカスすべき目標に集中して、練習に取り組む姿勢が自信に結びつき、着実に成果に繋がっていった。

篠原選手:念願だったナショナルチームに入ることができ、高校3年生の時には国体優勝も果たせました。石橋コーチとのやり取りの中で、私のゴルフの原点が、初めてゴルフ場へ連れて行ってくれた祖父母と一緒にゴルフをやった時に感じた「楽しい!」と感じたことだったのを思い出しました。楽しいと思うことがゴルフをする目的そのものだったんです。それまで辛いと思っていた練習も、楽しむために何ができるか?と考えられるようになりました。

国体にて、高校3年生の時。真ん中は九州ゴルフ連盟の安藤氏

コーチ補足

■原因論ではなく、目的論

石橋コーチ:思考には大きく分けて2つの思考があります。それは原因思考と、目的思考です。「何でこうなるのだろう」「どうしてだめなのだろう」という原因探しをしている場合は、後ろ向きな発想になるので、ネガティブな感情に繋がりやすくなります。しかし「本当はどうなりたい?」「何を手に入れたい?」「そのために今できることはどんなこと?」と、目的に視点を向けた質問をしていくと、アイディアが膨らみ、ワクワクしながら実現可能なプランが作れるようになります。これは心理学の名称で「原因論」(*1)「目的論」(*2)と呼ばれています。目的思考で物事を考える時は、未来に向かって今から何ができるか、前向きな発想ができるのです。
*1:原因論とは、心理学者のカール・グスタフ・ユングと精神医学者のジークムント・フライトが提唱したもの。「感情や行動は過去の原因から生み出される」という理論
*2:目的論とは、心理学者アルフレッド・アドラーが提唱したもの。「全ての感情や行動はある目的を達成するために生み出される」という理論

次は、今までで一番視界が開けたコーチングについて

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