【モデリングで未来を描き、リフレーミングで思い込みを変える】~自分らしく能動的に新たな行動を生む方法~
総合格闘競技の世界一を目指すことと並行して、菊野選手は2009年に株式会社KOKKIを立ち上げ、自ら経営を営んでいる。闇雲に会社をスタートした結果、会社内では様々な問題が生じたため、会社についてもコーチングを受けることとなった。コーチングを用いたことで、どのような変化を得られたのだろうか。
抱えていた問題
『自身が立ち上げた会社はどこを目指しているのか。何のためにあるのか』
会社を長く存続させていく上で大事なことは、会社の存在意義を明確にすることである。現役選手である自身をマネージメントするために旗揚げされた株式会社KOKKIは、これまで明確なビジョンを持たずに運営されてきた。格闘家として、試合の結果次第で収益も左右される厳しい環境の下、選手と社長の二足の草鞋を履く生活は大きなプレッシャーとなっていた
菊野選手:自分のマネジントをしたり、色んなことに挑戦して経済力をつけるため、またヒーローを目指すための手段として、2009年に会社を設立しました。ところが、明確な事業計画を持たずに勢いだけでスタートした上に、私も唯一の社員もビジネスに関しては全くの素人。メインの収入は僕の試合のスポンサー料と他力本願で、会社はすぐにピンチに陥りました。別の事業を模索しても、素人二人では当然上手くいかないし、僕は現役選手で事業に関わる時間が無い。さらに僕は東京、社員は鹿児島でコミュニケーションを取るのが難しい。先が真っ暗な状況の中、最初の想いは忘れ去られていきました。僕にとって、経済状況がストレスとなって格闘技に悪影響を与えていると感じたので、昨年の9月に会社についてコーチに相談させて頂き、会社が上手く回っていない大きな原因の一つに、目指す方向が定まっていないことがあると分かりました。
スカイプで社員と会議を行う
解決方法
『会社の存在意義を「ヒーローになるための修行の場」とし、会社として何が出来るかを具体的にした』
会社としてどうあるべきか。自分自身、そして会社の未来のために真剣に向き合った。そして、ぼんやりしていた会社の存在意義を自らの「ヒーローになるための修行の場」とした。
菊野選手:会社がどこに向かうべきか分からなかったので、コーチとホワイトボードを使って、頭の中にある理想の会社の姿を、書き出していく作業を行いました。僕の夢は「ヒーローになること」だったので、会社の意味付けを 「ヒーローになるための修行の場」としました。私の目指すヒーローとは、“強くて優しくて、困っている人を助けられるかっこいい存在”です。格闘技と同じように、きついことや解らないこと、やりたくないことを率先してやって成長しようと心がけ、結果に執着せず、“今ココ”でやるべきことに集中しました。
得られた結果
『会社に対する自分の在り方が明確となり、前向きに試合に挑戦出来る余裕が生まれた。さらに、結果を残すことが出来て相乗効果が生まれた』
会社の存在意義が「ヒーローになるための修行の場」と明確になり、それを社員と共有することで、チームとしてもより一層団結力が強くなった。会社の方向性が分かったことで選手としての自分の状態も良くなる相乗効果を実感した。
菊野選手:会社の方向性が分かり、前に進み出したことでストレスがなくなりました。 今では「ヒーローになるための修行の場」という定義を、会社で物事を決定する際の判断基準にしています。失敗も含めて修行と考えられるようになったので、どんな状況も受け入れられるようになりました。社員にも、会社を「理想の自分になるための修行の場」として考えてもらうようにしたら、お互いに意識が向上していきました。また、本職の格闘競技においても、最近はたくさんの試合に出場し、結果を出してスポンサー収入や物販でも収益を上げることが出来ています。会社としてやるべきことが明確になったので、前向きに試合に挑戦出来る余裕が生まれたのです。会社が良くなることで私の状態も良くなるという相乗効果を生みました。
社員や仲間たちと
コーチ補足
『モデリングで未来を描き、リフレーミングで思い込みを変え、能動的な新たな行動を生む』
阿部コーチ:私たちは普段、たくさんのフレーム(枠)の中からフィルターを通して世界を見ています。例えば、「努力する」ことに対して、「努力は報われるもの」と思う人もいれば、「努力は報われないもの」と思う人もいる様に、思い込みは行動に大きく影響し、起こす行動は思考範囲に限られてしまうのです。その様な時、無意識の思い込みによって自分に制限をかけているフレームを外し、全く異なるフレームを付け替えて、望んでいる成果に向けて行動を起こせるように促す様にコーチングしますが、これを「リフレーミング」と呼びます。菊野選手は、会社のあるべき姿を「ヒーローへの修行の場」と明確に意味付けしたことで、目標に向けて行動を起こせるようになりました。また、タイムラインで理想の会社のイメージを定め、そのために今何が出来るかを考えていきましたが、これは「モデリング」(理想を真似ること)と呼ばれる手法の一種であり、良い手本の動作や行動を真似することによって、自身のパフォーマンスも上がるとされています。
コーチングを始めて1年、選手として最高のパフォーマンスを発揮する上で、いかにメンタルが大切かを実感した菊野選手。彼はコーチングを通して、漠然とした不安の中から要因を見つけ出し、それを克服するためにフィジカルトレーニングを始めた。また、都度状況が変わる「試合」にではなく「己」に克つという普遍性を身に付けた。そして、曖昧だった会社の存在理由を「ヒーローになるための修行の場」と明確にした。これら3つの問題を解決し、現在、次なる一歩を踏み出している。最後に菊野選手にとって成功とは何かを聞いてみた。
菊野選手:死ぬ瞬間に「ヒーローになれたかな?」ってにやって笑うことが僕にとっての成功です。