【問題を可視化させ、認知を変える】~「不安って何?」を理解してポジティブな道へ歩み出す方法~
総合格闘技界トップの団体であるUFC(Ultimate Fighting Championship)と契約し、試合に出場するも、2015年に2連敗してしまった菊野選手。コンディションは良くて自信も十分あったにも関わらず、3月に行われた1試合目は1R 1分31秒KOで敗北し、9月に行われた2試合目では29秒で負けてしまった。自分にはもう格闘技は続けられないのではないかと深く思い悩んだそうだが、コーチングに出会い、手法を取り入れたことで、6連勝を果たしている(2017年1月現在)。コーチングを通して菊野選手にどんな変化が起こったのだろうか。
菊野選手はどんな少年でしたか?
僕は昔から基本的に泣き虫で弱虫のビビリなんです。体は強いのに心が弱かったので、自分より弱い相手をいじめていました。そうしたら、逆に無視されていじめられた経験があります。そんな弱い自分が嫌でとにかく強くなりたくて、ドラゴンボールの孫悟空のようなヒーローにずっと憧れていました。
中学1年生、初めて柔道着を着た時
格闘家になろうと決めたきっかけは何だったのですか?
高校3年生のインターハイ予選で優勝候補として出場しながら、2回戦で1年生に負けてしまい、落ち込んでいました。そして部活を引退して周りは受験モードになる中、僕には夢も目標も無く、不安と焦りでとても苦しい時期を過ごしていました。そんな時に親友2人が「俺らコンビを組んでお笑い芸人になってビッグになる!」と目をキラキラ輝かせて夢を語ってきたんです。あまりの驚きと悔しさに、走馬灯のように自分の中を駆け巡り見つけた夢や目標に対する答えは、やっぱり「強くなりたい」でした。当時、総合格闘技のPRIDEが強さの象徴だったので、「俺は格闘家になる!」とその場で親友に宣言しました。たった数分の出来事でした。
その後は、 どの様にして、プロの格闘家になられたのですか?
まずは鹿児島で空手の世界チャンピオンの木山仁選手(第8回全世界空手選手権大会王者)に師事し、5年間修業しました。2005年、23歳の時に上京し、ALLIANCE-SQUAREに入り、総合格闘家として活動し始めたんです。DEEPやDREAMなどへ出場し、世界中の格闘家達と闘いました。
2007年「DEEP 29 IMPACT 」 VS.上小園琢大 判定勝ち
2009年 「DREAM.10 ウェルター級グランプリ 2009決勝戦」 VS.アンドレ・ジダ TKO勝ち
コーチングはどの様なきっかけで受けることになったのですか?
その後、 2014年に野球で言えばメジャーリーグ、サッカーで言えばセリエAのような世界トップの団体であるUFCと契約し、UFC主催の試合に出場したのですが、2015年に2連敗してしまい、初めて大きな挫折を経験しました。勝たないと中々次の試合に出してもらえないので、それから9ヶ月間ずっと試合に出れなかったんです。その時に、前から知り合いだった阿部コーチにコーチングを受けてみないかとオファーを頂きました。
抱えていた問題
『調子は良いのになぜか勝てない。自分には、もう格闘家は無理なのでは?』
UFCで2連敗した時は “絶対に勝ちたい!”という結果に対する思いが強かったが故に試合時に攻撃に出られない現象が起きてしまった。
菊野選手: これでもかと努力して、調子も良いのに結果が出ない。「俺、もう無理なのかな?」と引退を考えるぐらいまで落ち込みました。なんで勝てないのかが自分でも分からなかったんです。目標の格闘技世界一になるのは無理なのかなと弱気になると同時に、収入の面でも苦しかったです。借金もしましたので人生で初めて不安で眠れない日がありました。
2015年「UFC Fight Night: Barnett vs. Nelson」 VS. ディエゴ・ブランダオン TKO負け
解決方法
『「勝つ」ことに拘るのではなく、自分の一番調子の良い時の感覚にフォーカスした』
最初はコーチングを通して 、「なぜ勝てないのか?」ではなく、「なんで勝ちたいのか?」、「どうやったら勝てるのか?」に意識を向けるようにしたと語る。そして、「勝つ」ということを一旦手放し、「自分の良いところ」や「良かった時」はどのような感覚だったかということにフォーカスを移していき、実際に身体を動かしながらその時の意識状態に戻って、五感の働きを再現化していったそう。「なぜ自分はダメなんだ?」という自己否定から、「今何が出来そう」で、「何がしたいのか」と自問自答することで思考を自己肯定に切り替えていったことが大きな起点となった。
菊野選手:試合に負けて不安に苛まれている時、コーチから“不安な自分は不安な理由を教えてくれる存在”という言葉をもらい、すごく救われました。今までずっと不安な自分と戦っていたけど、この不安な自分こそが僕に必要なことを教えてくれるんだって解釈が出来て。なんで不安なのかを考えていくと、「あ〜、この練習していなかったなぁ」と理由が分かったので、その練習を実際にやっていくと不安な自分が自然と消えて、強気な自分になっていきました。
得られた結果
『「不安」は自分の足りない部分を教えてくれる味方だと捉えることで、マイナスなストレスが無くなり、次の試合に向けて前向きに努力する意欲に繋がった』
勝つことへの執着を手放してから不安な自分も受け入れられるようになった菊野選手。新たに視界が開けたことで、プレッシャーに押し潰されなくなり、今まで手をつけていなかった練習を一つひとつ開始したそう。不安と戦う代わりに、何をするべきかに集中し、行動するようになった。
菊野選手:不安な自分が教えてくれることに目を向け始めてからは、 “今までやろうと思っていて、やってこなかったこと”を率先して行うようになりました。すると、気が付いたら負担なく自然に行動していて、気持ちの部分もプラスに変化していきました。今までは、不安な自分に押し潰されそうになり、精神的にも肉体的にも自分の中で葛藤を起こしていたのですが、 認知が変わったことでそんな葛藤もなくなりましたね。今何をするべきかに集中しているから、気づいたら行動しているんです。具体的に行った練習は、ランニングによるスタミナ練習やキックボクシングのスパーリング、瞬発力・敏捷性・バランス力・反応反射などのフィジカルトレーニング等をやりました。
コーチ補足
『問題を「可視化させる」。そして、負の要素の「認知を変える」』
阿部コーチ:なりたい自分や、理想の未来に向かうために、問題を可視化させて負の要素の認知を肯定的な認知に変えることは、メンタルを鍛える上で極めて重要な作業です。コーチングを始めた当初、菊野選手は「ビビった弱い自分」と「勝たなきゃいけないこと」に常に執着していました。不安が何かを可視化するために、ホワイトボードに書き出してもらい、なぜ不安に思うのかを確認していくと、練習をしていなかったことから不安な感情が生まれていたことが分かったのです。そこで、それらの不安を“自分に今必要なものを提示してくれるもの”と認知を変える様にコーチングしました。
次は、今までで一番視界が開けたコーチングについて