クリエイター達のスペシャルインタビュー。コロナウイルスの影響で受けた打撃や今後の業界の変化、気づいた大切なこと Part 7

2020/05/18

HIGHFLYERSの過去の出演者に、新型コロナウイルスを通して感じたことなどを聞いたスペシャルインタビューPart 7。最終回は、フレンチシェフの吉武広樹、翻訳・通訳・エッセイストのマライ・メントライン、シンガーソングライター/アーティストのAK、能声楽家の青木涼子に話を聞いた。

■吉武広樹 フレンチシェフ

―最近はどんなことをして日々を送っていますか?

4月の緊急事態宣言以降、テイクアウト・デリバリーを行なっており、その調理と配送業務を行なっております。

テイクアウトのボックス。価格は1万円(税込)。詳細はSolaのHPにて

ー人との接触ができない中、オンラインでしている活動があれば教えてください。

飲食店の営業許可だけではできない商品を発送出来るようにする為、調理場を改装し、商品開発と発送準備を進めています。

―あなたが携わっている業界はどのような打撃を受けていますか?

飲食業界の中でも、店舗での食事の提供がメインの業態は、人と会う事、集まる事を制限され、売上がゼロになった店舗も沢山あります。

―その業界は今後どのように変わっていくと思いますか?

飲食業界の中でも、外食産業は各シーンにおいてその意味を求められると思っています。今回の一件で全国の飲食店が、お店の特色を生かしたデリバリーメニュー開発に力を注ぎ、家にいながら各店舗の料理をオーダーでき、その便利さに気づかれたことかと思います。もちろん店舗での食事よりクオリティーは劣りますが、今後も引き続き食事を届けることに対して技術開発は進んでいくと思っています。

―コロナを通して気づいた大事なことはありましたか?

知人シェフからの誘いで、医療従事者の方々への食の支援を行いました。どんな状況下でも日々に食事は必要です。最前線で戦わなければいけない人達が時間の無い中、空腹を満たす為に短時間で適当な食事で済まされていて、そんな一食を少しでも安らぎと栄養補給ができるように、メニュー構成しました。食べて頂いた方々より感謝の言葉と共に、「また現場で頑張れます!」というメッセージを頂き、改めて食の持つ力を気付かされました。

―自分と向き合う時間が長いと、自分がどんなことが好きなのかわかるようになると思いますが、新たに知った自分について何かあれば教えてください。

今回の件でレストランの営業自体は自粛となりましたが、許可申請から商品開発や経理業務など以前以上に仕事が増え、なかなか自分に向き合う時間は無いのが現実でした。ただ新しいことに直面し、従業員と一緒に考える時間が増え、それぞれの考えを聞けたり、より多くのことを共有出来るようになりました。

―コロナが落ち着いたらやりたいこと、挑戦してみたいことは?

創業当初より、「食を通して日々をもっと楽しく」をテーマにしていました。レストランだけでなく、もっと沢山の方々にも「美味しい」を届けたいと思っていましたが、なかなか調整が難しく進んでいなかったので、製造業の許可と共に今後商品開発を進めたい思っています。

―最後に、読者に向けて一言メッセージをください。

今回それぞれの日常において、経験したことのない多くの困難が訪れました。 僕自身も周りを構う余裕も無いくらい、先の見えない不安を感じましたが、多くの方から気遣いや励ましのメール、お客様からは「何でも良いから購入出来るものはありませんか?」という温かいお言葉を頂きました。フランス語の「Solidarité(ソリダリテ)」とは、団結や連帯を意味します。一人では困難なことも皆で協力し、助け合い、困難に立ち向かうことが未来に繋がると思っています。

吉武広樹 過去の記事はこちらより

 

■マライ・メントライン 翻訳・通訳・エッセイスト

―最近はどんなことをして日々を送っていますか?

コロナウイルス問題による外出自粛要請を受け、スーパーに行く以外はずっと家にいたところ、気分的に落ち込み気味になっていくのを感じました。たくさん時間があるからこそ、有意義なことをやろう!と思っていましたが、やる気が全く起きません。「人間は動かないと本当に良くない」と、人生の中で初めて実感しました。そこで、(ジョギングは大の苦手なので)人が密集していないエリアをひたすら散歩して歩いたり、自転車で遠くまで行って戻ったりするようになりました。それでかなり気が楽なりました。

―人との接触ができない中、オンラインでしている活動があれば教えてください。

6月に東京の日独協会と共にイベントが開催される予定ですが、このイベントは半年に一度ぐらい開催されるシリーズで、毎回100人ほど集まります。6月になれば、東京でも緊急事態宣言が解除されるかもしれませんが、大人数が密集するイベントの開催は難しいと感じ、イベントをネットで開催しようと、企画を進めています。最近話題のZOOMを使うのか、別のストリーミングサイトを使うかについてはまだ未定ですが、登壇者も主催者も、そして参加者も全員自宅から参加する形にしようと思っています。

イベントシリーズは「ドドンとドイツ!」というタイトルで、登壇者たちがドイツの最近気になっていることや、ちょっと可笑しくて笑えるところなどをプレゼンする内容になっています。会場での開催なら、ドイツビールやドイツ料理を食べながら参加できるのが魅力なのですが、どうしても首都圏在住でないと参加しづらいイベントではありました。日本はドイツと違い、一極集中型の国で、文化イベントはやはり東京中心が多いですよね。特に「ドイツ」というマイナーな趣味業界になると、地域格差が起きてしまいます。ウェブでのイベント開催なら、全国のドイツファンがイベントに参加できるので良いですし、今までイベントに参加できなかった方も参加できるようになります。コロナで外出や移動の制限があったからこそ生まれた新しい取り組みで、新しい発想も出てきたので良かったと思っています。

―あなたが携わっている業界はどのような打撃を受けていますか?

私が携わっているのはテレビ業界とインバウンド観光業ですが、ドイツのテレビの仕事(番組企画と取材)は現在完全にストップしています。東アジア担当局は北京にあって、特派員たちが4月に武漢に取材に行ってから、ずっと北京の自宅マンションでの隔離が続いています。リモートでの作業はもちろんある程度可能ですが、日本に取材に来ることはできません。

日本のテレビ局での仕事は相変わらず続いていますが、番組作りが大きく変わりました。私が出演しているワイドショー番組「ワイド!スクランブル」では、全員揃っての朝の打ち合わせがなくなり、3人いるコメンテーターたちのうちの1人はスタジオ、1人は別室からの中継、そしてもう一人はSkypeを使ったリモート出演になりました。直接会うことは全くなくなりました。番組内では自分自身が感じたことを述べるだけなら、そこまで問題ではないかもしれませんが、コメンテーター同士の会話と議論はとても難しくなったように感じます。慣れの問題かもしれませんが。ただ、日本のテレビ業界を見て、最近新しいアイディアがどんどん出てきていることから、番組作りを変えてみるチャンスでもあると思います。

最後にインバウンド観光業界ですが、全滅です。将来に向けて頑張り続けるしかありません。取材して記事を書く、または動画を編集する私は過去に取材したものを再編集することでなんとか仕事はできていますが、観光施設の打撃を考えると、気分が本当に暗くなってしまいます。

コメンテータとして「ワイドスクランブル」にリモート出演した時の様子。「カメラアングルが難しかったので、パソコンを夫の雑誌の上に置きました」

―コロナを通して気づいた大事なことはありましたか?

気づいた大事なことというよりも、思ったことがあります。現在、全世界でほぼ同時に発生しているコロナショックというのは、国によって影響が違えども、似たような体験です。つまり、全世界の共通体験です。ドイツと日本で生活していて感じるのは、例えばドイツ人が日本で起きた東日本大震災を「悲惨だ」と思っていたとしても、津波や地震を知らないドイツ人に「実感」はありません。そうなると、ドイツのニュースで日本のことを報じた時にどうしても隔たりがあります。今回は悲しい共通体験とはいえ、「その気持ちわかるわ〜」という感じで、他国との距離が少し縮まればいいなと思っています。

―自分と向き合う時間が長いと、自分がどんなことが好きなのかわかるようになると思いますが、新たに知った自分について何かあれば教えてください。

ドイツ人は自分たちが住んでいる家やマンションが大好きです。私もそのDNAを継いでいて、建築と間取りマニアです。去年、夢が叶い、より広い家に引っ越すことができました。駅からの距離が遠くなってしまいましたが、やはり気分が休まる「基地」が必要だと、今回のコロナ騒動を通じて再確認できました。もちろん家は広くなくても、「快適な基地」にすることは可能です。植物で緑を増やしたり、お気に入りのものをディスプレイしたり、断捨離でものを減らしたり…。特に日本では他人に家の中を見られることが少ないから、出かけた時の遊び、洋服やメイクなどにお金をかけたりしますが、「この部屋最高だろ?!」と、ドイツ人っぽく自慢できるスペースを作るのも大事だと思います。

左:昨年、ドイツから両親がわざわざDIYの為に来日し、一緒に作った棚の一部 右:その後、天井の高さに合わせて、ホームセンターで買った天板を追加し、カスタムメイドの本棚が完成

―コロナが落ち着いたらやりたいこと、挑戦してみたいことは?

日本の日常生活や、黄金ルート(東京〜京都)以外の観光地と日本の地方をもっとドイツ人に紹介できればとずっと思っていて、コロナが落ち着いたら、それを実現する方法を模索し、取材しに全国をまわりたいと思っています。

―最後に、読者に向けて一言メッセージをください。

コロナショックは確かに深いし、生活が心配な方も多いと思います。楽しみがなくなってしまったほか、当たり前の日常の「ちょっとした変化」が重いストレスになりがちなのをどうコントロールするか、という点が重要だと感じます。今はテイクアウトやウェブを使ったサービス(映画館によるウェブ上映)などが一気に増えたから、新しいことにチャレンジしやすい時期でもあります。そこで「できなくなったこと」を、「もともとやりたかったこと」と上手く交換できれば、変化を望まない自分の脳を上手く騙せるかもしれません(笑)。

マライ・メントライン 過去の記事はこちらより

 

■AK   シンガーソングライター/アーティスト (NY在住)

―最近はどんなことをして日々を送っていますか?

ニューヨークではやっと少し感染者が減ってきて、5月15日にニューヨーク州の郊外、アップステイトなど一部の地域は職種によって再開することが決まりましたが、私の住むニューヨークシティは”Stay at Home”自宅待機命令が6月13日まで延長され、まだ危機感が高い状態です。私も完全に外出禁止で家で過ごして、2ヶ月が経過しましたが、さらに3ヶ月目のスタートとなりました。さすがにかなり外が恋しいですが、自宅にいられるのはとてもありがたいことだと思っています。毎日命がけでエッセンシャルワーカーとして働かれている看護師、ドクター、病院、スーパー、デリバリー、地下鉄、バス、清掃員、警官、消防士のためにも、外に出ないことで誰かの命が助かるなら…と外出を控えています。

そして、こんな状況でなかったらまずなかったことは、毎日ストレッチと軽いエクソサイズを主人と一緒に始めたことです。これが楽しい!主人はDJなので、いつもなら海外ツアーなども頻繁にあり、なかなか一緒にゆっくり過ごす時間はなかったので、二人で一緒にいる時間が増えたことも嬉しいですし、一緒にできることが増えたのも嬉しい。一緒に体操をする、そういった日常のささやかな小さな幸せに感謝するばかりです。

また、毎日夜7時になると、窓の外は拍手と喝采の嵐になります。ニューヨーク中がみんなで最前線で命がけで働かれているエッセンシャルワーカーの方々へ感謝とリスペクトを込めて大声援を送っているんです。もちろん私もします!私の家の前はイーストリバーですが、近隣の喝采だけでなく、川を越えてマンハッタン中からの大声援が鳴り響いて聞こえるほど。声援を送る時に、みんなと一体感を感じられるのも、誰とも会えない今、1日に一度だけでもライブでみんなで繋がれる一体感の喜びの時間です。その瞬間はなるべく毎日ビデオで撮ってインスタのストーリーズにアップしています。

―人との接触ができない中、オンラインでしている活動があれば教えてください。

今やグローバルで多くの人がZoomやFacetime、スカイプなどでグループビデオチャットをしていますが、SNSやストリーミング、ライブビデオも含め、オンラインの楽しみ方や、コミュニケーションは今後バリエーションがもっと増える気がしますし、オンラインでしかできないことの可能性は無限に広がっていると思います。この間Zoomで背景を”春”をテーマにみんなでビデオチャットしたのですが、私はイギリスの草原と青空の下、春の花があふれる背景の中でみんなと会いました。”次はパリで会おう”とか、”夏が来たら海に行こう”とか盛り上がり、テーマを決めて会えるのも新たな楽しみです。

仕事でのオンラインコミュニケーションとしては、私も今いくつかの新しいオンライン機能をトライし始めているところなので、できるようになったらいろいろスタートしたいと思います。新しい機能を覚えるのは大変ですが、今こそ新しいことにチャレンジしたり、シフトできる大きなチャンス。この機会にたくさん学んでチャレンジしたいと思っています。コミュニケーションの形は変わっても、人が人を求める気持ちや、心が通う瞬間の喜びは変わらないと思うのです。会えなくても人の温もりを感じられるようなオンラインコミュニケーションをなるべくしたいと思っています。

―あなたが携わっている業界はどのような打撃を受けていますか?

音楽業界、エンターテイメント業界は、とても厳しい状況と向き合っていると思います。コンサートやライブは全てキャンセル、フェスティバルも、DJパーティも、クラブも、ブロードウエイも全てクローズ、いつ再開するかもわからない状態です。再開しても、前のように混み合った場所でハグしたり手を繋いで踊ったりできるのだろうか…。今はまだ未来は見えませんが、人が自由に触れ合い一体感を共有できる時間が戻ることを願ってやみません。現在、私は自分自身のニューアルバムのレコーディング制作途中ですが、スタジオでのミュージシャン達とのセッションなどは完全にできなくなってしまいました。幸い、私は詩、曲、サウンド全て自分で作るので、普段から自宅スタジオでセルフレコーディングをすることも多いため、この自宅待機期間を”制作に集中するべき”と自分に言い聞かせて出来る限りのことをしています。

―その業界は今後どのように変わっていくと思いますか?

音楽を一人で聴いて楽しむのと、たくさんのオーディエンスと一緒に高揚して体感して楽しむのは、また違う喜びと感動の体験。いろんなことができなくなりとっても寂しいですが、同時に、アーティストはみんな新しい可能性を模索し始めていると思います。そしてきっとオンラインでも一体感をより身近に感じられる何か新しい形が生まれる気がします。

―コロナを通して気づいた大事なことはありましたか?

ひたすら、”今日を生きれたことに感謝”の毎日です。そして、家族、友達、愛する人、大切な人に、”今伝えられることは伝えよう”と思うようになりました。人生は短く、命はたったひとつしかなく、人生の喜びや感動を分け合える”この人”がいることは、今しかないかもしれないって。なので、”いつか伝えられる”なんて思わず、”今”伝えています。そして今まで当たり前だったことが、どれほど貴重なことだったかもひしひしと感じています。一方で、今まで体験したことのない大変な毎日、未来が見えない不安な毎日が続く中、誰もが気づかないうちにストレスを溜め込んでいる気もします。

そんな中、できるだけ物事の良いところや、小さな喜びや感動を見つけて、たくさん笑って、たくさん感謝する毎日にしたいと思っています。人類は試されている気がします。この危機からからたくさん学べることがあると思います。“私達みんなのHOME”である小さな美しい地球のためにも、自然や地上の全ての生き物と共存しながら、調和しながら、この危機を一緒に乗り越えられるよう願ってやみません。みんなで知恵を出しあい協力しあい助け合えば、今よりもきっとより良い未来へ導くことができる、どんな暗闇にいても光は必ず照らしてくれると信じています。

―自分と向き合う時間が長いと、自分がどんなことが好きなのかわかるようになると思いますが、新たに知った自分について何かあれば教えてください。

音楽制作に煮詰まると料理が癒しになるくらい好きなので、今まで作らなかった手のこんだ料理もトライ中です。特に今は甘いものが食べたくて、デザート作りにかなり熱が入っています。外に出られないので春を感じたくて、先日、苺のショートケーキをグルテンフリー、デイリーフリーで作りました。とっても癒されて、おいしかった。クリームはココナッツミルクで作っています。

―コロナが落ち着いたらやりたいこと、挑戦してみたいことは?

今一番恋しいのは、やっぱり友達とのハグ、そして仲間やコミュニティで集まって一緒に共有する時間。それはとっても貴重なことなんだと痛感しています。今までと同じ”普通”は戻らないかもしれませんが、新しい”普通”が戻ってきたら、今まで以上に家族や友達、コミュニティを大切にしたいと思っています。また、今、世界中で人が外出を控えていることで、空気がきれいになっていると聞いています。地球にとってとても良いことですよね。落ち着いたら自然にもっと触れたいと思います。青空や太陽の光、風、水、緑やお花、海…すべてが恋しい。改めて常にそこにいてくれている貴重な自然にも心から感謝しています。

―最後に、読者に向けて一言メッセージをください。

不安な毎日、今までと全く違う毎日が長期で続いていますが、世界中、誰もが今同じ状況にいると思います。”Socially distanced, but spiritually connected” 離れていても心は繋がっている。今こそ同じ空の下、愛を送りあって、心を寄せて、お互いを助け合い支え合って、一緒に乗り越えましょうね!love, AK

AK 過去の記事はこちらより

 

■青木涼子 能声楽家

―最近はどんなことをして日々を送っていますか?

私は「能声楽家」として、現代音楽の作曲家と共に、能の声楽である「謡」を素材にした新しい楽曲を発表してきました。3月のニューヨークでの細川俊夫作曲オペラ《二人静—海から来た少女—》を皮切りに、エストニアでの新作舞台公演、マドリードでスペイン国立管弦楽団と共演というワールドツアーの予定でしたが、ニューヨークでの公演を無事に終え、エストニアに移動したところで、残りの公演すべての中止が決定し、急遽帰国しました。

最近は外出自粛の中、音楽業界も配信が盛んになっているので、リサーチも兼ねてよく観賞しています。お気に入りは、ヴァイオリニストのダニエル・ホープがベルリンの自宅から毎晩お届けするHope@Homeという番組で、独仏共同出資のテレビ局Arteのサイトで見ることができます。有名指揮者、演出家などの豪華ゲストと共に、彼の自宅でのコンサートに招かれたような気分になれ、Stay Home中にぴったりな企画だと思いました。他にも世界中のオペラハウスやオーケストラが映像を公開しているので、音楽ファンは毎日忙しいのではないでしょうか。

―人との接触ができない中、オンラインでしている活動があれば教えてください。

港区文化プログラム連携事業として助成金で委嘱してきた謡の新曲の世界初演の動画をYouTubeチャンネルで公開しています。公的資金で可能になったものなので、できるだけ皆さんに公開して、外出自粛中の自宅での時間に楽しんでいただければと思います。また、能は疫病の終息を願い奉納されてきた歴史があります。その祈りの芸能とも言える「能」の謡の曲を作ってくれた作曲家たちが世界にはいます。彼らが作曲してくれた謡の曲を、演奏活動を行ってきたヨーロッパの国の人々に向けて、隔離生活を行う演奏家と共に奉納するオンライン演奏会「新型コロナウイルス終息祈願のための能声楽奉納」を企画しています。今こそウィルスの終息を願い、世界の音楽家と共に謡の曲を奏でる時だと思います。

―あなたが携わっている業界はどのような打撃を受けていますか?

音楽業界は、全世界例外なく休業状態です。オーケストラはリハーサルも公演も密状態なので、すぐに元通りに戻るのは難しそうです。再開できても、コロナが終息するまでは社会的距離を取ったコンサート会場の席配置などを考えていかなくてはなりません。この状態が続くと経済的に大変厳しい状況になると思います。

―その業界は今後どのように変わっていくと思いますか?

世界でコロナをきっかけに新しい価値観が生まれてくると思います。芸術の世界もペストの後にルネサンスが生まれたように、素晴らしい芸術が花開くかもしれません。そのためには、今までの常識、慣例にとらわれず、柔軟な発想で行動を起こしていかなければと思います。コロナが終息するまでは、配信などオンラインでできることが中心になるので、遠隔地での演奏、録音に挑戦する人も出るかもしれません。コンサートも少ない人数から再開することになるでしょう。もしかしたらホームデリバリーコンサートなども考えられるかもしれません。イギリスのオペラ・ハウスはドライブインシアターを計画してるとも聞きました。大変な中ではありますが、面白い動きが生まれてくるといいですよね。

―コロナを通して気づいた大事なことはありましたか?

海外公演が多い生活をしていたので、家にいることが最初は新鮮で、料理や読書をしたり、普段なかなか時間を使えないことに使えて、とても良い機会でした。しかし、そこから世の中の動きに目を向けると、大きな変化に呆然とします。今まで普通に行動できていたことが、突然全て禁止され、行動が制限される。価値観の転換期にいるんだなと思います。

―自分と向き合う時間が長いと、自分がどんなことが好きなのかわかるようになると思いますが、新たに知った自分について何かあれば教えてください。

YouTubeに動画を上げたり、新しく配信を始めようと機材を買って準備をしています。テクノロジーは得意じゃないので、これまではそれを言い訳に後回しにしてきたのですが、今は時間があるので挑戦しています。得意にはまだなりませんが、一つずつできるようになったり、新しいことを知るのが毎日楽しいです。

マイクはオーディオテクニカを使用

―コロナが落ち着いたらやりたいこと、挑戦してみたいことは?

3月にできなかったマドリードでのスペイン国立管弦楽団との共演を果たしたいです。スペイン人の作曲家が私のために書いてくれた、合唱付きの大きなオーケストラ作品の世界初演で、ソリストとして歌うことになっていました。夢だったので、キャンセルになって本当に残念です。また海外公演のツアー先で美術館に行ったり、地元の市場に行ってその土地の物を味わったりするのが大好きなので、早くそういう機会が戻ってほしいです。

―最後に、読者に向けて一言メッセージをください。

まずは残念ながらお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りします。そして、医療従事者の方々、ライフラインに必要なお仕事をなさっている方々に感謝の気持ちを伝えたいです。行動を変えないといけないこの時代、大変なことが多いですが、新たな挑戦と捉え、寛容な気持ちで前向きに進んでいければと思います。健康第一で一緒に頑張っていきましょう!

青木涼子 過去の記事はこちらより

世界中の人々に、あらゆる面で多大な影響を与えたコロナウイルス。クリエイター達の想いを聞いてきたが、それぞれが自分にできることを考え、行動に移している様子が伝わったかと思う。今後もどんなクリエイティビティやサービスが生まれてくるのか、期待を胸に寄せつつ、引き続き気を引き締めていこう。

Part 1Part 2Part 3 、Part 4  Part 5  Part 6 はこちらより