クリエイター達のスペシャルインタビュー。コロナウイルスの影響で受けた打撃や今後の業界の変化、気づいた大切なこと Part 3

2020/05/08

HIGHFLYERSの過去の出演者に、新型コロナウイルスを通して感じたことなどを取材したスペシャルインタビューPart 3。今回は、製硯師の青栁貴史、ジャズトランペッターの黒田卓也、デザイナーのグエナエル・ニコラ に話を聞いた。

■青栁貴史 製硯師

―最近はどんなことをして日々を送っていますか?

案外在宅を満喫しており、こと手紙をよく書いて楽しんでおります。相手に「会えない」という状況は、今が初めてではありません。距離の問題や世の事情などを踏まえれば、戦国時代、戦時中など、どの時代にも長い歴史上よくあった状況です。同じく会えない今、肉筆の手紙は言葉や思いを「物理的」に伝えられる唯一の手段でありましょう。ちなみに今手紙を出す時には必ず文香を入れます。当時手紙に香りをつけた人の発案に大変納得させられるものです。肉筆と香のコンビネーションは古き良き手段で、今こそオンライン〇〇では達成出来ない「人との新しい会い方」と言えるかもしれません。

最近書いた手紙の一つ

―人との接触ができない中、オンラインでしている活動があれば教えてください。

動画配信です。苦手意識がありましたが取り組みました。「硯の使い方」「硯の研ぎ方」など、手入れや使用のコツについての動画を製作、配信しています。その道のプロフェッショナルが配信する映像が、視聴者の方の生活に豊かさをもたらし、実生活をアップグレードするものであってほしいと願って始めました。

―あなたが携わっている業界はどのような打撃を受けていますか?

文化、芸術の分野は全域に渡って一定の影響を受けています。美術館の開館自粛によって作る人、観る人が、今まで通り美術館、展覧会場を利用できなくなっています。一番の懸念はこれによって引き起こされる「作る人の制作意欲、見る人の感動体験」の停滞です。これは歯止めをかけなくてはいけません。

―その業界は今後どのように変わっていくと思いますか?

そもそも美術館という場所は足を運んで作品と向き合う場所です。この存在と手段は変わることなく残るべきものです。しかし今の時世、芸術と向き合う新しい場所の創出は必要でしょう。時代のせいで変わってしまった、ではなく、変わっていく提案を僕なりにしようと思います。5月21日から在宅美術館「Home Museum」を公開する予定です。家にいながら芸術と向き合える場所の設立で、簡単にいえばオンライン美術館です。しかしながら課題はあります。人間の目は8K相当と言われています。すべての観覧者の方に物理的美術館と同じ8K閲覧環境を整えることは現在では出来ませんし、美術館の目的である到達感動指数同等の体感を得られるインフラ整備は作れません。

ここで肝心なのは美術館との共存です。映画観賞で例えてみましょう。美術館に行くことを仮に映画館で本編を見る行為とします。在宅美術館はネット環境で観るディレクターズカット版といったところです。本編を観ることもできますが、他にも作者のインタビューや作品解説を得ることもできます。肝心な点は見どころや伝えたいことを明確に示せる点で、初学者であっても迷子になることなく楽しめる道標を設ける演出の工夫が自由にできることです。また、閲覧環境も全世界になり、国境がありません。

今の時世に絞り出したその場しのぎの発案で留まることなく、互いの特性を活かした共存手段に進化出来れば文化、芸術への新しい携わり方になる可能性があります。先ずは2020年5/21~6/21(予定)の間、全国巡回展を予定して、中止になった青栁貴史の硯展「日々」を在宅美術館「Home Museum」で開催したいと思います。そしてコロナの雨があがった頃、美術館で今一度開催することで、「Home Museum」を観た方が訪れてくださったとしたら、作品を通した感動体験に変化が起きることを願っています。

―コロナを通して気づいた大事なことはありましたか?

自由の中で自由を実感するのは難しいものです。制限があると、人はより自由の創出に工夫するものでもありましょう。物は豊富で、時間も速くなっていった便利で自由を追い求めた現代、私たちは次の生き方を工夫する機会を与えられているのかもしれません。

―自分と向き合う時間が長いと、自分がどんなことが好きなのかわかるようになると思いますが、新たに知った自分について何かあれば教えてください。

変わらず籠城して硯を作り続けている毎日です。相変わらずそれしか能がない偏った者だなあと、こう綴ってみてよくわかりました。

―コロナが落ち着いたらやりたいこと、挑戦してみたいことは?

山修行です。僕は2020年2月、宮城の山中に第一号の「山硯」を作りました。山から石を切り離さず、自然景観との一体化をはかりながら斜面に硯を作る挑戦です。山の景色、時間、温度、すべてを硯に導いてみたかったのです。完成した山硯で墨を磨り、字を書いた仲間たちの高揚した表情から、成功を実感できました。次は日本列島にある様々な山の中に「山硯」を作りに出かけたいのです。大変に過酷な自然環境下もいいですね。作りに行くのはもちろん、磨りに行くのも大変な場所。そんな大自然の中で待っている硯が、訪れた人々にその人だけの唯一無二の傑作を生む場となってくれることを願って取り組んでまいります。

山硯製作の様子と完成後に墨をすって書いた作品 撮影:齋藤芳弘

―最後に、読者に向けて一言メッセージをください。

我々クリエイターはものづくりを止めてはいけないと思うのです。できない理由を探すのではなく、できる方法を探し続けましょう。きっとそれは今までの日常であれ、現在の有事であれ変わらない取り組みです。2020年の出来事に変えられてしまったではなく、2020年の出来事を機に我々はこのように変えたと、胸を張って歩んでまいりましょう。

青栁貴史  過去のインタビューはこちらより

 

■ 黒田卓也 ジャズトランペッター(NY在住、*現在は日本に滞在)

―最近はどんなことをして日々を送っていますか?

練習したり、曲を作ったり、ジョギングしたり、料理したりと、よく考えたらいつもとあまり変わらないです(笑)。

練習の様子(左)と最近作ったコロッケ(右)

―人との接触ができない中、オンラインでしている活動があれば教えてください。

もともと今年に入ってからやろうと思っていた、好き勝手に喋るpodcastをついに第一回目がアップできたので、今後も引き続きやろうと思っています。音楽的なものもアップしたいですが、今色々と考えています。

―あなたが携わっている業界はどのような打撃を受けていますか?

おそらくは最も打撃を受けた業界の一つではないでしょうか?ライブが全くできなくなってしまいました。3月10日にニューヨークでライブして以来、仕事という仕事はやった記憶がないです。年内に予定されていたツアーやコンサートも目処が立っていません。何より5月6日に発売予定だったアルバムが延期されたので歯がゆい気持ちはありますが、気持ちはブレずに行きたいです。

―その業界は今後どのように変わっていくと思いますか?

そうならないように願うばかりですが、もしこの状況が日常になるのであれば、 どのように音楽を伝えていくか、どうのように音楽を受け取っていくかをいろんな方法で考えていかないとと思います。

―コロナを通して気づいた大事なことはありましたか?

普段なら激しくエネルギーがぶつかりうごめく業界にいて、考える間もあまりなく取捨選択をしてきたと思います。コロナ以降、収入がなくなり時間だけができてしまう状況ですが、時代の常識や業界、力を持つ人の波のようなものにぶつかることもないので自分にとっていろんな心の整理整頓ができているなと思いますし、その時間はとても大切だと思います。

―自分と向き合う時間が長いと、自分がどんなことが好きなのかわかるようになると思いますが、新たに知った自分について何かあれば教えてください。

ほとんどの友達が結構な怪我を経験していたので敬遠していましたが、自転車っていいなぁと今回思いました。普段からツアーライブもない時は家にいる時間が多いので、いつもしていることをさらに毎日やっているという感じです。

―コロナが落ち着いたらやりたいこと、挑戦してみたいことは?

溜まりに溜まっているやりたかったことを片っ端から早くやりたいですね。音楽のことが多いですが、温泉にも行きたいです(笑)。

―最後に、読者に向けて一言メッセージをください。

アルバムリリースが延期になってしまいましたが、色々と発信していきますので一緒に頑張っていきましょう!

黒田卓也 過去のインタビューはこちらより

 

■グエナエル・ニコラ デザイナー

―最近はどんなことをして日々を送っていますか?

時間がたくさんできましたが(実際にはそんなでもないですが)、無駄に過ごさないようにしています。今まで忙しかったり怠けすぎたりして、これまで先延ばしにしていたことを始めました。ニコンのとてもいいカメラを買ったので、写真をいろいろ撮ってみたり、自分のデザイン手法の草稿を書いたり、娘たちとベーグルやタルトタタンを作ったりしています。

娘たちと作ったベーグル

―人との接触ができない中、オンラインでしている活動があれば教えてください。

イタリアやフランスなど、コロナで大きな被害を受けた国に住んでいる友達に連絡を取りました。今はオンラインですぐに繋がれるので、とてもいいですね。また、仕事でのやり取りはLINE WORKSを使っています。このような状況でも、リモートでいろんな活動を続けられることがわかったと思いますが、休日に関して言えば、以前と比べてオフラインの時間の方が増えました。その証拠に、私のベッドルームはたくさんの本で溢れかえっています。

―あなたが携わっている業界はどのような打撃を受けていますか?

これから受ける打撃を今予測するのは不可能だと思いますが、これまで以上に率先して私たちの活動を多様化させていかなくてはいけません。プロジェクトやチャンスが来るのを待つのではなく、他のクリエイティブやファイナンシャルのプロダクションとコラボをするなど、自らがチャンスを探して事を起こしていかないといけないと考えています。また、考えもしなかった新たな人との出会いを築いて、自分のアイデアを実現できるような、最高なチーム作りをしていくことも大切です。これからは、“普通”ではなく“極限”が求められる時代。これまで見逃していたかもしれない身近にある人やものにも目を向けながら、世界的なマインドを持って好奇心を常に向上させていくべきです。

―その業界は今後どのように変わっていくと思いますか?

保守的になったり、成果を求めて過去に戻ろうとするのではなく、こういう時こそ、前に不可能だったことなどを改めて考え直し、新たな選択をするべきです。私たちの世代は現在の遺産に責任はありませんが、次に何が起こるかについては責任があります。

―コロナを通して気づいた大事なことはありましたか?

私が携わる、クリエイティブ、インテリアやプロダクト、建築などの業界は、アイデアが全てですが、そのアイデアを社内やクライアントとコミュニケーションを取りながら交換することができないのはとても大きな痛手となります。同じ場にいれば、言葉やボディランゲージ、顔の表情などから自然と相手を理解することができますが、それができないと、相互の作用が上手くいかず、想像力に欠けた面白味のないものしか生み出せなくなってしまいます。

そこでチームスタッフがアイデアやスケッチを欠かさない為にも、私はコミュニケーションツールを作りました。3Dで空間を確認するために新しいソフトを勉強したり、ペンと紙を使った、いわゆるスケッチの見せ方を学び直したり。数枚のイメージと言葉による効果的なコミュニケーション、まるで広告のように。これは社内の仕事のためですが、外部とのコミュニケーションにも対応できると思っています。問題は、アイデアをどのように発展させていくかで、私は、キュリオシティデザインのクリエイティブなプロセスについて、今後本を書こうと思っています。

―自分と向き合う時間が長いと、自分がどんなことが好きなのかわかるようになると思いますが、新たに知った自分について何かあれば教えてください。

とてもおかしいことに、以前は過去のあらゆることに対して不安や心配な気持ちが絶えなかったのですが、なぜか今は平穏で、他人への思いやりの気持ち、理解力も増しています。

―コロナが落ち着いたらやりたいこと、挑戦してみたいことは?

たくさんありますが、自由にどこにでも行けると分かれば、3日間は家にいたいです。

―最後に、読者に向けて一言メッセージをください。

今は将来の大きな計画を立てるのにも良い時かと思いますが、まずは日々の大切なことを、心豊かにしてくれる人たちと一緒に過ごして楽しんでください。

グエナエル・ニコラ  過去のインタビューはこちらより

 

Part 4もお楽しみに! Part 1Part 2はこちらより