クリエイター達のスペシャルインタビュー。コロナウイルスの影響で受けた打撃や今後の業界の変化、気づいた大切なこと Part 5

2020/05/13

HIGHFLYERSの過去の出演者に、新型コロナウイルスを通して感じたことなどを聞いたスペシャルインタビューPart 5。今回は、作曲家の林ゆうき、グラフィックデザイナーの長嶋りかこ、タイ・バンコクで活躍するラッパー、Da Boy Wayに話を聞いた。

 

■林ゆうき 作曲家

―最近はどんなことをして日々を送っていますか?

基本的には特に何も変わっていません。以前から自宅スタジオで楽曲制作をしており、自宅での作業はもう10年以上やっていることなので慣れております。朝早く起きて、犬の散歩をして、勉強して、仕事して、子供と遊んでお風呂入って、晩酌して寝る。だいたいこんな感じです(笑)。

―人との接触ができない中、オンラインでしている活動があれば教えてください。

楽曲制作自体は自宅でずっとやっていたので、大きく変わったのは仕事の打ち合わせで直接会うことが無くなったことでしょうか。年間で考えると何十件もある打ち合わせの移動時間が無駄でしたし、直接会うことの必要性をずっと感じていなかったので、その分の時間を楽曲制作にあてられて、とても良いです。その代わりにZoomなどでオンラインミーティングをやるようになりましたが、画質や音質がしっかりしていないと相手の表情を読み取れなかったり、反対にこちらが伝えたいことが伝わりにくくなるなと思い、Webカメラに一眼レフカメラ、マイクも高音質のコンデンサーマイクに切り替えました。これにより大分ストレスなくコミュニケーションができるようになったと思います。

左:SIGMA fp。usb-cでそのまま接続できるので便利 右:audio technica (オーディオテクニカ) のコンデンサーマイク

―あなたが携わっている業界はどのような打撃を受けていますか?

アニメも実写も、どちらも思うように収録ができないので新作の制作に歯止めがかかっていると思いますが、少なくともしばらくはこのスピード感は変わらないないかなと。僕らのような作曲家はまだいいですが、現場のミュージシャン、エンジニア、ライブ制作のスタッフ等はかなり打撃を受けていると思います。スタジオで録音することが難しいので、多くのミュージシャンは宅録をできるように機材を購入されたりしています。

―その業界は今後どのように変わっていくと思いますか?

今までと同じような状況に戻ることはないと思いますし、変化は必然だと思っています。例えば、今までのアニメのアフレコ現場は沢山の声優さんが集まって狭い室内で録音したり、劇伴の録音も、ストリングスなどは密集した中で行われていましたが、録音の仕方、ミックスでの処理の仕方を含めて今までとは違ったアプローチが求められるのは間違いないと思いますし、そこから新しいモノが生み出されることを期待したいなと思っています。

―コロナを通して気づいた大事なことはありましたか?

制作側からの番組の延期を伴い、締め切りが延びる連絡がくることが当たり前になってきました。そしてそれに伴い、自分の時間、家族といる時間がとても増えました。以前はなるべく多くの作品数をこなすことを心掛けていたので、仕事に追われ、子供と遊ぶ時間が少ないと思っていたのですが、最近は適度な仕事量に抑えるようにできるようになりました。自分が忙しいと心の余裕がなくなり、子供たちにへの対応まで変わってしまっていたのだなと、時間にゆとりができてから改めて実感しました。

―自分と向き合う時間が長いと、自分がどんなことが好きなのかわかるようになると思いますが、新たに知った自分について何かあれば教えてください。

最近は自宅スタジオをより良い空間に変える作業がとても楽しいなと改めて感じております。具体的にはUSBケーブルを使いやすいものへと変えたり、インテリアの色味が合っていなかったものを自分好みのものへ塗り変えたり、子供の秘密基地を作るのを手伝ったり(笑)、改めて空間やモノを作ることが改めて好きなんだなと感じました。

子供達とインテリアを塗り替えたり、秘密基地を作ったりして楽しんでいる

―コロナが落ち着いたらやりたいこと、挑戦してみたいことは?

思ったより今の生活に不満はないのですが、やはり自由に人に会いたいし、行きたいところへ行きたいです。友人に会ってお酒を飲んだり、お店に気軽に行ったりしたいですね。

―最後に、読者に向けて一言メッセージをください。

僕は、医療従事者の方々のように身体を治したり、飲食店の皆様のようにお腹を満たすことはできませんが、僕にできることを続けていこうと思います。家にいる時間に好きな映画や、アニメ、ドラマを楽しんでもらえるように、これからもより良い音楽を作っていきたいと思っています。

林ゆうき 過去の記事はこちらより

 

■長嶋りかこ グラフィックデザイナー

―最近はどんなことをして日々を送っていますか?



夫やスタッフに協力してもらい、仕事と子どもの世話を皆で交代しながらやっています。

―人との接触ができない中、オンラインでしている活動があれば教えてください。

ペースはゆっくりになりましたが、粛々とオンラインで仕事をしています。一年半前の出産後から半オンラインのような仕事の仕方をしていたので、完全オンライン化への移行はスムーズでした。というのも産後3ヶ月目に事務所での仕事をスタートしたので、赤ちゃんの世話をしながら仕事ができるようにスタッフの作業エリアと私の保育エリアを分け、対面の必要があるもの以外のやりとりは基本的にオンラインで行っていました。

―あなたが携わっている業界はどのような打撃を受けていますか?

基本的には受注ありきの業界なので、他業界が止まれば受注も止まるため、ペンディングや中止も多いのではないでしょうか。私の場合は、現在美術館やギャラリーの展示告知物のいくつかが制作まで終わっているものの、展示自体が延期になっているのでリリースがペンディング状態です。進行中のプロジェクトは、そのままクライアント含め皆粛々と自宅にてリモートで進行していますが、新規の受注仕事は今後減ると予測しています。

―その業界は今後どのように変わっていくと思いますか?

今は、今後どういった対象に自分がデザインという行為をするべきかを考える時間(もしくは実行する時間)になっていると思います。その時間を経て、受注ありきではなく主体的に社会に提案していくような動きが増えていくのではないでしょうか。

―コロナを通して気づいた大事なことはありましたか?

私は3月末から25日間ほどコロナと疑わしい症状が出ていました。(当時の症状の経過は、本人のFacebookでシェアしていた)もう回復しましたが、渦中は結構不安な日々でした。私はたまたま軽症で済みましたが、世界中で無機質にカウントされる死亡者や重症者の数ひとつひとつには本人やその家族の悲しみや憤りや不安がつまっていることを、他人事ではなく感じています。

一方で周知の通り、大気汚染の改善など自然環境に良いことが起きています。コロナがもたらしているものが決して悪いことだけではないように、自分にとっても同じく良い機会にもなっています。

まず、20年弱も私がおろそかにしてきたことを、一番大事なものとして考える恰好の機会になりました。それは、”しっかり寝て、きちんと食べる”こと。特に子どもが生まれてからは、仕事のせいで育児の時間を削ることは出来る限りしたくなかったので、削るならば睡眠でした。ところがコロナの感染疑いがあったことで、出来るだけ自己免疫力をあげる生活を心がけるように。朝起きて疲れを感じない睡眠時間が何時間なのかを試してみたところ、自分の場合はしっかり8時間必要だということが分かり、それからは毎日出来るだけキープしてたっぷり寝ています。

それ以前は、事務所で子どもを寝かしつけてそのまま仕事を続けていたので、大体5時間くらい(しかも夜間授乳があるのでこの間に2~4回起きる)で、疲れが全く取れず、毎朝起きて開口一番に「疲れた…」と言っていたくらい。その疲れはもはや歳のせいだと思っていましたし、仕事と育児の両立のために睡眠や食事は真っ先に削っていたんですが、それを一切やめ、仕事と育児を”体も心も健全に”両立させるために、自分に必要な睡眠時間と食事は絶対にキープし、余った時間で仕事をする、という考えに変えました。そのように、健全な両立を実現するための仕事量で良いと思えるようになったことも大きな変化です。産後から正直ずっと無理はしてきました。感染疑いになる前の数週間も、丁度いくつかの入稿が重なり、徹夜が続くなどして睡眠不足だったので、かなり免疫力も落ちていたんだと思います。

限られた時間を自分にとって意味のある大事な仕事に使いたいと思うと、前の質問でも答えたように、改めて自分はどういう対象にデザインという行為をしたいのか、するべきかを考えるようになりました。もともとデザインがもたらす環境負荷(産業によって出てくる廃棄物など)に対して自覚的だったので、使用する素材は廃棄物をデザインに取り込み使用したり、環境対策のあるマテリアルを選んだり、そもそも廃棄が出ないデザインをするなど、出来るかぎり環境負荷を減らすことを考えながらやっていたのですが、今回のことで、環境に対し自分の職能でできることをもっと、という気持ちが強くなっています。

本来健全な土壌とそれによる微生物をはじめとした自然環境と共生する環境であれば、ウイルスは拡散することなく土に吸収され土の中の微生物と共生関係を結んでいくにも関わらず、コンクリートで覆われた都市空間ではウイルスは長く生き延び吸収もされずに拡散される(船橋真俊氏「表土とウイルス」より)のならば、近年身を以て感じる気候変動とそれによる食糧危機や異常気象や今回のようなウイルスの蔓延を思っても、健全な土(と微生物の多様性、そして自然環境)と関係を結ぶ暮らしが未来のためにいかに大切かを、危機感を持って感じています。

産業がもたらす自然環境への影響を思うと、社会全体がコロナ前に戻すことに躍起になって、より過度な経済活動が起こることを危惧していますが、あり得ることだと思っています。東日本大震災後に自然への畏怖の気持ちを抱いた人は多いと思いますが、その気持ちを同じ鮮度で覚えていられないのは、人間は忘れる動物だから。だからこそ、自分ができることは今から定着させていきたいと思っています。

―自分と向き合う時間が長いと、自分がどんなことが好きなのかわかるようになると思いますが、新たに知った自分について何かあれば教えてください。

家に篭るのは元々の気質だったことを思い出しました。あまり苦ではなく、居心地がいいです。あと私は育児が好きなんだなと思いました。仕事が緩やかになったことで得られる子どもとの時間は本当に嬉しいです。特に毎日子どもと一緒になって絵を描く時間が大好きです。

子どもとの合作。「子どもは線になる前の線のような線を引くので、凝り固まった私をほぐしてくれます。子どもは師匠です」

―コロナが落ち着いたらやりたいこと、挑戦してみたいことは?

コロナによる気づきを、コロナが落ち着く前から定着させていきたいです。

―最後に、読者に向けて一言メッセージをください。

この機会が後ろ向きなものではなく、仕事や暮らしの前向きな変化に繋がりますように。

長嶋りかこ 過去のインタビューはこちらより

 

■Da Boy Way  ラッパー(タイ・バンコク在住)

―最近はどんなことをして日々を送っていますか?

基本は家族と家で過ごして、あとはスタジオで仕事してる。家で子供に勉強を教えてるけど、僕には向いてないみたいだね(笑)。バンコクの街は少しずつお店が営業し始めていて、僕のバーバーショップも開いてる。人々の生活もだんだんと元の状態に戻ってきてはいるけど、まだ気は緩められない状態だね。

―人との接触ができない中、オンラインでしている活動があれば教えてください。

ソンクラーン(タイの旧正月)の時に、Facebookとインスタでライブパフォーマンスを行ったよ。その後も毎週何かしら配信してる。あとはズームでミーティングをしてるね。

―あなたが携わっている業界はどのような打撃を受けていますか?

タイでは午後10時から午前4時までの夜間外出禁止令が出されているから(4月3日発令)、大人数が集まるような場所やクラブ営業、ライブパフォーマンス、個人的な集合も8人以上は禁止されてるんだ。だからエンタメビジネス以外の業界は全てストップした。そのおかげで感染は減少してきているけどね。これ以上感染が広がらないように、みんなで協力し合って、状況に適応している感じだね。

―その業界は今後どのように変わっていくと思いますか?

これからはコンテンツの一つとして、SNSでのライブ配信は大きな役割を果たしていくと思うよ。大規模なコンサートやクラブ、フェスはどうなるのかまだよくわからないけれど。ワクチンができるまでにまだ時間がかかるだろうし、エンタメ業界だけじゃなく、全ての人たちがこの状況に適応していかないといけないね。だから引き続き、感染を防ぎつつ、業界全体でどのように変化していくべきか、たくさんのディスカッションが行われていくと思う。

―コロナを通して気づいた大事なことはありましたか?

世界規模で大変なことが起きた時、人々は 一つになって助け合い、乗り越えて前に進もうとするということ。

―自分と向き合う時間が長いと、自分がどんなことが好きなのかわかるようになると思いますが、新たに知った自分について何かあれば教えてください。

俺は先生ではないということ、自分の子供達にね(笑)。コンピューターとかアプリとか苦手だし、ハイテクな人間じゃないんだ。でも子供や家族と今まで以上に一緒に過ごす時間が増えて、彼らの日々の過ごし方を間近で感じられて良かったよ。

子供達に本を読むWay

―コロナが落ち着いたらやりたいこと、挑戦してみたいことは?

ファンに会いたいね。何か新しいことに挑戦したいかどうかはわからないけど、ツアーに出て、ライブがしたい。

―最後に、読者に向けて一言メッセージをください。

世界中が多大な影響を受けているけど、この状況に適応して、これから来る変化を受け入れていかなければいけない。みんなで強い心を持って乗り越えられると信じているよ。

Da Boy Way  の過去の記事はこちらより

 

Part 6もお楽しみに!Part 1Part 2Part 3 、Part 4はこちらより