ON COME UP
#18 | Oct 11, 2016

木彫のB-BOYスタイルが世界中で評価。スウィズ・ビーツも惚れたTaku Obataの作り出す空間と緊張感とは

Interview: Hamao / Text & Photo: Atsuko Tanaka

未来に向かって躍動する人たちをフィーチャーする“On Come Up”。第18回目のゲストは、高校生の頃に始めたブレイクダンスをモチーフに、木彫のB-Boy(ブレイクダンサー)を制作している彫刻家のTaku Obataさん。高校卒業後に通った美大の予備校で映像を学び、そこで出逢ったクレイアニメの作品を通して、彫刻に興味を持つようになる。現在の作品にも活かされているというデッサンの大切さも知り、三浪して東京藝術大学の彫刻科に入学。緊張感を作品で表現するように心がけ、作品を置くことで出来る空間を大事にしていると言う。ありそうでなかった木彫のB-Boyを生み出したTakuさんの作品の表現方法や、空間に対する考え方、日本とアメリカのギャラリーの違いについてや、未来の自分の在り方などについて語って頂いた。
PROFILE

彫刻家Taku Obata

1980年、埼玉県生まれ。自らもB-BOY(ブレイクダンサー)であり、その身体表現技術や躍動を彫刻でも精力的に表現し続け、台座の無い木彫による人体と衣服の関係性や、B-BOYの彫刻を端緒に生まれる空間を追求、緊張感と迫力あふれる作品を展開。

Taku Obata

小さい頃は、どんな子供でしたか?

野球やバスケをやったり、ザリガニを取りに行ったりと、いつも外で遊ぶ元気な子供でした。

ご両親はどんな方でしたか?

親父は公務員で、母は専業主婦です。兄貴もデザインの勉強をしていたので、俺も美大に行きたいと言った時は、特に反対されることなく応援してくれましたね。

彫刻家になることを志したきっかけは何ですか?

前からやりたかったブレイクダンスを兄貴が始めたこともあって、高校生の頃にブレイクダンスを始めました。それまでに見たことのない動きと、はちきれるパワーの凄さに圧倒されてはまっていきました。その時はまだ彫刻家になるなんて考えもしなかったですけど、表現する側として何かをやりたいとは思ってました。大学はダンスを実技で受けられる学校を受験したんですけど落ちたので、美術予備校の映像科に行きました。授業で見たヤン・シュヴァンクマイエルというチェコのクレイアニメの巨匠の映像作品に衝撃を受けて、俺もこういうのがやりたいって思うようになって、それでブレイクダンスのクレイアニメを作ったんです。それから彫刻に興味を持つようになり、三浪して藝大の彫刻科に進みました。

自分のスタイルを言葉で表すと?

彫刻の手法としては、派手なことは一切しないオーソドックスな手法を使ってます。大きく切るところはチェーンソーを使いますが、基本は手彫りで、仏像を作る作り方とあんまり変わらない。そのために工夫をたくさんしていて、建築で使うレーザー水平器を使って水平、垂直を取ったり、ハイテクでローテクなことをしてるんです。誰もがやっている表現方法で、誰も作ったことのない新しいものを作るのがクリエイティブだと思うので、木彫のB-Boyが自分のスタイルになるかと思います。今は木彫の作品が中心ですけど、写真や粘土など違う表現方法で見せることにも挑戦してます。

上:Takuspe b-boy runner 2009 右下:TakuspeFAD 2014 左下:Takuspe bboyger 2008

 

右上:物体と電車/OBJECT inside train 2015 左上:物体と電車/OBJECT outside train 2015 下段:物体と空/OBJECT and the sky 2013

表現方法は変わっても、作品に共通することはあるのですか?

共通しているのは、全てブレイクダンスから発想して展開されたものであること。ブレイクダンスを原点として全てを作っているので、表現方法が全く違うものでも、元を辿るとちゃんと繋がっているんです。繋がっていなかったら、何でそれを作ったのか自分で説明出来ないし、意味がないと思う。あとは自分が単純にかっこいいと思えて、不思議で緊張感があって面白いと感じるものです。

ブレイクダンスから展開した作品ということですが、ヒップホップを知らない人にもTakuさんの作品の面白さは伝わるのでしょうか?

知ってる人にしか分からない作品は全然面白くないと思うし、誰が見てもハッとするような面白いと思える作品にしたいと思ってます。一番大事なのは自分が面白いと思えるかどうかですが、ヒップホップが好きな人にはヒップホップを感じてほしいし、知らない人には彫刻 として面白いと思ってもらえたらいいと思います。現代アートってコンセプトありきのところもあるけど、俺はモノ自体が面白くなければ面白くないと思うし、モノが面白い上でコンセプトもしっかりあるものにより魅力があると思います。コンセプトが全然なくてもヤベぇって思うものだったらもっと良いんじゃないですかね。犬でも二度見するような(笑)、そういうことが出来たら良いなと思います。

制作活動で学んだことのうち、学校教育で教えられなかった大事なことはありますか?

予備校で二浪目の頃からデッサンを勉強し始めて、デッサンは“モノを描くこと”じゃなくて、“モノを理解すること”だと分かりました。例えば構図を変えるだけで見え方が180度変わることや、モノを理解するのも意識次第で変わっていく。デッサンって一部分だけ描いてると面白くないというか、そればっかり見えてきて全体感が見えなくなってしまうので、描かない部分の裏側なども見て知ることで、よりリアルに描けることを知りました。大学は何かを教えてもらうというより、俺にとって好きなことが出来る最高な空間でしたね。教わらなかったのは、作品の値付けです。先輩に教えてもらって、やりながら学んでいきましたけど、それが無かったら結構辛かったと思います。大学でもそういったことは教えた方が良いと思います。

彫刻を生業としてやっていけると思ったのはいつ頃でしたか?

最初に作品が売れた時です。大学を出た後、トーキョーワンダーウォールというコンペに出した作品が大賞を取ったんです。賞金の100万円をもらって、作品が200万円で売れて、そこからこれでいけるというか、これでいけってことだなと思ってバイトもやめました。

Takuさんは空間ありきの作品を作っているそうですが、どこにいても空間を意識されているのでしょうか?またTakuさんにとって理想の空間とは?

自分が作りたい理想の空間は、自分が単純にかっこいいと思えて、不思議で緊張感があり面白いと思える空間です。良いなと思う空間があれば反応します。何で良いと思うのかを考えますし、作品をどう置いたら面白いかとか、どういうものが合うとか色々考えてます。理想の空間は特にないですけど、北海道のモエレ沼公園は好きです。

空間で大事にしているのはどういう点ですか?

展示をする空間が最初に決まってから作品を作る場合は、その空間にどんな作品が合うかを考えて最善を尽くして作ります。その作品をどう置くかが大事で、作品をどう見て欲しいかを考えると必然的に作品の置く場所が決まります。

緊張感を作品で表現するのは難しそうですが、どうやって表現するのですか?

作品を地面に立つように作ったり、水平垂直な要素をいっぱい入れたり、顔をドキッとする感じに仕上げたりすることで緊張感を表現してます。そうするには、基本となる人間の像を作れないといけないので、デッサン力が必要になるんですけど、学生時代に学んだデッサン力がここで活かされてると思います。

ニューヨークの「JONATHAN LEVINE GALLERY」で2014年に個展をされましたが、日本とアメリカのギャラリーの在り方や客の反応などで大きく違うと感じる点は?

ギャラリーは、数も規模も認知度も違う。日本で1番と言われているギャラリーと比べても、アメリカにはどうやったって勝てないやって思いました。客の反応は、日本よりアメリカの方がメチャメチャ良かったです。

ヒップホップ界のビッグプロデューサー、スウィズ・ビーツ氏がTakuさんの作品を購入したそうですが、どういう出会いだったのですか?

2013年にドーズ・グリーンというアーティストが僕の作品を買ってくれて、その後、ドーズから俺のファンで作品を欲しいと言ってる人がいるとメールが来て、それがスウィズ・ビーツだったんです。この時、スウィズが作品を2体予約してくれました。俺はスウィズが全盛期の頃のヒップホップはあまり聴いてなかったので、最初は誰かピンと来なかったんですけど、調べたら奥さんがアリシア・キーズで「ヤベぇ!」ってなって(笑)。ニューヨークでやった個展の時に初めて会いましたが、メチャ紳士でした。

他にはどんな方がTakuさんの作品を所有されてるのですか?

オスジェメオスというブラジルの双子のアーティストです。

上段:スウィズ・ビーツと 右下:ドーズ・グリーンと 左下:オスジェメオスと

Takuさんにとって個性とは?

個性はそれぞれ皆にあるものですけど、突拍子もないことをしようとするのではなく、自分の身近な空間や物事で作品を作っていくことが個性に繋がると思ってます。流行りを追う人は沢山いますけど、作風が似てきてしまうし、その時代に生きているだけで十分流行りの影響を受けているので、流行に過度に反応する必要はないと思う。自分から出てくるものだけで個性になると思ってます。

最近気付いた自分に足りないこととは?

いっぱいあります(笑)。ゴロゴロしたり、無駄に考えたりして、時間の使い方が下手なんです。感覚的に出来ることはやってるけど、計画性があまりなくて、一日一個やったら今日はオッケーみたい感じで、追い込まれるまでスイッチが入らない。だらけないで毎日制作してたら、もう既に何体か出来あがっているはずですね(笑)。あとは英語力が足らないかな。俺の作品は外国の方にウケが良いんで、英語がもっと話せていたら作品ももっと売れてたと思うし、ドーズ・グリーンやスウィズ・ビーツ、オスジェメオスなどともっと交流して、世界での活躍の道ももっと拓けてたと思います。

憧れの人や尊敬する人は誰ですか?

特に誰というのはないですが、しいて挙げるとすればイチロー選手とかアスリートが多いです。例えば今イチローさんがやっていることを俺がアートでやったら、アート界で超ヤバいことになると思う(笑)。それはもちろん俺に限らずのことですけど。プレッシャーの中で闘うのも羨ましいと思います。

アートでオリンピック選手並みの一流選手にはどうやったらなれるんでしょうか?

どうやって決めるのかも分からないですし、決められないと思いますけど、本当に好きなものだけを作れていて、それで成功してるかじゃないですかね。

Takuさんにとって成功とは?

何が成功というのは分からないですけど、お金がないとアートは出来ないし、難しいところなんですよね。俺にとっての成功は、自分にちゃんと勝っていくかということだと思います。好きなことが出来ていれば成功だと思いますけど、それをやるにはお金が必要だから、ストレスにならずにやっていけるだけのお金が入ってくればいいですね。俺はまだ成功してないって思ってますけど。俺一人じゃ出来ないし、実家があって、色んな条件が重なって自分のやりたいことを出来ているだけなんで、全然まだまだですね。先はまだ長いです。

好きな音楽や映画、本はありますか?

昔は海外のラップしか聴かなくて、パブリック・エナミーとか、ア・トライブ・コールド・クエストやデ・ラ・ソウルなど90年代ヒップホップの勢いある感じが好きでした。今は良いものであれば何でも好きです。映画は「Beat Street」と「Juice」が好きです。

社会で起こっていることで気になることは?

政治とかですかね。日本はこれからどうなんのかな~とか、原発や戦争とか気になります。

自分のやっていることで、日本や世界が変えれるとしたら、どんなところだと思いますか?

社会を風刺して作品を作ってるアーティストもいるけど、それを俺がやるとブレちゃうので、俺はとにかくポジティブな作品を作りたいと思っています。震災の時とか、自分に何が出来るかとか色々考えましたけど、支援みたいなことも出来ないし、その時だけ何かやって助けたみたいに思いたくないし、結局自分のやるべきことをしっかりやるだけだと思ったんです。とにかく良い作品を作って、みんなをヤバいと思わせたい。それを見て変わってくれる人もいるんじゃないかと思ってます。

他人が思う自分の像と、実際の自分自身に差があると感じる部分を教えて下さい。

あんまり彫刻のことを真面目に考えてるように思われてないみたいです(笑)。感性で作品を作っていると思われてるようですけど、実際はすごい論理的に考えてる部分もあります。

一気に視界が開けた瞬間や、自分が成長したと実感した出来事はありますか?

ワンダーウォールで大賞を取った時や、作品を買ってもらえた時、ニューヨークで個展をやれた時ですね。ずっと考えていたことが、「あっ、これか」と形になる時があって、それは自分にとって一番嬉しい時です。考えが膨らみすぎるとどうしようもなくなるんですけど、限界を超えるとそれがパカッと開いて、バーッっと出てくる。その積み重ねで、続けていくと良いものになっていくし、展開していく。良いものが出来たからといってそこで満足してたんじゃ何も変わらないし、麻痺してダメになっていくので、限界を作らずに続けていきたいです。あとは目標を他の誰かに設定することもないので、全て自分との闘いで、自分に勝つか負けるかだけ。それを死ぬまでずっと出来ているかどうかが大事だと思う。きっと大変なことなんでしょうけど、周りに惑わされず、自分を持ってやっていきたいと思います。

3年後、5年後、10年後はどうしていたいですか?

3年後はもっと海外で展示をしていたいです。5年後には木彫以外の表現での作品をもっと確立していたいし、10年後にはすごい作品を作っていたいですね。自分がやりたいことをちゃんと実行出来てるかが大事だと思ってます。やりたいことが出来て、その環境が作れるお金があれば良いなと思います。

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