ぼくのりりっくのぼうよみ
神奈川県横浜市出身だそうですね。どのような子供で、どのような育てられ方をしましたか?
一人っ子なのですが、両親にはとても自由に育てられたと思います。4、5歳の頃の出来事で、僕が寝ている間に母親が短時間だけ買い物に出て、その間に僕は目覚めて母がいないことに気づいて、一人で街に出てウロウロしていたと聞いたことがあります。結局パトカーに保護してもらい、母親に会った時には泣くわけでもなく、もらった飴をなめていたらしいんですけど。
子供の頃に夢中になったことはありますか?
普通にゲームをしてました。スーパーファミコンとかNINTENDO64とか、世代によってゲームの流行りがあると思うんですけど、僕の時代はニンテンドーゲームキューブでした。スーパーマリオサンシャインとかでも遊んでいましたね。
音楽のルーツは子供の頃にお母様がお好きだったエゴ・ラッピンやモンド・グロッソだとお聞きしました。
僕自身は中学生ぐらいから頻繁に音楽を聴くようになったんですけど、それよりずっと幼い頃、好き嫌いを自覚する前から家でずっと流れていたのはそのあたりです。母親の音楽の趣味がかなり影響していると思います。
小学校時代はどのような子供でしたか?
活字が好きで、めっちゃ本を読んでいた気がしますね。それに、どちらかというと奇を衒うタイプでした。目立って騒いでいるような同級生に対して、「そういうの全然違うけど」みたいな感じの雰囲気を出してましたね(笑)。それが成功していたかどうかはともかく、一線を画していくぞと決めていた気がします。
当時の将来の夢は?
夢というほどではないですが、作家になりたいなぁとぼんやり思ってました。その頃はいわゆるデスゲーム系というか、閉じ込められた狭い部屋の中で数人が争うみたいなタイプの作品を読んでいたので、実際自分でも書いてみたんですけど、200文字目くらいで「面倒だし、難しいな」って思って、書いては諦めることを3回くらい繰り返していました。
中学生時代の心に残る経験や思い出などはありますか?
僕が音楽を聴き始めて、やり始めた時期ですね。最初バスケ部に入ったんですけど、ボールに触ることもできず体育館の2階をずっとランニングさせられるので、「これがこの先3年間続いていくのか。辞めよう!」と1日で辞めました。それからは授業が終わったらすぐ帰宅して、ニコニコ動画とかYouTubeをずっと観るようになって、そこから音楽にハマっていきました。
音楽にハマるきっかけになった動画は覚えていますか?
中1の時に、初音ミクの「ワールドイズマイン / ryo(supercell)」を初めて聴いた時に、凄く異物感があって、「こんな世界があるのか。自分が覗いていいものなのか?」みたいなよくわからない気持ちになりました。好きな男の子にお姫様扱いして欲しい女の子の気持ちみたいな内容を歌った曲なんですけど、僕、中高一貫の男子校に通ってたから女性との接点もなかったし、「そもそも初音ミクってなんだよ、これどういうこと?」みたいな感じで。
動画を見る側だったご自身が、初めて参加する側になった時のことを覚えてますか?
しばらくして、ニコニコ動画の中に、主にVOCALOID(ボーカロイド*)の楽曲を素人の人が歌って投稿する「歌ってみた」というカテゴリーがあることを知り、パソコンと最低限の機材があれば誰でもアップできるし、僕もやってみようと軽い気持ちで始めました。当時はまだ中1で予備知識が一切なく、音楽をパソコンで作るという意味もよくわかってなかったので、凄くクオリティーが低いものを作っていましたが、そこから徐々に試行錯誤しながら成長した感じですね。そして中学卒業の頃に、「ニコラップ」というカテゴリーがあることを発見して、自分で歌詞を書いてラップして投稿するようになりました。
*ヤマハが開発した音声合成技術と、その応用製品の名前
そこから「sub/objective」が誕生したんですか?
そうですよ。曲を作り始めて3曲目くらいですかね、その時に「ぼくのりりっくのぼうよみ」という名前を使い始めました。
たった3曲目であのレベルの仕上がりになるんですか?
確かに今よくよく聴いてみると、なんで3、4曲目であそこに至るんだろうみたいに思いますよね。動画を作って投稿するというのは凄く成長が早くなるというか、特殊なところがありますね。
それはなぜですか?
いわゆる“アルバムを作る”作業をしないので、単発で一曲一曲あげていくことによって、PDCA(plan-do-check-act)をすごく早く回せるというか(笑)、各曲それぞれのテーマで動画と歌を作って、その動画がどのくらい再生されたのかとか、ニコニコ動画上でどれだけの人が「マイリスト」っていうお気に入り機能に登録したかがわかるんです。つまり再生数とマイリスト入りした数の比率から、ある程度評価が推測できる。例えば、1万回再生で1000マイリストだと10人に1人なので数字としてはすごく良いですけど、1万回再生に対して50マイリストだと結構少ないから、たとえ見られていても大して気に入られてないことがわかります。
マーケティングみたいですね。
軽く擬似版みたいな感じです。
ボーカルや楽器を勉強されたことは?
特にないし、楽器もなんもできないです。この前キーボードを買ってみましたけど、全くやってない(笑)。
「sub/objective」で、“いつしかものを見ている自分を見るようになった”とありますが、自分を外から見る傾向が強いところは昔からあるんですか?
結構前からありましたね。小学校の頃から斜に構えていたというのは、その典型というか、人からどう見られるかとか、自分がよく見えるためにどうしたらいいかとかはすごく気にしてしまいますね。
いつも自分を客観的に第三者的に見ている、冷静な自分がいるんですか?
自分のことを物語の主人公のように見ていることが凄く多いです。例えば誰かとケンカして自分が怒っていたとしても、「こういう時って殴ったり水かけたりするよな~、それで出て行ってその後また会って仲直りするよな~」みたいな。普通のセオリー通りですけど、「これってこういうタイプのシーン」とか思いながら生きちゃいますね。逆に聞きますけど、純粋に自分がその感情しか抱いてない時ってあります?
私はあると思います。
あるかな~。僕は純度が低いと注意力散漫になってそうなっちゃうことが多くて。最近サウナが凄く好きでいろんなところに行きまくっているんですけど、サウナ入ってる時は気持ちいいから、「サウナ入ってる自分とは」みたいなことを思ったりはしないですけど(笑)。その局面で感じる感情の総量とか濃度みたいなのが影響されるのかなと思います。それに、辛いことから逃げる時に効果があるので、辛い時に使うと気持ちが楽になることはありますね。
音楽活動とは別にエッセイや短編小説も書かれていますね。音楽と全く別の世界で文字や言葉を使うのはどんな感じですか?
結構手探りです。音楽は歌詞にいろんな解釈があっても成立しちゃうと思うんですけど、小説はある程度のことを理解してもらった上で、つまり70%わかった上で残りの30%をどうやって解釈するかを読み手に委ねるレベルの話だと思うんです。例えばこの時のこのキャラクターの気持ちはどうだったのか想像することはあるけど、キャラクターの行動は想像ではなくちゃんと描写しますよね。基本のルールが全然違うんじゃないかなぁ。
3枚のアルバムそれぞれのコンセプトを一言でまとめるなら?
ファーストアルバム「hollow World」は、それまで僕がインターネットで好き勝手にやっていた音楽の集大成というか、こういうものですって紹介したアルバムでした。セカンドアルバム「Noah's Ark」は全然違って、コンセプトに沿って一枚のアルバム全体で一つのストーリーを再現しています。サードアルバム「Fruits Decaying」はまたちょっと違って、どちらかというとファーストに近い作り方ですが、音として自分が聴きたいものを作ってそれをまとめたっていう感じですね。
歌詞は自分の経験からというよりは、コンセプトの中からご自身でいろんなところを拾い上げてできていくものが多いですか?
セカンドはそれが多かったんですけど、サードは歌ってる内容自体はもうどうでもよくなってきていて、結構自分の好きなテーマを好きなように扱ったというか、音ありきで作った作品でありますね。言ってしまえばアートっていうのは、設定したコンセプトをどれだけうまく表現するかの勝負じゃないかと思っているんです。例えば、好きな子への想いを歌っている曲も、戦争について歌っている曲も、どちらが素晴らしいとか、コンセプト自体の良し悪しは一切そこに存在していないですよね。こっちの方が切なさが表現できてるとか、戦争もこれの方がより生々しく土や血の匂いがしていいとか、同じテーマの曲同士での良し悪しはあるかもしれないですけど、女の子への想いの曲と戦争の曲、どっちがいいのとかは、キリンと象はどっちが優れているかみたいな話になっちゃう。
腐りかけの果実を意味する「Fruits Decaying」というタイトルはどのように決まったのですか?
僕は自分に対しての音楽は一切妥協はないんですけど、世の中に溢れている曲に対しては、「めっちゃダサいけど、この曲を好きな人がいるんだったら、この曲が存在していることは素晴らしいんだ」って思っていたんです。でも制作が終わったタイミングで、それは全然違うなって気付いて。自分はなんで音楽やってんのかなってダラダラ考えながらようやく作り終えた時に、タイトルを「Fruits Decaying」ってつけました。この言葉が何を意味するかはみなさんの想像に委ねたいと思いますが、アルバムを聴き直した時、本当に凄くいいし、広げていきたいなって心から思えました。
ファーストアルバムを出されてから、2年という短い間に3枚のアルバムを出されましたが、いつもこんなにたくさんの言葉が溢れて出てくるものなのでしょうか。
本当に純粋に文字数だけを見ると、せいぜい1曲数100文字とかなんで、書くのにかかった労力を度外視して考えれば、アウトプットとしては、文字数自体は1曲7ツイート分くらいじゃないですか。なので、量自体に対しては凄いという感覚はあまりないですね。
量だけでなく質もそうだと思うんです。質がないとメジャーアルバムを出し続けることはできないと思うんですが。
いや、そんなことないと思いますよ。ここは声を大にして言いたいところですけど、メジャーデビューに全然そぐわないものの方が多い、要は世の中ダサい曲が多いなって思います。僕は、音楽に対して自分の中で設定しているハードルが高いんです。
つまりクオリティの低いものも中にはあると?
それは凄く思いますね。多様性という言葉に僕たちは甘えすぎてきていたんじゃないかと思います。当然、いろんな生き方や個性を尊重するのは当たり前に守られた上での話ですが、アートやエンタメなどの創作物に対しては良し悪しをちゃんと評価していくのは必要だと凄く思います。
ご自身の作品がこれだけ支持されているのは、何が理由だと思いますか?
支持されてるんですかね。だとしたら、単純に音としていいからかなって気はします。
若さがあり、才能があり、学歴も、先を見抜く力も、客観視できて冷静に物事を分析する力もおありだと思うのですが、逆にご自身に足りないことやコンプレックスに感じていることはありますか?
言い出したらきりがないくらいあります。シンプルに外見を取り上げても100点満点じゃないわけじゃないですか。例えばダビデ像は、おそらくあの時代にミケランジェロが人間の100%を作ろうとして、均整の取れた理想の人物像みたいなものができたと思うんです。それに比べたら自分自身は背が低いとか足が短いとか、普通に物理的に長さを測ってみると、そういった事実はいっぱいあるし。
でもモテますよね?
いや、僕、デビューしたらすげえモテるだろうと謎の自信があったんですよ。でもよく考えてみたら別に出会いもないし、ちょっとわかんないです。男子校に行ってたから女の人は何を考えてんのか全くわからないし、男子校に行ったことは、めちゃめちゃ選択間違ったなぁって今でも後悔してるんです。
憧れている人、羨ましいと思う人、尊敬する人は誰ですか?
羨ましい人は不労所得がめちゃめちゃある人ですかね。誰でもいいですけど、めちゃめちゃお金を持ってる人。
それはなぜ?
何かをする時にお金があるかないかの枷がすごく大きいからです。もちろんプロジェクトベースでクラウドファンディングをするとか、いろんな資金調達の方法があるのはわかるんですけど、そもそもそれをすることが凄くめんどくさいので、やりたいことをやりたいようにやれたらいいなっていうわがままな理想があります。
最近、喜怒哀楽を思いっきり出したことはありますか?
サウナに行ってる時とか?
今、不安に思っていることはありますか?
将来、10年後とか。どうとでもなるとは思うんですけど。
将来に対して不安と希望、どちらの方が多いですか?
不安の方が多いかもしれないですね。多分誤った先入観なんですけど、今までの19年間の人生、いろんなところでいろんな刷り込みを受けてきた結果、なんとなくこの先に待っているのは今より良くない未来なんじゃないかっていう感覚がいつもあります。同じように思っている人って多いと思うんですけど、幸せというものがこの国ではあんまり見当たらないというか。
それはなぜだと思いますか?
なんででしょうね、みんな不幸が好きなんじゃないですか。刷り込みを受けて育ってしまった日本人の歴史もあると思いますし、ポジティブに幸せを主張して、それが受け入れられているという構図はあんまり見当たらないですね。
逆に今、楽しみに思っていることはありますか?
「HUNTER×HUNTER」っていう好きな漫画があるんですけど、早く連載が再開しないかなぁ~って思ってます。
ぼくりりさんの作品のスタイルをご自身の言葉で表すと?
「贅沢」ですかね。毎回自分が好きな作曲家陣やトラックメイカーの人を選んで、自分のために好きなアーティストが曲を書いてくれるというのはめちゃめちゃ贅沢な環境だと思います。
今回のアルバムに参加されている作曲家の方々も、ぼくりりさんが以前から好きな方たちばかりだそうですね。
例えば「for the Babel」を共作したsasakure.UKさんは、僕が中学生の頃から好きだったボカロP(*)の方です。あの頃何度も繰り返し聴いた彼の楽曲に近い雰囲気のものを、今回彼と一緒に作り上げることができて、すごく光栄だと思っています。ファーストアルバムの頃から何度も一緒に作っているササノマリイ氏も、前から彼の楽曲をすごく聴いていて、過去に勝手に彼の楽曲でリミックス的なもの(「戯言スピーカー」)を作ってネットにあげていたことがありました。最初は彼の顔も知らずに作っていたんですが、今ではすごく仲よくしています。
*ボーカロイドを活用する人やボーカロイドの楽曲を作る人のこと
これから先一緒にやりたい人はいますか?
いっぱいいますよ。どちらかというとマイナーな人が多いです。今回のアルバムで一緒にやった「SOIL & “PIMP” SESSIONS」は、メジャーでやってる方たちなので結構珍しい例ですが、「Noah's Ark 」という曲を作っていただいた「ELECTROCUTICA」っていうユニットの音楽が、僕は本当に死ぬほど好きなので、彼らともっといっぱい曲を作りたいなと思っています。
ぼくりりさん的に今回のアルバムの聞きどころを教えてください。
いろいろあるんですが、音自体に注目してほしいですね。「playin’」などは音の密度が非常に高く、とてつもなくハイレベルな作品だと自負しています。分類すると90年代に流行った2ステップになるんですが、かなりアップデートできたんじゃないかと思っています。
好きな映画や写真、音楽やアートなどで一番影響を受けたものは?
目が疲れちゃうので映画がどうしても苦手なのと、受動的なメディアがあまり好きじゃない。本は自分でめくって読むじゃないですか。映画とかテレビのように向こうが作ったもので、「この時間にこれを観てください、その次にこのシーンがきます」っていうのが苦手で。小説もそこは一緒なんですけど、主体が自分かどうかの違いがあります。
好きな小説は?
いっぱいありますね。「エルマーのぼうけん」という小学生向けの本があるんですけど、昔凄く好きでした。出てくるワードや使う道具とかが特徴的で、そのセンスが印象的でした。最近読んだ小説だと、平野啓一郎さんの「マチネの終わりに」が良かったです。分人主義を唱えている人だというのは前から知っていたんですけど、小説をこの前初めて読んで、めっちゃ面白いなって思いました。
これから挑戦してみたいことは?
色々ありますけど、マネタイズを意識せずに、何のストレスもなくやりたいことをやれる環境を作りたいですね。僕が会ったこともないような人が僕の音楽を売るために働いていてくれるのって、素晴らしいしありがたいことなんですけど、それゆえやっぱり今はお金を意識しなきゃいけないので。
社会で起こっていることで、気になることは何ですか?
ビットコインが値上がりして嬉しいとか、そういうことじゃないですよね(笑)。最近憲法に興味がありますね。前までは「憲法にはルールがあるな」ぐらいの位置づけだったんですけど、「キングダム」っていう大好きな漫画で、法律とは何か?みたいな話をしているシーンがあって、「法は願いである」みたいなことを言ってる人がいたんですよ。「国民にこのルールにのっとって生きてほしいと思って法を決めるということは、どういう人間であってほしいかという大きな意思や願いを示している」って話をしていて、今までそういう観点を一切持ったことがなかったので面白いなぁと思いました。
それでは、ぼくりりさんにとって成功とはなんですか?
成功した、しないを一切気にしなくなる次元に行くことですかね。成功してる人は成功してるかどうかを一切気にしない次元に行けてる気がします。
3年後、5年後、10年後の自分はどうなっていると思いますか?
全部わかんないな~。オリンピック系の曲とかをやりたいと思います。5年後も10年後もマジでわかんないですね。でも10年後あたりには、さっき言ったような成功、失敗とか、そういう感覚すらなくなるところに行けてたらいいなぁとは思います。
3rd ALBUM『Fruits Decaying』
2017.11.22 Release
●通常盤 VICL-64899 ¥2,500(+税)
●初回限定盤A VIZL-1283 ¥2,800(+税)
特典:久しぶりに歌ってみたCD (2tracks)
●初回限定盤B VIZL-1282 ¥4,000(+税)
特典1:久しぶりに歌ってみたCD (2tracks)
特典2:ぼくりり Live DVD 2017.05.21 @新木場STUDIO COAST (5tracks)
【収録曲】
01. 罠 featuring SOIL&"PIMP"SESSIONS
02. 朝焼けと熱帯魚
03. Butterfly came to an end
04. For the Babel
05. SKY’s the limit
06. playin'
07. つきとさなぎ
08. たのしいせいかつfeaturing SOIL&"PIMP”SESSIONS