IMPRESARIO KEYS
#16 | Jul 26, 2023

自分の強みの直感力を活かし、独自のレースを展開。現状把握を行い、パフォーマンス力と判断の再現性を高め、S級昇班を目指す

Interview & Text: Atsuko Tanaka & Yukie Hashimoto

「IMPRRESARIO KEYS(インプレサリオ・キーズ)」第16回目のゲストは、競輪選手の徳田匠さん。幼い頃から運動が大好きで、小学生の時に父親の影響で自転車に興味を持つ。6年生でロードバイクを乗り始め、高校で自転車競技部に入り、その後鹿屋体育大学に進学。怪我をきっかけにロードからトラックに転向し、苦戦しながらも好成績をおさめる。そして日本競輪選手養成所を経て2021年にプロデビュー。7月のデビュー戦で完全優勝を飾るも、その後決勝で勝てないというジレンマが続き、メンタルコーチングを勧められ受けることとなった。コーチングを活用してどのような変化を遂げていったのか、3つの事例を用いて解説していく。
PROFILE

競輪選手徳田匠

京都府宮津市出身。4人兄妹の末っ子として育つ。幼少期から体を動かすことが好きで、小学4年生の頃、突然始まった家族行事の延長で自転車競技にのめり込む生活がスタート。中学生時代には個人的に自転車競技に取り組む一方、部活動では陸上競技部に入り主に中長距離専門として活躍。高校は兄2人と同じく、自転車競技部がある京都府立北桑田高等学校に進学。高校選抜、インターハイ、国体、全日本選手権で優勝こそないものの表彰台を外すことは少なかった。ナショナルチームに選出され、チームパシュートという競技で日本ジュニア記録を更新した。そして鹿児島県にある国立鹿屋体育大学に進学し、自転車競技を続ける。怪我を機に種目変更をし、競輪選手を目指す。現在は日本競輪選手会京都支部でA級1班の競輪選手として活躍中。

スポーツメンタルコーチ阿部健二

㈱チームフローでアドラー心理学をベースにしたコーチングを学び2013年7月に独立、2015年9月合同会社All Days Sportsを設立、代表社員を務める。格闘家、空手道日本代表選手、カヌースラローム日本代表、プロサッカー選手・監督、競輪選手、ラフティング日本代表、実業団駅伝チームなど個人、チーム、小学生からプロ、日本代表選手に至るまで幅広くサポート。個人、チーム・組織のパフォーマンスの最大化のサポートをしている。

【意識の向け先を変える】~自分らしさ・自分の強み・自分の成長に意識を向ける~

『自分らしくプレーできている時や、その時の状態を深く検証し、自分を信じる強さにつなげる』

今行っていることと、自分の未来や人生とのつながりが感じられたことで、トレーニングのスケジュール化や、次のレースまでの期間の取り組みなどを、しっかり考え行動できるようになった。最後に、大事なレースで勝てない時の意識の向け先について考えてみた。

抱えていた問題

■目標のS級に手が届きそうなのに、考えすぎて身体が動かない

2023年前半当初は体調不良などもあり厳しいシーズンとなっていたが、春頃から調子を上げることができ、6月には目標のS級昇格を狙える位置まで来ていた。しかし、いろいろ考えすぎて頭の中がごちゃごちゃになってしまい、パフォーマンスを出し切れずにいた。

徳田選手:「競輪は1~6月/7月~12月の半年ごとの成績で級班(戦うランク)が上がれる制度なんです。6月頃は「点数を上げないといけない」、「S級を狙える」、「成績を出そう」など結果を意識すぎていたり、展開の中で動いての失敗も何度もあって「また失敗したらどうしよう」と考えすぎて、身体が動かなくなって上手くいかないことがありました」

解決方法

■意識の向け先を変え、本来の自分の良さや自分の成長に気づく 

過去に失敗経験があると、同じような場面になった時に、「また失敗するかもしれない」という不安にフォーカスしがちである。だが、そんな時こそ「自分らしさ」や「自分の強み」、「自分の成長」に意識を向けていくことにした。

徳田選手:「僕は長距離タイプで、競輪の勝負のラスト800mをフルで動ける力があるので、短距離タイプの選手にしたら一番やっかいな存在。自分の土俵で戦えるレースをできることが強みなんです。さらに、そこに自分のレース展開に対する直感がマッチしていくと、より自分らしいレースをできていることに阿部さんと話す中で再認識できました。また、自分のレースやトレーニングの内容の現状把握を行ったことで自分の成長を再確認でき、自分のトレーニングと自分の脳みそが上手くマッチした感覚があって。「今の自分ならこの距離踏めるぞ!」と、仕掛けられる自分らしい自分が戻ってきた感じでした」

得られた結果

■勝負のかかった1戦で、自分らしく勝ち切り優勝

2023年前半のレースも残り弥彦(新潟)での1戦のみとなり、全て1着で優勝してもS級は無理かもしれないと思っていたところに、弥彦の前に平塚(神奈川)でのレースへの追加エントリーが来た。そして、その平塚でしっかりと優勝することができ、いよいよS級への昇級が見えてきた。

増田選手: 「セッションのおかげでスッキリしてレースを迎えられました。決勝では若い選手とラインを組み、「自分も結果残せる様に走ってね」と彼に伝えたのですが、「徳田さんが勝負かかってると僕も理解してるんで」と、僕の為に思いっきり走ってくれて。その気持ちに応えられ優勝を決められたのは自分にとって大きかったです。また、当初考えていた作戦とは違うレース展開となりましたが、それもレース前から「この場面でこの動きになったら、俺はこう行く」と想定を、敢えて頭の片隅に置けていたので、直感的に上手く動くことができました」

5:39:00頃から徳田選手が出場する第11レースの模様がスタート

コーチ補足

■自分らしさ、自分の強み、自分の成長に意識を向ける

阿部コーチ:人は過去の失敗を記憶として持っていると、同じような場面になった時に、「また同じようなことが起きたらどうしよう」と不安な部分にフォーカスしてしまいがちです。ですがそういう時こそ、「自分らしさ」や「自分の強み」、「自分の成長」に意識を向けていくことが大切です。「自分らしさ」や「自分の強み」は、自分らしくプレーできている時やその時の自分の状態を深ぼりしていくことで気づけることが多くあります。徳田選手はそれらを探求した結果、「自分の強み」が自分の土俵で戦い続けられること、また、直感的に状況に応じて臨機応変していけることが「自分らしさ」であることだと思い出しました。また、「自分の成長」は、現状把握やこれまで歩んできた道を振り返り、検証する中で気づけることがあります。徳田選手はこれまでのレース内容や結果、トレーニングのメニューや取組み方などを再確認できたことで、自分の成長に目を向けられるようになり、自分を信じていけるようになりました。

自分らしさや強みを再認識し、レースの結果に繋げることができた。S級昇格を目の前に控える今、最後に成功とは何かを聞いてみた。

徳田選手:一番の成功は、自分が立てた引退時期まで競輪選手を続けることです。引退は、後悔なくスパッと辞められる時、50歳くらいと今は考えています。一番最高のグレードの走りができて、自分で終わりをしっかり見極められた時が成功だと思います。

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