【一瞬で最高の心の状態を作る】~アンカリングで感情と体感覚を結びつける~
真の問題を感覚的に掘り下げて見つけ、実際に身体を動かしながらシミュレーションしていき、イメージ通りの勝利を手にすることが出来た。最後に、自分の最高の状態を一瞬で作り、身体に条件づけしていくスキルを磨いていった。
抱えていた問題
■環境にも相手にも左右されない「最高のマインド状態」で、リングイン出来ているか
試合は、観客がいて緊張もする。そして対戦相手がどう出てくるかもわからない。そんな中、「相手がどう出ようが関係ない、すごくいい心の状態で、リングイン出来たら強くない?」と慶人コーチが言ったという。
中村選手:「自分にとってある最高のマインド状態の瞬間があるんですが、試合前にあのマインドを作れたら絶対勝てる!と思い、それをいつでも出せるようにしようということで、解明してみることにしました。
解決方法
■自分の最高の心の状態を追体験して、「アンカリング」する
まず一番良い心の状態になった時の、自分の意識状態や感覚を詳細に思い出す。それらをありありとイメージすることで、その場面に近い状態を追体験し、 “ある動作”をする。それを何度も繰り返し、その動作をするだけで、条件反射的に一瞬でその状態の感覚になれる「アンカリング」というスキルを用いた。
中村選手:「慶人コーチに「最高に心が良い状態になった時っていつだった?」と聞かれ、グアムのジャングルでの体験を思い出しました。クラゲに刺され右半身が熱を持ち痺れている中、50年に1度の台風後で木がぐちゃぐちゃなジャングルを、朦朧としながら3時間位歩き続け、「早く帰りて~」と最悪な心の状態でした。そんな状況でさらに耳に虫が入り、「あー終わったー」と感じたのと同時に、開き直れたのかバチーンと吹っ切れて「世界は一つだ!もう虫でも何でも来い!一緒に上に行こう!」みたいな、よくわからないけど最高のマインド状態になって(笑)。そうしたら不思議なんですが熱も痺れも引いて「マジ何でも出来る!」となれたんです。あの感覚をいつでも再現したいということになり、“ジムでひたすら歩き汗だくになって最悪の場面を思い出す→最高のマインドに抜けた瞬間を思い出す→手首をギュッとつかむ”という一連の動きを何度も繰り返し行いました」
グアムのジャングルでの感覚を再現したセッション
得られた結果
■どんな状態の時でも、一瞬で最高の瞬間の感覚を手に入れられるように次の試合に向け、早速練習時にアンカリングを取り入れ始めた。練習時に手首をギュッと掴み、一瞬で良い心の状態を作ってスパーリングに入ったところ、相手が試合直前の選手なのにも関わらず、圧倒してしまった。
中村選手:「練習前や大事な気合を入れたい時などに、手首をギュッと掴むことで、あの時の感覚をスッと手に入れられるようになりました。視界がバーッと開けて、呼吸がストンと落ちて、360度どこにでも身体を瞬間で運べる様な感覚になれて、地球とダイレクトにコネクトしている感覚です。また、練習に対し気持ちが入りすぎている時や、ちょっと後ろ向きの時などは、やることでフラットに戻れることも感じています。自分の理想としているところに帰ってこられるアンカーになっています」
コーチ補足
■「アンカリング」で、一瞬で最高の瞬間の状態を作ることを体に条件付けする
慶人コーチ:アンカリングとは、一言でいうと「条件付け」のことです。自分の心が大きく動いた時の記憶を、強烈にありありと思い出すことが出来ると、例えイメージの世界だとしても、人間の脳は今その状態が起きていると認識して、その時と同じような気持ちになれてしまうんです。中村選手の場合、実際にジャングルと同じ汗だくでネガティブな状況を作り、ある瞬間ブワ―ッと抜けたあの「最高の瞬間の感覚」を思い出して、その瞬間に手首を掴む。すると、その「最高の瞬間の気持ち」と「手首を掴まれた感覚」が結びつくのです。それを繰り返し行うことで、普通の状態でも手首を掴むだけで最高の状態の自分になれるようになっていきます。さらに「今良い状態だな」と思ったら常に手首を掴み、メモリーし続けていくのです。
アンカリングすることで、どんな状態の時でも一瞬で最高の瞬間の感覚を手に入れられるようになった。今後の試合でどんな展開を見せてくれるのか、とても楽しみだ。最後に成功とは何かを聞いてみた。
中村選手:好きなことに情熱を注いで、それをフルに表現をすること。格闘技は出会った時から変わらず好きだし、一旦競争とかは抜きにして自分のアートを表現するという意味で、情熱を注ぎ続けて、最後試合で余すことなく表現する。それができれば僕の夢は勝ち負け関係なく叶ったことになると思うし、一つの成功と言えると思います。