IMPRESARIO KEYS
#17 | Dec 25, 2023

怪我とどん底のメンタル状態を克服し、夢だったUFCでの舞台に出場。繰り返し行った究極のイメージトレーニングで、思い描く通りの優勝を手に

Interview & Text: Atsuko Tanaka & Yukie Hashimoto

「IMPRRESARIO KEYS(インプレサリオ・キーズ)」第17回目のゲストは、UFCファイターの中村倫也さん。父親の影響で小さい頃からレスリングに親しむ環境に身を置き、5歳の頃から本気で練習に取り組むように。小、中、高と着実に実績を積んでいき、大学時代は2年生で 全日本学生選手権と全日本大学選手権57kg級などで優勝を飾る。しかし3年の時に全日本選手権の準決勝で敗れ、リオデジャネイロオリンピック代表候補を逃してしまう。それを機に、総合格闘技に転向することを考えたが、改め東京オリンピックを目指した。2016、2017年全日本選抜選手権で優勝、さらに2017年U-23世界選手権で優勝し世界王者に。その後は肩の怪我でうまく行かず悶々とした日々を過ごしたのち、ようやく2020年に総合格闘技転向を決意。翌年のプロデビュー戦、そして次のPROFESSIONAL SHOOTO 2022 開幕戦で見事勝利を手にする。だが実情は、身体的にもメンタル的にもボロボロだった。そんな中、次に迎える試合の相手はブラジルの猛者、アリアンドロ・カエタノ選手。周りや自分に対するプレッシャーを抱え悩んでいた時に、アスリートメンタルコーチの慶人氏のことを聞き、メンタルコーチングを受けてみることになる。コーチングを活用してどのような変化を遂げていったのか、3つの事例を用いて解説していく。
PROFILE

UFCファイター中村倫也

プロ戦績8戦8勝無敗 UFCファイター
埼玉県出身。元レスリングフリースタイル選手。5歳からレスリングを始め、23歳で世界選手権優勝。 25歳で総合格闘技に転向。27歳で世界最高峰の総合格闘技団体UFCの契約獲得。
MMA:プロ戦績8戦8勝無敗 2023年Road to UFC優勝
レスリング:U-23世界選手権優勝 2016年・2017年全日本選抜選手権優勝

アスリートメンタルコーチ狩俣慶人

永学堂株式会社/代表取締役
問題解決の前の『問題発見力』を鍛えることに特化したコーチングスクール『TRUNK METHOD®』主宰
2024年パリ五輪日本代表選手をはじめ、様々な競技においてプロ、アマ問わず『世界で活躍するアスリート』のメンタルコーチングを行なっている。 また、芸術・芸能などアーティストに対してのメンタルトレーニングや、エグゼクティブ層の経営軍師としてアドバイザリーを行うなど、サポート領域は多岐に渡る。
TRUNK METHOD®コーチングスクール

【現象を起こしている原因は何か】〜一連の流れに沿って検証してみる〜

『必殺技を決める瞬間に至るまでの一連の流れを、身体を動かしながらシミュレーションし、真の問題を見つける』

試合に向けて徹底的なイメージトレーニングを行ったことで、ブラジルの猛者・カエタノ選手に勝つことが出来た。次に、必殺技を決めるために、身体を動かしながらシミュレーションし、気づいていなかった真の問題を解明していった。

抱えていた問題

■夢の実現のために必殺技を決め取り組むが、何かが上手くいかない

カエタノ戦に勝ったことでUFCへの道は近づいた。しかし、中村選手はタックルなどレスリング関連の得意技はあるものの、決め手に課題を感じていた。試合のフィニッシュにつながる極め技(必殺技)がなかったのだ。そこでダースチョークという技を磨いていきながら、次戦に向け精度を高めていくも、何か上手くいかない感覚を感じていた。

中村選手:「慶人コーチが「“この展開になったら必ず仕留められる”隠し玉となる様な必殺技が持てるといいよね。そして、世界の頂点を極めるにもそこを磨いていかない?」と提案してくれて、確かにそうだなと思いました。そこで、ダースチョークを意識してスパーリングを行っていくと、精度はどんどん上がっていったのですが、相手が警戒し出すと最後極めが上手くいかなくなってきて」

解決方法

■「何が真の問題なのか」実際に身体を動かしながらシミュレーション

何が真の問題なのかを感覚的に掘り下げて見つけることが大切だと慶人コーチは言う。そこで、それを見つける為に、中村選手が問題と感じている「必殺技を極める瞬間」に至るまでの、“相手と対峙している~相手を倒す~相手の上に乗っかる~必殺技を極める”という一連の流れを、実際に身体を動かしながらシミュレーションしていった。

中村選手:「必殺技を極めるところではなく、逆に自分が気持ち悪いと思うところはどこなの?」と聞かれ、実際に動きながらシミュレーションしていきました。すると、相手の上に乗っかれた時に、自分と相手のスペースが空きすぎているため逃げられてしまうことが気になっていたことに気づいて。本当の課題は、相手とのスペースをいかに秒速で埋め込めるかということが明確になり、次のスパーリングからは「必殺技を極める」ではなく、「相手とのスペースをいかに短い時間で埋めるか」というのをテーマに、何回も繰り返し練習していきました」

必殺技を極める前のスペースを埋めることの重要性に気づいたセッション

得られた結果

■UFC契約につながる大一番の初戦を、シュミレーション通りに秒殺で勝利

2022年6月10日に行われた、優勝すればUFC契約となるRoad to UFCのトーナメント1回戦となったググン・グスマン戦で、V1アームロックによる一本勝ちを収め、準決勝に進出することが出来た。

中村選手:「Road to UFCの初戦が、グスマンという、フィジカルも強いキックボクサーの選手だったんですが、その取り組みが思いっきりハマって。1Rでテイクダウン(タックルして相手を倒すこと)した後、速攻で相手とのスペースを埋めることができ、アメリカーナという技で秒殺で勝てたんです。イメージ通りに勝って「これ、まさにシミュレーション通りじゃん!」と感じた、とても印象的な戦いでした」

コーチ補足

■「現象を起こしている原因は何か」に意識を向けて、身体を動かしながら検証してみる

慶人コーチ:怪我や病気と近しいのですが、例えば本人が「痛い」というのは現象です。「その現象の問題解決」にフォーカスするではなく、「現象を起こしている真の問題の発見」をしていかないと、ボタンの掛け違いが起きてしまいます。上手くいかないことがあると、どうしても「じゃあそれをどうやって上手くやろうか」となりがちですが、「それを引き起こしている根本的な原因は何か」に意識を向けていくと、最終的に全く違うことが問題であることが多くあります。この時は「必殺技が極められない」という現象を、一連の流れに沿って検証してみることで、もっと前の段階に根本的な原因を見つけることが出来ました。また、実際に身体を動かしながら行うからこそ、本人の体の中に眠っている知性「身体知」が引き出され、「あー、これ!」と感じることが出来るのです。ただ、そこで大事なのは、その感覚を言語化すること。中村選手は「気持ち悪いのはこの時だ」と気づき、その感覚を「相手と自分のスペース」と言語化したわけです。言語化することで真の課題が明確になり、反復することで再現出来るようになっていきます。

コーチングはさらなる問題を解決する。次は、最近の事例を

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UFC契約の日本人MMAファイターの中村倫也、 2024年2月17日、カリフォルニアアナハイムで行われるUFC298のナンバーシリーズに出場決定!