【現象を起こしている原因は何か】〜一連の流れに沿って検証してみる〜
試合に向けて徹底的なイメージトレーニングを行ったことで、ブラジルの猛者・カエタノ選手に勝つことが出来た。次に、必殺技を決めるために、身体を動かしながらシミュレーションし、気づいていなかった真の問題を解明していった。
抱えていた問題
■夢の実現のために必殺技を決め取り組むが、何かが上手くいかない
カエタノ戦に勝ったことでUFCへの道は近づいた。しかし、中村選手はタックルなどレスリング関連の得意技はあるものの、決め手に課題を感じていた。試合のフィニッシュにつながる極め技(必殺技)がなかったのだ。そこでダースチョークという技を磨いていきながら、次戦に向け精度を高めていくも、何か上手くいかない感覚を感じていた。
中村選手:「慶人コーチが「“この展開になったら必ず仕留められる”隠し玉となる様な必殺技が持てるといいよね。そして、世界の頂点を極めるにもそこを磨いていかない?」と提案してくれて、確かにそうだなと思いました。そこで、ダースチョークを意識してスパーリングを行っていくと、精度はどんどん上がっていったのですが、相手が警戒し出すと最後極めが上手くいかなくなってきて」
解決方法
■「何が真の問題なのか」実際に身体を動かしながらシミュレーション
何が真の問題なのかを感覚的に掘り下げて見つけることが大切だと慶人コーチは言う。そこで、それを見つける為に、中村選手が問題と感じている「必殺技を極める瞬間」に至るまでの、“相手と対峙している~相手を倒す~相手の上に乗っかる~必殺技を極める”という一連の流れを、実際に身体を動かしながらシミュレーションしていった。
中村選手:「必殺技を極めるところではなく、逆に自分が気持ち悪いと思うところはどこなの?」と聞かれ、実際に動きながらシミュレーションしていきました。すると、相手の上に乗っかれた時に、自分と相手のスペースが空きすぎているため逃げられてしまうことが気になっていたことに気づいて。本当の課題は、相手とのスペースをいかに秒速で埋め込めるかということが明確になり、次のスパーリングからは「必殺技を極める」ではなく、「相手とのスペースをいかに短い時間で埋めるか」というのをテーマに、何回も繰り返し練習していきました」
必殺技を極める前のスペースを埋めることの重要性に気づいたセッション
得られた結果
■UFC契約につながる大一番の初戦を、シュミレーション通りに秒殺で勝利
2022年6月10日に行われた、優勝すればUFC契約となるRoad to UFCのトーナメント1回戦となったググン・グスマン戦で、V1アームロックによる一本勝ちを収め、準決勝に進出することが出来た。
中村選手:「Road to UFCの初戦が、グスマンという、フィジカルも強いキックボクサーの選手だったんですが、その取り組みが思いっきりハマって。1Rでテイクダウン(タックルして相手を倒すこと)した後、速攻で相手とのスペースを埋めることができ、アメリカーナという技で秒殺で勝てたんです。イメージ通りに勝って「これ、まさにシミュレーション通りじゃん!」と感じた、とても印象的な戦いでした」
コーチ補足
■「現象を起こしている原因は何か」に意識を向けて、身体を動かしながら検証してみる
慶人コーチ:怪我や病気と近しいのですが、例えば本人が「痛い」というのは現象です。「その現象の問題解決」にフォーカスするではなく、「現象を起こしている真の問題の発見」をしていかないと、ボタンの掛け違いが起きてしまいます。上手くいかないことがあると、どうしても「じゃあそれをどうやって上手くやろうか」となりがちですが、「それを引き起こしている根本的な原因は何か」に意識を向けていくと、最終的に全く違うことが問題であることが多くあります。この時は「必殺技が極められない」という現象を、一連の流れに沿って検証してみることで、もっと前の段階に根本的な原因を見つけることが出来ました。また、実際に身体を動かしながら行うからこそ、本人の体の中に眠っている知性「身体知」が引き出され、「あー、これ!」と感じることが出来るのです。ただ、そこで大事なのは、その感覚を言語化すること。中村選手は「気持ち悪いのはこの時だ」と気づき、その感覚を「相手と自分のスペース」と言語化したわけです。言語化することで真の課題が明確になり、反復することで再現出来るようになっていきます。
コーチングはさらなる問題を解決する。次は、最近の事例を