ON COME UP
#38 | Oct 9, 2018

主演映画「生きてるだけで、愛。」がまもなく公開。異彩を放った圧倒的存在感で心に響く多くの作品に参加する実力派女優

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Retouch: Koto Nagai

未来に向かって躍動する人たちをインタビューする“ON COME UP”。第39回目のゲストは、女優の趣里さん。最近では、圧倒的な存在感で視聴者を虜にした、TBS日曜劇場「ブラックペアン」での看護師役が話題になりましたが、NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」やTBS金曜ドラマ「リバース」などでも強烈な印象を与え、作品に出演するたびにその演技力が高く評価されています。4歳でクラシックバレエを始め、プロを目指して中学卒業後はイギリスに留学。しかし17歳の時に大怪我を経験し、若くしてバレリーナの夢を絶たれるという挫折を経験します。そこから舞台に興味を持ち訓練を重ねること数年間、ついに舞台を中心に女優活動をスタートさせました。現在は多くのテレビドラマや映画、舞台等で活躍している趣里さんは、まもなく公開の映画「生きてるだけで、愛。」で主演を務めています。今後の活躍が大いに期待される趣里さんに、主演映画について、幼い頃から今までのこと、怪我をして挫折した経験、そして女優としてのキャリアをスタートさせた経緯や、演技のことからプライベートまでをたっぷりお聞きしました。
PROFILE

女優趣里

1990年9月21日生まれ、東京都出身。2011年に女優デビュー。NH連続テレビ小説「とと姉ちゃん」への出演などで注目を集め、「リバース」(TBS)での狂気的な熱演や「ブラックペアン」(TBS)でのクールな看護師役も話題となった。一方、舞台では赤堀雅秋、根本宗子、栗山民也、串田和美、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、小川絵梨子ら巨匠から気鋭まで幅広い演出家の手がける作品に出演。「大逆相」「アルカディア」「メトロポリス」「陥没」「ペール・ギュント」「マクガワン・トリロジー」などで重要な役どころを演じる。また、主な映画出演作に『おとぎ話みたい』(13)『東京の日』(15)『母 小林多喜二の母の物語』(17)『過ちスクランブル』(17)『勝手にふるえてろ』(17)などがある。現在、テレビ朝日金曜ナイトドラマ「僕とシッポと神楽坂」に出演中。

趣里

 

小さい頃は、どんな子供でしたか?

外に出てもあまり喋らないような、凄く静かな子だったようです。 4歳の時にバレエを始めたんですけど、最初は馴染めずにレッスンに行くのも嫌だったのを覚えています。お友達に誘われて始めて、ただついて行っている感じでした。

では、本格的にバレリーナを目指すことになったのはその後ですね。ご自身の気持ちはどのように変わっていったのですか?

いつごろでしたかね。しばらく続けていたら自然と楽しくなってきて、小学校でも休み時間になるとバレエをやっている他の友達と教室の後ろで踊っていたのを今思い出しました。6年生の時にバレエの公演で「くるみ割り人形」のクララをやったのをきっかけに、さらに夢中になりました。

中学生になった頃は、本格的にプロを目指すようになったのですね。

海外に行けたらいいなっていう気持ちが中2の頃から出てきました。やっぱり日本ってちょっと窮屈だなっていうのは感じていたので、外に出たいって思う時期なんでしょうね。何かを変えたいって思ったのかな。

そして中学校卒業後、イギリスに留学されましたが、バレエ団に入団したのですか?

いえ、オーディションを受けて、ロンドンのArts Educational Schoolsという学校に通いました。午前中は授業を受けて、午後はバレエレッスンをしていましたね。でも私、骨折して、アキレス腱も痛めてしまって、怪我が原因で辞めることになってしまったんです。

稽古中に怪我をしてしまったのですか?

レッスン中、ジャンプの着地の時に足を変な方向についたまま、続けてジャンプしたら足に体重以上の負荷がかかって。「あ、捻挫した」って思ったんですけど、捻挫どころじゃなかった。いろんなことがこんなにも脆く、あっという間に消え去ってしまうものなんだなって思いました。それが17歳くらいの時です。

それは趣里さんが過去に経験した最も辛い挫折でしょうか?

もちろんメンタル的にきついポイントは他に色々ありましたけど、あの時の怪我は本当に辛いものでした。そういう時には家で映画を観る習慣があって、映画を観ては感動して泣いていました。泣きすぎると体ってだるくなりますよね。ぼーっとしちゃって、次の日学校を休んだこともあります。

映画が救いだったのですね。どんな映画をご覧になるのですか?

当時観た中で印象的な作品は「アイ・アム・サム(I am Sam)」かな。ショーン・ペンの演技にやられて、号泣して嗚咽が止まらなくなりました。バレエでこの先の希望が見えなくなった時、映画鑑賞は現実の辛さを全部忘れてその世界に没頭させてくれたんです。後に頻繁に観劇をするようになるのですが、舞台を観た時も同じ感覚を味わいました。まだ女優さんになりたいわけではなく、バレリーナへの未練もあってやめる決断もできない時でしたね。生きていくにはどうしたらいいかなって考えている時期で、将来は英語を生かして空港のグランドホステスみたいな仕事もいいのかなぁって漠然と思い、大検を取って大学受験しました。

その頃は、自分を模索していたのですね。

そうですね。色々なな選択肢が増える中で、やはり表現する世界が好きだったんですね。ある日、舞台を観に行くとある事務所の人が「お芝居に興味あるんだったら、レッスンしてみる?」って声をかけてくれて、お芝居の世界に入ったんです。

その頃はどういう舞台をよく観ていたんですか?

人間の本質をリアルに表しているのにセリフはとても詩的な岩松了さんの舞台が好きでした。それに、「なんだろう、この世界」っていう、単に舞台に対する興味もありましたね。バレエとは全く違う世界なのですが、別の美しさを凄く感じたんです。言葉のひとつひとつも、登場人物にもなんだか凄く共感できたし、ストレートに言わない表現方法にも日本的な美しさを感じましたね。

それで演劇の方に進まれたのですね。

はい。それからしばらく経ってから、塩谷俊さんが主宰していたアクターズクリニックに通いました。当時は、「自分って何だろう?個人って何だろう?」みたいに常に悩んでいた状況だったんですけど、塩谷さんは、そのままの私を認めてくれたんです。「趣里はそのままでいいんだよ。絶対に大丈夫だから女優をやったほうがいい」っていつも後押ししてくださいました。そこで初めて、「自分はこのままでいいのか」ってありのままの自分を肯定できた気がします。

素晴らしい出逢いでしたね。アクターズクリニックでは、技術的なことも学ばれたと思いますが、教わったことで今に生かされている演技的な部分はありますか?

そこは、アメリカの代表的な演技法のひとつであるステラ・アドラーメソッドを基本とするレッスンをしていて、自分の感情や想像力を深めたり、登場人物の分析をしたりすることに力を入れていました。シーンを演じる前に、今どこにいて、この前は何をしていて、自分の体感温度は何度で、何が聞こえていて、何が見えて何の匂いがしているか、っていう登場人物の細かい情報をノートにびっしり記録するんです。ノートに書いたものを全部提出して、先生にコメントを書いてもらってアドバイスをもらうという作業を3、4年続けました。大学に通いながらだったのですが、凄く楽しかったです。

そういった地道な訓練を重ねた上で、趣里さんの演技力が存在するのですね。まもなく公開の主演作「生きてるだけで、愛。」についてお伺いしたいのですが、撮影期間は一ヶ月ほどだったそうですが、撮影中、ずっとあのテンションでいるのはメンタル的にしんどくなかったですか?

それが全然きつくなかったんです。準備の段階から寧子(やすこ)のことを考えて彼女に近くなっていったのが良かったのかもしれません。もちろん責任感とかプレッシャーがなかったって言ったら嘘ですけど、スタッフさん達の映画にかける想いを凄く感じたし、「自由にいていいよ」と監督もおっしゃってくださっていました。気負いすぎず、自然体で現場にいられたことが一番大きかったです。

©「生きてるだけで、愛。」

演じられた寧子は、本来のご自分に近い役ですか?遠い役ですか?

どちらかというと、近いのかな。私自身、いなくなりたいと思うほど辛いこともあったし、それでも希望は持っている。誰かにも自分にもまだちょっと期待している部分があるし、表面的ではないその辺りのところで、寧子の深層心理と自分が重なっていたと思います。

私から見たら、演技力しかり、将来に希望しか見えない趣里さんが、ネガティブになったり、絶望感を持ったりすることがあるというのが興味深いです。

いや、私、キャリアもまだまだですしね。でも小さい頃から人が好きですし、考えることは好きだったんです。とにかく色々なことを考えちゃうんですよね。ネガティブに限らず、ポジティブなこともなんでも想像したり考えたりすることが好きなんです。それに、人や作品などとの出逢いを通して、今まで出逢ったことのなかった感情に出逢うのが凄く面白いです。

いいですね。今回の役を演じる上で、大切にしていたことは何かありますか?

寧子という役を演じるにあたっては、撮影に入った時に不安要素がないように、前々から感情面を頭で構成するなどは考えていましたが、現場では自由にいることを心がけました。あと、とにかくシーンは一人で創るものではなく、相手と創るということですね。津奈木(つなき。寧子の恋人)がいて寧子がいるし、安堂(津奈木の元彼女)がいて寧子がいる。相手の言葉や感情、空気を受けて寧子という人物は存在するってことを常に考えていました。

津奈木役をやられた菅田さんはいかがでしたか?

撮影時でもそれ以外でも、本当に自然体でいてくださったので、私もそのままの自分でいることができました。いつも自然に会話をしている感じでしたね。

この作品を通して、観た方に考えて欲しいことなどはありますか?

映画を観てくださった方が何かを感じ、それが日々の潤いになってくれればなっていうのが根本にあります。変だなこの子とか、こういう子いるよねとか、そんな人いる?とか(笑)、自分がそういう経験があって救われたとか、共感するでもなんでもいいんです。完成作を観た時、自分にとっても明日への一歩になる作品だと思えたんです。人生は辛いことだけではなくて、もっと希望もあるとみんなに思ってもらえたらいいなって思います。

公開が楽しみです。では、趣里さんの人生で、一気に視界が開けた瞬間や、自分が成長したと実感した出来事はありますか?

演劇の道に入って、塩谷さんと出逢ったことがまず大きかったですし、この映画に出逢えたこともそのひとつです。この作品は自分自身とも他の人とも、仕事とも向き合えたっていう、凄くありがたい出逢いだったと思います。

女優を続けていく上で大変なことはありますか?

いっぱいありますけど、その大変なことって皆さんが社会で大変なのと同じようなことだと思います。

憧れている人、尊敬する人は誰ですか?

海外の女優さんで言うと、キャリー・マリガンさんが大好き。彼女の持つ空気感というか、役が実際の人物に見える技術もさることながら、説得力も凄い。それに可愛いし、美しいし素敵だなって思います。彼女の歩んできた人生が伝わってくるというか、人間的な部分がすごく好きです。

好きな映画や写真、音楽やアートなどで一番影響を受けたものは?

ウッディ・アレンの映画は好きです。(フランシス・フォード)コッポラの「ゴッド・ファーザー」を初めて観た時には衝撃を受けました。それ以来「ゴッド・ファーザー」シリーズは全て観ていますし、もちろんダイアン・キートン(アル・パチーノ演じるマイケル・コルネオーレの妻役として出演)も好きです。他にも色々観るし、音楽は洋楽も邦楽も両方聴きます。一緒にお仕事したバンドの曲にハマったり、その時にいいと思ったものを、ジャンル問わず聴いていますね。

アートを観に行くことはありますか?

留学先のイギリスで美術館に行ったり、ニューヨークに行った時にメトロポリタン美術館に行ったり、日本でも面白そうなものがあったら観に行きます。あとはバレエ留学した時、夏に行ったベルギーでは、教会のステンドグラスを観に行きました。その土地のものを観るのは凄く好きです。大学が芸術学科だったので、一通り美術の歴史も学んでいるので観ていて面白いです。

お休みの日にはあまり外に出ないそうですけど、お家で何をされているんですか?

1、2日だと映画を観て終わるか、最近は次の日の仕事の準備で終わってしまいます。遊んでいると「こんなことしていていいのかな」って思っちゃうタイプなんですね。だから例えば1週間後の撮影の前にお休みが1週間あっても海外には絶対行けないし、腰が重いというのもあるけど、マッサージと鍼とメンテナンスに行って、台本を読むっていうのが当たり前になってしまっています。友達とちょっとどこかに行くとか、美味しいものを食べに行くことが一番の楽しみで癒しですね。

では、映画の中の寧子のように布団の中でずっと寝ている気持ちは理解できます?

できます。できるものなら動きたくないっていう気持ちはわかりますし、一時期怪我していた時は、まさに家であの状態でした。考えてるんだか、考えてないんだか、なんなのか、自分で自分がわからない状態でした。

これから女優として挑戦してみたいことや取り組みたい役は?

難しいですね。嬉しいことに色々な種類の役を今までやらせていただけているので、これからも今までのように自然体で様々な役にチャレンジしたいなって思います。もちろんやってみたい役はあるんですけど、出逢いは一期一会だし、その時の自分の状態で自分も変わるでしょうし、やってみたい役を何としてでもやるというよりは、人に寄り添って、自然の流れに任せていきたいって思いますね。

小川絵梨子さんの演出作品「マクガワン・トリロジー」にも参加されていましたが、小川さんはどんな方でしたか?

本当に素敵な演出家さんでした。海外のメソッドを実践されている方なので、ものすごく気が合いました。絵梨子さんは本当に誠実で、芝居で嘘をつくとすぐ見抜くし、相手にも自分にも向き合ってその状況を感じるっていうことを大事にされていて、とても美しい繊細な演出をされる方です。見え方から全てをちゃんと計算してやっているところもスマートでした。

趣里さんは、そういう素晴らしい方に出逢っていく道ができていますね。

今それを感じてます、ちょうどこのタイミングで。

素晴らしいです。では、今社会で起こっていることで、気になることはありますか?

常々、色々気になります。例えばニュースだったら、「結果どうなったんだろう?」ってことが多すぎるなと感じてます。事件になったその時だけ盛り上がっているけど、その続きや結論を最後まで伝えないものが多いなって思います。あとは、SNSが発達している時代だからこそ感じるのですが、お手紙で人と繋がっていた時代っていいなって感じます。待ち合わせは家の電話からかけて「喫茶店に3時」みたいに約束をする。私はそういう時代を生きていないので、羨ましいなって思います。それこそこの映画にも通じることなんですけど、人にちゃんと向き合うことを忘れがちな時代だからこそ、人と繋がる瞬間をより大事に感じるのかもしれないですね。

それでは、チャンスとはどういうことだと思いますか?

どんなことでもチャンスになりますよね。バレエを辞めた時は辛かったけど、大検を取って大学に行けたし、全ては考え方一つですね。その時は辛くても、そういう風に考えれば何にでも前向きにチャレンジできるし、どんなことでも自分次第でチャンスに変えられるのかなと思います。

では、趣里さんにとって成功とは何ですか?

良かったとか安心でもなんでもいいんですけど、自分の気持ちが肯定的な気持ちになれた時、例えばやって良かったと思うのって、後付けのことだし、結果論なんですよね。だから「これが成功」っていうのはあまりないですね。結果として、成功なのかなってことですね。 後になって感じることだと思います。

3年後、5年後、10年後の自分はどうなっていると思いますか?

わからない。どうなってますかね、未知です。

間違いなく大女優になってますね。

いや、いや(笑)。お芝居を続けられていたらいいなと思いますけど、どうなってるんでしょうか。

とっても楽しみです。

だんだん年齢を重ねるってことが楽しいと思うと、見えてくる世界も変わりますし、人との出逢いもたくさんあります。そうやって自分がまた変わって、でも根本は自分で、色々なことに向き合って。そうなると将来が楽しくなってきますね。前向きに生きたいと思います。

趣里 Information

The Truth

『生きてるだけで、愛。』
11月9日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー!

出演:趣里 菅田将暉 田中哲司 西田尚美/松重豊/石橋静河 織田梨沙/仲里依紗
原作:本谷有希子『生きてるだけで、愛。』(新潮文庫刊)
監督・脚本:関根光才
製作幹事:ハピネット、スタイルジャム
企画・制作プロダクション:スタイルジャム
配給:クロックワークス
コピーライト:©2018『生きてるだけで、愛。』製作委員会
公式サイト:https://t.co/slOtDDRn03