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神奈川県逗子市出身だそうですが、小さい頃はどんな子供でしたか?
小さい頃は人前に出るのが凄く苦手な恥ずかしがりやで、いつも母の後ろに隠れてるような感じの子でした。でも内気だったわりに、外で遊ぶことが好きだったので、男の子と外でサッカーしたり、秘密基地を作ったりしてました(笑)。
ご両親にはどんな育てられ方をしましたか?
今は凄く優しくなりましたけど、小さい頃はとても厳しくしつけられました。英語とかも結構勉強させられましたね。
歌詞にもたくさん英語が出てきますが、海外に暮らしていた経験があるのですか?
行ったことはありますが、住んだことはないです。母が英語を教えてくれていたのが良かったのかもしれないですね。厳しい反面、好きなことも凄く自由にやらせてくれました。
小学校時代、得意な科目はありましたか?
やっぱり英語でした。あとは、体育。
当時、心理カウンセラーになりたいという夢があったそうですね。
小学校の時にスクールカウンセラーの先生に自分が支えられたことがあって、心理カウンセラーって素敵な仕事だなって思ったんです。学校で友達があまりいなくて、みんなに馴染めない時期があったのですが、その先生がいる相談室みたいなところに行くと話を聞いてくれたんです。学校の中で誰かが味方でいてくれるっていうのはすごい安心感がありました。もともと誰かの為になる仕事をしたいっていう気持ちがあったので、お医者さんになりたいと思っていた時期もありました。
幼い頃から音楽は好きでしたか?
小学校の頃はMTVをよく見ていたので、そこでかかっていたリアーナやアリシア・キーズ、ジェニファー・ハドソンなど、R&Bとかブラック系の音楽を聴いてました。小学校の高学年くらいだったと思います。
中学生の頃は、部活は何かやってました?
特に入りたい部活はなかったのですが、ソフトテニス部に入って、学校以外ではダンススタジオに通っていました。MTVを見て、歌って踊れる人が格好良くて影響されて、たまたま知り合いがヒップホップダンスをやってたので、一緒に行ってみたらすごく楽しかったんです。それで高校はダンス部に入ったのですが、女子の輪みたいなのが嫌ですぐ辞めて、ボイストレーニングに通い始めました。
きっかけは何かあったんですか?
高校生の時に、アリシア・キーズのピアノの弾き語りの映像を見て凄く感動したのがきっかけです。パワフルでソウルフルな歌声が、静まり返った会場に響いてたくさんの人が感動している光景が素晴らしかった。歌のもの凄い力を感じて、アリシアみたいなアーティストになりたいと思い、湘南にいるゴスペルの先生のところにボイストレーニングに通い始めました。
当時から歌はうまかったですか?
いや、下手くそでした。ひどかったと思います(笑)。
その先生にはどういうことを教わったんですか?
発声方法が多かったですね。「こういう風に歌いなさい」とかいうのは特になくて、歌いやすいようにトレーニングをしてくれました。他にも何人か教わりましたが、どの先生も歌い方というよりは、歌うために必要な筋肉や姿勢とかを教えてくれたので、それぞれの先生のアドバイスを自分なりにいい感じにミックスして、今のスタイルになりました。
iriさんの歌声は、同年代の若い女性に比べたら声がとても低いと思うのですが、お話しされる声も結構低いですね。小さい頃から声は低いんですか?
そうですね。
高くしようと思ったことはない?
全然あります。人前に出た時とかはちょっと、「こんにちは~(裏声気味に可愛らしく)」みたいな(笑)。でも音楽を始めてからは全くないですね。
とても格好いいと思います。ところで、アリシアに憧れてボイストレーニングに行き始めた時、すでにプロになろうって決心していたんですか?
なれるんじゃないかっていう変な自信がありました。小学校の頃、日記とか交換日記が流行っていたので、私も日記を書いていたんですけど、 そこに自分がステージで歌ってる絵を描いたり、友達と交換してその絵を見せて「私はこうなる!」って言ったりとか、自信だけはあったんですよね。将来、会社でデスクワークとかはしないんだろうなっていうのは何となく小さい時からありました。
そうだったんですね!ちなみに、オーディションに行き始めたのはいつ頃から?ボイストレーニングに通いながら、ですか?
はい、中学3年くらいの時に一回受けたんですけど、初めてのオーディションで緊張してほとんど声も出ず、ソッコー落ちました(笑)。それで、もうオーディションなんていいやって思って (笑)。その次に受けたのがメジャーデビューのきっかけになった「JAM」になるんですけど、その間は4~5年あります。
1回目のオーディションとグランプリを取った「JAM」の時は、ご自身の中にあった想いは違いました?
全然違いましたね。1回目は歌手になりたいとかいう強い意志じゃなくて、「なれるんじゃないかな?」くらいの気持ちで受けに行ったんですけど、JAMの時は自分のやりたい方向性を固めて、自分で曲も作り始めていたので、私の歌を聴いて欲しい!」というような想いがありました。ファーストアルバムに入っている「無理相反」とか「brother」とかを弾き語りで披露して、自分の曲以外にも、コリーヌ・ベイリー・レイのカバー曲なども歌いましたね。
作詞はいつ頃始めたんですか?
ボイストレーニングを始めてから、カバー曲ではなく自分で作った歌を歌わなきゃいけないと思って、ある程度それらを歌えるようになってからなので、18歳の頃ですね。披露するために、弾き語りもできるようになりました。
ギターはどうやって習得したのですか?
独学です。母から彼女が昔ちょっと弾いていたアコースティックギターを頂いて、コードとかは全然わからなかったけど適当に押さえて、3コードとかで曲を作り始めて。それを地元のバイト先とか、ミニシアターやカフェで弾いて、投げ銭ライブみたいなのをやってました。
「JAM」でグランプリを取った時はどんな気持ちでした?
もちろん嬉しかったですけど、「これからどうしよう、どんな風になっていくんだろう」とも思いました。それからは、ライブをたくさんこなしていこうってなったので、いろんな地方のフェス、サーキットイベントや東京のライブハウスなどでやらせていただきました。
多くのライブを経験して、2016年にファーストアルバム「Groove It」を出されてメジャーデビューし、今3年目くらいですがこれまで活動してきていかがですか?
いや~、早いようだけどファーストアルバムを出して3年かぁと思うと、意外とそんなに早くもないのかなと。不思議な感覚ですね。とにかく曲を次々に作ってリリースして、ライブもフェスも規模がどんどん大きくなってというのが続いています。この間もフランスのフェスに出させていただきましたけど、自分は今どこにいるんだろうってわからなくなる時があります。
フランスで行われた音楽フェス「La Magnifique Society(ラ・マニフィック・ソサエティ)」のステージで Photo by YUDAI MARUYAMA
フランスのこともお聞きしたいのですけど、初めての海外フェスはどうでしたか?
いつも通りできたなとは思います。アウェイなので、どうやったら楽しんでもらえるか心配だったのと、他の出演者はエレクトロニック系のトラックメイカーが多くて、結構バキバキのサウンドで、お客さん達はみんなノリノリで、チルアウトっていう感じじゃなかったから、選曲はちょっと考えました。結局お客さんは凄く楽しんでくれていたので良かったです。
そこでは何を歌われたんですか?
こっちでもいつもやっている曲ですけど、「Corner」とか「Wandering」とか、「Juice」に入ってる曲も歌いました。
お客さんの反応は日本と全然違いました?
はい。私の言葉がわからないからなのか、イベントがそういうイベントだったからなのかもしれないですけど、まずノリ方が全然違うし、みんなすごい踊ってました。でも中には、端っこの方でじーっと聴いてくれてる女の子もいましたね。
これからも海外で色々披露していきたいですか?
機会があればまたやりたいなと思います。
iriさんは作詞・作曲もされますが、作品を作る上で大切にしていることはありますか?
自分が思っていることをちゃんとストレートに書くというのと、「あ、わかる!」って聴いてる人に共感してもらえて親近感を持ってもらえるようなものは大切にしています。だから、カッコ悪いなって思うことでもあえて歌詞にしたいですね。
今までの活動の中で、自分の価値観に変化や気づきを与えてくれた出来事や出会いはありましたか?
Coccoさんのライブがすごい衝撃でした。なんていうんだろう、なんか、凄いものを見たなっていう感じでしたね。
自分の心にくる音楽はR&Bやヒップホップに限ったものではないのですね。Coccoさんのどのような部分に惹かれたのですか?
Coccoさんの自分の内のものを放っている感じがすごく素敵だなと思っています。ライブ映像などでお客さんがボロボロ泣いているのを見ると、私も、私の歌を聴いてくださる皆さんを同じくらい支えてあげられるような存在になりたいなって凄く思うんです。
アリシアやリアーナにも影響を受けたそうですが、具体的に何かこれ!という曲を挙げるとしたら何かありますか?
アリシアの「If I Ain’t Got You」は、ずっとカバーで歌っていたので、凄く好きな歌です。
アリシアがiriさんの音楽に最も影響を与えたアーティストになるんですか?
いや、アリシアのその曲はiriというアーティストとして、ですね。音楽に影響を与えたアーティストってなると、七尾旅人さん。弾き語りを始めた時、その素晴らしさを教えてくれた方です。曲だと「サーカスナイト」かなぁ。
セカンドアルバム「Juice」に収録されている「Telephone」という曲ではラッパーの5lackさんをフィーチャーしたり、iriさん自身の歌い方もラップぽかったりすることがありますが、ヒップホップも昔から好きだったんですか?
もともとヒップホップのダンスを習っていたから耳がそういう音楽を好むのか、後は七尾旅人さんやアリシアもそうですけど、彼らがラッパーをフィーチャーしている曲を聴いて、ヒップホップを知っていったのもありました。そうして色々な曲を聴いてるうちに、自分で曲を作って3コードでやってみたらラップ調になったっていうのもあって。でもこれから3年後、5年後とかはどういう感じの曲調で何を歌っているかわからないです。
昨年、コリーヌ・ベイリー・レイの前座をされましたが、その前から彼女の曲を歌っていらしたということは好きなアーティストだったんですよね?
はい、好きですごくリスペクトしています。実際に会ってみて、夢みたいというか、変な感じでした(笑)。ずっとライブで彼女の曲を歌っているっていうのを頑張って英語で伝えたら、すごく喜んでくれて。
iriさんから見たコリーヌさんの魅力とは?
あの独特の声の柔らかさですかね。初めて彼女の曲を聴いたのは多分私が弾き語りを始めた頃だったのですが、温かさを感じたんです。曲もメロディーも綺麗ですしね。
憧れている人や尊敬する人はいますか?
先ほども言いましたけど、Coccoさんはアーティストとしてかっこいいと思いますし、女性としても凄く憧れます。好きなことを自由にやってる人は女性でも男性でもすごく素敵だなと思います。
iriさんは理想の女性像ってありますか?
「これをやりたい」とか、「あれを見てみたい」とかっていうのが常にあるような好奇心旺盛な人や、歳をとっても挑戦してる人はすごく素敵だなと思うので、そういう女性になりたいなと思います。私の周りには結構そういう人が多くて、イラストレーターとかヘアメイクの方とか、いつもいろんな所に行ったりしていて凄いなって思います。
iriさんご自身も好奇心旺盛な方ですか?
はい。イタリアとか、行ったことない所がまだたくさんあるんで、行ってみたいですね。
アーティストを続けていく上で大変なことやしんどいことはありますか?
曲を書くことですかね。「自分は結局何を今一番伝えたいか」っていうのを、「いや、違う」とか「これを言ったらここは矛盾するな」とか迷いながら考えて、自分と向き合い続けるのはメンタル的にしんどかったりします。
曲を作る時は、場所とか時間とか大体決まっているんですか?
う~ん、そんなことはないです。いつできるとかはなくて、気持ちが向いたらというか、自分の部屋で書いたり、ファミレスとかの端っこで書いたりすることが多いですね。
8月にニューシングル「Only One」が発売されますね。「世界の先へ」というコンセプトをイメージして作詞・作曲されたそうですが、大事にしたことやテーマにしていることを教えてください。
この曲は国際ファッション専門職大学のテレビCMのために作った曲で、テーマはチャレンジしたくなるような感じというか、「人それぞれの表現が未来に繋がっていく」というイメージをもとに、自分自身と重ねながら作りました。私は、自分が作る曲もファッションや服と一緒で、次の世代の人たちや未来に繋がっていくものと思って作っているので、自分らしさを残していきたいという気持ちがあります。歌詞も自分が本当にその時に純粋に思ったことを書いていますし、そうやって未来に残したものが、いつかどこかで誰かに影響を与えられたらいいなと思って作りました。
「Only One」と一緒に3曲収録されていますが、どれも素晴らしいですね。iriさんの曲は恋愛について歌っているものが多いですが、恋愛はいつもテーマのベースにあるのですか?
自然にできることが多いです。今まで恋愛の曲ってハッピーエンドなものを作ったことがあまりなかったのですが、最近周りの友達が次々に結婚すること多いので、ウエディングソングとまでは言わないですけど、結婚式とかで歌える曲があったらいいなと思っていたんです。今回はそれも含めて作りました。
ナイキやクロエ、ヴァレンティノなど、有名ブランドからのオファーが多いですが、iriさんの曲が多くの人達に評価されるのはどんなところだと思いますか?
私は特に具体的な何かを伝えたいと思って歌っているわけではないですけど、私が昔アリシア・キーズの歌声に憧れたように、もともと誰かのためになりたいという気持ちで歌い始めているからか、誰かの背中を押せるような曲調や歌詞に自然となっているのかもしれないです。そういう曲を企業の方が聴いてくださって、こういうテーマで作って欲しいみたいなお話になることが多いんですけど、自分自身が女性の背中を押せるとか、女性の憧れみたいになれたらすごく嬉しいなと思います。「Only One」も、力強い女性みたいなものが感じられるとは言っていただけますね。
ご自身の作品のスタイルを一言で表すと?
なんだろうなぁ。ファーストアルバムのタイトルにも入っている言葉ですけど、「Groove(グルーヴ)」ですかね。
好きな映画や写真、音楽やアートなどで一番影響を受けたものは?
影響を受けたのかはわからないですけど、「アメリ」みたいなフランス映画とか、ヒューマンドラマ系の映画が好きです。
これから挑戦してみたいことは?
もっと海外に出て、海外のアーティストさんと一緒に曲を作って、それを向こうでパフォーマンスとかできたら面白いかなと思います。
社会で起こっていることで、気になることはありますか?
今、周りがオリンピックに向けて東京を意識した音楽を作り始めたり、日本の良さみたいなのを海外に発信したりしている中、私もオリンピックを意識するという訳ではないけれど、自分らしいスタイルで、日本人だからこそ書ける歌詞だったり、グルーヴやサウンドだったりを海外の人に発信できたらいいなと思います。
iriさんの活動が日本や世界を変えられるとしたら、どんなところだと思いますか?
う~ん、なんだろう、難しいですね。私がアリシアの歌を初めて聴いた時って、学校にいても孤独で気づいたら内気になってたり、自分の発言ができなかったりしていたんですね。でも彼女の歌に背中を押してもらったことがきっかけで、私は今ステージに立ってみんなに歌を届けているわけなんです。だから、当時の私のように、自分をうまく表現できない人がいたら、音楽を通して「あなたはそのままでいいんですよ」って伝えたいし、そういう人たちがもっと簡単に発信できたり表現できたりする環境を作れたらいいなと思っています。
一気に視界が開けた瞬間や、自分が成長したと実感した出来事はありますか?
私の曲がまだそれほど知られていなかった時期は、ライブの度に私が出たらお客さんがどんなリアクションをするのか不安だったんですけど、最近は少しづつですけど、たくさんの人に広がっていっているおかげか、お客さんが迎えてくれてる姿勢を感じられるようになったんです。毎回、自分もやっとここまで来たんだなっていうのはすごく思います。
それでは、iriさんにとって、成功とは何ですか?
歳をとっても歌い続けていくことですかね。
最後に、3年後、5年後、10年後の自分はどうなっていると思いますか?
う~ん、わからないですね。絶対に歌は歌ってますけど、どんなステージでどんな曲を歌っているかもさっぱりわからない。自分に合った何か違った音楽を見つけてるかもしれないですし。でもとにかく、その時にしか書けない曲をどんどん作っていって、歳を重ねていくごとに、その時にしかできないことをしていくことが大事かなと思います。もしかしたら地元に戻って弾き語りをしているかもしれないですし、この先アーティストとしてどうなるかはわからないですけど、どんな形であっても音楽を続けていきたいと思います。
「Only One」2018年8月29日リリース
新曲「Only One」は「世界の先へ」というコンセプトをイメージしてiri自身が作詞・作曲を手がけた最新の書き下ろし曲。
力強いメロディーとリリック、そして2018年北米/UKのR&B シーンと並走するボトムの効いたミドルテンションのトラックが絶妙にブレンドされたナンバー。
c/wにも新曲を3曲収録し、豪華な計4曲収録のシングルが完成。また、CDの初回盤にはフランスにて撮影された「Only One」のMusic Videoなどを収録。