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#3 | Sep 8, 2018

ストリーミング総数5億回超えの名曲「Sunset Lover」を生み出した、新進気鋭のフランス人DJ、プティ・ビスケット初来日

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka

各々のフィールドで専門性を極め、グローバルな視点と感性を持って、さらなる高みを目指す海外のアーティストやビジネスパーソンなどをインタビューするコーナー「INLYTE(インライト)」。第3回目はDJで音楽プロデューサーのプティ・ビスケット(Petit Biscuit)。18歳の若き天才が織りなす、ドリーミーで美しいエレクトロニックミュージックの世界は音楽シーンに新たな旋風を巻き起こす。
PROFILE

DJ/プロデューサープティ・ビスケット/Petit Biscuit

フランス出身。幼少時に学んだクラシック音楽のバックグランドをベースに、高校生の頃からエレクトロ音楽をプロデュースするようになる。代表曲である 「Sunset Lover」は サウンドクラウド上で3300万回、ネット上でのストリーミング総回数は5億回以上という記録を持つ。フレンチエレクトロ界の天才児として注目を浴びている。

はじまりはクラシック音楽。コンセルヴァトワールでチェロ、ギター、ピアノをマスターした高校生が、わずか2年でストリーミング総回数5億回以上を誇る人気DJに至るまで

モロッコ人の父とフランス人の母を両親に持つ、フランス・ルーアン出身のプティ・ビスケット(本名Mehdi Benjelloun)は、5歳から音楽教室に通いチェロを習い始める。程なくして音楽的才能を開花させたプティは、本格的にクラシック音楽を学ぶため、フランス芸術系高等教育機関であるコンセルヴァトワールに入学し数年間鍛錬を積んだ。チェロだけでなく、ギターやピアノもマスターし、クラシックの世界に邁進していたが、ある時、インターネットでDTM(デスクトップミュージック、コンピューターを使った音楽制作)の映像を見て興味を抱く。

そこから3、4年かけてDTMのノウハウを独学で学び、16歳になった頃にサウンドクラウド(SoundCloud)に自ら音楽を配信したところ、世界中から多くの反響を得て瞬く間にファンを獲得。2015年にデビューシングル「Alone」、2016年にファーストアルバム「Petit Biscuit-EP」をリリースした。代表曲である 「Sunset Lover」は サウンドクラウド上で3300万回の再生回数を記録。ネット上でのストリーミング総回数は5億回以上を誇る。

 

ユニークな曲調とエレキギターやシンセサイザー、デジタルパーカッションをプレイしながらDJをするライブスタイルは世界各国で高い評価を得ており、昨年に行われた初の北米ツアーは、全チケットがソールドアウトした。最近まで高校生DJとして昼は学校に通い、夜は音楽活動を続けていたプティだか、昨年6月に無事高校を卒業、ようやく音楽活動に集中できる環境が整った今、今年の10月からは2度目のアメリカツアーを控えている。今回サマーソニックのために初来日したプティに、17年間の音楽との関わりについて、現在の心境や今後の夢についてを伺った。

自分のライフスタイルを全て詰め込んだユニークな表現をしたい。いつかは人が夢見てくれるような存在に

—先ほどのライブで、今回の日本でのパフォーマンスは全て終えたのですか?

 そう、昨夜のソニックマニアと今日のサマーソニックが終わったから、明日フランスに帰るんだ。海外でツアーすることが増えて、いろんな国や都市を行ったり来たりの繰り返しで、最近はいつも空港にいる気がするよ(笑)。

 

—初来日はいかがでしたか?色々楽しめましたか?

ヨーロッパやアメリカだったら大体想像がつくけど、日本のことは本当に何も知らなかったから、どんな場所なのかすごくミステリアスだった。友達がいるんだけど、夜ちょっとだけ街を案内してくれたよ。

初めて来る国でライブをする時はいつもそうなんだけど、ライブで観客がどういう反応をするのかわからないから、「僕のこと知ってるのかな。僕の曲を全然知らなかったらどうしよう」って始まる前はいつもナーバスになるんだ。だって僕、まだ18歳だよ。

 

—もちろんプティさんの曲は多くの人が知っていますよ!

本当に?それは嬉しい!実際ライブでも僕の曲にすごく反応してくれていたのがわかって安心したよ。

 

—ところで18歳ということは、高校はいつ卒業したのですか?

去年卒業して、大学に入学したんだ。世界でツアーをしながら、フランスに戻ったらまた学校に通うという生活をしばらく繰り返していたけど、どんどん仕事が忙しくなっちゃった。1カ国だけだったらいいけど、いろんな国を回るから、なかなか学校に行けなくなって、しばらくは音楽に集中しようと思って今はもう行ってない。いろんなことを考えすぎて、あまり人生を複雑にしたくないからね。

 

—もう大学に行く必要もないですよね。

だよね。だって、毎朝起きたら、ライブやプロジェクトをもっと良くするためにはどうしたらいいかってことしか考えてないんだもん。

 

—16歳でデビューしたそうですが、最初に音楽に触れたのはいつですか?

5歳の時にチェロを始めたよ。ストリートで誰かがチェロを弾いてるのを見て、母親に「僕もチェロを演奏してみたい」って言ったんだ。そうしたら「いいじゃない、やってみたら」って音楽教室に通わせてくれたんだ。そこで他の楽器と一緒に演奏できることが楽しくなって、9歳か10歳の時にオーケストラに入って演奏を始めた。そのオーケストラは、パリから1時間くらいのところにあるルーアンという街の、9歳から20歳くらいまでの演奏の上手い人達が集まっているところだった。

 

—ということは、プティさんの音楽はクラシックが原点なのですね!

そのあと、他の楽器もやりたくなってきたから、好きなのをなんでもやってみようと思って、ギターやピアノも練習した。こうして人生のほとんどの時間を音楽に使ってきたんだ。

 

—それでは、クラシックから今のスタイルになったきっかけは?

ある時、インターネットでコンピューターを使って音楽を作っているフランス人アーティストのストロマエ(stromae)の映像を見たんだ。その時に、インスパイアされたというか、僕もやってみようと思ったんだ。

 

—それからどのような行動を起こしたのですか?

3、4年かけて、音楽の作り方や、どうやったらユニークな自分だけの音楽が作れるかを独学で勉強したよ。そこから自分でビートを作っていった。それが15歳くらい。

 

—16歳でデビューしたきっかけは?

そろそろ自分の曲を出してみてもいいかなって思ったから、それをアップロードしてサウンドクラウドというサイトにポストしたら、たくさんフィードバックをくれた。最初100人見ていたのが、1000人になって、1万人になって、それでいろんな人が質問をしてきて、シェアしてくれたりしてどんどん大きく広がっていったんだ。「サンセットラヴァー」は3週間で100万人くらいにまで達した。それで新たなプロジェクトをスタートしたんだ。それからあっという間にツアー人生が始まって、音楽業界の人たちに色々知り合って、去年アルバムを出した。こんな感じで進んでるよ。

 

—すごいスピードですね!私は「Sunset Lover」が大好きなんですけど、あんなにも美しく雄大な曲はどこからインスパイアされるのですか?

特に他のアーティストにはインスパイアされてない。むしろ今の生活、例えばツアーして、人に会って、アジア、ヨーロッパ、アメリカなど世界を旅して面白いことをどんどん発見していくことからインスパイアされているのかもしれない。特に目から入るものからもすごく影響を受ける。僕にとってビジュアルもすごく重要。

 

—1曲作るのに、制作時間はどのくらいかかります?

例えば「Sunset Lover」は、1、2日ですごく早く完成した。でも時々、数ヶ月かかることもあるし、曲によって違うよね。

 

—曲作りで大切にしていることは何ですか?

ただ曲を作ってプレイするだけじゃなく、ライブを見た人が僕の全てをわかってくれるような作品にしたいんだ。僕の人生の経験全てを見せたい。プライベートで面白いことがあったらそれも見せたいし、毎日の僕のムードの違いも見せたいし、いい写真を撮ったら見せたいし、そういうことが全部僕のパフォーマンスに影響しているからね。

 

—サマソニに出演しているアーティストで誰か知ってる人はいますか?

あまりよく知らないけど、僕はジョルジャ・スミスとトム・ミシュが好き。いろんな音楽のジャンルのライブがあって楽しいよね。これからジョルジャ・スミスのショーを観に行こうと思ってる。

 

—今、フランスの高校生はサッカー選手に憧れるようにDJに憧れるのですか?

フランスはDJが多いんだけど、今、確かに流行っていて、最近はやりたい人がさらに増えたと思う。僕の影響で増えたかは定かではないし、僕の前に高校生DJがいたかもわからない。でも別に僕は流行りのDJになりたいわけじゃないし、音楽のバックグラウンドがあって、いろんな楽器を演奏できるDJは他に見たことないよね。

 

—ところで、 プティ・ビスケットという名前の由来は?

いい名前でしょ。みんなに想像してほしいから内緒にしておくよ(笑)。

 

—最後に、プティさんの夢はなんですか?

もう叶っちゃったよね。僕は今、夢の中にいる。この先どうなるかも、何を望んだらいいかもわからないけど、もっともっと僕のことを多くの知ってもらえるようになって、人が夢見るような存在の人間になりたいと思うよ。

 

以下はライブのレポート。

アルバム収録曲「Creation Comes Alive」からライブは始まった。プティは「今日が日本で初めてやるショーです。どうか楽しんでいってください!」と言い、ノルウェーのミュージシャンLidoをフィーチャーした「Problems」、セッド&アレッシア・カーラの名曲をカバーした「 Stay」をプレイする。「Memories 」、「Midnight Sky」、「Iceland」の後は、「君たちのためにスペシャルなトラックを作ったよ。みんなでスマホのライトつけて一緒に盛り上がって欲しい。ライトつけて!」と言うと、会場中の観客がスマホのライトを点灯。するとネット上での総ストリーミング回数が5億回を超えた代表曲「Sunset Lover」が始まり、一斉に揺れるライトに照らされた会場は、プティの奏でるエレキギターとシンセの優しい音色に一体となり、ほぼ満員の観客は日本で初めて耳にする新世代のサウンドに酔いしれた。

 

サマーソニックのステージにて ©SUMMER SONIC All Right Reserved.

その後、「 Wake Up」、「 Break Up」が続き、シドニーのエレクトロ・バンド Panama をフィーチャーした「Waterfall」ではドラミングも披露。「Presence」、「The End」、「 Gold Skies」などデビューアルバム『Presence』収録曲を中心にステージを縦横無尽に走り周り、全13曲を演奏して初来日のライブは幕を閉じた。

ライブ中、スクリーンには、東京在住のフランス人ビジュアルアーテイスト、カンタン・ドゥロンジィ(Quentin Deronzier)の織りなす世界が映し出され、曲とリンクさせながらプティの世界観を見事に表現していたのも印象的だった。パーカッション、シンセ、エレキギター、ヴォーカルを曲ごとに使い分け、美しくも儚い幻想的なメロディーから重低音を響かせたビートまで、果てなき創造性と可能性を見せてくれたプティ・ビスケット。ライブ後に残った清々しいエネルギーの余韻が妙に心地良かった。

 

 

プティ・ビスケット Information