東京都23区の中で最も生産緑地が多い練馬区に所在するオザキフラワーパーク。花苗から貴重な珍奇植物まで、販売する植物は年間通じて何と約10万種類。庭園、花壇、生い茂るジャングルエリアを有する広大な店内はまるで“買える植物園”。ガーデニング愛好者にとっては聖地と呼ばれるのもうなずける。
今年で創業61周年。代々農家を営んできた先代が、野菜からシクラメンの栽培に切り替え、園芸店の道を歩み始めたのが1970年代。90年代のガーデニングブームに乗ってオザキフラワーパークはぐんぐんと拡大成長を続ける。2000年代からは、オランダで花屋経営の修行を積んだ2代目の尾崎明弘氏が引き継ぎ、ヨーロッパのように花と緑が溢れる環境作りに向けて深化と進化を遂げている。
左上:1973年 オザキ園芸 / 右上:1987年、リニューアルオープンして、オザキフラワパークへ / 左下:1996年8月、リニューアル / 右下:2018年3月、リニューアルオープン
花苗から貴重な珍奇植物まで、販売する植物は年間通じて約10万種類に及ぶ
大切にしている企業テーマは「Feel The Power of Plants」。提供しているものは、花や緑がある豊かな暮らしを体験した時に湧きあがる、他には代えがたい特別な気持ちだと言う。そのメッセージは、売り場を支えるスタッフの植物愛に満ちた接客からもつぶさに伝わってくる。「我が家のリビングにもひとつ緑を迎えようか」。そんな気持ちが自然と芽生えてくる。
今回のインタビューは、施設に併設されている緑豊かなグロワーズカフェで。グロワーズとは生産者の意。地産地消をコンセプトに、練馬区産の野菜を使った彩り豊かなヘルシーメニューに心身が満たされる。家のリビングで寛ぐような雰囲気のカフェで、島田さんのこれまでとこれからについてうかがった。
植物園でのJAZZライブのイメージも湧くオザキフラワーパークは、心のモードが変わる緑のオアシス
―オザキフラワーパークへ初めて訪れたのは?
きっかけはコロナ禍です。一人旅や友人との外食を控えるようになり、家にいる時間が長くなりました。それなら、リビングに植物を飾り自宅をオアシス化してみようかなって。最初に訪れた時は、外観から想像していたイメージをはるかに超える空間の奥行きに驚きました。執筆など仕事で少し疲れたなと感じた時も、ふと立ち寄ります。1階のショップで季節の生花を選ぶのも癒しの時間。植物に触れると良い気分転換になって、インスピレーションが湧くように思います。
―ジャングルのような観葉植物エリアでは楽しそうに、時にぐっと集中して見学されていましたね。
実は、植物園でライブを行うというアイディアを長く温めているんです。植物園でと漠然と考えていましたが、オザキフラワーパークさんは、植物園さながらのエリアやイングリッシュガーデンなど景観のバリエーションも豊か。お客さんの層もファミリーやカップルなど幅広く、オープンな雰囲気もいいですよね。こういう場所でのライブも素敵だなと想像しながら歩いていました。
―JAZZ×植物園。それはすぐにでも体感したいです。新作の収録曲「モンステラ」を緑の中で聴けたら心の光合成ができそうな。
お客さんも演者もグリーンパワーをチャージできますよね。楽曲のタイトルに付けたモンステラは一番好きな観葉植物なんです。同じ土から育つのに、それぞれ切り込み方が違う葉っぱが出てくる。その自由で個性的な感じがミュージシャンぽくもあり(笑)。夜中に葉っぱどうしが会話しているように思える時もあって見飽きません。
―新作のMVを拝見しました。隠れ家的なスタジオに生い茂る観葉植物が実にワイルド。生音を聴いて育つ幸運な植物ですね。
昼夜JAZZのセッションを聴く植物たちの育ち方はハンパないです(笑)。今回のアルバムのコンセプトはリビングで聴きたい音楽。ならば、レコーディングもリビングルームで録りたい。本作の作編曲や音楽全般のプロデュースを依頼したドラマーの平井景さんに相談し、スタジオの環境作りから進めました。明るい自然光が差しこむリビング、そこに植物があるとミュージシャンたちが入ってきた瞬間からいい雰囲気になるんです。
―風とおしの良さが伝わってきます。
ミュージシャンはリラックスできて、私はアイディアを出しやすい現場でした。環境と人との相乗作用というのでしょうか。いざレコーディングが始まると、全てがスムーズにいい方向に進んでいくんです。
―日々のレコーディングを支える食卓シーンを見ると幸せな気持ちに。
スタジオでの素晴らしいコース料理の制作も平井さんに委ねました(笑)。みんなでお皿を並べて食事をしながら、「このメロディーに歌詞を乗せてみたらどう?」「違う楽器でリトライしてみよう」などアイディアの交流を重ねていきました。スタジオの設営から買い出し、食事までセッティングすることは体力的には負担がありますが、自分にとっては楽しい忙しさなんです。
―楽しい忙しさとはいえ、本作は平井さんと共同で立ち上げたレーベル発の完全プロデュース。To Doリストはエンドレスかと。最も苦心されたことは?
ミュージシャンたちのブッキングです。多忙を極める最上級クラスのミュージシャン全員のスケジュールが合致する数日間が与えられたことは、まさに奇跡でした。もちろん、資金繰りもプロデューサーに立ちはだかる高い壁。スタジオ代、作曲料、デザイン周りやプレス費用など全て自分で予算組みをしなくては。CAMPFIREでのクラウドファンディングに挑戦したのですが、当初は反応も薄くて、とても到達できるレベルではありませんでした。「私、もしかしたらこのプロジェクトを失敗させてしまうかも」と急に不安にかられたことも。加えて、レコーディングまでに間に合わせたい書き下ろしの楽曲も決まらないというハイプレッシャー案件が常にあるわけです。
限られた時間と予算の中、行われたレコーディング
―ミュージシャンの強い個性やこだわりにどう向き合いますか?
演奏も作曲も自由に思いのままやるというのがミュージシャンの本来の資質。彼らの才能と納期のバランスをとっていくのがプロデューサーの大きな役目としてあります。例えば、曲がほぼ完成しても作者が「捨てたい」「壊して作り直す」と希望すれば、それがリハーサルの2時間前だとしても最大限優先するように。「ならば1時間でお願いします。無理なら元のままでお願いします」と言葉で伝える時もあります。ですが、私個人の希望が彼らへの押しつけになるのは絶対にNG。スムーズな流れに転じられるように時間設定や環境作りで工夫を重ねる。対ミュージシャンというよりは自分との闘いです。
―プレッシャーとストレスが身体に表れてしまいそうな。
これは初めて話しますが、レコーディングが始まる一週間前に持病が悪化して即入院と言われましたが、みんなのスケジュールが合う奇跡的なチャンスはそうそう訪れない。食事療法での経過観察をお医者さんに承諾していただき、通院しながら自分ができることを進めていきました。
―プロデューサーとは、改めて負うことが多いお仕事ですね。
その分、達成感と喜びは大きくて。クラウドファンディングの方は、予算の内訳や制作過程の様子を細かく示して更新しました。期限ギリギリで目標額を達成することができた時は本当にありがたかったです。さらに、この上なく嬉しいできごとが起こるんです。デザイン界の第一線で活躍するアートディレクターの森本千絵さんにジャケットデザイン・イラストを手掛けていただいたことです。
アートディレクターの森本千絵氏とアルバムのデザインを選んでいる様子
―眺める度に雰囲気に惹きこまれるジャケットです。
千絵さんに初めて出会った時、私は芸能界デビューをした高校生で彼女は小学生。当時私が所属する事務所の社長の娘さんが千絵さんで、深い親交がありました。今や手が届かない存在の千絵さんですが、本作のデザインをどうしてもお願いしたくて想いを正直に伝えました。「このお仕事を受けない理由がひとつもない」。彼女からそう言ってもらえた時は嬉しかった。数パターンの候補を見た時は息が止まりそうに。新作の世界観と私自身の本質が射抜かれていたんです。
―モスグリーンのジャケットを開くと、そこにはカラフルな音の世界が。躍動感あふれる楽曲が多いのが新鮮なギャップでした。
リビングというとボサノヴァやバラードなど静のイメージを持たれがちなのですが、私の中ではあくまで動のイメージ。料理を作って食事をしたり、集中して仕事をしたり、仲間を招いて意見交流したり。リビングは実にクリエイティブな“生活拠点”なんです。
―作詞も手掛けていらっしゃいます。「ラ・タティーバ・ソング」での「家にいても楽器でイメージの旅をしようよ」というメッセージが素敵です。
この曲に詞を入れることが決まったのがレコーディングの前夜(笑)。何十年ぶりかの作詞は“書けないループ”にハマり大苦戦。そんな時、自然と手が伸びたのは矢野顕子さんの初期のアルバムでした。矢野さんは20代にして既に詞で説明し過ぎず、音符の動きに合わせて詞を乗せて楽曲との一体感を生みだしている。聴く人への余韻まで残す明らかな天才の仕事に改めて感銘を受けました。自分の心情の深いところにこだわり過ぎず、曲のリズムや雰囲気を活かす歌詞を作りたいなと改めて思えました。
―グルーヴ感あふれる「Say You」は、リビングでのホームパーティーで盛り上がりそうです。
この曲には面白いエピソードがあるんです。レコーディング中は、その日の行程を終えた後、翌日の食事のための買い出しへ平井さんと車で向かうのが深夜のルーティンでした。24時間営業のスーパー・SEIYUを利用していたのですが、ご存知ですか?SEIYUの館内BGMの選曲って、すごくセンスあってカッコいいんですよ。
―SEIYUユーザーとして今、頭をガンガン縦に振って大共感です!って、まさかこの場でこの話題が出るなんて(笑)。
怒涛のレアグルーヴメドレーとか (笑)。ある晩かかっていたのが、ファンキーなソウルナンバー。常に作曲中の曲が脳内に響いている平井さんにとって、これは耳が持っていかれる瞬間。スタジオに戻ってすぐにリテイクして、深いうねりがあるアレンジに。タイトルは『Say You』。そう、SEIYU (笑)。
―ぜひ、SEIYUでかけてほしい名曲です、いっそテーマ曲に。
いいですね(笑)。こうして振り返ってみると、アルバムには曲の数だけストーリーがあるものですね。
―島田さんご自身のストーリーについても伺いたいです。女子JAZZブームの火付け役として、多岐にわたる活動を通してジャズの自由な楽しみ方を提案され続けています。持ち前の行動力に憧れます。
いえいえ。元の私はコンサバ人間なんです。変化したくないという気持ちが根底にある。アドリブこそ醍醐味の音楽・ジャズを仕事にしているのに不思議な話ですよね(笑)。でも、流れに任せることを楽しむ達人たち、それはジャズミュージシャンの方々のことですけど、彼・彼女との出会いによって、自分の感情の保ち方や考え方も柔軟になってきたように思います。流れに身を任せると見えてくるものがある。新しい風が吹きこんでくるんだなと気付けました。
―新しい風に乗るために。羅針盤のようにしている言葉はありますか?
「やりたいからやっている」といつも思っています。仮に失敗しても自分がやりたいからやっているのなら後悔しない。“Something Jazzy”というテーマを自分で考えて、執筆やイベントプロデュースを展開してきましたが、「それはジャズじゃないでしょ」的な意見もあったと思います。でも、仮にジャズの枠に入らなくても心を突き動かす曲がある。季節や感情、場所や景色などテーマから連想する作品やアーティストを紹介したい。そうすることが、結果的に誰かにとっての心地良い大切な音楽になったなら、それが私にとっての喜びなんです。
―心地よいリズムで過ごすための心身のチューニング法を教えてください。
深く眠ること。夜の方が執筆に集中できるので完全に夜型で、それが私のリズムになっています。お酒は全く飲まず深夜に寝付きます。深海に潜っていくイメージで「深く、深く」と唱えながら眠ると、短時間睡眠でも目覚めはすっきりです。
―10月からは東京を皮切りに名古屋・大阪・京都を回るコンサートツアーがスタート。移動の隙間時間の過ごし方は?
最近の私はというと、時間ができると歴史のことばかり考えています(笑)。大河ドラマにハマったのがきっかけで歴史の本をよく読むようになりました。今の時代に通じることが多くて面白いんですよ。戦国武将が大切にしている義理と礼節、リーダーシップの取り方など、仕事に活かせる共感ポイントばかり。大勝負に出る時の決断力についても考えさせられます。
―大きな決断をする時の島田さん流“チャンスの波のつかみ方”は?
以前ボディボードをやっていた時期があるのですが、来る日も来る日も波が来るのを根気強くずっと待つわけです。そうすると、遠くから向かってくるのが乗れる波なのか、途中で壊れて乗れない波なのか見極められるようになるんですね。あの感覚を思い出すようにしています。凪の時は大事な準備期間。なんとなくでもアイディアをストックしておいて、ニュートラルな状態を維持しておく。「次、来る!」と直感したら自分からその波に向かっていくようにしています。それでも乗り切れない波もありますよね。そのことには後悔しないようにしています。また絶対来るから。
―また絶対来るからという言葉に希望感があります。
人それぞれにサイクルってありませんか?私の場合は「何事も4年周期」という体感があって、仕事や人間関係、周りの環境も4年で変わるものだと思っています。ライターのお仕事でいえば連載が4年で終了するとか。若い頃は、築きあげたことが突然絶たれることに落ち込んだこともありましたが、自分のサイクルを意識するようになってからは引きずらなくなりました。ひとつの波を乗り越えたら全く違う新しい4年が始まる。人生を一定のスパンごとに捉えると次の計画も立てやすい気がします。
―収録曲「Changing」の歌詞のようですね。
「Everything is changing,something new is waiting」。環境は移ろい、変化には戸惑うけれど、新しく変わることはそう悪くはないという想いを歌詞に乗せました。
―自分らしいリズムで人生のコードチェンジをされてきた島田さんに最後の質問です。ご自身がこの先想い描く成功とはどういうことでしょう?
ラストに難問が(笑)。今はこうして、初めて自分の完全プロデュースによるアルバムを発表したばかり。敬愛するトップミュージシャンたちと全力を出し切って最高の作品を作れたという自信はあります。ですが、CDをはじめ、告知できる雑誌も売れない状況において、作品を羽ばたかせる手段をどうすべきか試行錯誤しているのが正直なところ。ならば、いっそ視点を変えて視野を広げてみようと、日本だけを軸に考えるのではなく、世界に広がるイメージを持ってみようかなと思い始めています。面白いアドリブが重なって、自分が作った音楽が海外に広がり、どなたかにとっての心地よい時間に繋がるのなら。それはもう「やって良かった」と心から思えますし、自分にとってひとつの成功と言えるのだと思います。
「Something Jazzy~メロディ・イン・ザ・リビングルーム~」
家時間を大切に過ごしたい方に大推薦盤!
“女子ジャズ”「Something Jazzy」の著者、音楽ライター島田奈央子が初の全面プロデュース。
「リビングルームで聴くなら、こんな音楽を!!」と、すっかり多くなった家時間を、カラフルにリッチに楽しめるアルバム。精鋭アーティストを集め、作曲からレコーディング、ミキシングまで、隠れ家的リビングルームで制作。“Something Jazzy”(ジャズっぽい、良い雰囲気)で、お洒落なサウンドが完成!ドラマーで作曲家の平井景が書下ろした、珠玉のオリジナル曲はどれも必聴。アートディレクター森本千絵の、大人かわいいジャケットデザインも最高にスペシャル!
ブライトサンズレコード・オンラインショップ https://www.brightsunsrecord.com/
島田奈央子プロデュース『Something Jazzy~メロディ・イン・ザ・リビングルーム』コンサート・ツアー
“女子ジャズ”ブームの火付け役・音楽ライター島田奈央子、初の完全プロデュース作品「Something Jazzy~メロディ・イン・ザ・リビングルーム」が今夏、遂にリリース!
全作曲・音楽プロデュースは、ドラマーで作曲家の平井景。「リビングルームで聴きたい音楽」をテーマにした躍動的でカラフルな楽曲を、一流ミュージシャン達の生演奏でお届けします。
開場時には、DJ・島田奈央子による”リビングルームに合うお勧めのジャジーな選曲”でお迎えします。
伊藤大輔(ヴォーカル)
山崎千裕(トランペット)
越田太郎丸(ギター)
青柳誠(ピアノ)
山田章典(ベース)
平井景(ドラム)
島田奈央子(DJ/MC)
詳しくは、各ライブハウスのHP、島田奈央子のHPをご覧ください。
■10/4(火) 東京/目黒 ブルース・アレイ・ジャパン https://onl.la/7QKHppK
■10/20(木) 名古屋/BL Cafe https://www.bottomline.co.jp/pickup/p2210/#221020c
■10/21(金) 大阪/ミスターケリーズ https://misterkellys.co.jp/schedule2022-10/221021-2/
■10/22(土) 京都/ライブスポット・ラグ https://www.ragnet.co.jp/livespot/29972
■島田奈央子HP https://www.naoko-shimada.net/
オザキフラワーパーク
東京・練馬区から日本中に園芸文化を発信する、都内最大級のガーデンセンター。“Feel the Power of Plants”(感じよう!植物の力!)をスローガンに、花苗・観葉植物をはじめとしたあらゆる植物の販売や情報発信、イベント開催を行っている。
住所:東京都練馬区石神井台4-6-32
TEL:03-3929-0544 FAX:03-3594-2874
営業時間:9:00~19:00
定休日:1/1〜1/2