【成長サイクルを回す】〜仮説を立て、解決方法と行動を明確にする〜
理想のタイムを出すために、注力するべきことがパドルワーク(カヌーのかいの漕ぎ方)の改善にあったと気づいた高木選手は、自分と理想の選手のパフォーマンスを比較するなど、あらゆる角度から自分のパフォーマンスを観察し、改善すべきポイントを掴むことが出来たと語る。*成長サイクルがもたらした変化は、どんな結果を生み出したのか伺った。
*成長サイクルとは:「振り返る」→「気づく・発見する」→「仮説を立てる」→「解決方法を実行する」、これら4つのフェーズを実行し続け、成長を加速させるサイクルのこと
抱えていた問題
■理想のパドルワークが出来ず、タイムが縮まらない
タイムが思うように縮まらないことで悩んでいた高木選手。パドルワークにおいて、現実と理想にずれが生じていることが要因なのは分かったが、パフォーマンスを上げるために何に取り組んだらいいか、良い方法が思いつかなかったと語る。
高木選手:パラカヌーは速さを競い合う競技なので、タイムを上げることが重要になります。そのために、パドルワークを改善することがタイムを上げる最短の道のりなのですが、具体的に何をどうすれば、より良いパフォーマンスにつながるのかが分かりませんでした。
解決方法
■視点をずらして、フォーカスを変える
「こうしたらもっと良くなるだろう」という仮設を立てて、実行することを繰り返す成長サイクルを駆使するために、パドルワークが上手い選手を探し、その選手と自分を比較することであらゆる視点にフォーカスしていった。
高木選手:理想としている選手と自分のパドルワークの違いを、動画や写真を観ながら比較していきました。それに加えて、自分のパフォーマンスが良い時と悪い時も比較しました。スローで再生して細かい部分を見たり、普段とは違う視点にフォーカスを移して見たりすることで、現状とのギャップが把握できるので、意識改革されていったように思います。また、そこで得られた仮説から、筋トレに良いトレーニングツールを導入したり、練習メニューも変更していきました。
パドリングの練習をしている様子
得られた結果
■69秒から61秒、4ヶ月間で8秒を縮めた
成長サイクルを取り入れたことで、4ヶ月の期間でタイムが8秒縮んだ。縮ませた秒数という結果だけではなく、それを実行し続けたことにより自信も生まれた。
高木選手:2018年の5月時点のタイムは69秒、導入後の9月は61秒と、8秒タイムが上がりました。理想のタイムの短縮ではないですが、成長サイクルを回せるようになったことで、着眼点が増え、視点を変えて、自分で仮説を立てられるようにもなりました。また、理想とするパドルの軌道を発見し、そのためには身体のケアが大切なことにも気づけたので、今は前よりストレッチにもフォーカスしています。出来ないことに対して、「どうせできない」ではなく、「どうしたら出来るようになるか」を考えられるようにもなりました。
コーチ補足
■成長サイクルが成長を加速させる
水崎コーチ:現状をあらゆる角度から把握し、仮説を立て、チャレンジする。「振り返る」→「気づく・発見する」→「仮説を立てる」→「新たなメニューや解決方法を実行する」という段階に分けて、そのサイクルをいかに回していくかが成長を加速させるポイントとなります。まずは振り返りをすることで、何が良かったのか、さらに良くなる伸び代はどこかを知る。そうすることで気づきや学びが多くなり、仮説の数が増え、修正ポイントを増やしていけます。そして、この修正ポイントを元に解決方法が見つかり、行動を起こしていけるので、新たなメニューを組んで、どんどん成長が加速していき、理想のイメージに近づいていくことが出来るのです。
パラカヌーの道に挑戦を決意して、コーチングと出会い、漠然としていた夢が目標に変わる。それがきっかけで、2020年の東京パラリンピックへの道のりに追い風が吹いた。もしも、金メダルを獲っている自分が今の自分に会ったとしたら、「諦めるな」そう一言伝えるだろうと語る高木選手は、今日も刻々と水の上で練習に励んでいる。最後に高木選手にとって成功とは何かを聞いてみた。
高木選手:まだ何が成功なのかはわからないですけど、自分で何が成功かを決めつけるのではなく、これから探しながら見つけていきたいと思います。