IMPRESARIO KEYS
#3 | Jul 25, 2017

海外サッカー人生のコミュニケーション、パフォーマンス、モチベーションを向上させたコーチング [サッカー選手・加藤友介]

Text: Ryosuke Takai / Photo: Atsuko Tanaka

「IMPRRESARIO KEYS(インプレサリオ・キーズ)」では、思い悩んだときの突破の方法や、人生を切り開くための方法を人間開発の技法「コーチング」を用いて紹介する。コーチングとは、心理学やカウンセリング理論に基づく対話による手法で、クライアントの自発的な行動を促すコミュニケーション技法のことである。 第三回目にご登場頂くのは、サッカー選手の加藤友介選手。若干14歳でアルゼンチンに渡り、サッカー短期留学をした後、2005年にはU-20チームへと順調に昇格。アルゼンチンのウラカンでトップチームに昇格したことがきっかけで選手としてのキャリアが開かれる。 2012年にコーチングと出会い、そこから更に選手としての活躍に磨きがかかっている。加藤選手のコーチングを務めた山之上コーチの解説を含め紹介する。
PROFILE

サッカー選手加藤友介

中学時代には地元のガンバ大阪ジュニアユースチームのセレクションを受けたが、合格はできなかった。中学2年生の夏休みにアルゼンチンのCAウラカンのU-14チームに短期留学。2004年、刀根山高校卒業後に、留学時代のツテでアルゼンチンへと渡り、ウラカンのU-18チームに所属する。 2005年にはU-20チームへと順調に昇格し、2006年10月に当時プリメーラB(2部リーグ)所属だったウラカンのトップチームに昇格。 2007年4月12日のタジェレス戦では決勝点をマークするなど、チームのプリメーラA(1部リーグ)復帰に貢献。 同年8月5日の2007-08シーズン開幕戦アルセナルFC戦で後半32分から途中出場。ボカ・ジュニアーズに在籍していた高原直泰以来となるアルゼンチン1部リーグでプレー経験のある日本人選手となった。2008-09シーズンはプリメーラC(3部リーグ)のデフェンソーレス・ベルグラーノにレンタル移籍していたが、給料未払いなどの問題があって退団し、2009年11月に日本に帰国した。 2009年12月、Jリーグ・ベガルタ仙台の練習に参加するも、契約には至らず、2011年よりJFLのMIOびわこ草津に入団。 同年限りでMIOびわこ草津を退団し、翌2012年よりインド・IリーグのデンポSCに移籍した。 2012年、タイ・プレミアリーグ(1部)のBECテロ・サーサナFCに移籍。 2013年、タイ・ディヴィジョン1リーグ(2部)のナコーンラーチャシーマーFCに移籍すると、同リーグで得点ランキング7位タイの15得点を記録した。 2014年、タイ・プレミアリーグ(1部)のサムットソンクラームFCに2年契約で移籍したことが発表された。

メンタルコーチ山之上雄一

メンタルコーチ/米国NLP協会認定トレーナー。社内で自ら興した事業を年商20億まで成長させ役員を務める。その過程で、自身のモチベーションの維持、部下のマネージメントに悩み、どうすれば個人と組織が最大限のパフォーマンスを発揮できるのかを探索。現在、メンタルコーチとして独立し、アドラー心理学始め、様々なスキルを統合したコーチング、研修でプロのアスリート、経営者、マネージャー、起業家などのビジネスパーソン、医師、看護師など医療従事者など、幅広くサポート。また、コーチングのトレーニングを通じてコーチングの普及、後任の育成にも注力している。 山之上雄一メールマガジン

【目的を見つけて行動を自動化する】 ~自分の本当の目的の見つけ方~

『体が動かない理由を探すのではなく、家族を思ったら体が動いた』

最終章は、最近受けたコーチングを聞いた。それは、単なるサッカー選手としての表面的な肩書きが語られるものではなく、加藤友介という一人の人間がサッカーを通してどのような人生を生きたいのかという真相に迫るものだった。

抱えていた問題

■体が疲れやすくやる気が出てこない

2017年2月に移籍した香港プレミアリーグ、名門クラブ南華足球隊(サウス・チャイナ)で行われた4月の試合、対タイポーの前、練習では体が動くのに試合では動かない、すぐに疲れやすくなる等、フィジカルについての悩みを抱えていた。

加藤選手:今年に入ってから特に、体が疲れやすく、練習では動くのに試合になると動かなくなることが多々あり、それが原因でいつものようなやる気が出てきませんでした。サッカーは11人の団体競技なので、たとえ一個人の問題だとしても、その影響はチーム全体に伝わってしまうものなのです。

解決方法

■そもそもの目的や自分の未来と向き合うことで自分の意図を明確にしていった

そもそもサッカー選手として何のために頑張っているのか?自分の目的の原動力を見つける質問をしていくことで、忘れてしまいがちな本来の自分の望みを知るセッションを行ったと語る。

加藤選手:通常は上手くいかない時、上手くいってる時の状態を思い出して、その状態を再現してみたりしますが、この時は「サッカーを何のためにやってるのか?」「サッカーの何が好きなのか?」「本当はどうなりたいのか?」など、原点を考えるようにしました。そのように、目的や未来と向き合うことで、本来自分が向かいたい方向を明確にしていきました。

山之上コーチと、スカイプを通してセッションを行う

得られた結果

■「家族にプレーを見せたい」という目的を持ったら、自然と体が動くようになった

自分の中心にある思いを明確にすることで、腹の底から意識が据わることを体感。加藤友介という一人の人生の中にあるサッカーというものが、どのような役割を担っているのかが分かったことで迷いがなくなりやる気に満ちてきた。

加藤選手:デビュー当初は自分に家族はいませんでしたが、今は奥さんがいて、子供もいます。芯の部分でサッカー選手として上手くなりたいというのは今もありますけど、日本で子育てを頑張ってもらっている奥さんや自分の子供に、フィールド上でプレーしている自分の姿を見せてあげたいという思いが出てきました。「こういうピッチに立って、二人が観客席から観てくれていて、そこでこんなゴールを決められたら本当に最高!」と、具体的な未来をイメージしたら、次の試合はそのゴールに向かって全力でやろうと、意識がガラッと変わりました。すると、自然に体も動き出したのです。

コーチ補足

■「原因論」のような、何がいけなかったのか?ではなく「目的論」で、これから何ができるのか?を明確にしていく 

山之上コーチ:アドラー心理学に「目的論」という考え方があります。それは、原因論のように「なぜこうなったのか?」「何がいけなかったのか?」等、過去や原因を探すのではなく、「本当はどうなりたいのか?」「これから何ができるのか?」と、未来と目的に向かって考えるのです。コーチングでは、コーチが選手にアドバイスするのではなく、選手自らが答えを出して、行動をしていきます。目的が明確でないと、行動もできないのでモチベーションも一緒に下がってしまいます。今回の加藤選手のように、「自分が描く未来のために、この試合は全力でやるぞ!」となって初めて意識にスイッチが入るのです。同じ状況でも、人それぞれ未来と目的は違います。しかし、どんな時も自分の中にある、「どうなりたい?」「何ができる?」を明確にしていけば、いかなる状況でも自らを動かすことができるようになります。

14歳で自らサッカーの道を切り開き、アルゼンチンへと渡った後、日本人海外プレーヤーとして様々な国を転々としてきた加藤選手。ここでは語られていない多くの困難も異国の地で乗り越えてきた勇気あるプレーヤーでありながら、インタビュー中はとても柔らかい物腰で、終始笑顔で爽やかに答えてくれた。

山之上コーチと出会い、コーチングを取り入れてからどのように変わったかを尋ねてみると、「サッカーにおいて、昔はマイナス思考だったのがプラス思考になってきたのを実感します」と答えてくれた。そして最後に成功とは何かを聞いてみた。

加藤選手:なんとなく、夢の終わりなんじゃないかなと思います。成功.....夢を叶えた人が成功した人なのではないかと思うんですが、まだ僕は成功していないので分からないです。

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