音楽愛はジャンルを超えた!ピーター・バラカン親子、砂原良徳、真鍋大度、Kan Sanoらが一堂に会した音楽イベントを楽しんできた 【レポート】

2016/12/11

11月26日(土)、東京・江古田Buddyにて音楽イベント「selfsercvice vol.7」が開催された。

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selfsercvice」はジャンルを問わず様々なミュージシャン・アーティストを招聘する不定期開催のイベントで、音楽フリークの間で注目を浴びている。7回目の開催となる今回は、ピーター・バラカン×シン・バラカンによる親子トーク&B2Bを筆頭に、Kan SanoとAaron Choulai Trioがライブを、砂原良徳Rhizomatiks真鍋大度がDJを披露。会場前方にステージ、後方にDJブースがあり、その間に客席がある。半分の客がテーブルで酒や食事を楽しみ、半分の客はスタンディングで踊ったりしながら、自由に質の高い音楽を楽しんでいた。

ピーター・バラカン×シン・バラカンによる親子トーク&B2B

まずはHIGHFLYERSの日本に住む外国人にインタビューをするコーナー「BICULTURAL SOULS」に2016年8月号にゲスト出演したピーター・バラカンと、その息子のシン・バラカンによる親子トーク&B2Bからスタート。

B2Bとは“back to back”の略であり、複数のDJが順番に曲を掛け合うスタイルのプレイのこと。通常は、曲を次々と繋いでいくものだが、ここに親子トークが加わる。ラジオDJの様に、1曲掛け終わると、ピーターが解説し、シンがその曲に対して、メロディやリズムや背景や文脈、そして何よりもグルーヴなどを感じ取り、その場で次の曲を選曲するというやりとりが1時間に渡り展開されていく。2016年3月まで放送されていたピーターが出演していたFm yokohamaの番組『アナログ特区』の人気コーナーの”親子の溝”という順番に曲を掛ける企画の延長といったところだ。

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(左)ピーター・バラカン、(右)シン・バラカン

ピーターの選曲した1曲目が終わると、シンは「親父は古い曲ばっかり掛けると思うんで…」と切り出す。ピーターは苦笑いし、会場からは笑い声が聞こえる。シンは続けて「僕は比較的、新しい曲を。まずはリリースしたばかりのファレルのクレイヴという曲から。」と言ってプレイボタンを押す。「クレイヴ」が終わるとピーターが「70年代の雰囲気。言われなければファレルって分からなかった。私でも踊れる曲。」と感想を言いながら、「私たち2人で作って今年リリースした“Family Groove”という60年代から70年代初期のソウルとかファンクの名曲を集めたコンピレーションアルバムから次の曲を。この曲を入れたばかりにこのアルバムの値段が高くついてしまったという曲からBernard Purdie の“Cold Sweat”」という解説と共に曲を掛ける。ファレルの70年代フレーバーに呼応するファンキーな楽曲をセレクトした訳だが、開始3曲目から、会場からは時折、歓声が聞こえるなど、すでにノリノリの状態となった。

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6曲ずつ全12曲をトークと選曲で展開したのだが、筆者の記憶では、以下のセットリストだったかと(しかしながら、なんと、1曲目は記憶の外に…。失敬。ご存知の方はお便り下さい)。ピーターの選曲するソウルやファンクと、シンの選曲するソウルフルでファンキーなヒップホップを基点とした楽曲のやりとりを、ぜひともYouTubeやiTunesなどで検索しながら、この日のイベントを体感して欲しい。親子それぞれの世代のリアルな体験を会場に鳴り響かす。それによって、会場は世代など関係なく、音楽を愛した者たちが体を揺らしながら、笑顔を浮かべ楽しんでいる。トークを挟むので、グルーヴが途切れると思う読者もいるかも知れないが、それは全く逆であり、楽曲に対する知識や聴きどころを以て体感するので、より一層、会場にグルーヴが生まれていることに気付く。初っ端のコンテンツから最高潮となった。

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※【P】ピーター、【S】シン

【P】不明

【S】「Crave」Pharrell Williams

【P】「Cold Sweat」Bernard Purdie

【S】「Got A Thing On My Mind」Sharon Jones & The Dap-Kings

【P】「Who? What?」Ghost Town

【S】「Too Late To Turn Back」El Michels Affair

【P】「Butterfly」Herbie Hancock

【S】「Time & Space (A New Refutation Of)」Digable Planets

【P】「Reasons To Be Cheerful (Part 3)」Ian Dury & The BlockHeads

【S】「Apache」The Sugarhill Gang

【P】「Who Comes To Boogie」Little Benny & The Masters

【S】「We the People….」A Tribe Called Quest

 

Kan Sano

バラカン親子のショーが終わると、間髪入れず、前方ステージにスタンバイしたKan Sanoが話し出す。「こんばんは、Kan Sanoです。すごいですね。めっちゃ勉強になりました。今日はグランドピアノがあるので、即興なども交えて、たくさん弾きたいと思います」。ステージには、グランドピアノと、その上にパソコンが一台置かれている。

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Kan Sanoは、2011年にアルバム『Fantastic Farewell』でデビューした、クラブシーンでは、すでに注目のピアニスト。ジャズDJのジャイルス・ピーターソン他、世界中のDJから賞賛を浴びている。HEX名義ではヨーロッパツアーを成功させ、2016年7月にフランスでおこなわれたジャイル・スピーターソン主宰のWorld Wide Festivalにも出演し、数千人のオーディエンスを湧かせた。「Here and Now feat. Monday Michiru」は全国ラジオ14局でパワープレイを獲得し、またフジテレビ「テラスハウス」の挿入歌として起用されている。

極めてコンパクトな挨拶をし、一瞬の静寂の後、ピアノの音色が一つずつキラキラと奏でられていく。すでに会場はKan Sanoの緊張感ある空気に満たされている。あくまでも比喩表現となるが、水や木や光の映像を早回しで観ているかの様な透明感とスピード感があり、音数の多いきらめく演奏が続く。すでに5分以上は経過しただろうか、ようやく風景のざわめきが落ち着くと、今度はそのまま水や木や光にフォーカスし、その一つ一つを情感豊かに説明し始めるかの様に、メロディが色付いていく。しかしながら、左手は1本の指で、何小節も何小節も単音を単調なリズムで鳴らし続け、右手だけがメロディを展開していく。この単音が緊張感を保ち続ける。まるで、地球の上で行われる決められた運命の中で、精一杯に美しく生物が生きているかの様だ。次第にドラマチックに10本の指で描いていくのだが、最後まで単調な単音は鳴りやまない。最後は、その単音が主役だったかの様に、1曲目が静かに終わった。

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Kan Sanoが手を止めた瞬間、会場から一気に声援と大きな拍手が巻き起こった。会場は、あまりにも衝撃的な出会いに、まさかこんなものが観させられるとは、といった雰囲気である。13分にも及ぶ曲だった。筆舌に尽くしがたいとは、まさにこのこと。「Kan Sano」の文字を見掛けたら、まずはライブに足を運ぶことをおススメする。そのぐらいインパクトのある1曲目で、完全に会場は隅々までKan Sanoの世界となった。

拍手が鳴りやむか否かといった瞬間に、次の音がパソコンを通して鳴り始める。このパソコンから出される音というのが、世界の民謡や音響系ノイズ、ドラムンベースのリズム、何かの物語の台詞、昭和歌謡の一節だけなどなど、言ってみれば、滅茶苦茶なただの“音”であり、まるで、ラジオのチャンネルを捻り、ザッピングしているかの様に慌ただしい。その“音”に合わせ、ピアノを即興的に合わせていくことで統一感を感じ始める。まるで、世界で行われている様々な事象を同時に俯瞰して観ているかの様だ。これまたスリリングに展開していき、最後は、もの凄い早いハイハットとウッドベースに合わせて完全にセッションするのだが、ステージ上には激しく鍵盤を叩くKan Sano一人である。パソコンの画面の波形を凝視し、セッションする姿は異様な光景だ。見事に締めくくり、大きく手を挙げフィニッシュすると、これまた大きな歓声と拍手に包み込まれる。

この2曲目は、この夏にジャイルス・ピーターソン主催「World Wide Festival」で演奏した曲を今回、日本で初めて披露したのだそう。そして、「そのフェスで、この曲の演奏が終わって客席を見たら、一緒にフェスに行った須永辰緒さんが号泣しているのを見て、僕もうるっとしまして、そんな曲でした。」とエピソードを話した。

演奏力と表現力をこの2曲で伝えたかった訳だが、この後もマービン・ゲイの「What’s going on」をサンプリングして浮遊感あるリミックスに即興ピアノを合わせたり、かと思えば、弾き語りで少しだけ掠れた味わいのある歌声を披露したり、Roy Ayersの「Everybody Loves The Sunshine」のカバーをしたり、代表曲の「Here and Now feat. Monday Michiru」を披露したり、最後の楽曲ではマクスウェルやエリカ・バドゥなどのソウルフルな楽曲のサンプリングが次々と現れ、それに即興を合わせつつ、ジャズマナーで締めくくるという、全8曲圧巻のライブだった。

砂原良徳

観客の視線は後方のDJブースへと移り、砂原良徳のプレイが始まり、テクノが流れる。

砂原良徳は、91年から99年まで在籍した電気グルーヴでの活動でよく知られ、最近では、高橋幸宏、TOWA TEI、小山田圭吾、ゴンドウトモヒコ、LEO今井と共に結成した「METAFIVE」にキーボード、プログラミングとして参加している。

浮遊感あるウワモノのメロディから徐々に始めていく。DJブースと反対側のステージには、スクリーンが下ろされ、そこに砂原の掛ける曲に合わせて、VJが映像を投射し、クラブらしい様相となる。観客から1メートル向こうには、砂原がプレイしている状況で、ファンがあっという間にブースの前に集まる。徐々にベースが効き始め、テクノのビート感へ移行していく。

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もちろんアナログやCDなどではなく、パソコンでDJをするのだが、ヘッドフォンをする様子もなく、慌ただしく画面をチェックしては、ミキサーをいじり、曲を展開していく。観客は、何が行われているのかと一挙手一投足を注視しながら体を揺らす。

60年代のソウルと親子トークから始まったこのイベントだが、ソウルフルなジャズとテクノロジーを用いたピアノ演奏を経て、今はテクノに至っている。どこか前後の関係を感じることが出来るが、感心なのは観客が全部の音楽を分け隔てなく楽しんでいる姿だ。年代もジャンルも超えて、楽しむ姿は平和そのものである。

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■Aaron Choulai Trio

続いて、ステージでAaron Choulai Trioのライブが始まる。男性ピアノ、女性ウッドベース、男性ドラムのトリオ。

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バンドリーダーのチューライは、パプアニューギニア出身のジャズピアニスト・作曲家・ビートメーカーである。ニューヨークや東京のジャズやノイズ、即興音楽のシーンなどで活動。2014年Freedman Fellowship Jazz Award受賞、2015年Mobb Deep Remix Contest優勝。2009年にチューライは日本・東京に活動の拠点を移し、2013年に東京芸術大学音楽環境創造科修士課程を修了する。

ドラムがチリチリと演奏を始め、ベースが呼応し始める。演出の一環なのか、チューライが足元に灰皿を置き、煙草を燻らせながら怪しげに演奏に加わっていく。先導役が完全にピアノに変わっていき、チャーリー・パーカーのカバーを演奏。1曲目でゆるりとグルーヴを作り出していき、そのまま2曲目へ。ピアノの印象的な1小節分の高音なリフを軸に各楽器が絡みながら、8分ほどのオリジナル曲が終了。

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幾分か気難しそうなチューライが「みなさん、こんばんはー。」とMCを始め、会場から驚きと共にどっと笑い声が起こる。「僕は最近、ヒップホップのビートメーカーの仕事が多くて、あまりジャズのライブがなかったんですけど、今日はこうして演奏できて嬉しいです」と、流暢な日本語で、人懐っこく喋る姿はギャップ萌えというものだろう。メンバーのドラマーのJoe Taliaはメルボルン出身、下北沢在住。ベースのTamara Murphyもメルボルン出身でオーストラリア在住。タマラは3日前に初めて日本に来て、せっかくだからセッションしようということになったとのこと。それにしては、随分と息の合った演奏だった。全5曲ほどで、オーソドックスでありながら、技術を聴かせる40分のジャズが終了した。

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真鍋大度

後方のDJブースの真鍋大度の1曲目は、前の出番のAaron Choulai Trioへの敬意を払ってか、ピアノが印象的なゆっくりとしたジャズナンバーからスタート。

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真鍋大度は、Perfumeのライブや、リオ五輪閉会式での東京オリンピックのプレゼンテーション「フラッグハンドオーバーセレモニー」など、テクノロジーを駆使した最先端な演出で世界中を驚かせているメディアアーティスト・DJ・プログラマーでRhizomatiks Reserachの代表。2017年1月12日に掲載されるHIGHFLYERSのゲストとしても決定しているので楽しみにして頂きたい。DJのキャリアは20年以上。海外アーティストのライブにも出演し、海外の音楽フェスティバルからも数多く招聘されている。

ピアノジャズナンバーが途中から変化を見せ始める。針が飛んだかの様に、一部分がループし、徐々にジャジーなヒップホップにミックスされていく。すると、すぐさまそのヒップホップのBPMの倍速のハイハットが刻まれる。気が付けば、開始10分程で、JUKE/FOOTWORKというBPM160ぐらいの高速な楽曲の世界へ引き込まれていた。しかしながら、ウワモノはBPM80ぐらいのジャズやThe Fugees 「Killing Me Softly With His Song」やA Tribe Called Quest 「Bonita Applebum」のフレーズでもお馴染みのRotary Connection 「Memory Band」のサンプリングがあったり、ヒップホップの匂いも感じる。プレイ前に真鍋にどんなプレイになるのかを聞いたところ、「さっきダウンロードしてきた様なものばかりで、その場で楽しみながらミックスする」と答えてくれた。真鍋もパソコンでDJをするのだが、ヘッドフォンでモニターしながら、恐らく持ち込みのユニバーサルコントローラーのXONE:K2で巧みにミックスしていた。飛び跳ねる様に、リズムに乗りながらプレイする真鍋の姿は、観ている側の体も揺らす。高揚感のあるループの中で、高まった客は魂の声が漏れるかの様に甲高い声を発したりする場面もあったが、それも自然に溶け込んでいた。

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今回「selfsercvice」というイベントを初めて体験した訳だが、音楽愛に満ちたアーティストが自分たちの伝えたい気持ちの分だけ伝えられていて、とても自由を感じた。恐らくそのジャンルに帰れば、みんな狭い範囲の中で相対的に鋭く一番を目指していくのだろうけども、これだけ多様な音楽が流れるイベントであれば、無意識に自分のアイデンティティを広く伝えやすい環境であると捉えているのではないかと思った。それをさせるのは、何よりも観客の好奇心旺盛で音楽に対する寛容な気持ちである様に思う。イベンター、アーティスト、観客の気持ちが一つとなり、次を期待させる素晴らしいイベントだった。

 

Text:HAMAO   Photo: Atsuko Tanaka