ON COME UP
#12 | Apr 12, 2016

激しくドラムを叩きながら歌う長身美女シシド・カフカがニューアルバム「トリドリ」に込めたテーマは脱力

Interview: Hamao / Text & Photo: Atsuko Tanaka / Photo Retouch: Toshiko Nagai

未来に向かって躍動する人たちをフィーチャーする“On Come Up”。第12回目のゲストは、4月27日にオリジナルフルアルバム「トリドリ」をリリースするドラムボーカリストのシシド・カフカさん。今作では多くのプロデューサー陣とタッグを組み、脱力をテーマにドラムボーカルを軸としたバンドサウンドに挑戦している。また、5月7日から始まる全国9カ所9公演のツアー「シシド・カフカTour 2016」や、6月25日に公開の宮藤官九郎監督の映画「TOO YOUNG TOO DIE! 若くして死ぬ」への出演など、見逃せないイベントが目白押しだ。今までの道のりからニューアルバムのコンセプトやツアーへの意気込みなどを語ってもらった。
PROFILE

ドラムボーカリストシシド・カフカ / Kavka Shishido

メキシコ出身。ドラムヴォーカルのスタイルで2012年「愛する覚悟」でCDデビュー。2013年9月ファーストアルバム「カフカナイズ」発売。フジテレビ「新・堂本兄弟」「ファーストクラス」への出演や、「PRETZ」「SONY WALKMAN®」「Levis®」などのTVCMでも話題に。2015年6月にはセッション・ミニアルバム「K⁵(Kの累乗)」をリリース。各FESへの出演の他、女優、モデルなど、多方面で活躍中。 最新作は1月27日に配信リリースした「crying」(NHKプレミアムよるドラマ「はぶらし/女友だち」主題歌)と「明日を鳴らせ」(テレビ東京系アニメ「FAIRY TAIL」オープニンググテーマ)を収録したセカンドアルバム「トリドリ」を4月27日にリリース予定。

シシド・カフカ

ドラムボーカルになることを志したきっかけは何ですか?

元々ドラマーとしてずっとやってきたのですが、今のプロデューサー達と出会ってから歌を始めることになり、最初はボーカリストとしてデビューする予定でした。でも、歌だけでなく何かもう一つ武器がほしいねという話になって、その当時はドラムをやめていたんですけど、「ドラム叩けるんだし、叩きながら歌ってみればいいんじゃない?」と周りに言われて。大変だから絶対にやりたくなかったんですけど、その3ヶ月後に予定されていたライブに向けてドラムボーカリストというスタイルを作り上げていくことになりました。やっていく上でドラムボーカルというスタイルが自分に合っていると実感出来たのと、他にそのスタイルでやっているアーティストがいなかったので大きなインパクトになると思い、ドラムボーカリストとしてやっていくことを決めました。

オリジナルでいるために気をつけていることは?

デビューする前やデビューした当時は、オリジナリティーを出すことにこだわりすぎてしまって、角張ったものづくりをしてしまっていたんです。自然に生まれるこだわりだったらいいと思うんですけど、前は無理に作ったり、無理に色を足したりしていたところがありました。最近はそういうのはやめて、自然体でいようと心がけいてます。自然と生まれる何かが面白いものに繋がればいいなと思うし、何も生まれなかったとしてもそれはそれでいい。素敵と思えることがマイノリティーなことでも、メジャーなことでも、素直に受け止めようと思っています。

最近気付いた自分に足りないこととは?

常にアンテナを張っていることですかね。張りめぐらさないといけないと思って、意識的にものを見るようにはしているんですけど、やっぱり自分の周りにあるものしか見ていないような気がします。アンテナを張っている方って自分から何かを発見しに行くのが上手で、心の柔軟な方が多いですよね。でも、私は目の前にあることだけで精一杯になってしまったりして、そういうアンテナが欠けているなって。なので、最近はふと頭に浮かんだことや疑問に思ったことをそのままにせず、ちゃんと調べてクリアーにするようにしています。

最近調べたことは何ですか?

最近はドラマーさんの動画をよく見ています。前は自分のつたなさを知るようで怖くて見られなかったんですけど、最近は素直に感動したり、「これだったら私にも出来るかも」というような見方が出来るようになったので、色んなドラマーさんのプレイを見るようにしています。

通っていた学校はあなたにとってどんな場所でしたか?

小、中学校は女子校に通いました。個性の豊かな子が多い学校だったので色々と刺激を受けましたね。小学校の時は皆があまりに個性的なので、私は目立ったり何かを残せるタイプじゃないって思ったほどです。その反動でドラマーになったっていうのもあるんですけど。中学校の1、2年生はアルゼンチンに行って、3年の時にまた日本に戻ってきました。高校は男の子とバンドがやりたかったので共学に行って、念願叶ってバンドもやったんですが、その学校は幼稚園から大学までの一貫校だったので、すごい閉鎖的に思えて狭い世界が嫌になって、学校外での活動が増えていきました。外の方が面白いことがいっぱいあったのでバンドも組んだりして、私を作った環境は学校外にありましたね。

大学時代には最高8バンドも掛け持ちしていたこともあるそうですね。活動の中で学んだことのうち、学校教育では教えられなかった大事なことはありますか?

それくらい掛け持ちしていた時期もありましたね(笑)。最初、大学では映像の音響を学びたいと思っていたんですけど、映像を切り取った写真にも興味があったので写真の大学を受けてみたら受かり、そこに通うことにしました。その大学は先生も友達のような感覚で、ものづくりに関して言葉を交わしてくれる方が多く、自由でしたね。高校の頃から学校外での活動が増えて、年上の方と接する機会が多くなって、音楽のことはもちろん、姿勢や力の抜き方など色々と教えてもらいました。いい意味でも悪い意味でも、周りの大人達に育ててもらった感じです。

大学で学んだ写真はどうでしたか?

面白かったです。最初はこんなに面白いんだって、ぐっとのめり込んでいました。ライブ写真を撮るカメラマンになりたいなんて思う時期もあって、そのまま写真を続けることを考えたこともあったんですけど、音楽の方でまだ自分が納得いくまでやり切ってなかったですし、大きな挫折も味わっていなかったので、諦めきれずに音楽の道を選びました。でも、今でもジャケット撮影の時など、画角や色調について意見を出したりしているので、大学で写真を学んだことは色々と身になっていると思います。

メキシコで生まれたことやアルゼンチンで過ごした中学生の頃の経験は、今のシシドさんにどのような影響を及ぼしていると思いますか?

昔は割と寂しがりやで、皆と一緒にいるのが好きだったんですけど、中学生の時にアルゼンチンに行ってから、言 葉の壁もあって学校で友達が出来なかったので、一人で過ごすのが平気になりました。かなり怖がりだったところも、帰国後は言葉が分かるんだからどこに行っ ても平気だって、何も怖くないと思うようになりました。だからこそ、外へどんどん出て行けたんでしょうね。音楽面ではドラムを始めたのがアルゼンチンだっ たからか、自分では全く分からないんですけど、他のミュージシャン達、特にベーシストの方に「やっぱりラテンの血が入っているんだね 」とよく言われます。アルゼンチンタンゴから習い初めて、ラテンのルーツを通ってきているので、それなりのビート感があるようです。誰かのまねをすることは あまりないですし、今まで習ってきたことや、他の人とセッションする中で吸収してきたものが今のスタイルになっています。

現在のドラムボーカルのスタイルに行き着くまでに葛藤した点や苦労などあれば教えて下さい。

デビューにこぎつけるまでは暗黒の時代でした。自分がこの世界に向いているのかも分からなかったですし、本当に音楽が好きなのかどうかも分からなくなっていた時期があって、自分自身の軌道を立て直し続けるのが大変でしたね。でも、周りのプロデューサーやマネージメントの方達が一緒に頑張ってくれたので、続けることが出来ました。デビューが決まってからは、色々とプレッシャーもありますが、チャレンジする場を与えられて本当に幸せだと思います。ドラムボーカルという唯一無二なスタイルは正解が分かりづらくもあるので、体力的な面も含めて今でも試行錯誤し続けています。

華奢なお姿からは想像出来ないほど、ドラムをプレイされている姿はとてもエネルギッシュですが、そのエネルギーの源は何ですか?

肉です。肉を食べてスタミナつけて、アドレナリン出してやっています(笑)。

憧れの人や尊敬している人は誰ですか?

夏木マリさんは素敵に生きていらっしゃる方だなと思います。お話させて頂く機会が結構多いのですが、すごい自然体な方なんです。今までの人生の中で色々な挑戦や葛藤もあったと思いますが、今でもあんなに素敵でいられるのは全てに対して真剣に100%で向かっていったからなんだろうなって。年を重ねても夏木さんのように素敵で、あんな風に笑っていられる女性になりたいなって思います。

好きな歌や映画、本などで一番影響を受けたものは?

バイブルにしているものは特にないのですが、頂いたDVDで「ローズ」という映画は心震えるすごく良い作品だと思います。ヒロインのローズはジャニス・ジョップリンがモデルになっていて、やっぱり憧れるし、考えさせられることも多く、色んな感情を与えてくれた映画でしたね。

好きなボーカリストやドラマーは?

いつもコロコロ変わるんですけど、好きというよりは研究対象として見ることが多いです。影響を受けたドラマー はジョン・”ボンゾ”・ボーナムとスティーヴ・ガッドですね。ボンゾは大学生の時に組んでいたバンドの中に、レッド・ツェッペリンが大好きな年上の方達がいて、その方達に私がボンゾっぽいからボンゾみたいに なりなさいと言われて鍛えられたので、大きな影響を受けています。スティーヴ・ガッドは私が初めて「この人のようにドラムを叩きたい!」って思った人です。中学生の時、初めての発表会で演奏する曲を選ぶのに、スティーヴ・ガッドの曲を選んで、最初は全然叩けず周りからは止められましたが(笑)、やるって決めてやりました。

4月27日に発売されるアルバム「トリドリ」のコンセプトについて教えて下さい。また、アルバム制作を通して新たな気付きや学んだことなどはありましたか?

テーマは脱力です。今回のアルバムでは亀田誠治さんや蔦谷好位置さん始め、織田哲郎さんなどたくさんのプロデューサーの方々とご一緒させて頂いています。皆さんが書いてきて下さる曲がストレートでメロディーも分かりやすいものが多かったので、あんまりこねくり回して考えた言葉をのせるのは違うと思い、力を抜いたまま言葉を選んで取り組みました。

今回のアルバムの中から一番思い入れのある曲を選んでもらうとしたら?

「Get Up!」です。アルバムのコンセプトの脱力どおり、曲の雰囲気やメロディー、歌詞も含めて自分の納得いく力の抜け具合を表現出来たと思っています。本来はこういう感覚で詞を書くんだろうって楽しい気持ちを込めて書けました。新しい曲ができる度に「Get Up!」を聞いて、その時の感覚を取り戻してから作詞に取りかかりました。

たくさんのプロデューサーさんと挑んだアルバム制作の中で楽しい思い出や辛い思い出などありますか?

「Crying」をプロデュースして下さった織田哲郎さんは一緒に作詞をさせて頂いたのですが、自分の中にある本当の「Crying」を詞に出そうということになり、私は今までどおり考えすぎてしまったんです。自分の中から出して沈んでしまったものを織田さんに汲み上げてもらうというやり取りの連続で、私の思いを長々と聞いて下さり、たくさんの時間と心遣いを頂いたので申し訳なかったと思いつつ、とてもいい曲に仕上がったので本当に嬉しいです。ご一緒させて頂いた他の皆さんも、全員心の均等が取れたハッピーな方々で、私の意見を寛容に受け止めて下さったので、レコーディングはとてもスムーズにいきました。

詞を書くというのはシシドさんにとって大変な作業ですか?

ものすごい難産です(笑)。一貫して伝えたいテーマがあるわけではなく、自分の考えも日々変わっていくので、今の自分が本当に思うことや、それぞれの曲で思いついたことを詞にしています。今回のアルバムでは力を抜いて出てきた全てを投影出来たらと思ったので、言葉をあまりひねくり回さないようにしました。

詞の言葉選びには男勝りな印象を感じることもありますが、特に意識はされてないですか?

意識はしてないですが、今までの作品はアップテンポでリズムや曲自体がすごく強いものが多かったので、負けないように言葉を選んだりするクセが残っているかもしれません。曲が強くなると自分も前のめりになって歌詞を書く傾向がありますが、今回は特に強がって見せようとはしなかったです。リズミカルではありますが、強いものはあまりなく、優しい感じですね。

どんな方に聞いてもらいたいですか?

聞いて下さるならどんな方でも嬉しいです。ライブに来て下さるお客さんは男性の方が多いので、是非女性の方にもライブに来て頂いて一緒に暴れたいですね。何してもOKな場所なので、ぐちゃぐちゃになってほしいと思います。

今後、ドラムを叩かないという選択肢はあるのでしょうか?

可能性としてはあると思います。今は自分で叩くのが自然だと思っていますが、今後、他のドラマーさん、例えば中村達也さんや屋敷豪太さんのドラムで歌ってみたいなんて考えもあったりするので、そんなことが出来たら面白いですね。ライブでも別のアレンジでやって、私は叩かずに歌うなんていうのもありだと思います。

5月7日からいよいよ全国9カ所9公演の「シシド・カフカTour 2016」が始まりますね。このツアーに対する意気込みや達成したいことはありますか?

今までは2ヶ月で4公演など、バラバラとしかやったことがなかったので、今回の全国ツアーを通してスタッフと一緒にライブを育てていくことや、一緒に演奏をするバンドのミュージシャン達が成長していくのと、ミュージシャンとしての自分がどう成長していくのかを見られるのが本当に楽しみです。体力的な心配はありますが、今は楽しみしかないです。9カ所終わった時には「全部走り抜けてやったぜ!」って思えるように今から色々と準備しています。

6月25日公開予定の宮藤官九郎監督の映画「TOO YOUNG TOO DIE! 若くして死ぬ」ではガールズバンド「デビルハラスメント」のドラマーを演じていらっしゃいますが、メタルチックな奇抜なヘアメイクもとても似合っていらっしゃいます。撮影中の面白エピソードなどあれば教えてください。

あの作品では約1キロあるとても重いウィッグを付けて、それを首だけで支えないといけず、さらに暴れないといけなかったのがちょっと辛かったです。一曲終わる度に誰かに髪を持ってもらって、氷を当てながら「大丈夫です!」ってずっと首を抑えていました。でも、頭から血を流すこともそうそうないですし(笑)、楽しかったです。

最近はテレビにご出演される機会も多いですが、いかがですか?

テレビは中々慣れないですね。生放送で演奏するのはライブとは全然違った緊張感があります。テレビに出るたびに、その影響力はすごいなって実感するんですけど、やっぱりまだ苦手です。これからはもう少し心を強くして臨んでいきたいと思います。

社会で起こっていることで、気になることは何かありますか?

くだらないと思うニュースが増えたように思います。気になることは色々ありますけど、犬猫達の里親募集はよく見ています。里親が見つかったという報告を見ると、良かったな〜って思ったり、助けられた話を見て涙したり。犬派、猫派で言ったら私は猫派です。多頭飼い崩壊とか聞くと気が気じゃなかったりしますね。

自分のやっていることで、日本や世界が変えられるとしたら、どんなところだと思いますか?

微力ながら誰かのお力になれればと思って、折れたドラムスティックを使ってボールペンを作り始めました。そのボールペンは北海道に住んでいる方に手作りで作って頂いて、それをライブ会場で販売し、「東北LIVEHOUSE大作戦」に寄付させて頂いています。今後は割れたシンバルや、スネアの下にある響線と呼ばれるものなども使って皆さんに楽しんでもらえる何かを作って寄付していけたらいいなと思っています。

他人が思う自分の像と、実際の自分自身との差があると感じる部分を教えて下さい。

怖い人だと思われていることが多いみたいで、実際に話をすると思っていた印象と違い安心されるようです。この前髪が大分厚い壁を作っているみたいで(笑)、上げると一気に親近感が涌くって言われます。

一気に視界が開けた瞬間や、自分が成長したと実感した出来事があったら教えて下さい。

私は昔から書道をやっていて、真っすぐに線を書くのはすごい得意だったんですけど、少し力を抜いてふわっと書くのが苦手だったんです。それがある日、急にふわっと書けるようになって、そうしたら、その日を境にドラムもふっと力を抜いて叩くことが出来るようになって。何か一つのことが出来るようになると、他のことも出来るように、スイッチって全部繋がっているんだと実感しました。

3年後、5年後、10年後の自分はどうなっていると思いますか?そして、どうしたらそれになれますか?

全く予想がつかないですが、充実感と共に笑っていれたらいいなと思います。今は、もう少し大きなステージでたくさんの人達と音楽を共有して笑っているのが理想です。もちろん音楽でやっていけたらいいなと思いますが、今こうしてドラムボーカルとしてやっていることや、エイベックスさんとのご縁も昔は全く想像できなかったことですし、そう思うと今から3年後や5年後はもしかしたら書道で成功しているかもしれないし、先のことは分からないなと。その時々で自分が面白いと思うことに全力投球し続けていけば、悔いのない人生になると思うので、先を想像するのはやめようかなって思ってます。

ヘアメイク:奈津

シシド・カフカ Information

SHISHIDO KAVKA/TORIDORI

「TORIDORI」
2016年4月27日(水)発売

【CD+Blu-ray】※初回限定生産 ¥5,800(税抜)AVCD-93430/B
【CD+DVD】¥3,800(税抜)AVCD-93431/B
【CD ONLY】¥3,000(税抜)AVCD-93432

(CD収録内容)
1:Obertura / 2:Get up!/ 3:さようなら あたし/ 4:朝までsugar me / 5:crying / 6:Don't be love feat.斉藤和義/ 7:明日を鳴らせ/ 8:Spider trap / 9:ROLLING ROLLING / 10:特別な人/ 11:バネのうた- feat.甲本ヒロト/ 12:最低な夜のあと/ 13:春の約束
※ CDの収録内容は全形態共通

(Blu-ray収録内容)
1:朝までsugar me(Video Clip)/ 2:Get up!(Video Clip)/ 3:ミディアム・レア at Zepp Tokyo 2015.09.05(約90分収録予定)

(DVD収録内容)
1:朝までsugar me(Video Clip)/ 2:Get up!(Video Clip)/ 3:「ミディアム・レア at Zepp Tokyo 2015.09.05」のLIVE映像の中から3曲を収録予定

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