ON COME UP
#14 | Jun 14, 2016

新作「二重生活」では尾行する女学生を。「まれ」や「愛の渦」など、助演でも難役でも光を放つ注目の女優、門脇麦

Interview: Hamao / Text & Photo: Atsuko Tanaka / Photo Retouch: Toshiko Nagai

未来に向かって躍動する人たちをフィーチャーする“On Come Up”。第14回目のゲストは6月25日に全国ロードショーがスタートする「二重生活」でヒロインを演じた女優の門脇麦さん。4歳から始めたバレエに全人生を捧げ、プロを目指して10年以上続けるも、断念。その後、自分探しの3年間を過ごす中で女優業に興味を持ち、19歳でデビュー。2014年に映画「愛の渦」で、「地味でまじめそうな容姿ながら、誰よりも性欲が強い女子大生」というヒロインを好演したことなどが評価され、多数の映画賞を受賞。NHK朝の連続テレビ小説「まれ」を始めとするドラマや舞台などで大活躍している。幼少の頃の性格や生活の話、バレエで経験した挫折、新作「二重生活」の現場で学んだことなどについて語ってもらった。
PROFILE

女優門脇麦 / Mugi Kadowaki

1992年8月10日生まれ、東京都出身。2011年にデビュー後、東京ガスのCM「ガスの仮面」で披露したクラシックバレエで注目を集める。ヒロイン役に抜擢された『愛の渦』(14/三浦大輔監督)では大胆な濡れ場に挑戦し、大きな話題を呼んだ。2014年第6回TAMA映画賞最優秀新進女優賞、2015年第36回ヨコハマ映画祭日本映画個人賞最優秀新人賞、2015年第88回キネマ旬報ベストテン新人女優賞などを受賞。主な出演作に、大河ドラマ「八重の桜」(13/NHK)、『闇金ウシジマくん Part2』(14/山口雅俊監督)、「ブラック・プレジデント」(14/KTV・CX)、『シャンティ デイズ 365日、幸せな呼吸』(14/永田琴監督)、『死と恋と波と』(15/短編/松永大司監督)、『アゲイン 28年目の甲子園』(15/大森寿美男監督)、『合葬』(15/小林達夫監督)、連続テレビ小説「まれ」(15/NHK)、「探偵の探偵」(15/CX)など。今後の待機作に『太陽』(16/入江悠監督)、『オオカミ少女と黒王子』(16/廣木隆一監督)、Netflix連続ドラマ「火花」(総監督:廣木隆一、原作:又吉直樹/2016春全世界配信予定)、4月期土曜ドラマ「お迎えデス。」(NTV)などが控え、ますますの活躍が期待される若手女優の一人。

門脇麦

女優になることを志したきっかけは?

4歳からバレエを10年以上やっていたのですが、バレエをやめてから映画をよく見るようになりました。「カナリア」や「花とアリス」、「害虫」や「スワロウテイル」などを見て、当時の私と同じ年くらいの方達が衝撃的な作品を作っている現場に参加できているんだと、すごい刺激を受けて、自分もやりたいと思ったのがきっかけです。

小さい時にニューヨークに住んでいたそうですが、よく覚えている出来事などありますか?

ニューヨークで生まれて5歳まで向こうにいましたが、あの頃のことはあまり覚えてないです。日本人も多い街なので、そんなに疎外感はなかったですね。

ご両親はどんな方でしたか?

父親はすごい自由人で、根っからのポジティブな人。私が知っている中で一番ポジティブな人が父親で、一番ネガティブな人が母親です。

小さい頃はどんなお子さんだったのですか?

いつも追いかけっこしたりして、すごいワンパクで男の子泣かせな女の子でした。生活の中心はバレエとドロケイとドッチボールというような(笑)。小学生の時は運動神経が良かったので、目立つ存在だったと思います。小学校って運動神経がいい子が人気じゃないですか。その勢いで中学時代も過ごせると思ったら、女子校ということもあり、ドロケイとドッチボールだけでは友達とうまくやっていけないということを知って(笑)。それから人とどう接して良いか分からなくなって、友達はあまりいらないと思うようになりました。

好きな教科は何でしたか?

小学校までは体育が好きでした。割とどの競技も得意だったので。でも中学になると部活をしている人達には敵わなかったですし、気付いたら体育が苦手になっていました。勉強では理数系が好きでした。

高校は門脇さんにとってどんな場所でしたか?

中学で自分の全てを捧げていたバレエをやめた後、何のために生きているのか分からなくなってしまい、高校では生きる目的と自分が何をしたいのかを探り続けた3年を過ごしました。友達と放課後に遊んだこともなかったですし、そういうことを求めに行った場所ではなかったので、私にとって学校は勉強する以外はあまり大事な場所ではなかったです。常に意識が外に向いていましたね。

10年以上続けたバレエをどうしてやめてしまったんですか?

ある一定の年齢まで実力の差って見えてこないんですけど、中学生ぐらいの頃から、プロになれるかなれないかの 差が目に見えて分かるようになってきて。小さい頃から一緒にやってきた子が有名なコンクールに出て留学するとか、そういうことが身の回りで当たり前のように起こるようになってきた。その時くらいから、私の実力では世界でやっていけないことを本能で察知しました。プロになるためにバレエをやっていたので、プロになれないんだったら、もうやらなくていいというか、そのまま続けることが許せなかったんです。負けず嫌いなんですよね。でも、バレエをやめてからしばらくは苦しかったです。

その苦しみをどのように乗り越えたのですか?

バレエをやっていた頃の自分が一番好きだったので、やめた後もあの頃の自分と常に比べていました。あの時の自分に勝つために何かを探さなきゃという意識がずっとあって、それは今でもあるんです。でも、いくら努力してもダメなものはダメですし、別に乗り越えなくても良いというか、それはそれで良いかなって。流れに身を任せれば別の何かが見つかるかもしれないと思うようになってから、執着心みたいなものがなくなりました。

高校の3年間は自分探しを続けたとおっしゃっていましたが、女優への道のファーストステップはどういう行動を起こしたんですか?

高校卒業間近の頃、映画が好きというのももちろんあったんですけど、学生生活もその時の自分も大嫌いだったので早く違う世界に行きたいと思って、勢いで事務所に履歴書を送りました。親にはずっとこの仕事をすることを反対されていたので、大学に行って20歳になってからにしようと思っていたんですけど、居ても立ってもいられなくなって、親にも何とか納得してもらいました。

ご両親が反対されてたということは、高校の頃からすでに女優になる意志を示していたんですか?

中学3年生の頃からそう思うようになっていたんですが、通っていた中学が私立の中高一貫の学校で芸能活動が禁止だったので、高校は受験して公立の学校に通いました。その頃はまだ親から女優の道を進むことに賛成を得られていなくて、バレエの繋がりから、舞台かミュージカルだったら良いと言われたので、歌や色んなダンスを習いました。

女優業で学んだことのうち、学校教育で教えられなかった大事なことは?

思春期の女の子って、グループを作ったり、やることが独特じゃないですか。それで、私は完全に人間不信になってしまって、割と他人のことはどうでもいいと思うようになったんです。でも、この仕事を始めてから、自分が何でこの仕事をやっているのか、何に惹かれているのかを考えてみて、みんなで1つの作品を作っていく現場に惹かれていることに気付きました。昔と比べると大分変わったなと思います。

『二重生活』の完成作を見て、「初めて自分の想像を越えた作品だ」と思ったそうですが、具体的にどういうところが想像を超えていたのですか?

普段、作品を初めて観る時は客観的に見られなくて、自分の粗探しをしてしまったり、あの時は何テイクやったなとか、現場のことを思い出してしまうんです。現場でやったままの感覚で観ているので、作品としては見れていなくて、面白いか面白くないかも分からないんですよね。だけど、「二重生活」は自分が出ているのにも係らず、自分が出ていない映画のようにすごく客観的に観れた作品だったので、とても不思議でした。

脚本や台詞から、完成作がどうなるのか何となく想像出来そうですが、なぜそう感じたのでしょうか?

脚本を読んだだけでは抽象的で、何が言いたい話なのか明確に分からなかったんです。どこが面白いのかは、よく分からないけど、惹きつけられるものがありました。撮り方も、岸善幸監督とカメラマンの夏海光造さんがドキュメンタリー出身の方なので、撮影前にあまり段取りはせず、何となくシーンの説明をされて「はい、やってみましょう」と、いきなりカメラを回す感じでした。なので、何を撮っているのか、よく分からなかったですし、準備する時間や自分と役を切り離す隙も与えられなかったというか。演じている感覚が一切なくなるから、自分の中でも際限をつけないのかもしれない。役って自分の中で想像したり、監督と打ち合わせしたりすると、「この役はここからここまでのこれくらい」という範囲が決まるじゃないですか。そうすると、自分の想定内のものしか出てこないし、出てきにくくなるので大体想像がつくんですけど、自分なのか役なのか良く分からない状態で演技すると、きっとその壁が壊れるんでしょうね。

今作品で、岸監督から学んだことは何ですか?

私にとって、どの作品でも演技をするって恥ずかしいことで、「あっ、私、演技してるな」と思った瞬間に、いつもスッと白けるというか、こっ恥ずかしい気持ちになってしまうんです。例えば会話しているシーンだったら、本当に会話していれば、それは演技していることにならないから、全てをそういう状況に持っていきたいけど中々難しい。そこを日頃から目標にしてやっているんですけど、今回は私が持っていかなくても現場がそういう感じで、監督は私の思いを分かって手を差し伸べてくれたように思えて、すごく嬉しかったです。

哲学を学ぶ大学院生を演じるにあたって、何かリサーチしたことはありますか?

監督から哲学書をいただいたので、それを読んだり、実際に哲学を学んでいる女子大生の方とお話をさせていただきました。彼女達とお話をして、哲学を学んでいる人たちだからといって、特別に意識する必要はなくて普通でいいんだと思いました。

これまでに出会った「哲学」はありますか?

アドラーの哲学は好きです。自分が周りに対して不満とかイライラする感情を持つのは、自分のことを高く見積もるから生まれるのであって、自分を下げれば変わるんだそう。この考え方は、私に日常的に有効に機能しています。生きているとイラッとすることもあるじゃないですか。そういう時は、この考え方で気を鎮めます(笑) 。

共演者のリリー・フランキーさんや長谷川博己さん、菅田将暉さんの意外な一面は?

世間話を少ししたくらいで、あんまりお話してないので、どういう方達なのかはあまり分からないです。リリーさんとは以前舞台で娘役で共演しましたが、リリーさんはあのままの方ですね。長谷川さんは「あそこの焼肉屋が美味しいよ」みたいな話をしました。菅田君はどうなんだろう、、。そんな感じで、共演者の方の意外な一面は知らないです。仲の良い役であったりとか、必要があれば喋りますけど、基本的に現場ではあんまり喋らないですね。そういうのはあまり得意な方ではなくて、一人でいる方が楽なんです。

門脇さん演じる珠は「理由なき尾行」を始めますが、実際に尾行してみたら楽しそうな人は誰だと思いますか?

スーパースターとか、有名人は尾行してみたいですよね。って言ってみたものの、興味ないから実際あんまりいないですけど(笑)。

憧れの人や尊敬している人は?

たくさんいすぎて選べないですけど、一番最初に憧れた女優さんはオードリー・ヘップバーン。小学校の低学年の頃から、カレンダーはいつもオードリー・ヘップバーンで、部屋にも切り抜きとか写真をいっぱい貼ってました。「ローマの休日」を見て好きになったんですけど、その時から女優というものに何かピンとくるものがあったのかもしれないですね。

好きな映画や本、音楽はありますか?

映画は邦画もハリウッドの大作もインディーズものも好きで、ジャンル問わず色々好きです。本は恋愛小説やサスペンスより、ファンタジーとかちょっと夢がある物語が好きですね。私の中身が割と小学生のままだからかな。音楽はその時の気分によって全然違うんですけど、基本的に昔から決まっていて、くるりやエレファントカシマシ、野狐禅以外はほぼ聞かないです。

他人が思う自分の像と、実際の自分自身と差があると感じる部分はどういうところですか?

サブカルチャーに精通しているように思われているみたいですが、全く無頓着というか、精通しているものが一つもないので、そう思って私を好きでいてくれている人には申し訳ないという気持ちがあります(笑)。あと、情緒不安定な役が多いせいか、そういう風に見られることもありますが、そうでもないんです。ポジティブだし、割とカラッとしてる方だと思います。

ライバルは誰ですか?

やっぱり、バレエをやっていた時の自分なんじゃないかな。本当にあの頃の人生は楽しかった。今はそこまで楽しめているかと言ったら、まだそこまで楽しめていないです。楽しめていないというのは変ですけど、あの頃の自分はこれからもずっとつきまとってくるんだろうなと思います。

一気に視界が開けた瞬間や、自分が成長したと実感した出来事はありますか?

良い方になのか、悪い方になのか分からないですけど、徐々に変わっているなと思うことは度々あります。そんなに大きな出来事で、一気に視界がド~ンと開けたわけではないですけど、刻々と変わっているのは日々感じます。

3年後、5年後、10年後の自分はどうなっていると思っていますか?

どうしたいとはあんまり思わないんですけど、これから自分が積み上げていくことの先に何が待っているのかなと思うと、純粋に楽しみですね。

スタイリング:佐伯敦子
ヘアメイク:石川奈緒記

門脇麦 Information

SHISHIDO KAVKA/TORIDORI

「二重生活」
6月25日(土)より、新宿ピカデリーほか全国公開

監督・脚本:岸善幸「ラジオ」「開拓者たち」 音楽:岩代太郎  原作:小池真理子「二重生活」(角川文庫刊)
出演:門脇麦 長谷川博己 菅田将暉 / 河井青葉 篠原ゆき子 西田尚美 烏丸せつこ/ リリー・フランキー 2015年/日本/カラー/126分/16:9/デジタル5.1ch/R15+ 製作:「二重生活」フィルムパートナーズ 制作プロダクション:テレビマンユニオン
製作・配給:スターサンズ 配給協力:コピアポア・フィルム 宣伝:ミラクルヴォイス+Prima Stella  R-15 ©2015『二重生活』フィルムパートナーズ