デザイナー・岡本ユウジがディレクションを手がけたKEIKOKU GLAMPING。グランピングとUFOをリンクさせ、ミステリアスなファッションストーリーを展開

2021/01/09

今や世界中で人気を誇るグランピング(Glamping)。グランピングとは、「グラマラス(Glamorous)」と「キャンピング(Camping)」を合わせた造語で、優雅に自然を満喫できるキャンプスタイルのことを言う。2010年代半ばからヨーロッパやアメリカで人気を得て、日本では昨年の夏頃から流行り出し、様々なメディアで取り上げられるようになった。見聞きしたことのある人も多くいることと思うが、グランピングは通常のキャンプとは違い、何も持たずにフラッと行って、まるでリゾートホテルのような施設に宿泊しながらも自然を楽しむことができる。テント内にはベッド、ソファ、エアコンや冷蔵庫はもちろんのこと、wifi環境が整っていたり、バーベキューや露天風呂、キッズパークなどが併設されているところも多い。

いろんなスタイルやサービスを提供するグランピング施設がある中、一昨年の6月に東京の檜原村にオープンしたKEIKOKU GLAMPINGがある。ここのディレクションを手がけたのは、以前ON COME UP( 2015年5月号)でインタビューしたデザイナーの岡本ユウジ。グランピングとファッションとは全く違う世界のように感じるが、KEIKOKU GLAMPINGのウエブサイトでは、「UFO is Glamping」というファッションストーリーを展開させたりと、ファッション界にバックグランドを持つ岡本ならではの想像力をうまく融合させ、新たなグランピングの世界観を打ち出している。

そこで、HIGHFLYERSは、岡本にディレクションを行うことになったきっかけや魅力、また、最近の活動や今後の目標についてなどを聞いた。

「精神と時の部屋」のような場所でのグランピング体験。焚き火をしたり川のせせらぎを聴いて、自然を独り占めできるプライベート感を存分に楽しんで欲しい

―KEIKOKU GLAMPINGの特徴について教えてください。

東京の唯一の村である檜原村でやっていること、そしてプライベートな特別感を味わえることだと思います。テントは2棟のみで、それぞれオートロックで鍵もないので、入り口で受付の人と手続きをした後は、全く人に会わずにテントまで行くことができます。また、多くのグランピングの施設は、お風呂とトイレは共同ですが、KEIKOKU GLAMPINGはテント内にありますし、アメニティなど一つ一つにも、こだわりのあるものをセレクトしています。

ーテント内は、ラグジュアリーなホテルのようなイメージですね。

日本でこのテントを使っているのはここだけです。オーナーが独自でヨーロッパを回って実際に泊まって良いと感じたテントで、オランダから直接仕入れています。

―そして、サービスのメニューに、スパとヒーリングがあるのも珍しいと思いました。

オーナーはもともと檜原村出身の方で、このグランピング以外にも、ふれあい広場という日帰りで楽しめるバーベキューや、キャンプ場なども経営していて、地元の方たちと色々な繋がりがあるのと、ここに来た方たちにリラックスしてもらえる空間にしたいということでスパやヒーリングのサービスを提供しているんです。

―ところで、岡本さんはグランピング自体を元々やっていたんですか?

いえ、最初は知らなかったんですが、オーナーがこのグランピングを始めるとなってから、一緒に内装を見たり、実際に泊まったりするようになりました。実際に体験してみて、キャンプに行くような感じと違って、ホテルに泊まりに行くような感じで、忙しくない分、自然をすごく楽しめました。そして、都会にいる時のようにやることもないので、気の知れた人たちとすごく深い時間を過ごせるなと思いました。

―特にグランピングの経験もない、ファッションデザイナーの岡本さんがグランピングをディレクションするとは珍しいことのように思いますが、何がきっかけで携わることになったんですか?

オーナーとは昔からの知り合いで、信頼関係を築いたところで進行中のプロジェクトに途中から参加することになりました。いつも思うことですが、クリエーションって身近にいる周りの人たちと一緒に作っていく過程があると思うんですけど、信頼できる人に仕事を頼むのはすごく自然なことなんじゃないかと思います。それに、僕は自分のブランド以外にも、他のブランドのグラフィックデザインをしたり、ディレクションすることも増えてきて、今はファッションデザイナーという立ち位置だけではないんです。ホテル業に参加するのは今回初めてでしたが、グランピングという元々ある価値観に、ファッションやグラフィックの感覚でやってきた僕の感覚を融合させたら面白いものになるんじゃないかということでやることになりました。

―実際にどんなことを手がけたんですか?

途中から参加したというのもあり、テントや家具とかは全部オーナーが自身の目線で選びましたが、僕はクッションやラグマットをデザインしたり、部屋で過ごすパジャマや、椅子などのデザインと制作、あとはインビテーションやホームページのデザインをしました。実際にやってみて思ったことは、お客様第一優先という考え方が、同じサービス業であるアパレル業界のものとは全然違うということと、お客様に喜んでいただくためには当たり前な事ですが、陰ながらの様々な苦労がたくさんあるんだと知りました。

―他に大変だと感じたことは何かありましたか?

ディレクションと言っても、やることがとても多いですし、一つのことが全体に関わってきますから、生半可な気持ちでは受けられないなと思いました。例えば、予約のキャンセルが出たりすることがありますけど、それってブランドをやってる感覚と一緒というか。何か起きれば常に注意して見てないと鮮度があるものに保てないですし、そういう意味で時間がかかるというか、ずっと寄り添って見てないといけないものなんだなと思いました。

ーKEIKOKU GLAMPINGのサイトでは、「UFO is Glamping」というファッションストーリーが展開されていますが、ストーリーにはどんな意味が込められているのか教えてください。

宿泊施設ってキャンプのテントとかコテージ、ホテルとか色々あるけど、グランピングって何も持たずに行けるし、すごくミニマルだなと思って。UFOも旅する上で無駄なものを全部削ぎ落としてるスタイルなはずで、移動空間であり居住スペースでもあるミニマルな生活スタイルがグランピングの概念とリンクする部分があると思い、「グランピング=UFO」っていうイメージが僕の中で膨らんできたんです。それをグランピングを建物や場所としてではなく、ファッションぽく表現したいねってオーナーと話をして、スタイリストやカメラマン、プロップアーティスト、ヘアメイクなど、みんなファッションに関わっているチームを集めてビジュアルイメージを作りました。

UFO is Glamping

―なるほど、それは面白いですね!ところで、岡本さんがグランピングする時は、どんな風に過ごすことが多いですか?

音楽を聴いたり、本を読んだりしています。溜まっている本、例えば「ファクトフルネス」を読んだり、アートや民藝の作品集を見てデザインのことを考えたりしてますね。それと焚き火をずっとやってます。あまり携帯とか電気系のものには触らないようにして。施設内は、もちろんWi-Fiもあってパソコンも問題なくできるんですけど、敢えてやらないようにします。

―岡本さん自身も、そういうところにいると、普段と違うインスピレーションを受けたりしますか?

それは絶対にありますね。自分の気持ちが違うし、日常とは全く違う何かに集中出来る環境なので楽しいです。都心から高速を3、40分乗って、あと3、40分山道を走れば、もうそこからあっちの世界が始まるみたいな。それをそのくらいの近い距離で楽しめるのはいいなと思います。

―いいですね。では、まだグランピング未経験の方たちに、魅力や楽しみ方を教えてください。

ドラゴンボールで言う「精神と時の部屋」みたいな場所、まさにUFOみたいな空間に泊まる気分を味わえますし、川のせせらぎがずっと聴こえてきて、自然を独り占めできるプライベート感を是非楽しんで欲しいです。

―ところで、都心と地方に2拠点を持つ方が増えていますが、岡本さんも考えたりすることはありますか?

全然ありですね。すでに自宅のアトリエと事務所の2拠点がありますし、車も一つの部屋だと思っています。地元金沢にもシェアしているアトリエがあります。でも拠点はやっぱり東京が良いです。事務所は東京にあって、作品を作る場所とか、デザインする場所、本を集中的に読む場所とかって、これからもっと増やしていきたいと思っています。

―グランピング以外では、最近どんな活動をされているんですか?

CYDERHOUSEでは、コロナ渦にNomore Storeというオンラインストアを立ち上げて、そこで一点もののアイテムを定期的に発表、販売しています。その他は、国内だと例えばX-girlやMINEDENIM、海外だとサンフランシスコのCarrotsなどのブランドのグラフィックもやったり、UNDERCOVERの別企画にも参加したりしています。様々なブランドの仕事をやらせていただくので、そこでいろんな話を聞けるんですけど、最近は状況も変わってきて、多くの人が外出する機会が減ったせいもあり、インテリアとか小物やグッズなどの需要が増えてきていて。なので、うちも前からやってみたかった椅子を作ったり、グラフィックをパネルにした部屋に飾れる作品づくりを時代の流れに合わせて必然的に始めました。単純にファッションがやれることの幅が広がってきている気がしますね。

 

CYDERHOUSEのラグマットやクッション、椅子、アート作品。全て一点もの

―それでは最後に、今後の目標を教えてください。

一つのことに対して深く取りかかるとそれに対して時間をたくさん費やすので、何にでも手を付けるのではなく、やりたいことを厳選して挑戦してやっていきたいなと思ってます。先ほど話した一点ものを作ることもそうですが、今やっていることなどを粛々と続けていくことが目標です。

Text & Photo: Atsuko Tanaka

 

KEIKOKU GLAMPING TENT

住所:東京都西多摩郡檜原村数馬7072

TEL : 042-550-0147   (9:00~18:00)

https://www.keikokuglampingtent.com