エチオピアで初のカップ・オブ・エクセレンスを開催。丸山珈琲が共同落札した優勝ロット、ついに発売開始【イベントレポート】

2020/12/31

スペシャルティコーヒーと言われる高品質のコーヒー豆を、世界有数のカッパー(コーヒーの液体を評価する人)であり、生豆のバイヤーの丸山健太郎社長が自ら世界各地へ赴き直接買い付けること20年以上。 1991年創業の丸山珈琲は、 今や世界のスペシャルティコーヒー市場にとって欠かせない存在となった。そして今年6月、株式会社丸山珈琲は、エチオピアで初の開催となった国際品評会「エチオピア カップ・オブ・エクセレンス(COE)」において、記念すべき1位に輝いたニグセ・ゲメダ氏のロットを共同落札した。

そのロットは12月15日より、丸山珈琲直営店舗ならびにオンラインストアで販売を開始。また、発売開始に先立って丸山珈琲西麻布ショールームでは、テイスティングイベントが2つ行われた。1つはエチオピア、グアテマラ、エルサルバドル、コスタリカ、ニカラグアの5カ国のCOE優勝ロットのコーヒーを、丸山健太郎社長のトークを交えながらテイスティングするという内容で、もう1つは、以前ON COME UP(2017年11月号)でも取材した2017年ワールドバリスタチャンピオンシップ準優勝のバリスタ・鈴木樹による、ニグセ・ゲメダ氏のロットのエスプレッソドリンクを2種類味わえるというもの。

2017年ワールドバリスタチャンピオンシップで準優勝を果たした鈴木樹

そこで、HIGHFLYERSでは、インタビュアーでありライターとして様々な媒体でコーヒーに関する記事を執筆している高綱草子が2つのイベントに参加したレポートをお届けする。コーヒーに詳しくないと少し難しい内容かもしれないが、今世界で美味しいとされるコーヒーはどんなものかがわかるイベントのレポートなので、興味のある方は是非読んでいただきたい。

今の世界の美味しいコーヒーがわかる「カップ・オブ・エクセレンス」を堪能。エチオピアの優勝ロットは96.5点の高評価

スペシャルティコーヒーとカップ・オブ・エクセレンス(COE)についてを詳細に解説する丸山健太郎社長

まずは5カ国の優勝ロットのテイスティングイベントレポートから。イベントでは最初に、 「スペシャルティコーヒーとは何か?」「COEカップ・オブ・エクセレンス)とは何か?」を丸山社長が20分にわたって丁寧に解説した。

丸山社長曰く、スペシャルティコーヒーとは、簡単に言うと、「飲んで美味しいコーヒー」のこと。美味しいコーヒーの世界的な厳格な基準はないそうだが、もう少し紐解くと、“生産の現場から、カップ一杯の液体になるまで、すべてのプロセスが管理され、品質が吟味され、トレーサビリティが徹底され、サステナビリティを前提として作られたもの。そして、作られた場所の味や作り手の味がはっきりしていること。コーヒーの味としては、明るい酸味、心地よいコーヒー感が持続して、最後は甘みですっと消えるもの”だと言う。

実は、コーヒーの美味しさのおおよその評価が決まってきたのは20年ほど前のこと。そしてその過程には、20年という歳月をかけて、何千人というカッパーたちが、リアルタイムでコーヒーの評価を更新していったCOEというシステムが存在する。

さらに詳しく説明すると、COEとは、生産国ごとにその年の最高品質のコーヒー豆を決める品評会のことを言う。その品評会では、国際審査員がワインと同じようにテイスティングをし、味や香りを点数で評価した結果、87点以上の豆にCOEの称号を与える。そしてCOEとなった豆は、その後ネットオークションにかけられ、世界中のバイヤーによって高値で取引される。この仕組みができたことで、生産者は良質な豆を作れば正当に評価されるようになり、生産者の意欲と栽培ノウハウが向上し、各国でスペシャルティコーヒーの品質が急速に高まるという現象が起きた。つまり COEの結果には、 どこで作られているコーヒーが美味しいのか、世界で今どんなコーヒーが素晴らしいとされているか、などの最先端のコーヒートレンドが凝縮されているのだ。

丸山社長は、COEを主催しているNPO団体「ACE(Alliance for Coffee Excellence Inc.)」の話を交えながら、現在にいたるまでのスペシャルティコーヒーが辿った経緯を細やかに解説。その後は、今年のCOEで丸山珈琲が落札した5カ国の優勝ロットをテイスティングした。

世界地図が描かれたシートに並べられた5カ国のCOE優勝ロット。生産国の上にテイスティングカップが置かれた

テイスティングしたのは、以下の5種類の豆

■エチオピアCOE 1位 / 生産者: ニグセ・ゲメダ   農園: ニグセ・ゲメダ・ムデ   標高: 2,320-2,380m   コーヒー栽培面積: 3ha   品種: 74158   生産処理: ナチュラル  収穫時期: 10-1月

■グアテマラCOE 1位 / 生産者: ディエゴ・デ・ラ・セルダ   地域: グアテマラ県バレンシア   農園: エル・ソコーロ農園   面積: 280ha   標高: 1,859m   品種: ゲイシャ   生産処理: ウォッシュト

■コスタリカCOE 1位 /  生産者: ホスエ・ボニージャ   地域: タラス地区   生産処理場: ドン・マーヨ生産処理場 ラ・ロマ農園   標高: 1,950m   品種: ゲイシャ   生産処理: ハニー   収穫時期: 10-1月

■エルサルバドルCOE 1位 / 生産者: ロベルト・サムエル 地域: サンタアナ県パロ・デ・カンパナ 農園: ディピナ・プロビデンシア農園  標高: 1,600-1,890m 品種: パカマラ 生産処理: ナチュラル・アナエロビック

■ニカラグアCOE 1位 / 生産者: ルイス・アルベルト   地域: ヌエバ・セゴビア モンソテ キスリ   農園: ウン・レガロ・デ・ディオス農園   面積: 286ha   標高: 1,250-1,920m   品種: マラカゥーラ   生産処理: ナチュラル

何と言っても今年のポイントは、エチオピアで初開催されたCOE優勝ロット。生産者ニグセ・ゲメダ氏の作ったコーヒーで、ジャスミン、オレンジブロッサム、ピーチネクター、マンゴーの風味がし、丸みのある口当たりでとても甘く、複雑で華やかな味わいが特徴だ。丸山社長は、カッピングスコアに96.5点という高得点をつけている。

初開催のエチオピアCOEでの1コマ。写真左が、優勝コーヒーの生産者ニグセ・ゲメダ

また、もう一つのイベントでは、2017年ワールドバリスタチャンピオンシップ準優勝のバリスタ鈴木樹が、このCOE優勝ロットのコーヒーをエスプレッソドリンクとして抽出、提供した。2回にわたって行われたこのイベントには、プロのバリスタから一般のコーヒー愛好家まで、幅広い年齢層が訪れた。

ドリンクは、エスプレッソ、カプチーノ、アイスアメリカーノ、アイスカフェラテの4種から2つを選択でき、順番が回ってくると、客はひとりずつカウンターに呼ばれ、豆を挽いた瞬間のアロマを楽しんだり、抽出している様子を目の前で見せてもらえたりと、ただ味わうだけではない貴重なコーヒー体験を享受した。

2回にわたって開催された鈴木樹(写真左)によるエチオピアCOE1位のエスプレッソ抽出イベント。カプチーノとエスプレッソ

 

以下は、イベントで丸山社長が話された内容をQ&Aでまとめたので、興味のある方は是非参考にしていただきたい。

—エチオピア初開催は、いかがでしたか?

エチオピアがCOEに参加したのは、すごくエポックメイキングなことだと思っています。なぜなら、エチオピアはコーヒーの原産国で未知の品種も未だにたくさんあるからです。それに、政治的にも安定していないところでの開催は難しいんですよ。だから、エチオピアでのCOE開催は、私のコーヒー人生で起こる3大イベントのひとつくらいに思っていました。もしもこのCOEに参加できたら、孫の代まで自慢できると思っていたくらいです。

—今年初開催のエチオピアのCOEは、コロナ禍でどのように行われたのですか?

もともとは、エチオピアのアディスアベバで今年4月に開催予定でしたが。コロナが猛威をふるって開催が難しくなったので、COEを運営している審査員に豆を送ってジャッジしてもらうオンライン開催という形で開催されました。

イベント中、カッピングの吸い方の違いを説明する丸山社長

—エチオピアの優勝ロットについてお話をお聞きしたいです。

今回ジャッジは欧米勢が多かったんです。そのトップ10をテイスティングしたときに私が最初に感じたのは、フレーバーにいろんなスパイスがたくさん出てくるので、やっぱり欧米人が決めたトップ10だなということでした。日本人がエチオピアを選ぶときは、綺麗な花の感じやフルーツ感を求めるんですけど、欧米人は南方のエキゾチックなスパイスに対する憧れが強いんです。甘いスパイス、シナモンとか、ナツメグとか、スターアニスとか、いろんな複雑なものに対して美味しいっていう文化があって。欧米の人たちが選んだエチオピアもいいもんだなぁと思ってしみじみ飲んでいました。そのあたりも気に入って落札しました。

丸山社長が高評価し、共同落札したエチオピア優勝ロットの商品パッケージは、生産者の写真と共にイベント会場に展示された

—丸山社長はこのコーヒーに96.5点をつけたそうですが、ものすごい高得点ですよね?

優勝するコーヒーは90点を超えますが、平均点が90点を超えるコーヒーはこの世のものじゃないくらい素晴らしいコーヒーです。実は僕は一番良いコーヒーに99点や100点をつけたこともあります。私の尊敬するテイスターにもそういう人がいますね。今までで3回100点をつけたことがあります。

—100点のコーヒーってどういうコーヒーなんですか?

このエチオピアとか、グアテマラとかってどれも迫力あるじゃないですか。でもこういうコーヒーは100点はつかないんです。どこかの特徴が突出してると、それがマイナスになることがあるからなんです。でも100点のコーヒーって減点する場所がどこにもない。つまり、何も引けないので100点でしょうっていう論理なんです。私は、ボリビアとエルサルバドルのCOEで100点をつけた記憶があります。

—とても興味深いです。ところで、COEで上位に入る豆を作る農園に共通することってありますか?

管理が良い農園だから良いコーヒーが作れるって思うじゃないですか。でも、実はそうでもないこともある。ただ共通する条件としては、標高が高い、冷涼な気候、実がなる時間が長いことが大切です。あとは熟していくのにかける時間ですね。普通は7、8ヶ月で完熟するんですけど、果汁を使って作るワインと違って、コーヒーは種なので、9ヶ月とか10ヶ月の時間をかけてミネラルが土の中から移動していくほうがいいです。それらのミネラルは、焙煎したり、抽出したりしたときにフレーバーとして出て来るわけですけど、時間かけたほうが複雑な風味になりますね。あとは、場所と品種が合っているかも大事です。日本のフルーツやお米に例えたらわかりやすいと思います。

—品種と場所は、日本のお米に例えるととてもわかりやすいですね。

例えば、パナマなんてゲイシャにうってつけの場所ですよね。でも、ゲイシャがあまり美味しくできないところもあるんです。個人的には、けっこう軽くて味が薄めなので、パナマはゲイシャのフレーバーを感じやすい。逆にグアテマラは地の味が強いから、意外とゲイシャの特有さを感じにくい。そういう品種と場所の組み合わせはあると思います。ちなみに、COEの素晴らしいところは、ゲイシャが優勝しても、ゲイシャ特有のフレーバーで勝っているわけではないところだと私は思うんです。冷めたときにゲイシャっぽくなるにしても、最初に飲んだときにいろいろ感動するのは、ゲイシャっぽさじゃないっていうところが、COEの底力というか、厚みだなと思っています。

—今後のコーヒーはどういうものがトレンドになっていくと思いますか?

今年はエルサルバドルの優勝ロットがそうでしたが、嫌気性発酵などの手法がたくさん出てきていますね。まだ統一した基準はありませんが、この流れは加速していくと思います。農園によっては、イーストを使った発酵もやっているところがありますし、今の時点ではイーストのほうが安定したものができるんじゃないかとも言われています。

—イーストなどを使って発酵させると、何が変わるんですか?

アラビカ種(スペシャルティコーヒーの大半は大きく分けてこの種類に分類される)は熱に弱いから、温暖化が進んでいくと、今までと同じ場所で作り続けていたら点数が下がってしまうんです。でも、発酵させると84点くらいのものが86点くらいになります。 甘さが強くなって、キャラメルっぽい味に変わります。イーストによる発酵は、将来的にもっと使われるようになっていくのではないかと思っています。

—まだCOEのコーヒーを飲んだことのない人に向けて、飲む時の楽しみかたがあれば教えてください。

私がコーヒーを評価するときは、冷めてからいろんな要素が出てくるので、45分くらいたっぷり時間をかけます。素晴らしいコーヒーの良いところは、マグカップ一杯のなかでも味がいろいろ変化するところ。だから、飲むのに20分くらいかけて楽しんでほしいですね。

ニグセ・ゲメダ氏のエチオピアCOE優勝ロットは、豆(写真左) ドリップバッグ(写真右)で販売中

 

丸山珈琲では、オンラインでの販売がスタートしているほか、お湯に浸すだけで手軽にコーヒーを楽しめるコーヒーバッグも用意。ギフトなど用途やシーンにあわせて選んで、極上のコーヒー体験を自宅で楽しむことができる。テイスティングイベントで披露した5カ国の豆も順次販売をスタートしていくので、詳細は丸山珈琲のオンラインサイトでチェックして、コーヒーと共に幸先の良いスタートを切ってはいかが?

Text & Photo: Kaya Takatsuna