「銀河探索TOUR 2019-2020」ツアーファイナル。休止前のラストライブでパノラマパナマタウンが魅せた、6年間の集大成と未来を見据えた覚悟【ライブレポート/インタビュー】

2020/02/01

2018年にメジャーデビューを果たし、ワンマンツアーや大型フェスへの出演で着々と知名度を上げ、人気急上昇中の新進気鋭のオルタナティヴロックバンド「パノラマパナマタウン」。昨年から全国9都市で行った「銀河探索TOUR 2019-2020」も好評で、今後の活躍がますます期待されている。そんな中、昨年夏頃にボーカル/ギターの岩渕想太に声帯ポリープが発症し、切除手術のために一時的な活動休止を余儀無くされることとなった。以前ON COME UPのコーナーで岩渕想太を特集したHIGHFLYERSは、休止前のラストとなるツアーファイナルが行われた恵比寿LIQUIDROOMに参戦。レポートと終演後のインタビューを行った。

【ライブレポート】

「Dive to Galaxy」と大きく描かれたステージが暗転になり、赤いムービングライトが充満すると、メンバーのタノアキヒコ(ベース)、田村夢希(ドラムス)、浪越康平(ギター)、そして岩渕想太(ヴォーカル/ギター)がゆっくりと舞台上に現れ、「Dive to Mars」が始まった。この一年で全国ツアーや大型フェスを何度も経験し、バンドとしてもさらに力をつけてひと回り大きくなった3人の、安定感と迫力のあるリズムとビートが会場を包み込む。岩渕が「悔いのないように楽しみ尽くして帰ろうぜ!」と言い放つと、「世界最後になる歌は」を颯爽と歌い上げ、「めちゃめちゃ声の調子いいです。最高の歌を聴かせて帰るぜ」と言ってファンを安心させた。次の「マジカルケミカル」では、相変わらず伸びやかでキレのあるギターを浪越が鳴り響かせる。その後、「ずっとマイペース」から「パノラマパナマタウンのテーマ」へ。「寝正月」、「目立ちたくないMIND」、そしてバンドが誕生した町、神戸・新開地がテーマの「SINKAICHI」までMCをほとんど挟まずに立て続けに歌い尽くした。

MCでは、「今日は集まってくれてどうもありがとう。楽しんでます!ファイナルでもあるし、休止前でもあるし、ライブもうしたくないなってくらいやりきって、最高のライブにして帰りたいと思います。お互い気持ちの深いところが出し合えるようなライブにしたいと思ってます」と語る岩渕。ポリープに関しては、「歌えなくなってから、歌の楽しさに気づけたこともある。3日後に入院するんだけど、一泊二日の熱海旅行みたいなもんなんで。でも部屋にリンスとシャンプーが付いてないんですよ」と言って笑いを誘った。その後は、ミニアルバム「GINGAKEI」から「CHOPSTICK BAD!!」、アルバム「情熱とユーモア」より「月の裏側」、岩渕の地元のシャッター街への想いを込めた「真夜中の虹」、「パン屋の帰り」、「エイリアン」が続き、浪越が奏でる“Tears in heaven”のメロディに合わせてMCに。

「やっと恵比寿(LIQUIDROOM)に辿り着きました。いろんなツアーがありました。声が出ない日もあったし、いろんなことに悩んだ日もあったし、俺たちが見せたいものって何なんだろうって色々考えたツアーでした。でもどの会場も俺たちのことを笑顔で待ってくれてる人がいて、これだけたくさんの人に応援してもらってるんだなっていうのが実感できて、みんなに助けてもらったツアーでした。本当にありがとうございました」と語った。

そして、「やっぱりステージ上がってないと本当に弱い人間だなって思うんですよ。自分の言いたいことバシッと言えないし、すぐ周りに合わせちゃうし、誰になんと言われようとスパッと言えるような人間になりたいって思ってるけど、なれない自分が不甲斐ないって思うことがある。でもライブの時は言いたいこと言えるし、歌えるし、叫べるし、やっぱり俺にはここしかないし、ここが一番だなって思う。ここが絶対俺の居場所だって思ってるから、いろんなことに向き合って、絶対強くなって帰ってくるんで、これからもよろしくお願いします!」と言うと、会場から温かい声援と拍手が起こった。

後半戦は、「俺はここに銀河系を作りたい」というツアーファイナルの今の気持ちを素直に綴ったラップから始まり、「まだまだいけるぜ、どこまでも自由に!」と言い放つと、「リバティーリバティー」へ。最高潮の盛り上がりを見せる先にはさらに、「めちゃめちゃ生きてる」、「MOMO」、「フカンショウ」の圧巻の流れが待っていた。ラストは、「GINGAKEI」を噛みしめるように歌い、「ここが俺たちの銀河系」と叫んで終えた。

アンコールは、感傷に浸ることもなく、彼ららしい明るい雰囲気の中、会場と笑い溢れるコミュニケーションをとりながら、パノラマパナマタウンが最初に作った思い出の曲「ロールプレイング」、「俺ism」、そして「いい趣味してるね」の3曲を披露。最後にステージに残った岩渕は、「また連絡するぜ。ありがとう!」と言って、清々しくステージを去った。

パノラマパナマタウンの6年間の活動の集大成のようなセットリストだったが、全ての曲が今にアップデートされたような新鮮さが印象に残った。前回のリキッドよりもメンバー全員がとても落ち着いていたし、それぞれが、瞬間瞬間を噛みしめるように音を奏でながら、リズムやビートを刻んでいるかのように見えた。休止が決まった今、改めてメンバー全員が同じ方向を向いて、しっかりと未来を見据え始めたような気がして、集大成かつスタート地点のような不思議な感覚を抱いたライブだった。以下は、終演後のメンバーのインタビュー。

今起きていることは、今後へのプラスしかない。喉以外で歌うことの大切さに直面し、心と感情の出し方が変わり、自分の表現が豊かになった

―今日のライブはどうでしたか?

浪越:最初は楽しいなって思ってたんですけど、途中から(岩渕に)手術があるんやっていうのがだんだんと湧き上がってきて、ちょっと自分でÅもびっくりして。でも、やりきれたなぁって気がしましたね。また早く復活して新しくライブしたいなって思いました。

タノ:つきものが落ちました(笑)。ツアーの最後っていうのもあるけど、バンドを6年やってきた全てが出せた気がします。楽しかったです。

夢希:活動休止前というということで、集大成的なセトリだったと思う。気持ち的にも、一旦今までの積み重ねを発揮できたらなという感じだったので。

岩渕:集大成でしたね。「GINGAKEI」の世界もちゃんと見せつつ、自分たちの原点になった曲もやっていって、6年間の集大成じゃないけど、一区切りのライブができたなと思います。

―岩渕さんにポリープができたと最初に聞いた時は、皆さんどんな感じでした?

タノ:最初は結構びっくりでした。でも、ライブでもスタジオでも「もしかしたらそうなのかな」ってたまに感じていたので、 それを取ったら今よりもっと気持ち良く歌えるようになるんだろうなって、プラスに捉えられました。

浪越:腫れてきたというのを聞いた時、びっくりしましたけど、それがなくなった時にどんな歌を聴かせてくれるんだろうっていうのは、すごく楽しみにしてます。

―ということは、皆さん一緒にいて、何か違和感は感じてはいたんですね。

浪越:そうですね、しんどそうだなとは思ってました。

タノ:原因がわかって良かったです。

夢希:僕もそうかなとは思っていたし、誰も驚いてなかったです。スタジオで聴いたらわかるんで。

岩渕:あの頃おかしかったですね。いつも病院に行かなくても治ってたんで、今回もすぐ治るだろうと思ってたんです。でもそれまでは、喋り声までかすれたことはなくて。 それが、今回喋るのもしんどくなってきたので、さすがに行こうと思って。

― 前回のリキッドでのライブと比べて、終演後の皆さんの様子も、今回はとても落ち着いているというか、大人な感じがするんですけど、何か変化はありました?

岩渕:前の時は、「リキッドでやっとライブができた」っていう感じが一番大きかったんですけど、今回はその先を4人とも見てるし、通過点としてやってたと思う。

タノ:前回から一年くらい経ってるっていうことは、その間の8ヶ月くらいはアルバムを作ったり、ツアーを回ったりしていたので、前にやった時よりは余裕がちょっとある。

浪越:前はステージが大きいなって思ったり、ドキドキしていたんですけど、今回は自分たちのものになっているというか、この大きさでも立てるバンドになったなという気持ちはありました。

―素晴らしいですね。岩渕さんにお聞きしますが、今回の一件で一番得たことってなんですか?

岩渕:プラスの方が多いですけど、やっぱり歌かな。今までは、心と感情を使って、思い切り歌えばいい、声が出ればいいと思ってた節がどこかにあって、歌を上手く歌うことだったり、歌に対して真剣に向き合うっていうことがあんまりできてなかった。でも8月くらいに本当に歌えなくなって、そこから「どう歌っていくか」って考えるようになって、いろんなものを変えたり、純粋にトレーニングしたり、喉以外で歌う方法を探って筋トレもしたりしました。上手い人って喉以外で歌ってるから。

—トレーニングして変わってきました?

岩渕:喉以外で歌うように改善していくと、いい歌が歌えるようになったり、そうなってより一層歌に心を込められるようになったというか、表現ができるようになったって思いましたね。ここはちょっと甘くとか、ここは激しくみたいに、自分の中でいろんな歌い方ができるようになりつつあるなって感じですね。

―そういうのは一緒にやっていて気付きますか?

タノ:そうですね。そこが深まった気はします。前は全部絞り出して苦しそうな感じがしてたけど、今は余裕が少しできた。

浪越:歌に対するこだわりが強くなったなって思います。発声から始まって、メロディーに対しての捉え方だったり、音楽的なこともすごく考えるようになって、歌っていうのをちゃんと意識してやるようになったんだなぁって思って。

夢希:良くなってますね。

―手術後は7日間くらい声を出せないようですが、どうされる予定ですか?

岩渕:本を30冊くらい読もうかと。見識を深めようと思って。今まで読んだことなかったような(ハンナ=)アーレントの哲学書とかを読もうかと思って。小説も買いました。こもらないといけないから。食材とかも買いためて。 喋れなくなるって人生のめちゃめちゃ貴重な経験になると思う。

―皆さんはその間何をするんですか?

夢希:練習と休み。

タノ:でもこんなにライブが空くのは5、6年ぶりくらいだから、色々したい。ライブを観に行ったり、温泉行ったりしたいですね。

岩渕:みんなには遊びまくってほしい。

―具体的に行く場所は考えてます?

夢希:いや、何も考えてないですね。

―じゃあ、あっという間に終わっちゃいそうですね。

夢希:ですね、なんだかんだで。

―それでは、復活に向けて意気込みをお願いします。

岩渕:かっこいいロックバンドになりたいですね。曲を作ってるんですけど、衝動的なものだったりとか、4人で合わせてめっちゃ気持ちいいみたいな、最近そういう気持ちがちょっと薄れていたなって、ポリープが見つかった後に気づいて。自分のバンドなのに自分は当事者じゃないというか、自分を外側から見ていたなっていう反省がすごいある。だから、自分の気持ちの中のアツいものとか、これをやったら楽しい、気持ちいいとかみたいなものにもう一度立ち返って、曲作りとライブをしたいと思ってますね。

―そのためにも、休止期間はいいチャンスですね。

岩渕:そうですね、めちゃめちゃ演奏したくなるし、めちゃめちゃ歌いたくなりそう。1年前とかにポリープになっていたら、歌えなくなっても全然いいよって思っていたかもしれない。まだ薄かったと思うんです、歌に対する気持ちが。でも今はやっぱり歌い続けなきゃって思う。どんな歌になっちゃうんだろうとか、歌いたいっていうのがすごいあるから。

夢希:この機会にやれることはやりたいですね。メインは曲作りかな。岩渕から色々聴かせてもらってます。

タノ:ライブも制作も、今も楽しいですけど、さらに帰ってきた時楽しいものになると思うし、毎年どんどん楽しくなっていくといいなと思います。

浪越:岩渕が新しいパノラマパナマタウンの準備を色々していて、その断片的なものを聴かせてもらったりしてるんですけど、それが本当に楽しみでですね。

―今の時点で、現実的に達成したいことはありますか?

岩渕:ここ(リキッド)は埋めたいですね、数字的なことで言うと。でも1年かけて「これだ!」って言う音源を作りたいです。秋か冬かわからないですけど、何十曲か作った中から選んで、これしかないっていうアルバムを作る。今までのペースよりももうちょっと考え込んで作れる作品を、4人ともこれで間違いないって思えるやつを作りたいっていうのが一番ですかね。それが今年の目標です。

 

復活がいつになるかは未定だが、今後の4人には明るい未来しかないと確信できるような、とてもポジティブで清らかなエナジーを感じることができたインタビューだった。さらに進化した4人が戻ってくる日を楽しみに待ちたいと思う。

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka