アウトドアメーカー「モンベル」とコラボした「野筆セット」が人気の製硯師、青栁貴史。「モンベルフレンドフェア」では石の魅力を語るトークショーにも出演。 硯展「日々」は東京で本日開催

2019/11/17

「情熱大陸」や「クレイジージャーニー」などへの出演で、石への果てなき好奇心と情熱を世間に知らしめた製硯師(せいけんし)の青栁貴史。HIGHFLYERSでは日本の毛筆文化継承のために尽力する青栁の活動を長期にわたり不定期でお伝えしている。昨年HIGHFLYERSの9月号でインタビューした時に語っていた、「月の石を使って硯を作る計画を成功させる」という目的もあっという間に成し遂げ、次なる目的地へと邁進し続けている青柳だが、現在はどのような活動をしているのだろうか。

時は遡って2018年1月に放送された「情熱大陸」のワンシーン。青栁は作業場で、アウトドアブランドの「モンベル」のウイックロンを使用したロングスリーブTシャツを着て硯を製作していた。放送の中で、「石を削る時、タガネを肩にあてて自分の肌が擦り切れるほどの力を加えても、Tシャツの生地が破れないのはモンベルだけ」と話したことで、翌日から青栁の工房にTシャツの問い合わせが殺到したそうだ。

青栁はそのことがきっかけでモンベル社の辰野勇会長と出逢い、意気投合。そして野山に気軽に持参できる硯セットの開発話が始まったのだ。震災で様変わりした日本最大の硯の産地、宮城県石巻雄勝町に以前の活気を取り戻したいという青栁の熱い思いもあり、硯には雄勝産の玄昌石を採用。また、墨は辰野会長の地元、奈良で作った油煙墨を使い、筆と紙をセットにした。青栁と辰野会長が出会ってからわずか半年で商品化が実現し、今春、二人のコラボ商品『野筆セット』が発売された。

野筆セット(8500円)

ちなみに、モンベルとは、フランス語で山を意味する「mont」、美しいを意味する「bell」から生まれた名前で、1975年、現会長である辰野勇によって創業された日本のアウトドア総合メーカーだ。アウトドア用品の製造から卸売・販売を手がけている。

モンベルは、顧客が充実したアウトドアライフを送れるようにと、わずかな年会費で様々な特典が享受できる「モンベルクラブ」というメンバーシップ制度を設けたり、その会員が一日中楽しめるような多くのイベントを企画・運営したりしている。春と秋の年2回、横浜と大阪で開催するイベント「モンベルフレンドフェア」では、カヤックやクライミング体験ができるエリアや、テントの実演エリア、全国の名産品や産直の農作物を販売するフレンドマーケットエリアなどを作って、会員のアウトドアライフを盛り上げている。

先日、11月3日にインテックス大阪で行われた「モンベルフレンドフェア」のイベントステージには、辰野会長と青栁貴史がそれぞれ登壇し、近況やアウトドアについてを思う存分語った。

辰野会長は、最近自宅で自家製窯焼きピッツァを楽しむ様子を映像で披露すると、今年7月に50年ぶりにアルプス山脈に属する標高4,478mの山、マッターホルンに登頂したことを報告。高山病になりながら北壁へチャレンジしたことを映像とユーモアを交えながら語った。その後、「アメイジング・グレイス」や創業年に発表したロッド・ステュアートの名曲「セイリング」を手作りの笛で演奏した。

モンベル社の辰野勇会長

そして、青栁が和服姿で優雅に登壇。自らが山へ石を見つけに行く様子や野筆の映像を披露した後、モンベルと自らの出逢いや、開発までの経緯を説明し、野筆セットの素晴らしさについてを語った。日本国内、中国、北朝鮮、ベトナム、インドなど、硯になる石は全て自分で採りに行くという青栁。「硯を作るとは、まず山に行くこと。石を採る時は、 未だに重機を使わず、タガネとテコとツルハシで石の層を割って剥がしていく。山は硯の生まれ故郷なんです」と、製硯師と山は密な関係であることを話した。

そして、「僕は以前から、山に行くと、川で水を汲んで採れたての石で墨をすって必ず友人に手紙を書いていました。その話を会長にしたところ、それは非常に楽しい野あそびだ、ということになり、現代版の矢立(やたて。筆と墨壺を組み合わせた携帯用筆記用具)を作ろうということになった」と野筆セット開発までの経緯を説明した。山で墨を擦って筆で手紙を書くことは、社会貢献、文化活動、野あそびに貢献するという点でモンベルの企業理念にも合っているし、ただの真似事ではなく、きちんと機能するセットを作ろうと話がまとまった。程なくして商品化され、すぐにメディアで紹介されたため、暫く品切れ状態が続いていたが、ようやく最近誰でも購入できるようになったことも明かした。

製硯師(せいけんし)の青栁貴史

「筆と硯は、漢字文化圏で最古の筆記用具。その本質を知って欲しかった。今、日本人の文化から毛筆がこれほど薄れてしまうなんて、100年前の人たちは思いもしなかったのではないでしょうか。僕は、最古の筆記用具を作っている継承者の一人ですが、皆さんもそれを使う継承者の一人。山に入って文字を書いたり、誰かにお手紙を書いたりして、アウトドアフィールドで普段筆を持たれていなかった方が、ただ楽しむために筆を書くようになるのがとても嬉しい」とも話した。

「モンベルフレンドフェア」は、今後も春と秋に開催される。アウトドアに関連の深いゲストによるトークショーや音楽ライブ、アウトドア体験コーナー、産地の逸品を紹介するフレンドマーケットやフードコートやアウトレット販売など、楽しいことが盛りだくさんで、家族で丸一日かけて満喫できる大イベントだ。興味のある方は、会員になれば無料で参加できる。

そして、青栁は、本日より東京で硯展を開催する。四代市川猿之助や、細川護熙所蔵の硯・細川雲月や月の石で製作した硯など全13面の硯が展示されるが、12面目としてこの野筆を展示するそうだ。また会場限定で、青柳が中国の端渓で作った硯が入った野筆セットも販売する。このスペシャル硯が入った野筆セットは、35000円(税抜)。先着でなくなり次第終了。

Text & Photo: Kaya Takatsuna

 

製硯師・青柳貴史の硯展「日々」


日時:11月17日(日)~24日(日)11時30分~20時

会場:ESPACE BIBLIO(エスパス・ビブリオ)
東京都千代田区神田駿河台1-7-10 YK駿河台ビルB1F
[主催]SUPER STUDIO
[共催]寶研堂
[協力]ニッポン手仕事図鑑、株式会社ノースプロダクション
[お問合せ先] エスパス・ビブリオ TEL:03-6821-5703 (営業時間 11:30〜20:00/会期中無休)

詳細はオフィシャルHPにて

http://espacebiblio.superstudio.co.jp/?p=7563