ロックバンド・the pillows結成 30周年記念に、彼らが生んだ完全オリジナルストーリーの長編映画が完成!映画『王様になれ』が9月13日より公開。山中さわおインタビュー後編

2019/09/18

バンドをやる上で、サボっていいことなどひとつもない。僕は、時間がかかってでもなりたい自分になることには自信がある。

インタビュー前編はこちらより

― 映画を製作されて、何か改めて心に込み上げるものはありましたか?

ライブシーンの撮影日に、まだ客が入ってないリハーサルの会場でホリエ君の「ストレンジ カメレオン」を聴いた時にちょっと涙が滲むくらいなんとも言えない気持ちになりましたね。あれは、ピロウズが一番どん底で、もうこれはおしまいかもしれないという時に生まれた曲なんです。当時はレコード会社にも事務所にも「この曲はダメだ」と言われていたんだけど、僕はその時一番気に入っていたので、CMソングや何かの主題歌になりそうな曲を書いてくれみたいなことにはもう乗っかれないという話をしていました。 「シングルは一番自信がある曲を出す。これができないんだったら俺はもう辞めて北海道へ帰る」って言って出した曲だったんですね。結局、その時点で一番売れたシングルになったんですけど。まぁ素敵に歌ってくれているのを会場で聴きながら、30年間やってきた楽しいこと、楽しくないことをちょっと振り返って、今現在の幸せを噛み締めてました。

―素晴らしいです。では、20周年から30周年までの10年間で、一番大きく変わったご自身やグループの変化があれば教えてください。

老けたよね(笑)。体力的には相当変化が起きたかなぁ。この10年のことは、変化のことを聞かれたらみんなが望んでるような答えは出てこないかな。やっぱり何でも30年続けるのは大変なんじゃないですかね。それは仕事だけじゃなくて、夫婦でも。自分が絶好調でもメンバーの誰かが不調かもしれないし、その逆もあるし、若い時は「サボってるからだよ」って抗えるものだったけど、今はサボらなくても抗えない部分も物理的に出てくるし、この先もっと出てくるので、焦りよりもっと残酷なものじゃないですか。

—では変化していないことは?

今でも音楽は大好きだし、バンドをやるということはとっても楽しいかな。ツアーを2か月も3ヶ月もやってると、毎晩酒を飲んで、朝起きた時は、「今日はもうめんどくせえな。もう1時間寝たいな」って思う時が何度もあるわけですよ。でも お客さんが入って、登場SEが上がって、さあ出るぞってなった時にめんどくさいって思ったことは30年間に一回もないです。

―お酒はたくさん飲むんですか?

飲みますね。

―30年続けるための秘訣はひとつじゃないんでしょうけど、何か心がけていることはあるんですか?

あんまりないと思うけどな。まあ向いてるのかな。

―バンド、音楽というものに向いている?

音楽にも、バンドというのにも向いてるんじゃないかな。他のメンバー二人とも、エゴのコントロールがすごく上手い人達だと思っています。若いバンドのプロデュースなんかもしてると、全員が意見を言ってるんですよ。うるせえなって思って(笑)。まあ音楽のことならギリ許すとして、ジャケットの文字をどれにするかとかメンバー全員言ってたって、全員がデザインの才能があるわけないんだよっていう。 そういう時にいつも思うのは、本当に必要で言ってるんじゃなくて、自信がないから、自分の存在価値の証明がそういうところに出ちゃって、「任せるよ」っていう余裕がない。うちのメンバーはそれは全くない。

―例えば3人で集まって、ロゴやジャケットの話が出る時は、どういう感じなのですか?

完成したものを二人に渡すだけなんで、相談なんかしないです。

―それを二人が見るとどういう反応をするんですか?

真鍋くんは「おっ、いいね」って感じで、シンイチロウくんは黙ってますね。

―今までの活動の中でとても嬉しかった出来事を教えてください。

すぐにあげられるものが3つあります。自分の想像をはるかに上回ったことが3つあって、15周年にトリビュートアルバムを出してもらったこと。そしてもう7回くらい行ってるんですけど、2回くらい全会場ソールドアウトのアメリカツアーというのをやってるんですね。そんなことが起きるとは思ってもいなかったんで、しかもそれまではライブハウスだったんですけど、去年は2000人くらいのホールなどでも全箇所ソールドアウトしたんで、それはちょっと想像をはるかに超えた嬉しいことでした。3つ目は、20周年の武道館が10分でソールドアウトしたことですけど、この映画が4つ目になりましたね。

―アメリカで初めてピロウズのライブを拝見した時、アメリカでこんなに人気がある日本人バンドが存在することに驚いたんですけど、あの発狂ぶりはなんなんでしょうか。

熱狂じゃなくて発狂なんですか(笑)。

―アメリカと日本でお客さんが全然違うじゃないですか。あれってステージに立ってる側としてはどういう感じなのですか?日本とアメリカで何か意図的に変えてるんですか?

変えたりしてますけど、それはお客さんの雰囲気で変えてるというわけでもないんです。日本は全てが整ってるんですね、まずお客さんも整ってるし、僕らの環境、音響設備とか機材も充実した環境でなんですけど、アメリカではそれは不可能。その場のレンタルアンプで、荷物も日本と違って、自分の衣装とか着替えも自分で管理して、なんだったら向こうで売る物販のTシャツも織り交ぜなきゃならないとなると、荷物は本当にコンパクトにしないといけないじゃないですか。そうすると、 レンタルのアンプが嘘だろってくらい古くてダメで、つまみを一ミリ動かしたら音がガーって変わっちゃったりする。今は日本からスタッフを連れて行ってますけど、最初はその都度現地のスタッフがやっていて、彼らは適当すぎて、とにかく環境が悪かったです。

—そういう事情があったのですね。

そこで何か爪跡を残すって言うと、もう発狂するしかないです、本当に。ピロウズっていうバンドのエネルギーをどーんと出す、今日観た人がいいと思わなければ次の俺たちなんてないんだっていうアマチュアの頃みたいに。もう後がない状況でやるのは、その頃の精神と同じで、「これは真面目になんかやってられない」って、始まる前からビール飲んで、当然観客がうわーって熱狂してる時にステージにカッコ良く登場して、そこから自分でセッティング始めるんですよ(笑)。それに、室温35度くらいの中で大きな扇風機しかなくて、1500人くらい入ってて、出る前に汗だくなんですよ。だからキャラクターがちょっと変わりますね。MCも英語は喋れないから、覚えたことを言うだけなので、日本みたいに客が何か言って冗談を返したりっていうコミュニケーションは取れないんで、全部発狂ですよ(笑)。

—声を維持するために努力していることはありますか?

そういうのは一切しないです。強いて言えば、みんなイマイチわかってくれないんだけど、コルゲンのトローチはすごく優れている。殺菌作用もあるので、毎日舐めますね。ハーブのやつとケミカルのやつがあって、ケミカルの方が効き目がいいんですね。鞄の中にいつも入ってますし、ツアー中も絶対手放せない。

—それでは、さわおさんにとってチャンスとはどういうものですか?

基本的にはバンドをやる上で、サボっていいことってひとつもないんですね。チャンス、、ただ単に何もかもサボらないで活動していれば、チャンスが来た時にそれをちゃんと掴めると思うんですよね。

―振り返ってみて、ピロウズが掴んだ一番のチャンスは何だったと思います?

その時は思ってもいなかったけど、結果的にあれはチャンスだったんだなってことはあります。アメリカで人気が出たきっかけは「フリクリ」っていうアニメーションのサウンドトラックを手がけたことだったんですけど、当時僕はガイナックスっていう有名な制作会社を知らなかったし、レコード会社がタイアップを持ってくるのに色々失敗していて、正直嫌になっていたので面倒臭いと思っていたんですよね。それで、その時求められた曲はロックバラードみたいな主題歌だったんです。だけど、僕は、その時一番好きだった「Ride on shooting star」っていう悪ふざけ全開の、オルタナティブロックの全然違う曲を提案しました。

—要求してきたものを出さなかったのに、チャンスを掴んだんですね。

とにかく僕は自分が絶対いいと思ったものしか出したくなかったので、それで気に入っていただけなかったらしょうがないって思ってました。結局、当時監督だった鶴巻和哉さんが、 作っていたエンディングの絵を「Ride on shooting star」に合うものに全部変えてくれたんです。でもそのおかげでアメリカでの活動が始まったので、あれは今思えば凄く大きなチャンスでしたね。

—それは、なかなか誰もが出来ることではないですね。

サボらないっていうのは、売れることに直結するっていう意味ではなくて、自分がなりたい自分でいようとすることに対して絶対サボらないってことなので、相手が望まないこともやるんです。僕はサボっていないから、自分のイメージに合わないものは断る。目先のことに捉われないことにはめちゃめちゃ自信があります。長い目で、自分らしいままで、時間がかかってもなんとかなりたい自分になることには自信があるんです。

―今の言葉をお聞きしていて、映画の中で、手紙の最後に出てくる言葉を思い出しました。

あの言葉は、とにかくピロウズを聴き込んでくれて、ピロウズとピロウズのファンを理解してくれて、オクイさんが作ってくれました。

—映画も上映日を迎え、まもなく30周年ですが、最後にまだ叶っていない夢があったら教えてください。

ないと思います。

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka

 

the pillows 30周年記念映画 『王様になれ』

9月13日(金)よりシネマート新宿他全国順次公開

30周年を迎えてなお、“今”が一番輝いている稀有なバンド、the pillows・山中さわおが生み出す、心熱くなる青春物語が誕生。

原案・音楽:山中さわお/監督・脚本:オクイシュージ

エグゼクティブプロデューサー:山口幸彦 三浦一城/プロデューサー:三宅はるえ

オフィシャルHP: https://ousamaninare.com/