ロックバンド・the pillows結成 30周年記念に、彼らが生んだ完全オリジナルストーリーの長編映画が完成!映画『王様になれ』が9月13日より公開。山中さわおインタビュー前編

2019/09/18

2019年9月16日で結成30周年を迎えた人気ロックバンド、the pillows(ザ・ピロウズ)。今までアニバーサリーイヤーには、結成15周年のドキュメンタリー製作や20周年の武道館ライブなどのサプライズでファンを盛り上げてくれた彼らだが、今年は、兼ねてからヴォーカルの山中さわおが「絶対キミたちが想像してない面白いことをやります」と宣言していたように、30周年記念サプライズとして、長編映画「王様になれ」を製作した。これは、山中がみずから原案と音楽を担当、実力派の俳優やスタッフ達をキャストに迎えた作品で、バンドの長年の活躍を追ったドキュメンタリーではなく、“バンド発の完全オリジナルストーリー”というユニークさが話題になっている。今、若手で最も注目される俳優のひとり、岡山天音が主演を務め、メンバーの山中さわお、真鍋吉明(g)、佐藤シンイチロウ(ds)の他、 the pillowsと長年交流のある豪華ミュージシャンたちが出演して華を添えた。

ストーリーは、プロのカメラマンを目指し、叔父の営むラーメン店でアルバイトを続ける主人公の青年、祐介が、ふとしたことで出会った女性へ恋心を抱きつつも、夢を実現するためにぶち当たる数々の厳しい現実や孤独 、自分の心のジレンマや焦りと向き合いながら、光を見つけ出して前に進んでいくというヒューマンドラマ。また、劇中には多くの臨場感あるライブシーンが織り込まれており、劇中のthe pillows 30周年記念アコースティックライブでは、仲間として本人役で登場するGLAYのTERU、JIROによる”スケアクロウ”や、STRAIGHTENER(ストレイテナー)のホリエアツシによる”ストレンジ カメレオン”のカバーも楽しめる。他にもTHE KEBABS、高橋宏貴(ELLEGARDEN / PAM)やTHE BOHEMIANS、SHISHAMOなど錚々たるメンバーが出演している。

公開に先立ち、9月4日には、映画のオリジナルサウンドトラックがリリースされた。出演ミュージシャンの顔ぶれを見ただけでも多くの仲間たちに愛されていることが分かるthe pillowsだが、昨年は主題歌を担当したアニメ「FLCL(フリクリ)」の続編がアメリカで18年ぶりに放送され、アメリカツアー全公演ソールドアウトを記録、また、通算22枚目となるオリジナルアルバム『REBROADCAST』もリリースするなど、国内外での不動の人気を改めて見せつけた。また 10月17日には結成30周年を記念した横浜アリーナ公演も決定し、30周年を迎えてなお進化し続けている稀有な存在のロックバンドである。今後の活躍も目が離せない。

そこでHIGHFLYERSは、the pillowsのヴォーカルで、今作で原案と音楽を担当した山中さわおにインタビューし、映画についてや結成30周年のことなどを伺った。

想像をはるかに超えた映画の完成度を観て、結成30周年の幸せを噛み締めた。僕のサウンドや歌詞の世界にフィットしてるピロウズファンが、この映画の主役

—今回、完全なオリジナルストーリーを作られましたが、ドキュメンタリーではないのがユニークですね。

僕たちは15周年、20周年、25周年とちゃんとしたアニバーサリーをやってきてるのですが、15周年にドキュメンタリーを作ったことがあるんですね。なので、今まで自分がやってないことで、尚且つ他の人がやってないことをやりたいという欲がありました。ドキュメンタリー以外で、俳優さんがバンドの役をやるのはありますけど、普通の男女の青春物語にバンドが登場してくるというのはないんじゃないかなって思って。

―原案も作られたそうですが 、構想は常に考えていたんですか?

2017年の秋頃からスタッフに、30周年アニバーサリーをどうするかと聞かれていて、「まだやってないことは何だろう」って考えた時に、オリジナルストーリーの映画を思いつきました。そこからざっくりした流れは多分1日、2日で考えたんだと思います。もともと脚本家で俳優のオクイシュージさんありきで考えていたので、オクイさんに丸投げしたらなんとかなるだろうっていうのがありましたね(笑)。 ストーリー上は、ピロウズを好きになった青年が僕と出会うのですが、自分の経験上、仕事でまだ無名の子と出会うとしたら、デザイナーとカメラマンのどちらかだったので、ストーリー上の僕との距離感を考えてカメラマンという設定にしました。

—ラーメン屋でバイトをしているという設定はどこから?

彼がいろんな人と出会わなきゃならないので、レコーディングスタジオの近所のラーメン屋でバイトしてるっていう設定にしようと。実は、 ピロウズをはじめ、僕のレーベルのDELICIOUS LABEL、映画にも出てくるTHE BOHEMIANSとかシュリスペイロフ、Casablancaなどは、いつも僕が普段使っているレコーディングスタジオの近所の蕎麦屋に行くんですよ。だからそこでバイトしてれば本当にいろんな人が来るので、これは現実に起こってることだから、劇中でこれはいけるだろうって考えてました。

ー最初に構想をお話しされた時、オクイさんはどのような反応をしましたか?

2017年の暮れ頃、 「実は映画を作りたいから脚本・監督をやってくれないか」と初めてお願いしたところ、「俳優だけかと思ったら、そんな全部?」みたいにちょっとびっくりしていたんです。 で、どんな物語か聞かれたので、僕は飲みながらその場で口頭で色々喋ってたら、「ちょっと待って、口頭じゃ無理だから原稿を一度書いて欲しい」って言われて、「え、本当ですか?」、「本当だよ」って(笑)。でも僕はパソコンを持ってないんで、こういう携帯あるじゃないですか(おそらくガラケーのこと)、寝転びながらそれでずーっと書いて、オクイさんに送りました(笑)。

―ピロウズの言葉がストーリーの至る所に散りばめられていたので、ほぼほぼ脚本が原案なのかなと思っていました。

オクイさんは、今回映画を作ることが決まってから、僕が思い出せないようなインディーズの曲まで考えられないくらいの膨大な曲を全て聴いて、その曲の質を理解してくださったんです。脚本は何回も打ち合わせをして、プロデューサーの三宅さんも含め3人で何度もブラッシュアップしていったので、最初に使う予定だった曲もどんどん変わっていきました。ちょっと毒のある僕のキャラは僕が作って、僕を褒めるような場面はオクイさんが作りました。

―ご自身のキャラクターを敢えて悪くしたんですか?

悪くしたというよりも、ああいう人間なんです(笑)。

―最後に主人公の彼がさわおさんに言うあのセリフは、さわおさんご自身が考えたのですか?

そこは僕が作りました。

―あのセリフ、とてもいいなと思いました。キャスティングにも関わりましたか?

そうですね、天音君は顔で決めました。今は感じがちょっと変わっちゃったんですけど、若い時の僕にちょっと似てるんですね。当時僕はモッズファッションだったので、彼のような髪型をしていたし、なんとなく、僕の思うピロウズファンにしっくりくる感じ。ライバルの西小路健役の岩井拳士朗君とかは、めっちゃかわいいイケメンでカッコいいなって思ったけど、こんな綺麗な子はやっぱりそうそうピロウズファンにはいないなって(笑)。天音君も実際会ったらすらっとしていて凄くカッコいいんだけど、ちょうどいい感じの空気感が出てるのかな。

―天音さんの役はご自身を反映していますよね。ファンにとっては、ピロウズが成長していく伏線のような感じを受けるので、感情の入り方がまた一段変わると思うんですけど、ご自身もあの役に投影してる部分は多いですか?

そうですね、ただそれは今言われるまで考えてなかったです。良いことも悪いことも、こういうことは嬉しかったなとか嫌だったなとか、とにかく自分に経験があることしか思いつかないので。言われて、自分を投影したつもりじゃないんだよなって思ったけど、ただでも、ああそっか、結局そういうことだなって思いました。

—そうなんですね。とても興味深いです。

ピロウズファンというのは、僕のサウンドや音楽的な面の他に、歌詞の世界にもフィットしてる人が集まってきてると思うんですね。つまり同じような感覚で、同じことで笑ったり怒ったり悔しがったりっていうタイプが集まっているので、それを好きになった人を描こうって思ったら、まあ自分の若い時のような感じになるんだなと思いました。最初そう言われた時になんでそう思わなかったかって言うと、僕はもっと無茶苦茶だったので(笑)。でも内面的にはそうですよね。

—「王様になれ」というタイトルもいいですね。

タイトルには、自分らしさを守りたい気持ちと、人とコミュニケーションしていくための上手いバランスを見つけて、自分のことを好きになって生きていってほしいという思いを込めてます。やはり自分らしさって、場合によっては周りに迷惑をかけるしエゴにも繋がるわけじゃないですか。そのコントロールができる人はそんなに必要ないけど、エゴが大きい人間はコミュニケーションが難しい。僕は人と仲良くするのがとっても難しい人間だったので、そういうキャラクターは主人公に投影していると思います。

―完成したものをご覧になって、いかがでしたか?

僕の想像したクオリティをはるかに超えていたことがもうびっくりで。これでも映画の世界では低予算なんですけど、音楽を作る現場からするととんでもないお金がかかったんですね 。でも当初はもっともっと低予算でインディーズ映画を作るような気分でスタートしたし、映画館で上映することも想像してなかったので、まず一流のスタッフが集まってきてくれたことに度肝を抜かれて、こんなことが自分の人生に起きるんだなっていうことで頭がいっぱいでした。嬉しかったですね。

後編に続く

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka