最先端にして最高峰。世界のミュージックシーンの今の体感する祭典「MUTEK.JP 2017」が11月5日まで日本科学未来館で開催中!15歳以下は入場無料【レポート】

2017/11/04

カナダ・モントリオール発、世界最前線のデジタルアート&エレクトロニックによる国際的なミュージックフェスティバル「MUTEK(ミューテック)」。その日本版「MUTEK.JP 2017」が11月3日(金)、4日(土)、5日(日)の3日間、お台場の日本科学未来館で開催中だ。

MUTEKは、デジタル・クリエイティビティや電子音楽、オーディオ・ビジュアルアートの創造性の開発、文化芸術活動の普及を目的としており、カナダのモントリオール映画祭の一部がスピンオフして2000年にスタート。自然発生的に広がり、メキシコシティ、バルセロナ、ブエノスアイレスなどで開催され、各国で年々来場者を増やしながら成長し続けている今年17年目を迎えた話題の祭典である。日本では昨年東京・渋谷WWW、WWWX、レッドブルスタジオ東京の3会場にて3日間開催され、初開催にも関わらず、のべ3000人超の来場者を記録、ストリーミング配信では2万人以上が視聴した。今年は会場を日本科学未来館に変更し、昨年と同様、国内外のアーティストを多数ゲストに招いて、様々なデジタルアート、テクノロジー、ライブエンターテイメント、ワークショップなどを開催している。

11月3日の初日は、エレクトリックダンスミュージックをベースにアカデミックなコンピュータ音楽からUKダブステップ、クラシカルなミニマルミュージックからドローンとノイズまでを操るドイツ・ベルリンのクリエイター・Monolake、今回が久々のライブとなる元電気グルーヴで現在はMETAFIVEで活動中の Yoshinori Sunaharaや、Rhizomatiks真鍋大度x Nosag Thingなどがメインホールに出演し多くの来場者を圧倒し、また7階のINNOVATION HALLでは「Qosmos-AI DJ Project」という、人間とAIのDJ競演パフォーマンスというユニークな試みも披露された。

左から時計回りに:Monolake、Yoshinori Sunahara、Qosmos-AI DJ Project、真鍋大度x Nosag Thing

真鍋大度x Nosag Thingのパフォーマンスは、現実と非現実の世界をまたぐことによって“一体何が現実か”を問う「No Reality」がコンセプト。巨大な画面の前でセッションを始めた二人の姿が、同時にスクリーンの中にも映し出され、サウンドに呼応して変幻自在に動き出し、来場者を異次元の世界へと連れて行ってくれた。二人は、アルス・エレクトロニカにてAward of Distinction(優秀賞)を受賞したNosaj Thingのミュージックビデオ「Cold Stares ft. Chance The Rapper + The O’My’s」を手掛け、世界最大の音楽フェス「コーチェラ・フェスティバル2016」を含む彼のアメリカツアーでもコラボレーションするなど親交が深く、今回は、真鍋と再びコラボレーションした安定かつ圧巻のパフォーマンスだった。

真鍋大度x Nosag Thingのパフォーマンス

終了後に真鍋に今日のパフォーマンスについて伺うと、「もう楽しい以外ない。ジェイソン(Nosaj)がドラム出しそうだからカメラの位置を変えようとか、常にセッションをしている生の面白さがありました。“No Reality“というコンセプトはコーチェラの時も一緒でしたが、音楽や映像は常に変えてます。ジェイソンは、Kendrick LamerもChance the Rapper も彼がプロデュースして有名になったと言ってもいいほどの存在で、LAではカリスマ的なトラックメーカー。僕も大好きだし、運よく知り合うことができて一緒にできている。裏方の時は表の人に対する責任があるからそんなことはできないから自分が表に出てショーやる時はなんでもやれるっていうのはありますね」とても満足した様子だった。ちなみに、真鍋のインタビューをHIGHFLYERSの2017年1月号に掲載しているので、こちらもぜひ読んでいただきたい。

真鍋大度

また、MUTEK.JP 2017は国際色が豊かな来場者や出演者が会場中を隔たりなく行き来して、祭典を楽しんでいるのが興味深い。出演者や来場者にも話を伺った。

INNOVATION HALLでパフォーマンスを行ったミュージシャンのgalcid(ギャルシッド)は、「初めて参加してとても楽しかったです。他のフェスと比べると、意識高い系ですね(笑)。私はモジュラーという楽器を使いますが、その楽器のビジュアル的な見せ方など、こだわる部分が音だけではないのが凄いと思いました」と話した。

galcid

来場者のエンクミは、「15歳以下は無料というのがすごい。MUTEK JPは、アートの教育に関しても社会貢献していると思う。今日は大人と夜来たけれど、日曜日は子供と一緒に来る予定です。最先端のアートに触れさせたいけど、なかなか機会がないという人の気持ちもちゃんと汲み取っているところが素晴らしいと思います」と話す。

エンクミ

一階メインホール前のソファで談笑していたのは、ドイツ人のフランジー。香港に住んでいるアナとトビーと会うためMUTEK.JPに合わせて東京で待ち合わせしたそうだ。「エレクトロニック音楽が大好きで、今日はこれからMonolake、明日はJAMES HOLDEN & THE ANIMAL SPIRITSとHVOBを見るのが楽しみ。東京は3回目だけど下北沢が大好き」。

香港から来たトビー(左)、アナ(中)とドイツから来たフランジー(右)

今回のMUTEK.JPに2人のアーティストが参加しているという、レーベルErased Tapes Recordsの創設者ロバート・ラスは、「 MUTEK創設者のキュレーションや音楽とテクノロジーを融合させて何かクリエーションをするという考え方がとても好きだし、アーティストからも来場者からも毎回学ぶことができるのがファンタスティックだと思う。僕自身がMUTEKのファンで、モントリオールもメキシコシティにも行ってるけど、海外のMUTEKに比べて日本はみんなが真面目にパフォーマンスに集中してるね。でも海外のMUTEKも他のフェスのようにただ飲んで踊って騒ぐのではなく、何か新しい体験をしようっていうオープンな気持ちで観に来る人が多いと思う」と海外のMUTEKとの違いも教えてくれた。

Erased Tapes Recordsの創設者ロバート・ラス(右)とHATIS NOIT(左)

出演アーティストのHATIS NOITは、「 すごく面白かった。共演したメディアアーティストのNOBUMICHI ASAIさんが、“テックという媒体を通して、人間性とかヒューマニティという有機的なものが現れる。それを表現したい”ってお話しされていたのですが、声を使って音楽を作っている私も同じ気持ちなんです。たくさんエフェクトをかけたり、パソコン上で声を切り貼りしたりするけど、どれだけ加工しても元々声を発してる人のエネルギーは残るのではないかと思ってます。 テクノロジーを介して人間が表現できるものに可能性を感じた」とMUTEK.JPで体感したことを述べた。

HATIS NOITのパフォーマンス

イスラエル出身で来日して8ヶ月目という来場者のハダールは、「仕事のデザイナー仲間に誘われて、初めてMUTEKを見たけれど、Rhizomatiksのパフォーマンスが素晴らしかった。日本は全く違う国だから、全てが新しい体験なのが気に入っています」と初めての体験に満足している様子だった。

来場者のハダール(左)と友達

MUTEK.JP 2017オーガナイザーの谷田部タケオにも話を伺った。「MUTEK.JPは音楽の最先端が知りたい人が集まるイベント。先端の中でも最先端の人たちが集まっている芸術祭です。ここでの一人ひとりの探求の仕方や研究の仕方は、売れる音楽を作っているのとは全然違い、 アートを追求していくスタイル。入り口として表向きは“フェス”という言葉を使っていますが、実は全世界の“コミュニティ”。だから他のフェスとは異なり、僕らもそのコミュニティの一員で、演奏する人もいれば、運営する人もいるし、取材する人もいる。ある一定の価値観を持った人たちが集まって役割を果たしているということです」

とにかく「アート・ファースト」がモットーであり全てであると語る谷田部。「アーティストが本当にやりたいことをやらせるという軸はぶれません。世間一般からみたら王道ではない音楽がここに集まっているかもしれないけれど、 これらがメインステージに立つことによって、「これでいいんだ」って言う感覚を僕たちは与えていると思う。今までは隅っこに追いやられていた“本質を追求すること”がこれからは当たり前になっていくと思う。クリエイターは本来、頼まれるから作品を作るのではなく、溢れ出てくるから作るものだと思っているんです。だから、そういったアーテイストには今後もどんどんチャンスを与えていきたい」と語った。

また全部オススメという谷田部のさらなる一押しは、「Clair de Lune-Sound Program Structures」。今年逝去した日本シンセサンザー音楽の第一人者、冨田勲がドビュッシーの名曲「Clair de Lune」をシンセサイザーに変換し再構築した1974年製作の「月の光」を使用した作品だ。音楽と同期した49個にも及ぶ直径50cmほどある球体の中にライトが点滅し、上下に浮遊しながら動き続けるのだが、音の種類がそれぞれの球体を表し、光量が音のボリューム、浮遊する高さが音程を表している。40年以上前に富田が製作したことが信じがたいほど、斬新で新鮮な音に感じると同時に、わずか5分のパフォーマンスながら、音とデジタル、過去と未来、生と死、明かりと暗闇、静と動….あらゆる対照的なものを同時に見せられているような気持ちになり、プログラミングされた世界の中で様々な感情が自分の中で動き出したほど、素晴らしいインスタレーションだった。CLAIR DE LUNE for Tomita Isao のパフォーマンスは4日(土)の5日(日)両日も1Fのメインホールで行われるのでぜひお見逃しなく。

「Clair de Lune-Sound Program Structures」

またMUTEKは開催期間中、都内各所で様々なイベントを行う。4日深夜は渋谷のWOMBにて「 WOMB x MUTEK」のコラボイベントを、5日は現在開催中の音楽フェスティバルRed Bull Music Festival(レッドブルミュージックフェスティバル)とコラボレーションし、「MUTEK x Red Bull Music Festival」を共同開催し、日本を代表するミュージシャン・音楽プロデューサーの小室哲哉と慶應義塾大学教授の脇田玲によるオーディオビジュアルインスタレーションプロジェクト「Tetsuya Komuro & Akira Wakita」が日本初公開される。

さらに、コンテンツは昼と夜に分かれていて、昼は10時から5時までタッチデザイナーの開発者がきて教えるセミナーがあるなど、アカデミックな内容も充実している 。そして、6階のドームシアターでは、音と映像の関係を探求する実験的かつ 人々の感性を揺さぶるような没入体験を提供する空間として、様々なアーティス トによるプログラム・アートインスタレ ーションが行われる。午後6時より先着100名に入場整理券が配布されるので早めに来場して必ず手に入れよう。15歳以下は入場無料で夜9時まで滞在できるのも嬉しい。子供に本物の最先端に触れさせたい方にもオススメの連休イベントとなっている。残り2日間の週末は、MUTEK.JP 2017をお見逃しなく!

ドームシアターで行われる、様々なアーティス トによるプログラム・アートインスタレ ーション

Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka(一部オフィシャル写真)

詳細はMUTEK.JP オフィシャルページにて