職人・菅野敬一の手がけた鞄が、トム・クルーズ主演の映画『The Mummy』に起用!企画展も絶賛開催中【レポート】

2017/08/05

2017年07月10日(月) から 2017年08月10日(木) まで、代官山蔦屋書店2号館 1階 ギャラリースペースにて、職人・菅野敬一の手がけるブランド「AERO CONCEPT(エアロコンセプト)」の作品を展示した企画展『HISTORY OF AERO CONCEPT ~町工場からハリウッド映画まで~』が行われている。

AERO CONCEPTの製品は飛行機の構造体を応用して作られており、ユニークでデザイン性の高い鞄や名刺入れなどが国内外で高い評価を受け続けている。 今回の展示は、トム・クルーズ主演のハリウッド映画『The Mummy』(邦題:ザ・マミー/のろわれた砂漠の女王)の日本公開を記念して企画された。なぜなら、同映画に菅野の手がけた鞄「Super Transporter」が使われているからだ。

上段、左下:作中、菅野の鞄が出てくるシーン。(C)Universal Pictures 右下:使用された鞄と同じモデルの「Super Transporter」

『The Mummy』で監督を務めたアレックス・カーツマンは、過去に『ミッション・イン・ポッシブル3』の脚本、『スター・トレック』 シリーズと『アメイジング・スパイダーマン2』の脚本・製作総指揮なども手がけた、ハリウッド映画には欠かせない存在のひとり 。そのカーツマン氏がロンドンの街を歩いていた時に、Bentleysというアンティークのものを多く扱う店でAERO CONCEPTの鞄を見つけ、本作にぴったりだと惚れ込み、この鞄を『The Mummy』で使用すべく動き出した。

菅野が連絡を受けたのは2016年4月。突然のオファーに、「ただただびっくり仰天した。こりゃすごいことになっちゃったと思う反面、まだ半信半疑だった」という菅野は、程なくして映画製作会社ユニバーサル・ピクチャーズが用意した使用許可等の誓約書にサインをすることになる。現在、代官山蔦屋書店で行われている展示スペースでは、ユニバーサル・ピクチャーズと菅野との間で交わされた書面も公開されている。ハリウッド映画会社との書面のやり取りはなかなかお目にかかれない貴重な品である。

ユニバーサル・ピクチャーズと菅野との間で交わされた誓約書

そして、2017年7月28日の日本公開初日に『The Mummy』を観に行った菅野は、自身の作品がハリウッド映画の作中に登場する様子をスクリーンで目の当たりにしたとき、「生きてて良かったと思った」と語る。

HIGHFLYERS 2016年9月号のインタビューで、菅野は、1990年代に自身の会社が倒産した、人生で一番辛かった時期を「毎日死ぬことばかり考えていた、でも家族や従業員のことを考えると死ねなかった」と振り返っていた。そして、「せめて、死ぬのは自分の欲しいものを作ってからにしようと思ったんです。僕の命のあるうちに、お客さんに頼まれたものじゃなくて自分のために自分のものを作ってみようと思い、鞄を作りました。中々上手くいかないから、最初は完成するのに1年くらいかかりましたね」と語った。

そうして誕生した、AERO CONCEPT。完成品を見た人から次々に購入依頼が殺到、その噂は瞬く間に広がる。

「僕は宣伝するのが嫌いだし、売り物になると思って作っていなかった。デザイナーでもないし、流通のことも何も知らないから、ずっと口コミだけで広がってきたんです。僕が作ったものは自分の子供みたいなものだから、その子供が誰かに会った時に「これ、どう?うちのお父さんが作ったんだよ」みたいなことを喋ってくれてるのかな(笑)」と、屈託のない笑顔を浮かべて話してくれた。

そして今、菅野の子供はハリウッド映画に辿り着いたのだ。映画ではストーリーの展開に欠かせない重要な役割を担っている。

開催中の企画展『HISTORY OF AERO CONCEPT ~町工場からハリウッド映画まで~』では、熟練工たちの手によって育まれたAERO CONCEPTが、菅野の祖父の代から続く精密板金加工の町工場に始まり、ハリウッド映画で活躍されるまでを製品を通して紹介しているほか、人気のジュラルミン製の軽量鞄「Slim Porter」や映画で使用された「Super Transporter」などその場で購入できる製品のほか、過去のオーダーメイドアイテムの展示も行っている。

壁にはAERO CONCEPTの鞄やジュラルミン製のボックスが様々なフレームに収められた作品が数点飾られているが、その中のひとつの作品は、よく見るとフレームの中の鞄やボックスは皆どこか使い古されたような形跡がある。

「僕の作ったものは、作り終えて新品として世に出た時にはどれもまだ完成品じゃなく、お客さんの手に渡って、お客さんが使い込んで育ててだんだんその人のものになっていくものだと思っています。額の中には生活の中でダメージを受けたり、使い込まれてくたびれていたりして、傷だらけのものばかりを集めました。古いものにこそスポットをあてて、主役にしたかった」と語る菅野。「試作」というタイトルの、額に収まりきらず不恰好なまま空間に飛び出し、使い込まれてもなお光り輝くジュラルミンのボックスを眺めていると、まるで菅野の人生がそのままに映し出されているような気持ちになってくる。

職人・菅野敬一とAERO CONCEPTの魅力、その素晴らしさを改めて実感できる展示だった。代官山蔦屋書店の企画展『HISTORY OF AERO CONCEPT ~町工場からハリウッド映画まで~』で、海を越えても本物達の心を掴み続けるAERO CONCEPTの作品を間近で感じて欲しい。

『HISTORY OF AEROCONCEPT ~町工場からハリウッド映画まで~』の展示模様

また、『The Mummy』を観に行こうと思っている方は、是非その前にHIGHFLYERSのインタビューを通して菅野の人生の背景を知っていただきたい。そうすることで、映画をいろんな視点から観ることができ、また一段とストーリーを楽しむことができると思う。『HISTORY OF AERO CONCEPT ~町工場からハリウッド映画まで~』は8月10日まで。ハリウッド映画『The Mummy』は絶賛公開中。

菅野敬一の インタビューはこちらより。

HIGHFLEYRS 2016年9月号 「海外セレブも賞賛する日本の町工場から生まれた世界的クリエイター。エアロコンセプト創始者、職人・菅野敬一

 

Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka

 

ザ・マミー/のろわれた砂漠の女王

(C)Universal Pictures

『ミイラ再生』(1932)をリメイクし、トム・クルーズを主演にむかえて新しく生まれ変わったアクション・アドベンチャー超大作『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』は7月28日(金)より全国公開中。

第一弾作品である本作を皮切りに、『魔人ドラキュラ』(1931)、『フランケンシュタイン』(1931)などのユニバーサル・スタジオのモンスター映画の名作の数々を、次世代向けにリメイクする「ダーク・ユニバース」シリーズでは、これからも次々とリメイクシリーズが登場する予定。

■公式サイト:http://themummy.jp